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27話 秘密の式と突然の別離。

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 中々に人が集まっているな、ま~今日は勇者と姫様の結婚式だからな、当然と言えば当然だけど。

「はい、タイチ様あ~ん」

「あ~……って!これから結婚する人が別の男にあ~んはしちゃダメな気がするんですけど!」
「わ、私もそう思うな!」

 俺と柚夏奈は姫に呼ばれて彼女の私室で何故かお茶とおかしを食べさせられている、主に俺が姫にだ。

 それに対して柚夏奈は相手が姫だからかオロオロしながらそれを阻止しようと必死だった。

「た、太一くんは私のお、夫なんですから!」
「そうであったとしても、彼は妻のものではなく彼自身のもの、そして私はこの国の姫であるので彼が嫌がること以外は色々やってあげたいのですよ、というか女王命令?」

「っくぅ~」

 姫は勇者と結婚することによって女王になり、現在の王は前王として隠居するらしい。

 そして、俺はこの姫の行動を不安の表れだと分かっているから、彼女が満足するまでは付き合ってあげようと柚夏奈にも言っていて。

「それより姫様、例の件よろしくお願いしますよ」
「はい、ユカナ様とタイチ様とミイカ様とミユ様との……結婚を秘密裏に行うのでしょ?」

「はい……でも秘密裏ではなく、思い出作りのようなものなので身内だけでって話です」
「分かってます、しかし、民に知られてはあるいは私としては困るので」

 困る……姫が?何で?

 姫の思惑は理解できなかったけど、柚夏奈の希望通り……俺の望まない結婚式が始まろうとしていた。

 本当に姫は勇者との結婚を形だけのものにしようと考えていて、勇者の姿はかりそめの魔法で民衆に見せるだけで、その交わし合ったように見えるキスさえも姫の一人芝居でしかなかった。

 そもそも勇者自身がこの城にいなかった、彼の外面を愛するメイドたちの世話の下で静かな場所で過ごしているのだ。

 柚夏奈の剣で精神的に去勢された勇者は一時的に半廃人のようになっていたものの、今ではメイドたちに笑みを見せるほどに回復し、好青年として村での生活を送っている。例の執事の調律士も一緒にその村へ滞在しているらしい。

 それもこれも俺がアビリティを付けてペノーの指輪を彼に付けさせたからだけど、姫は好都合とばかりに彼の傍付きメイドを美女美少女で固めて恋仲にしようとしているようで。

 形的に結婚をしても姫は実際には独り身であり、故にまだまだ夫探しには熱心なのだ。

「で、姫様はこの後はどうするつもりなんですか?」
「タイチ様、いつまでも姫などと呼ばないでください。私とあなたはもうそのような関係ではないでしょ?」

「いやいや、そういう関係ですから!太一くんと姫様は友だちですから!」

 柚夏奈が腹を立てながらそう言うも姫は俺にガンガンアプローチしてくる。

「ユリアーナメフィ、ユリでもアンナでもフィでもお好きなようにお呼びください、タイチ様」

 その笑みはカワイイ、柚夏奈がいなければお嫁さん候補筆頭に並んでいただろうに残念でしたね、と旨の内で思いつつドレスで胸元を緩ませた彼女の胸は柚夏奈に負けてはいるものの美衣香と心優とほぼ同じくらいだったことに驚きだ。

「じゃ……ユリ」
「はい、タイチ」

 ん~超姫様、間違いなく姫様ですね、カワイイですね。

「ん~太一くん!」
「いやいや、俺は柚夏奈一筋だから!本当に柚夏奈しか見てないからね!(でも金髪美女には色々とロマンがあってそれに王女とか女王とか姫というものが加わるとそれなりのパンチ力がありまして)」

 本当に姫様、ユリはカワイイから油断したら見つめてしまう。

「でも姫様のことカワイイって思ってるんでしょ?」
「……(す、鋭いぜよ、まっこと柚夏奈殿は俺をよく見ゆぅきに)」

 と思いつつ柚夏奈に見とれるのは、彼女が着ているドレスが似合い過ぎているからで。

「柚夏奈さんの方がカワイイけどね」
「え?そ、そう、変じゃないかな?私まだ子どもだし」

「いやいや、すぐにでも嫁にしたいほどにウエディングドレスが似合ってるよ」
「え~そうかな~」

 そのドレスはペノー作だけど、生地に関してはユリが提供してくれたもの。

 柚夏奈が最初で次に美衣香、最後に心優がドレスを着て登場する予定だ。

「太一くんもその恰好似合ってるよ」
「こっちの紳士服だろ?騎士って感じでカッコイイよな、似合っているか知らんけど」

「似合ってる、カッコイイ」
「とても勇ましいですタイチ様」

 そうかな……身長が低い気がするな、あと顔も幼いしさ。でも、ありがたく二人の言葉を受け取るとしよう。

「おっまたせ~!太一く~ん!」
「おわ!市宮さん!(さすがにまだ美衣香と呼ぶことはできません)」

「どう?似合うでしょ」

 この飾らない感じ、やっぱ好きだな彼女のこういうところ。

「はしたないわよミイちゃん、太一くんどうかな?」
「超似合ってるよ新野さん」

「でしょ?胸とか大きくて足元見づらいから時々ドレス踏んじゃいそうになるけどね」

 そう、それこそが巨乳になった者の性なのである。柚夏奈なんか時々目の前にいるペノーを見失ってしまうほどにだ。

「主~私頑張りました~」
「よしよし、ペノ~お疲れ様」

「!主!王子様のようです!」
「いや、騎士だろどう見ても、へっぽこな」

 部屋に入ってきたペノーもいつもと違う格好でかなり可愛いし似合っている。

 その後に続いて入ってくるシロもパーフも着飾っていて、ここって異世界なんだな~ってついつい口に出してしまう。

「ここって異世界なんだな~」
「今更?太一くん」

「こっちに来てもう数か月も経ってるのにまだゲームか何かだって思っちゃう時あるもんね」
「へー新野さんはゲームとかするんだ」

「うん、MMOとかVRとかね、お兄ちゃんの影響かな」
「アースライクファンタジアって知ってる?」

「知ってる知ってる!初心者ギルドの“情報通”ってところでサブマスターしてたのよ」
「へ~俺はブラットロードってところでギルド戦に出てたよ」

「え!あのブラットロード!ギルド戦2位常連だったところ!」
「そう、1位の南中女子高生が強すぎていつも2位だったけど、あっちは廃課金者多かったから勝つ方が無理なんだけど」

「でも1位のギルドって運営のギルドって噂だったけど」
「運営のギルド?あ~あれはこっちの方が正解だよ。デバック中のアカウントのままやってた人もいたし、でも無課金でしかできないから1位には勝てないって感じで、後ろから追いかけてくるヒリヒリ感を演出して課金を煽ってたらしいけど」

「う~わ、MMOの闇だね、ネットの中の煽り運転みたい」
「それ分かる」

 新野と話が合うのが楽し過ぎた所為で、柚夏奈がお怒りなのに気が付くのが遅れてしまった俺は、パーフにすねを蹴られてようやく気が付く。

「あっつ……おっと、皆さんもいましたね」
「……なんか二人だけの世界で妬けますね」

「……太一くん楽しそう」
「ミユも楽しそうだったね」

「え!そ、そだね……(ミイちゃんはともかくユ、ユカナちゃんの目が怖いんだけど!)」

 何せ俺にとって新野心優はあまり関わりもなく興味もない存在だったから、まさか同じ庭の同士とは……是非今度テスターとしての楽しみ方を布教したいものだ。

「……主楽しそう」
「あれですか!太一さんは巨乳にしか興味ないんですか!あ!ですです!」

「タイチ~楽し~シロも楽しい~」

 楽しそうな俺よりも、今はですをつけ忘れて後で付け足したパーフのことを突っ込むべきだと思うんだけど。

「とにかく、早く始めよう、ユ……姫様の時間もいつまでもあるわけじゃないしね」

 柚夏奈と同じゆで始まる名前は呼びづらい……、当分の間姫様でいいだろう。

 俺たちは四人の結婚式を八人だけで行うことにした。でも、俺としては柚夏奈以外とはイベントで楽しむための行事的な枠で捉えていたんだ。

 もちろん美衣香と心優もそのつもりの様子だし、それを姫もペノーもパーフも理解していたんだろう。

 だからというかなんというか、三人だけでがいつの間にかドレス姿のままの姫様も一緒になって嫁の位置に加わっていた。

「姫様も!ズルい!主!私も思い出におおおおお、お嫁さんに!」

「シロも~」

「私も華麗にドレスに変身するですです!えい!」

 とその瞬間に久しぶりのパーフの全裸魔法発動で予想外に柚夏奈の指輪が反射してしまい、ポンチョを付けているペノーと俺と柚夏奈以外が全裸になってしまう。

「げ!」
「た!太一くん見ちゃ!ちょ、シロちゃん、放して~」

「ユカナともケッコン~」

 右見ても裸、左見ても裸、前も裸の裸祭り。

 ちなみに、シロは普通の人間のような姿をしていても、ドワーフのペノーよりも腕力や身体能力が高いため、柚夏奈がいくらもがこうとも放すことはない。

「あらら、貴重なドレスなのですけど、太一さん……これはお体で払っていただかないと」
「できればもう少しまけてもらえませんかね!」

「どう!ミイちゃん!私もおっぱい大きいでしょ!」
「だね、でも太一くんのおかげだから一度くらい揉ませてあげればいいのに、柚夏奈さんも揉んでもらったんだよね?」

「え?いや、私は何もしてないけど!それよりも二人とも太一くんの目を隠して!」

 いや、むしろそこは自分たちの胸を隠してほしいところですけどね!

 雄としては女性の裸体に感激するところだろうけど、男としては好きな女の子の前で別の女の子の裸を凝視することは……で……でも見ちゃう。

「これが終われば帰るんだから……そうしたらもうこういうこともできなくなるし……ここは堂々と見ておくとするか」

 なんて言った瞬間だった。俺の足元に妙な線が複雑な図形を描き出し、最終的に円を描くと俺の足元に俺だけを囲むように完成する。

 もちろんそれが何か分からなかったけど、逃れるために後ろに歩いてみたらその図形は素早く俺の足元へと移動した。

「召喚の紋章です!」
「っく!」

 この騎士服みたいなのにはまだアビリティを付けていない!加えて指輪も一つしか!

「なにこれ!入れないよ!」
「ペノー!予備の指輪をくれ!」

「はい!」

 慌ててペノーに持たせておいた予備を投げてもらったけど、それさえも紋章が作り出す壁に阻まれてしまう。

「太一くん!」
「やめろ!柚夏奈!指が!」

 壁に触れている柚夏奈の指がまるで毒に犯されるように紫に変わる。

「太一くん!今助けるから!」

「柚夏奈!……覚えているか?」
「え?」

「こういう時のために話をしておいただろ?」
「太一くん!」

「俺たちが離れ離れになった時は無茶はしない、帰れる時は帰る……そう約束したよな」
「嫌だ!」

「もう二度と会えない可能性の方が高い……だから言っておくけど、愛してるよ柚夏奈」
「私も愛してる!愛してるから!だから!」

 まさか想定していたことが、想定外のタイミングでやってくるなんてな。

 俺は覚悟を決めて笑顔を浮かべて柚夏奈やみんなに声をかけた。

「みんな……ステイ……クール」

 そう言い終えた時、柚夏奈たちの声はもう俺には聞こえていなかった。

 必死な柚夏奈と同じように姫も何かをしようとしているようで、美衣香と心優は近づこうとするシロを必死に押さえていて、ペノーもパーフが押さえようとしていたけど、最後には柚夏奈が触れている横に振れてその手が紫色になってしまう。

 こんな結果が待っているって知ってたら、フル装備で警戒していただろう、でも、それも後の祭り。

 この日俺は柚夏奈たちの目の前から忽然と姿を消してしまったのだ。
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