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21話 凱旋、募る想いは小さな興味……気付けば好きになって……恋に落ちていた。
しおりを挟む「勇者様が帰ってきたぞ~」
「勇者様!勇者様!」
「カコイイ!勇者様~!」
勇者は人気であるのは必然だ、その正体が分からなくとも周り回ってそこに落ち着くのは、無知蒙昧な民に人気のある暴君と大差ない。
その上勇者は本物のイケメンで普通に観賞用の置物としてなら害もない。
「きゃ~トウヤ様~!」
「コウイチ様~!」
もちろん、この二人もイケメンだ。日本人顔だからもちろん人気的には勇者に劣るが、質で言うなら文句なく彼らの方が天秤が深く沈んでいる。
ただ、その愛想の無い、関心の無い表情は、ある意味関心を持たれることもなく、それは続く彼女らも同じで。
「ミユ様~!」
「美しいです!ミイカ様!」
哀愁帯びたその表情には、逆に何とも言えない魅力にも似た人を惹きつける何かを感じていたなら……そんな奴らは彼女らの傍には近付けない。
勘違いの関心は間違いの関心より罪深くまた愚かしいものだから。
「た、太一くん、これ本当に誰にも見えてないの?」
「ああ、今現状俺たちは互いに認識できるがそれ以外には見られることはない」
勇者の凱旋に乗じて、俺と柚夏奈は王都へ潜入していた。お尋ね者であるため姿を隠す必要があるため、グループという言葉でくくればこうして壁ないし二つの部屋ないし二つの箱が人と人の認識の間でも出来上がる。
結果として、認識をずらして他人の意識から存在を隠すことも容易だった。
「俺命名、インジビルブだ」
「え?インビジブルじゃなくて?」
「あえてだよ、認識をずらしている点ではありかなって」
「……うん~っと、ごめんちょっと分からないや」
だろうね、柚夏奈は厨二心とは無縁そうだし、俺のこの言葉の意味は生涯理解できないかもしれないな、良くも悪くも柚夏奈だし。
今俺たちはこそこそと王都に入り、柚夏奈は市宮と新野と会うために、俺は御崎と新と会うためにそれぞれに密に王城ないし兵舎かその隣の屋敷に潜入するつもりだった。
もちろん本当なら二人同時にどちらかにアプローチできれば問題ない状況だけど、俺は柚夏奈が御崎と新、勇者に会うことがあった場合絶対惚れるからその選択はしたくなかった。
「太一くん、絶対市宮さんと新野さんとお姫様と会ったとしても、絶対に絶た~いに!カッコイイとこ見せちゃダメだからね!」
互いに、互いの周りの目を気にしてしまうのは当たり前なのかもしれない。
「絶対、そういうことにはならないよ、何せ俺と柚夏奈は所謂吊り橋効果だから」
路地への入り口でそう言った俺に彼女は軽く指で頬を突く。その表情は不満そうで。
「吊り橋とかじゃないからね、こっちに来る前から私が話しかける男子は太一くんだけだし」
「それって」
「だって、私が困っていた時……太一が声かけてくれたんだよ?覚えてない?」
「……少しだけ待って……(いや、記憶にない)」
その後少し唸ってみたものの、柚夏奈との接点がこれといって思い出せなかった。
「忘れてても仕方ないよ、あの時は私だから太一が声かけてくれたんじゃなくて、委員長だったから声かけてくれただけだろうし」
「……悪いな……柚夏奈のことなのに」
「ううん、全然、むしろそういうところが……」
その後微かに聞こえた彼女の、「あぶない」という言葉はおそらく、いや間違いなく俺か彼女自身を貶める言葉だったからだろうと察する。
天然の彼女は伝えたいことは言う、だから、伝えたくない事なら言わない。それは俺じゃなくてもおそらく分かる。
「よし、じゃあまたあとでな」
「うん、またあとでね」
互いの手を離すともう柚夏奈に俺は見えない。そして、俺には不安そうに移動していく姿がハッキリと見えていた。
私は羽生太一という人を最初はハニュウだと思っていた。
有名人の苗字と同じというだけでそう思って声をかけた。
でも、実際は違っていて間違いだって気付いたのは彼に初めてお礼を言った時だった。
「委員長」
「あ、はい!」
「男子の健康診断の番だろ?」
「うん、そうなの」
「伝えればいいんだろ?」
「うん」
「分かった」
そんな普通の会話に安堵して感謝しているのに、私は彼の名前を間違えた。
「羽に生って書いてニワだから、スケートも滑れないから」
そんな彼の返しに反応することもできないくらい、申し訳ない気持ちでいっぱいで、それからだったな……気が付くと彼を自然と目で追っていたのは。
好きとは違う、知らなかったから知りたい、分からないから分かりたい。そんな気持ちで彼の事を観察して彼をずっと見ていた。
誰とも仲は良くないのに誰とでも話しているような人で、不思議と周囲に人がいた。一人でいることが多い彼は、時に寝ていても傍に人がいるような人。
ある時彼の傍に女の子の集団がいて、何事かと思えば何故か彼の弁当のおかずの取り合いになっていた。
彼のお母さんが作ったキャラ弁で、可愛いおかずを取り合いになってしまったのだ。優しい彼は見返りもなしでおかずを分けて、ふりかけご飯だけをパクパク食べていた。
女の子たちに不満を持ちつつ、私もお弁当のおかず欲しかったな……と考えてしまっていた。
そんなある日の放課後、珍しく彼が友だちと教室に残っていて、黒板を拭くふりをして様子を見ていた。
私も市宮さんと新野さんが告白されるのは噂で知っていて、彼がどちらかに好意を持っているのかもと思って結末を確認するまではいようと思っていた。
そうして巻き込まれてしまった。
見覚えのない場所で、不安で怖くて怯えてしまった私は、近くに羽生くんを見つけて思わず声をかけてしまった。
彼は落ち着いている様子で、冷静さを保ちながら私に返してくれてホッとできた。もし彼がいなかったら、そう考えたら恐ろしくて、でも彼がいてくれてよかったと思ってしまった。
それからは彼基準で物事を考えるようになって、離れ離れになるかもって心配したり、彼が友だちとどこか行っちゃうかもとかこっちのメイドさんと仲良くなったりしていなくなっちゃうんじゃとか。
でも彼は図書室へ籠って毎日この世界の知識を頭に入れているようで、そんな頑張っている彼に私も頑張っているよって知ってもらいたくて、エンチャント付与のお手伝いだって始めた。
そうして、彼に興味を持ってもらいたくて何度も声をかけたけど、彼が私に委員長以上の意識を持っていないのも分かっていた。
委員長の私よりも友だちを優先して、当たり前だけど不安になった。
そして、彼らがここから旅に出るってなった時、膝から崩れるくらい驚いて落ち込んで、でも彼だけは残っていることを知って嬉しくてよかったって思って。
「委員長、何してるの」
そうしてようやく彼は委員長の私を気にかけてくれて、私が頑張っていることも見てくれていた。
気付いてくれた、それだけでよかったのに、私のメガネの疵に気が付いてくれてアビリティを付与してくれて、それが彼の部屋へ行く口実になって私は駆けていた。
その次の日には、私は自分でも綺麗になったと思ってしまうほどに外見が変わってて、彼がしたんだって分かっていて彼の部屋へ走った。
走ってたら胸のボタンが飛んでホックも破れて、彼に話しかけるきっかけがいっぱいできたって思って自分でも変だって思うけど笑ってて。
それからはまるで夢のようだった……彼がいつも私を気にかけてくれて、私を助けるために考えて行動して二人で王都を出ることになった時も怖いことなんて一つもなかった。
「……大好きなんだな~私」
そう呟きながら何度彼の寝顔を覗いただろう。そしてこれから何度彼の寝顔を見ることになるのだろう。
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