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14話 白い肌白い髪白い瞳の真っ白しろ。

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 天がそれを許そうとも、神はそれを許さない。
 神がそれを許そうとも、人がそれを許さない。
 人がそれを許そうとも、正義はそれを許さない。
 正義がそれを許そうとも、俺がそれを許さない。

「……夢か?」

 夢を見るのはこっちに来ては初めてかもしれない、加えて隣にひと肌の温もりを感じるのも初めてかもしれない、ん?ひと肌?

 可能性1、柚夏奈が裸で寝ている。いや、それはない、彼女はそんな大胆なことはしない。
 可能性2、ペノーが裸で寝ている。なくはない、けど彼女もそれほど大胆なことはしない。
 可能性3、パーフが裸で寝ている。これ一番可能性があるけど、基本彼女はもう少し遅い時間にしかこないはず。
 可能性4、ルナが裸で寝ている。この可能性はまずない、だけど、絶対ないとは言い切れない。

「……確かめるべきか?」

 いや、このまま気付かないふりして寝てしまうのも手ではないだろうか。

「……んっ」

 おっ手が、あれ?この手、柚夏奈ではない派手なマニキュア、ペノーにしては大きくて、パーフにしては肌の色が赤みがかっていて、ルナの手ではない。

「これは顔を確かめないと」

 ゆっくり、俺の後ろにいる女の子の顔を確認するべくかけている布をサッと動かした。

 誰だ?誰なんだ?

「……って!誰!?」

 そこには、見たことのない女の子、エルフみたいに耳が尖ってるわけでもない、ドワーフみたいに小さい体躯でもない、人というわけでもない。

「これは、何ていう種族なんだろう……」

 白い、髪も目も白い、なのに肌は赤みがかっている。いや、これはもしかして、血か?

 その肌には返り血が付いているようで、人ではないけど、違いはそんなに大きくない。

「にしても、歳は17歳くらいかな……柚夏奈と同じくらい、胸も……同じくらいか……」

 もろ見えですが!

「太一くん」
「ひゃい!」

 柚夏奈!どうしてこんな時間に起きてるんだ!

「そっち行っていい?少しだけ一緒に寝たいなって」
「おえぇ……いぁ……それは、どうしよう……俺も柚夏奈と寝たいけど……このままだと大きな誤解が生まれそうだから」

「大きな誤解?」

 誤解なんだ、巨乳な裸の知らない女の子が、俺のベットで俺に密着して寝ているなんてのは。

「……ちょっと失礼するね」
「あっ」

 衝立の横をサッと通り抜けた柚夏奈は、俺のベットに女の子がいることを確認する。

「……変わった姿の人だね、亜人でもないけど、人でもなさそう……それにこの肌の赤いの……血だよね」
「あぁ、そうみたいなんだ」

 意外と冷静に状況を把握してくれた。

「この世界の種族で間違いないだろうからな、パーフかペノーに聞いてみるのが手っ取り早いかもな」
「……胸、揉んだりしてないよね?」

「あぁ、ちょっと腕に当たったくらいだ」
「……こ、こんな感じ?」

「って!」

 なんで!おっぱいを押し付ける!え?なにこれ?なんなん?なんなん!

 唐突に押し当てられる胸は、シャツ一枚の隙間ではあるものの、柚夏奈の素肌であり、俺は完全に思考停止状態でそれを感じていた。

「こう?こんな感じ?ね、太一くん」
「……」

 それからしばらくして、俺たち家族始まって以来の家族会議が執り行われることになった。

 議長、ペノー。

「これより!第一回!主と誰の子裁判を始めます!」

「いや!俺の子じゃないから!」
「……」

 なんだいその疑いの目は。

「では、仕切り直して、第一回!主の隠し子!誰の子裁判を!」
「もういいよ!俺の子じゃないから!話を進めような!」

 興味なさそうなパーフと冷静な柚夏奈はともかく、どうしてペノーはこんなに機嫌が悪いんだ?

「一番早いのは本人に聞くことですです」
「……そうだな、一番手っ取り早いだろうな」

「もし人殺しとかだったら?悪い人だったらどうするの?」
「いや、ステータス見る限りそんなんじゃなさそうだぜ」

「太一くん、ステータスどれくらい見えるようになったの?」
「ほぼ全部見えてるよ、クラスは魔法士、年齢は分からないけど、ステータスは俺たちと変わらない、スキルも無しで特殊な能力もないみたいだ」

 種族に関しても見ることはできるけど、このスラッシュって記号の意味、それを理解するにはかなり難しい問題だ。

「白い肌白い髪白い人……彼女は人と亜人の混血種です」
「ペノー、知っていたのか?」

「はい、私の親戚にもハーフの子はいっぱいいます。恋をして愛し合ってできた子どもはハーフになる、でも、愛の無いままに生まれるのは混血種、この異形の白い人の姿をしていると聞いていました」

「……人が亜人を犯したか、亜人が人を犯したか……どっちかは分からないけど、彼女はそうして生まれたと?」
「……なんだか可哀想だね」

 パーフが口を閉じているのは、興味が無いからじゃない、知らないからだ。

「ドレイの子じゃないでしょうか、逃げてきていることを考えても、それが一番可能性が高いですよ」

 ペノーが知っているのは、彼女が大人の世界で働いて生きて来たからだ。

「とにかく、優しくしてあげよう、優しくして理由を聞いて、力になってあげよう」
「うん」

 柚夏奈が頷いた瞬間に、バン!と俺と彼女の部屋の扉が開いて、白い女の子が裸で焦った様子で出て来た。

「……っあう」

「お、起きたかい?」
「ね、名前聞かせてあなたは――」

 柚夏奈の言葉をすり抜けるように、彼女は俺の傍へと走ってきた。

「う、あう、う、う~」

「しゃ、喋れないのか」
「う~」

 俺の右手にしがみ付いて、名前も知らない女の子は必死に何かを訴えようとしていた。

「困ったね、話せないとなると、名前を聞くこともできないわ」
「主から離れろ!って言っても伝わらない、どうしますか?柚夏奈さん」

「分からないけど、放って置くこともできないし」

 言葉が話せない、なら思念、思いを直接伝えてみたらどうだろうか。

「太一くん」
「この指輪には思念伝達を付与した、みんなも着けてくれ」

 俺が机に転がした指輪を彼女たちは迷わずはめる。

「エンゲージリング」
「パーフちゃん!これはただのアクセサリーだから!薬指にはめるな~!」

 という柚夏奈もちゃっかり薬指に。

「……」
『聞こえるか?分かるか?俺の気持ちが、思いが伝わっているかな?』

 これでだめだとお手上げだな。

『助けて、お願い、助けて、あなたがいい人だから、助けて』

 声ではない、思いが直接脳に入ってくる。

『何をすればいい?何から助ければいい?俺に何ができる?』
『ぐあってね、怖いのがね、ガブってねアーのこと食べちゃうの』

 わ……ワッツアップ?

『アーね、急いで逃げるけど、追いつかれてガブってね』

 アイハブノーアイディアゥワライズゴーイングオン(全く何が起きているのか分からない)。

「太一くん、この子……何を言っているのかしら」
「いや、俺にも全く分からないけど」

『怖いの、夢なの、襲ってきたの』

「夢?つまり夢の中で襲われたってことかな?」
「それだ!間違いない!」

 ってつまり今までの全部夢って落ち!

 ホッとした、何か途轍もない陰謀に巻き込まれていて、それから逃げて来たのかと思っていたから。

『アーはドレイ、ベシュラのドレイ、男と寝ることが仕事って言われて、男が服脱いでるうちに窓から逃げた』
『その……体の返り血は?』

『逃げてる時、食堂通った、鳥の首刎ねているところ、アーその血浴びた』
「なるほど、だから返り血」

 アーってのは間違いなく一人称、つまりワニとは違う可能性もある。

『キミの名前は何ていうんだ?』
『アー、アーの名前はない、ベシュラにはアンタって言われてた』

 なるほどな。

「太一くん……」

 言わなくても分かるよ、柚夏奈が思っていることは。

「面倒みてあげよう」
「追い返しましょう!」

「ペノーちゃん?」
「おいおい、ペノー、こんな子を追い返すのか?」

「危険です!相手がドレイ商人だったら、きっとドレイ士でドレイ魔法を使えるはず……」

 ペノーの言葉にパーフがようやく口を開く。

「ドレイ士はドレイを持つことができる唯一のクラスですです。気が付けばドレイってことはよるあることですです」

 聞くだけで厄介な存在ってのが分かるな。

「関わらないことが最善だと思います」
「ペノー、何かあったのか?」

「私は何もないですけど……よく聞くんです、亜人が簡単にドレイになったこととか、ドレイにされ人に襲われてってことも」

 柚夏奈は怯えるペノーを抱き、「大丈夫だよペノーちゃん」と頭を撫でる。

「私も、太一くんもドレイ士に何て負けないから、ね、太一くん」
「おそらくだけどな」

 基本的に無敵だけど、どこに穴があるか分からない。

『……これからキミを呼ぶときに名前が無いのは不便だ、何か呼んで欲しい名前とかあるかい?』
『名前?ん~ない』

『シロってのはどうかな?髪も眉もまつ毛も肌も白いし』
『シロ、シロか、シロって呼んでもいいかな?』

『……アーはシロ!シロ!』

 本人が気に入ってくれたようだから彼女の名前はシロになった。

 柚夏奈の服を着せ、柚夏奈の傍でウロウロする彼女は、年齢は一緒なのに精神年齢は幼いからか、柚夏奈も女性としては見ていないようだった。

 その証拠に、シロが俺に胸を密着させても怒らない。

「……」

 絶対に怒ることはない、胸を背中に押し当てても、頭の上に乗せても。

「……っシロ、こっちに来て」
「いや」

「シロ、今すぐ!こっちに来て」
「いやだ~」

 怒ってない怒ってない。少しだけ、ほんの少しだけ表情にイラって文字が見えるだけだから。

「……ムカつく」
「口に出したらもうそれは怒っているとしか言えない」

「シロどんどん言葉覚えるのに、私の言う事は全然聞いてくれないだよ、太一くんも怒ってよ」
「いや、俺はシロに教育とかそんなことはできないしさ。だいたい、俺が言ったところで……シロ、柚夏奈の言う事聞いてくれ」

「……いや!」
「ほらな」

 シロは基本わがままで、子どもとしか言いようのない行動をとる。

「どうして太一くんに抱き付くの?」
『……タイチ、強いから、守ってくれるから』

 俺は別に強くはないんだけどな……。

 一体、どうして俺が強いって思っているんだろうか。

『タイチ、怪物飼ってる、ドラゴンより強い、魔王より強い、勇者よりも悪魔よりも神よりも』
「……なに?どういうことシロ」

 彼女には俺が何に見えているんだろうか。

 そういえば、夢の中でも神がどうのとか……ま、関係ないよな。

 何も分からないまま、俺たちはシロを受け入れることにした。ドレイ士が彼女を取り返そうと向かってくることは簡単に想像できた。

 その結果、まさかあんなことになるなんてことは想像すらできないことだったけど、もっと警戒はしておくべきだった。

 そうすれば、俺はあんな面倒に巻き込まれることもなかったのに。
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