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15話 彼らは対峙し、ドレイ商人は怒鳴り、元ドレイは遊び、エルフは扉を開閉する。

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 シロが家に来てひと月経った頃、勇者たちパーティーは一波乱を迎えていた。

 勇者が嫌がる新野心優にいつものように腰に手を回した。その時、何度目かの御崎刀夜の勇者への反逆が起きた。

「勇者!」
「は!トウヤ、また俺様に負けに来たのか!」

 もちろん、結果は一瞬だった。

「エル、スラッシュ!」
「ライト!クロスセイバー!」

 聖騎士のエル・スラッシュ、魔に属する者に特効を得るスキル。

 勇者のライト・クロスセイバー、光の属性を用いて二本の光剣を生成しあらゆる敵を切り伏せるスキル。

 ランクAの聖騎士のスキルが、ランクΣ(シグマ)の勇者のスキルに到底敵わない。

「っぐあ!」

「まったく、痛い目に合わないと理解できないようだなトウヤ。コウイチのように絶望したいのか?」
「っぐ!」

 鎧越しに腹を蹴られた御崎刀夜は、数メートルは転がって市宮美衣香の足元で止まる。

 市宮美衣香は勇者を睨んで、助けを求めるように新光一の方へ視線を向ける。けど、新光一の表情は弱弱しく、その視線はサッと別へと逃げてしまう。

「……勇者、もう止めて、刀夜ももう……」
「諦め……られるか!」

 だけど、その後数十分も殴られれば、彼の戦意も失せて全ては鎮静化する。

 そうして御崎刀夜の最後の反逆は終わりを迎えた。

 市宮美衣香と新野心優はその後すぐに勇者とは離れ、二人部屋へ戻っていた。

「心優大丈夫?」
「うん、でも、刀夜くんは?」

「……」

 市宮美衣香が最後に見た彼の姿は、数週間前の新光一と重なっていた。

 きっともう、彼が勇者に歯向かうことはない。

「……大丈夫、きっと刀夜は大丈夫だよ」

 それ以上の言葉は選べなかった、彼女も心を痛めていたから。

「魔王を倒したら、二人は帰れるから……」
「……そうだね、私たちは、勇者のものになるんだね……」

 この世界で魔王を倒した勇者が手に入れられないものなどない。

 たとえそれが誰かの自由であってものだ。

 新野心優と市宮美衣香、御崎刀夜と新光一、彼らの犠牲とともにこの国は救われる。

 もしも、自分が彼ら彼女らの境遇だったなら、そう考えるととても無視しておけることではない。

「あの子は見つかったのかい!」

「いえ、今も捜索中ですベシュラ様」
「ち!役立たずね!」

 誰かの自由を奪うのは何も勇者だけではない。

「ドレイを逃がしただけならまだいいわ!あの子は特別なのよ!絶対に捕まえなさい!」
「は、はい!」

 ベシュラ、その黒い肌、紫の瞳、グレーの髪はどう見てもダークエルフと呼ばれる種族。

 走り去る男も彼女と同じダークエルフだ。

「おい!ベシュラ!さっさとあの娘を抱かせろ!」
「クファヌー様……今しばらくお待ちを、それまでは誰か他の娘を……」

「アホが!お前の人形を抱くのはつまらんからだろ!」
「……(あの子は私の能力を使ってない唯一の女……だからクファヌー様に抵抗するし、反抗する)」

 その抗う姿をクファヌー様はねじ伏せることに快感を覚えているのね。

 その口元に浮かべた彼女の笑みは、その目の前のハゲ頭のデブ男と全く同じ穴のムジナだった。

 世の中、全ての人間が善良ではないように、亜人にも邪悪がいるわけで。

 要するに、全ての人間を救う勇者は、等しく悪人も救ってしまうんだ。そんな勇者を憎む存在もいるということで、もちろんそれは理不尽であり勇者には何の悪意もない。

 そして、世界にも同じことが言える。世界は等しく人を育む、善も悪も一緒に育む。

 善も悪も無くなることは無い、なぜならそれは等しいから、平等だから。だから等しく自惚れる、自分は大丈夫だから、自分がしてきたことが自分に向けられることは無いからと。

 でも、俺や柚夏奈、あるいは市宮美衣香や新野心優、あるいは新光一や御崎刀夜は知っている。人を呪わば穴二つ、他人の不幸は自身の不幸になりうることを。

「例えばの話さ、ゲームを舞台にしたラノベで、時に主人公やキャラクターが一人で強大なボスを倒して強い力あるいは剣を手に入れたりすることってあるだろ?でもさ、それが現実のゲームで起きたらどう思う?」
「……ズルい!」

「そう、不公平だってなって、運営側に改善の要求で溢れる。もしもその要求に答えなかったなら、大勢のユーザーが離れているわけだよ。そうなったらいくら強い力を得ても、ゲーム自体が終わりを迎える」
「……むかえる!」

「だから、現実ってのはどこまでもバグやチートを嫌い、それを見つけるために人員を割くし労力を惜しまない。そうしないとクソゲーのレッテルを張られて、はい撤退」
「てったい!」

「対してラノベってのはまるで理想だ、人の夢、人の欲望のそれだよ……シロ、この話面白いか?」
「……おもしろくない!」

「だろうね」

 理解できないことは退屈なのは当たり前で、パーフもペノーも柚夏奈もこれで離れてくれるけど、シロだけは一向に離れてくれない。

「退屈ならシロも他のことすればいいのに」
「うん、やだ!」

『私はタイチの傍にいるよ、じゃないと迷子になるから』
「……そうですか」

 なら俺は、いつトイレに行けばいいの?もう漏れちゃいそうだよ!

『なら一緒に行く、シロが付いて行ってあげる』

 いや!それは柚夏奈さんが許さないから!だから!一人で行かせて!

 思っていることが時々思念伝達してしまうから、こうして自分の考えも混ざってごちゃごちゃになってしまう。

「……むり!トイレ!」
「あい、ついていく」

「シロ~太一くんのトイレにはついて行っちゃダメ!」
「あ~う~」

 ありがとう柚夏奈、キミがいないとトイレにすら行けない情けない男なんだよ。

『そんなことないよ』

 あ……まったく、俺って奴はカッコ悪いな。

 どこまでも、計算してことが進めば、もっとカッコつけられるんだろうけど、どうやら俺にはそういうのは無理らしい。

「どん!開きます!」
「いやぁぁぁあ!入ってま~す!」

 トイレ中の俺の情けない姿をこうしてパーフにも見られているわけで。

「だん!閉まります!」

「って!勝手に開閉するな!」

「どん!開きます!」

 最近のパーフの愉しみの一つであるこの開閉は、後に柚夏奈にも同じことをして、パーフの尻が真っ赤になるまでは続くことになる。
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