趣味がチート探しで異世界転移した俺は、世界に囚われた唯一の存在だった。

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カタストロフィ編

30話 一翼二翼三オバケ。

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 ボーデミリア国、国の主が存在しないその国をどうやってまとめているのか、それは市民代表三名からなる民主教会によってそれを可能にしていると表向きにはそう思われている。

 そんな国だからだろう、影に闇に暗躍する組織の数は他の国より多く、故に大通り以外には足を運ぶのを避ける者が多い。

 日中は栄えているが夜は物騒なのだろう、外出禁止令の下市民は出歩かないし衛兵か悪人かが歩きまわっている。

 そんな中俺が眺めることができるのは裏路地で、そこにいるのは犬猫かネズミくらい。

 召喚された時からずっとここにいて、最初に目に入ったのは人が二人だけだった。

「こいつが半身かい、ま~なんともただの子どもに見えるがね」
「見ての通りただの子どもなのでしょうね」

「……女と男」

「召喚で意識が残っているということは、少なくともラベリングを使っているんでしょうね、気をつけてスーザシール・センス」
「取るに足らない、攻撃できない力なのだろ?なら警戒の必要もない。それよりも俺の事は二翼と呼べ一翼」

 男は眼帯を付けていて……武器は持っていないようだった。でも彼は何かしら攻撃手段を持っているのか、ずっと殺気のようなものを周囲に放っている。

 女の方は……ほしい!あと少しでパンツが見えそう~で見えない!見え……そう~で見えない!

 実に巧妙にこっちの視線をその短いスカートへと誘導しているようだった。※断じてそのようなことはなく羽生太一の思い違いである。

 そのエロいファッションは俺を動揺させるための物だろ!その上半身水着のような格好で大きすぎない胸へ視線を誘い!さらに短いスカートで……ってまさか!その下はビキニか!ビキニなのか!

「?……男の子ね、ほら穿いてないわよ」

 チラリではなくハラリと前を捲られたスカートの中は、黒い部分なんて影以外ないような……中学生男子が思い描くままの景色があった。俺は高校生だけどね。

「おいおい、初心な男にお前の露出癖なんて教えたら興奮して寝れなくなるだろう一翼」
「さぁ、どうかしらね。彼表情は恥ずかしがってるのに目は全力で何かを考えてますって顔してるわよ」

 目は口程に物を言うとはよく言ったものだ、この女の人には俺がどうするべきなのか考えているのが筒抜けのようだ。

 そう思いながらも俺は言葉を交わすかどうかを思考し、その結論を出して口を開いた。

「あなたが誰か知りませんが、俺の嫁の次くらいに美人だと言っておきますよ」
「あら、あなたの中で二番ってことは中々好印象じゃない」

「安心してください、二番じゃなくてよ……五番ですけど好印象ですよ」
「……奥さんの次に何でしょ?奥さん何人いるのよキミ」

「四人いますが何か?(柚夏奈に美衣香に心優に一応式の予定にあった姫様もだろ……柚夏奈以外全員【仮】だけど)」

 呆れた顔の女性にこういう感情を抱いて良いものか分からないけど……柚夏奈の方が美人なんですよ、実際。

「四人って……あなた英雄か何か?それとも勇者?」
「そんなことは呼び出したあなたたちの方が詳しいんじゃないんですか?」

「……そうね、あなたは生贄になるのよ」

 そう言って女性は剣を抜いて構えた。

 スロットは三つで中々のレア武器のようだけど、アビリティが異世界文字で書かれているからか、ほぼ○○強化的なものしか付いていない。

 一応ステータスが下がるように変化させて、俺を害せないようにアビリティを付け替えた。

「これで刺し殺して私の半分の能力を返してもらうわ」
「……おだやかじゃありませんね」

「いいからさっさと終わらせろよ一翼」

 剣の先が壁を背にする俺の胸の心臓の位置に当てられると、その瞬間一翼と呼ばれた女性が小さく呟いた。

「いたっ……なに?」

 自身の胸を直に触って手を出して見ると指先が赤く染まっていた。

「ま、まさか……攻撃を反射するアビリティを付与しているというの!」

 確かに攻撃を反射するアビリティをこの騎士風の服に付与しているから、彼女が俺を刺そうとしたことで彼女がぐっさりいってしまうのではと冷や汗ものだった。

 焦っているふりして攻撃させようとしていたというの?と考える彼女の思考は真逆のことを導き出していた。

「二翼、この男は侮れないわ、奪えないのなら予定通りあの方が来るまでここへ閉じ込めておいて」
「分かった、だが、本当に奪えないのか?」

「この世界の言葉じゃないアビリティを付与しているのよ、きっと召喚された勇者たちに関係している異世界人よ」
「ほぅ……ま、攻撃手段はないんだろ?」

 はい、アビリティやスキル等での攻撃はできませんが何か?

 そう、俺には攻撃する手段がない、と思われがちだけど実はそうではない。既にアビリティスロットを一つ消費して【剣士のスキル使用】を付けているから戦うことができる、剣があればだけど。

 このスキルは前までは付与できなかったものだけど、アビリティスロットをロックできるようになった頃に一応試しに付けてみたらそのアビリティが付与できた。

 だから攻撃手段もいくつかあるにはある、けど、俺は基本自分から攻撃するつもりはない。というかできない……特に綺麗な人や可愛い人はな。

「とりあえずあの方が来るまで放置でいいだろう」
「あの方って誰を指しているのか聞いてもいいか?」

「……喋るな、攻撃を反射できても攻撃する手立てがない、お前など取るに足らない」
「さようで……(どんな武器を使うか知りたかったんだけど、攻撃してこないようだし仕方ないか)」

 男は不機嫌そうにその場からいなくなると、女も一言いいその場を去って行った。

「キミに待っている運命は最悪の使徒様がおきめになることよ」

 最悪の使徒?カタストロフィのことか、たしか死をまき散らす災害だったはずだ。

 二人がいなくなったことでようやく自分がいる場所と状況の整理に思考が移せる。

 見たところ地下室、壁を背にしている理由は縛られているからだ。金属製の腕輪に鎖が繋がっていて、壁に繋がっているけど半歩ほど動き回れるくらいの余裕はある。

 光は殆ど入らないけど、唯一空気口であろう天上隅にある溝が外の薄明かりを取り入れている。

「カビ臭い」

 空気口から雨水が入り、床や壁にカビがきているようだ。実際居心地は良くない、副産物ではあるけど不快感を除去してくれるアビリティが無ければ不快死していたことだろう。

 自分の精神がアビリティによって変化している感覚は気持ちが悪いけど、今は生き残って帰ることを第一に考えておこう。

「見たところ破壊不可能なアビリティが付与されている手錠のようだけど……ロックも無しなんて除けてくれと言っているようなもんですよと」

 こうして枷を外しても脱出ができるとは言い難い、何せ俺には戦う術があっても建物を破壊することはできない。

「扉はアイテム判定じゃない、建造物判定だからアビリティを付与なんてできない、剣があれば破壊できるだろうけど……剣を作ることもできないし」

 こんなことならもう少しだけクラスのことを勉強しておくんだった。

「勇者のクラス系は付与できない、攻撃系で付与できたのは騎士と剣士だけ……それも法衣には無理でペノーに作ってもらったこの騎士服になら付けられた」

 あるいは、勇者風の服になら勇者のクラスも付与できるのか。

「今は考えても仕方がない、とりあえず……そこにいるキミは何なんだい?」

 そう、この部屋に召喚された最初から部屋にいた二人とは別によく分からない存在が部屋の隅にいた。

 俺はそれが怖くてあまり二人に何も言えなかった。

『人間、人間には見えるか我の姿が』
「……いや、まったくもって見えてない、影という認識でしかない」

『しかし、見えているのだろ?ならば我も話をしよう』

 絶対に危険な奴だ、そう思いつつ俺は気持ち警戒で表情には余裕のフェイクを浮かべていた。

『我はアシュレイサーグレイ、メキドナリマエステルの使い魔だ』
「メキドナリ……もう少し短くならない?」

『……我はアシュレイサーグレイ、メキドナリマエステルの使い魔だ』

 こ、こいつ、融通が利かないタイプのやつだ!

「分かった分かった、メキドナドナリセマラ好きすぎるさんね」
『そうだ、メキドナリマエステルだ』

 わ~ボケをスルーされた。

「……で、そのメキドナさんの使い魔がどうしてこんなところに?」
『何を言う、先ほどここにいた男が申していただろ、最悪の使徒メキドナリマエステルの供物を待っている』

「……メキドナリマエステルが最悪の使徒の名前……その使い魔のアシュレイサーグレイか……」
『彼女は壊れることがない存在、不破の者を欲していた。そんな彼女に覇群という組織が不破の者を捧げるというため、我をここへ送ったのだ』

「それで、彼らには何の特があるんだ?彼らへの報酬は何だよ」
『覇群の望みは天使アテネスの召喚の手伝いだ、アレを召喚するための魔力を対価に不破の者をメキドナリマエステルは欲している』

「なるほど(全く理解できないな)」

 そもそも不破っていうのは破壊されない、つまり壊れない玩具的な物なのか?死を与え生を奪う絶望の使徒が、それを求める理由。

「ひょっとして……メキドナは寂しいのか?」
『その質問には答えられない』

「確率的に最も高いものが帰ってきたな……メキドナは寂しい女の子ってわけだ」
『無礼である、滅せよ、エグラスナリウム』

 おっと、虎の尾を踏むってやつだったか。

 目の前の影から死臭が漂うと、俺の身長の倍ほどの長さの剣が横薙ぎに飛び出てきた。

 もちろんその攻撃は俺に触れる前に影自身へと反射されるけど、その影は影故にその反撃で無傷だった。

「残念だけどそれは無理な攻撃だよ」
『……不可解、理解不能、我アシュレイサーグレイなるぞ』

「我は羽生太一なるぞ~ってね、はいはいオケオケ」

 大体理解はできた、だけど、エグラスナリウムか……意味は分からないけど、これをアビリティスロットに付与して使えれば。

 それから俺はエグラスナリウムを付与するための試行錯誤を繰り返し、その間解せぬ・不可解・理解不能と言いながらアシュレイは俺に攻撃し続けていた。

『……うむ、不快、お前は何だ?何者だ』
「だから羽生太一だって言っているだろ」

 ちょっとだけどウザかったので、彼のステータスを見て装備アイテムがあったからアビリティスロットのロックを外して【常に絶望する】を付与してやった。

『我……生きる価値無し、死にたい、世界の片隅でひっそりと死にたい』
「……(ぷぅ!クスクス!)」

 少しだけ仕返しをした俺は、エグラスナリウムの言葉の意味を考え、力であると断定して文字を入力した。

「力であれば“行使”が相応しいだろう」

 【エグラスナリウムを行使】と記入が完了した瞬間だった。

 化け物が!人の姿をした化け物!死んでしまえ!あなたを産むんじゃなかったわ。死ねぇぇえええ!

「な!何だこれ!言葉が溢れてくる……嫉妬、嫌悪、憎悪、恐怖、死。アグラスナリウムとは術ではない、力でもない、これはただの怨念だ」

 アグラスナリウムの根源はあらゆる最悪を詰め込んだものであり、それをこのアシュレイサーグレイは剣として振るったのだろう。

 精神が保護されてなければ俺は一瞬で廃人になっていたかもしれない。

 メキドナなる存在はこういうものを力に変えることができる……だから人を世界を恐怖させることをしているのだろう。

『あ、穴があったら入りたい、そして死にたい、ノミに生まれればよかった』
「……もうそろそろ許してやるか」

 そうして俺は、アシュレイサーグレイの装備アイテムのアビリティスロットから【常に絶望する】を外し、新たに【羽生太一に従う】というものを付与した。
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