趣味がチート探しで異世界転移した俺は、世界に囚われた唯一の存在だった。

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29話 魔法研究家と覇群と魔王と。

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「初めまして、宮廷魔法師団所属、魔法研究所室長で魔法研究家のラミエル・エウラ・マルティベーラと申します」

「彼女はこの国で唯一の魔法研究家だからこれから話すことは殆どが国家機密に関することになりますよ皆さん」

 ラミエルさんはとてもカッコイイ女性で、勉強ができる凛々しい女性のように見えた。

 ユリ女王様は私とペノーと美衣香ちゃんと心優ちゃんだけに彼女の話を聞かせようとしていた。

「女王様より聞かされた“ロック”それに“アビリティ付与”それらを持つニワタイチ様、彼のクラスはアイテム鑑定士そう伺っています。しかし、アイテム鑑定士にアビリティ欄を操作するようなスキルや技能はありません」
「じゃ、太一くんが特殊なんですね」

「はい、彼がアイテム鑑定士だというのは間違いのですが、もしかすると魔王と縁のある方なのかもしれません」
「魔王?」

「はい、冥混の魔王パーチスケウ、その魔王はアビリティ、スキル、タイトル、センスを他の者に与えることができるという事実があり、魔王の中でも数少ない人族に協力的な方だと伺っています」
「つまり、良い魔王ってことですか?」

 私の質問にラミエルさんは首を振る。

「いいえ、数百年も前には一国を滅ぼした魔王なので、良き魔王とは言い難いです。実際、カタストロフィと同位置に指定されている唯一の魔王でもあります」
「カタストロフィってあの災害級の化け物ですよね」

 さすが心優ちゃんはこちらの知識に精通している様子で、少しだけ嬉しそうにしている姿が太一くんとそっくりだった。

「ええ、破滅的な強さを誇るドラゴンの使徒、炎火の使徒ボルケーノベント、そして最悪の使徒死をまき散らす死を与え生を奪うデスサイズの化身と同列の存在です」
「その魔王さん、アビリティを付与するのは確かに太一くんと同じですね」

「すみません話がズレてしまいましたね。そうです、魔王とニワタイチ様に違いがあるとすれば、アイテムに複数というところですね、あとはロックに関しても魔王とは違うと思われます。タイチ様の事は魔王に尋ねれば少しは分かるかもしれませんが、今は彼がどこへ連れ去られたのかです」
「心辺りがあるんですか?」

 メガネを押さえるラミエルさんは神妙な面持ちで口を開いた。

「ここより西北の方角には最近勢力拡大を続けている国、ボーデミリアという国があります、商業国家であり成り上がり国でもあるそこには覇群と呼ばれる組織が暗躍していて」
「覇群……」

「その組織には噂なのですが、別の国々から強い者を連れ去って仲間にしていると諜報部の友人が言っていました。構成員は七人で、一人一人に一翼から七翼まで呼称されているらしいです」

 翼(よく)、ツバサを意味しているんだろうけど、この世界で翼が関係するのはたぶん一つ、いいえ一種族のみ。

「まるで天使を指しているようですね」
「そうなんです!」

 あれ?ラミエルさんの様子が……。

「アテネス、ルフセス、ミュセス、ラトゥルス、イリリス、五大天使様!神々しいかの方々のひと柱であるアテネスを崇拝する組織なのです!つまり私のようなラトゥルス様を崇拝する天使教とも浅からぬ縁があると思って調べていたのです!」
「なるほど、ラトゥルス様?っていうのは女なんですか?それとも男?」

「っち」
 舌打ち!心優ちゃん困惑してるじゃないですか!ラミエルさん!

「五大天使はイリリスのビッチ以外全員男です……イリリスはその美貌で他の天使様をとっかえひっかえ付き合っていたアバズレです……たく、これだから無知は」

 何か変なスイッチ入っちゃった……。

「そ、そうなんだ……へ~(初めて人の地雷踏んじゃった気がする)」

 心優ちゃんがその後ラミエルさんに話しかけることはなく、彼女が知りうるだけのボーデミリアと覇群の情報を聞くことができた。

 覇群のことで分かっていることは七人いるうちの二人の事だけで、一人は一翼と呼ばれる女の人でもう一人は二翼と呼ばれる男の人。

「一翼は“ラベリング”の能力者で武器にアビリティを付けることができる、二翼は“ファイブカウント”の能力者でビートと呼ばれる武器、拳銃のようなもので使うその技は五発撃てば相手が死ぬと言われている……か」
「この世界にクラスで使えるスキル以外にも能力があるなんて初めて聞いたわ」

「そうね、ミイちゃんの拳闘士のクラスもスキルだけじゃなくてセンスを一緒に使う人が多いらしいよ」

 センス?そういえば太一くんが前に言っていた。

『センス、日本語で分かりやすく言えば“昇華技術”かな。鍛錬で能力が向上していく、ステータスのある技なんだ』

 アビリティもスキルも覚えた時から技術としては停滞し、その使用方法によっては戦闘の手段が増えることはあっても昇華しようがない。

 でもセンスは違う、訓練や鍛錬そして実戦によってステータスが変化し能力が向上していく。

『これは秘密だけど柚夏奈には教えておこうかな、実はね……』

 そう言って太一くんは一つだけ秘密を私に教えてくれた。

「私のセンスはアビゲイト、意味は協輪でその効果は周囲を治癒していく、心も体もゆっくり少しずつ。そして、太一くんのセンスはケティンラオ……意味は“私はここへ帰還する”あるいは“凱旋する意思”」

「もうすぐ国境です、これより先は護衛が外れます、くれぐれも注意してください!」
「はい!」

 私とペノーと美衣香ちゃんと心優ちゃんを乗せた馬車は、サダ―ラン聖法王国の西北へ向かい元魔王領からボーデミリアへと入る。

 全員が太一くんのアビリティを付与した装備を着け、彼を助け出すことだけを優先に考えていた。

「人と戦うことになるのね……少し怖いな」
「ミイちゃん、気絶させるだけって無理なの?」

「難しいかな、スキル使うと確実に当たって致命傷ってことになりかねないし、意識的に攻撃しても気絶させるのは難しいから」

 大丈夫だよ、私が無力化するから!そう言いたかったけど、それが相手を全裸にさせる剣だと言い出すことができないのは太一くんの所為で。

「柚夏奈ちゃんも、あまり無理して戦わなくてもいいからね?」
「はい、二人の邪魔にならない程度に援護します」

「あれだよ!王都で聖騎士を全裸にした方法なら戦意を失わせられるんじゃないかな!」
「……(美衣香ちゃん、お願いだからその話は持ち出さないでください……)」

「あれは太一くんがやったんだよね?……柚夏奈ちゃん?お~い、あれ?急に圏外だね」

 この剣……太一くんが用意してくれた唯一の武器だけど、名前が……名前が。

「……柚夏奈さん“聖剣全裸セイバー”を見つめてどうしたんですか?」
「え!」

「聖剣……」
「全裸セイバー?」

 ぺ、ペノー!なんでその名前言っちゃうかな!

「あ~っれ~この剣そんな名前じゃないよペノーちゃん」
「いいえ、それは間違いなく主が柚夏奈さんに用意した聖剣全裸セイバーです!」

 こ、この子……太一くんが絡むと空気すら読んでくれないのよね……。

「柚夏奈ちゃん……それマジ?」
「全裸セイバー……太一くんが付けたの?」

 う~二人の視線が痛いよ~太一く~ん!

 その後もその剣のことで二人はやたらと私をイジリ倒して、美衣香ちゃんは笑って心優ちゃんは呆れていた。

 そうして夕刻前には見知らぬ町に到着して、その夜を明かす宿をとり翌日には出発してまた日が落ちる前に町で宿をとる。

「……待ってて、太一くん」

 私がこうしてお風呂に入っている時も、ペノーの体を洗っている時ももしかしたら太一くんはと考えてしまう。

「大丈夫ですよ、主は、太一さんは無事です」
「うん、そうだね」

 私と一緒ぐらい不安だろうに、ペノーに励まされてばかりでなさけない。

 私はやっぱり太一くんがいないと。

「ちゃんとお姉ちゃんにも成れないんだな……」

 募る不安が太一くんとの距離なのかもと、その時の私はただただ彼のことを想いながら夜空を見上げていた。

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