17 / 48
14話 白い肌白い髪白い瞳の真っ白しろ。
しおりを挟む
天がそれを許そうとも、神はそれを許さない。
神がそれを許そうとも、人がそれを許さない。
人がそれを許そうとも、正義はそれを許さない。
正義がそれを許そうとも、俺がそれを許さない。
「……夢か?」
夢を見るのはこっちに来ては初めてかもしれない、加えて隣にひと肌の温もりを感じるのも初めてかもしれない、ん?ひと肌?
可能性1、柚夏奈が裸で寝ている。いや、それはない、彼女はそんな大胆なことはしない。
可能性2、ペノーが裸で寝ている。なくはない、けど彼女もそれほど大胆なことはしない。
可能性3、パーフが裸で寝ている。これ一番可能性があるけど、基本彼女はもう少し遅い時間にしかこないはず。
可能性4、ルナが裸で寝ている。この可能性はまずない、だけど、絶対ないとは言い切れない。
「……確かめるべきか?」
いや、このまま気付かないふりして寝てしまうのも手ではないだろうか。
「……んっ」
おっ手が、あれ?この手、柚夏奈ではない派手なマニキュア、ペノーにしては大きくて、パーフにしては肌の色が赤みがかっていて、ルナの手ではない。
「これは顔を確かめないと」
ゆっくり、俺の後ろにいる女の子の顔を確認するべくかけている布をサッと動かした。
誰だ?誰なんだ?
「……って!誰!?」
そこには、見たことのない女の子、エルフみたいに耳が尖ってるわけでもない、ドワーフみたいに小さい体躯でもない、人というわけでもない。
「これは、何ていう種族なんだろう……」
白い、髪も目も白い、なのに肌は赤みがかっている。いや、これはもしかして、血か?
その肌には返り血が付いているようで、人ではないけど、違いはそんなに大きくない。
「にしても、歳は17歳くらいかな……柚夏奈と同じくらい、胸も……同じくらいか……」
もろ見えですが!
「太一くん」
「ひゃい!」
柚夏奈!どうしてこんな時間に起きてるんだ!
「そっち行っていい?少しだけ一緒に寝たいなって」
「おえぇ……いぁ……それは、どうしよう……俺も柚夏奈と寝たいけど……このままだと大きな誤解が生まれそうだから」
「大きな誤解?」
誤解なんだ、巨乳な裸の知らない女の子が、俺のベットで俺に密着して寝ているなんてのは。
「……ちょっと失礼するね」
「あっ」
衝立の横をサッと通り抜けた柚夏奈は、俺のベットに女の子がいることを確認する。
「……変わった姿の人だね、亜人でもないけど、人でもなさそう……それにこの肌の赤いの……血だよね」
「あぁ、そうみたいなんだ」
意外と冷静に状況を把握してくれた。
「この世界の種族で間違いないだろうからな、パーフかペノーに聞いてみるのが手っ取り早いかもな」
「……胸、揉んだりしてないよね?」
「あぁ、ちょっと腕に当たったくらいだ」
「……こ、こんな感じ?」
「って!」
なんで!おっぱいを押し付ける!え?なにこれ?なんなん?なんなん!
唐突に押し当てられる胸は、シャツ一枚の隙間ではあるものの、柚夏奈の素肌であり、俺は完全に思考停止状態でそれを感じていた。
「こう?こんな感じ?ね、太一くん」
「……」
それからしばらくして、俺たち家族始まって以来の家族会議が執り行われることになった。
議長、ペノー。
「これより!第一回!主と誰の子裁判を始めます!」
「いや!俺の子じゃないから!」
「……」
なんだいその疑いの目は。
「では、仕切り直して、第一回!主の隠し子!誰の子裁判を!」
「もういいよ!俺の子じゃないから!話を進めような!」
興味なさそうなパーフと冷静な柚夏奈はともかく、どうしてペノーはこんなに機嫌が悪いんだ?
「一番早いのは本人に聞くことですです」
「……そうだな、一番手っ取り早いだろうな」
「もし人殺しとかだったら?悪い人だったらどうするの?」
「いや、ステータス見る限りそんなんじゃなさそうだぜ」
「太一くん、ステータスどれくらい見えるようになったの?」
「ほぼ全部見えてるよ、クラスは魔法士、年齢は分からないけど、ステータスは俺たちと変わらない、スキルも無しで特殊な能力もないみたいだ」
種族に関しても見ることはできるけど、このスラッシュって記号の意味、それを理解するにはかなり難しい問題だ。
「白い肌白い髪白い人……彼女は人と亜人の混血種です」
「ペノー、知っていたのか?」
「はい、私の親戚にもハーフの子はいっぱいいます。恋をして愛し合ってできた子どもはハーフになる、でも、愛の無いままに生まれるのは混血種、この異形の白い人の姿をしていると聞いていました」
「……人が亜人を犯したか、亜人が人を犯したか……どっちかは分からないけど、彼女はそうして生まれたと?」
「……なんだか可哀想だね」
パーフが口を閉じているのは、興味が無いからじゃない、知らないからだ。
「ドレイの子じゃないでしょうか、逃げてきていることを考えても、それが一番可能性が高いですよ」
ペノーが知っているのは、彼女が大人の世界で働いて生きて来たからだ。
「とにかく、優しくしてあげよう、優しくして理由を聞いて、力になってあげよう」
「うん」
柚夏奈が頷いた瞬間に、バン!と俺と彼女の部屋の扉が開いて、白い女の子が裸で焦った様子で出て来た。
「……っあう」
「お、起きたかい?」
「ね、名前聞かせてあなたは――」
柚夏奈の言葉をすり抜けるように、彼女は俺の傍へと走ってきた。
「う、あう、う、う~」
「しゃ、喋れないのか」
「う~」
俺の右手にしがみ付いて、名前も知らない女の子は必死に何かを訴えようとしていた。
「困ったね、話せないとなると、名前を聞くこともできないわ」
「主から離れろ!って言っても伝わらない、どうしますか?柚夏奈さん」
「分からないけど、放って置くこともできないし」
言葉が話せない、なら思念、思いを直接伝えてみたらどうだろうか。
「太一くん」
「この指輪には思念伝達を付与した、みんなも着けてくれ」
俺が机に転がした指輪を彼女たちは迷わずはめる。
「エンゲージリング」
「パーフちゃん!これはただのアクセサリーだから!薬指にはめるな~!」
という柚夏奈もちゃっかり薬指に。
「……」
『聞こえるか?分かるか?俺の気持ちが、思いが伝わっているかな?』
これでだめだとお手上げだな。
『助けて、お願い、助けて、あなたがいい人だから、助けて』
声ではない、思いが直接脳に入ってくる。
『何をすればいい?何から助ければいい?俺に何ができる?』
『ぐあってね、怖いのがね、ガブってねアーのこと食べちゃうの』
わ……ワッツアップ?
『アーね、急いで逃げるけど、追いつかれてガブってね』
アイハブノーアイディアゥワライズゴーイングオン(全く何が起きているのか分からない)。
「太一くん、この子……何を言っているのかしら」
「いや、俺にも全く分からないけど」
『怖いの、夢なの、襲ってきたの』
「夢?つまり夢の中で襲われたってことかな?」
「それだ!間違いない!」
ってつまり今までの全部夢って落ち!
ホッとした、何か途轍もない陰謀に巻き込まれていて、それから逃げて来たのかと思っていたから。
『アーはドレイ、ベシュラのドレイ、男と寝ることが仕事って言われて、男が服脱いでるうちに窓から逃げた』
『その……体の返り血は?』
『逃げてる時、食堂通った、鳥の首刎ねているところ、アーその血浴びた』
「なるほど、だから返り血」
アーってのは間違いなく一人称、つまりワニとは違う可能性もある。
『キミの名前は何ていうんだ?』
『アー、アーの名前はない、ベシュラにはアンタって言われてた』
なるほどな。
「太一くん……」
言わなくても分かるよ、柚夏奈が思っていることは。
「面倒みてあげよう」
「追い返しましょう!」
「ペノーちゃん?」
「おいおい、ペノー、こんな子を追い返すのか?」
「危険です!相手がドレイ商人だったら、きっとドレイ士でドレイ魔法を使えるはず……」
ペノーの言葉にパーフがようやく口を開く。
「ドレイ士はドレイを持つことができる唯一のクラスですです。気が付けばドレイってことはよるあることですです」
聞くだけで厄介な存在ってのが分かるな。
「関わらないことが最善だと思います」
「ペノー、何かあったのか?」
「私は何もないですけど……よく聞くんです、亜人が簡単にドレイになったこととか、ドレイにされ人に襲われてってことも」
柚夏奈は怯えるペノーを抱き、「大丈夫だよペノーちゃん」と頭を撫でる。
「私も、太一くんもドレイ士に何て負けないから、ね、太一くん」
「おそらくだけどな」
基本的に無敵だけど、どこに穴があるか分からない。
『……これからキミを呼ぶときに名前が無いのは不便だ、何か呼んで欲しい名前とかあるかい?』
『名前?ん~ない』
『シロってのはどうかな?髪も眉もまつ毛も肌も白いし』
『シロ、シロか、シロって呼んでもいいかな?』
『……アーはシロ!シロ!』
本人が気に入ってくれたようだから彼女の名前はシロになった。
柚夏奈の服を着せ、柚夏奈の傍でウロウロする彼女は、年齢は一緒なのに精神年齢は幼いからか、柚夏奈も女性としては見ていないようだった。
その証拠に、シロが俺に胸を密着させても怒らない。
「……」
絶対に怒ることはない、胸を背中に押し当てても、頭の上に乗せても。
「……っシロ、こっちに来て」
「いや」
「シロ、今すぐ!こっちに来て」
「いやだ~」
怒ってない怒ってない。少しだけ、ほんの少しだけ表情にイラって文字が見えるだけだから。
「……ムカつく」
「口に出したらもうそれは怒っているとしか言えない」
「シロどんどん言葉覚えるのに、私の言う事は全然聞いてくれないだよ、太一くんも怒ってよ」
「いや、俺はシロに教育とかそんなことはできないしさ。だいたい、俺が言ったところで……シロ、柚夏奈の言う事聞いてくれ」
「……いや!」
「ほらな」
シロは基本わがままで、子どもとしか言いようのない行動をとる。
「どうして太一くんに抱き付くの?」
『……タイチ、強いから、守ってくれるから』
俺は別に強くはないんだけどな……。
一体、どうして俺が強いって思っているんだろうか。
『タイチ、怪物飼ってる、ドラゴンより強い、魔王より強い、勇者よりも悪魔よりも神よりも』
「……なに?どういうことシロ」
彼女には俺が何に見えているんだろうか。
そういえば、夢の中でも神がどうのとか……ま、関係ないよな。
何も分からないまま、俺たちはシロを受け入れることにした。ドレイ士が彼女を取り返そうと向かってくることは簡単に想像できた。
その結果、まさかあんなことになるなんてことは想像すらできないことだったけど、もっと警戒はしておくべきだった。
そうすれば、俺はあんな面倒に巻き込まれることもなかったのに。
神がそれを許そうとも、人がそれを許さない。
人がそれを許そうとも、正義はそれを許さない。
正義がそれを許そうとも、俺がそれを許さない。
「……夢か?」
夢を見るのはこっちに来ては初めてかもしれない、加えて隣にひと肌の温もりを感じるのも初めてかもしれない、ん?ひと肌?
可能性1、柚夏奈が裸で寝ている。いや、それはない、彼女はそんな大胆なことはしない。
可能性2、ペノーが裸で寝ている。なくはない、けど彼女もそれほど大胆なことはしない。
可能性3、パーフが裸で寝ている。これ一番可能性があるけど、基本彼女はもう少し遅い時間にしかこないはず。
可能性4、ルナが裸で寝ている。この可能性はまずない、だけど、絶対ないとは言い切れない。
「……確かめるべきか?」
いや、このまま気付かないふりして寝てしまうのも手ではないだろうか。
「……んっ」
おっ手が、あれ?この手、柚夏奈ではない派手なマニキュア、ペノーにしては大きくて、パーフにしては肌の色が赤みがかっていて、ルナの手ではない。
「これは顔を確かめないと」
ゆっくり、俺の後ろにいる女の子の顔を確認するべくかけている布をサッと動かした。
誰だ?誰なんだ?
「……って!誰!?」
そこには、見たことのない女の子、エルフみたいに耳が尖ってるわけでもない、ドワーフみたいに小さい体躯でもない、人というわけでもない。
「これは、何ていう種族なんだろう……」
白い、髪も目も白い、なのに肌は赤みがかっている。いや、これはもしかして、血か?
その肌には返り血が付いているようで、人ではないけど、違いはそんなに大きくない。
「にしても、歳は17歳くらいかな……柚夏奈と同じくらい、胸も……同じくらいか……」
もろ見えですが!
「太一くん」
「ひゃい!」
柚夏奈!どうしてこんな時間に起きてるんだ!
「そっち行っていい?少しだけ一緒に寝たいなって」
「おえぇ……いぁ……それは、どうしよう……俺も柚夏奈と寝たいけど……このままだと大きな誤解が生まれそうだから」
「大きな誤解?」
誤解なんだ、巨乳な裸の知らない女の子が、俺のベットで俺に密着して寝ているなんてのは。
「……ちょっと失礼するね」
「あっ」
衝立の横をサッと通り抜けた柚夏奈は、俺のベットに女の子がいることを確認する。
「……変わった姿の人だね、亜人でもないけど、人でもなさそう……それにこの肌の赤いの……血だよね」
「あぁ、そうみたいなんだ」
意外と冷静に状況を把握してくれた。
「この世界の種族で間違いないだろうからな、パーフかペノーに聞いてみるのが手っ取り早いかもな」
「……胸、揉んだりしてないよね?」
「あぁ、ちょっと腕に当たったくらいだ」
「……こ、こんな感じ?」
「って!」
なんで!おっぱいを押し付ける!え?なにこれ?なんなん?なんなん!
唐突に押し当てられる胸は、シャツ一枚の隙間ではあるものの、柚夏奈の素肌であり、俺は完全に思考停止状態でそれを感じていた。
「こう?こんな感じ?ね、太一くん」
「……」
それからしばらくして、俺たち家族始まって以来の家族会議が執り行われることになった。
議長、ペノー。
「これより!第一回!主と誰の子裁判を始めます!」
「いや!俺の子じゃないから!」
「……」
なんだいその疑いの目は。
「では、仕切り直して、第一回!主の隠し子!誰の子裁判を!」
「もういいよ!俺の子じゃないから!話を進めような!」
興味なさそうなパーフと冷静な柚夏奈はともかく、どうしてペノーはこんなに機嫌が悪いんだ?
「一番早いのは本人に聞くことですです」
「……そうだな、一番手っ取り早いだろうな」
「もし人殺しとかだったら?悪い人だったらどうするの?」
「いや、ステータス見る限りそんなんじゃなさそうだぜ」
「太一くん、ステータスどれくらい見えるようになったの?」
「ほぼ全部見えてるよ、クラスは魔法士、年齢は分からないけど、ステータスは俺たちと変わらない、スキルも無しで特殊な能力もないみたいだ」
種族に関しても見ることはできるけど、このスラッシュって記号の意味、それを理解するにはかなり難しい問題だ。
「白い肌白い髪白い人……彼女は人と亜人の混血種です」
「ペノー、知っていたのか?」
「はい、私の親戚にもハーフの子はいっぱいいます。恋をして愛し合ってできた子どもはハーフになる、でも、愛の無いままに生まれるのは混血種、この異形の白い人の姿をしていると聞いていました」
「……人が亜人を犯したか、亜人が人を犯したか……どっちかは分からないけど、彼女はそうして生まれたと?」
「……なんだか可哀想だね」
パーフが口を閉じているのは、興味が無いからじゃない、知らないからだ。
「ドレイの子じゃないでしょうか、逃げてきていることを考えても、それが一番可能性が高いですよ」
ペノーが知っているのは、彼女が大人の世界で働いて生きて来たからだ。
「とにかく、優しくしてあげよう、優しくして理由を聞いて、力になってあげよう」
「うん」
柚夏奈が頷いた瞬間に、バン!と俺と彼女の部屋の扉が開いて、白い女の子が裸で焦った様子で出て来た。
「……っあう」
「お、起きたかい?」
「ね、名前聞かせてあなたは――」
柚夏奈の言葉をすり抜けるように、彼女は俺の傍へと走ってきた。
「う、あう、う、う~」
「しゃ、喋れないのか」
「う~」
俺の右手にしがみ付いて、名前も知らない女の子は必死に何かを訴えようとしていた。
「困ったね、話せないとなると、名前を聞くこともできないわ」
「主から離れろ!って言っても伝わらない、どうしますか?柚夏奈さん」
「分からないけど、放って置くこともできないし」
言葉が話せない、なら思念、思いを直接伝えてみたらどうだろうか。
「太一くん」
「この指輪には思念伝達を付与した、みんなも着けてくれ」
俺が机に転がした指輪を彼女たちは迷わずはめる。
「エンゲージリング」
「パーフちゃん!これはただのアクセサリーだから!薬指にはめるな~!」
という柚夏奈もちゃっかり薬指に。
「……」
『聞こえるか?分かるか?俺の気持ちが、思いが伝わっているかな?』
これでだめだとお手上げだな。
『助けて、お願い、助けて、あなたがいい人だから、助けて』
声ではない、思いが直接脳に入ってくる。
『何をすればいい?何から助ければいい?俺に何ができる?』
『ぐあってね、怖いのがね、ガブってねアーのこと食べちゃうの』
わ……ワッツアップ?
『アーね、急いで逃げるけど、追いつかれてガブってね』
アイハブノーアイディアゥワライズゴーイングオン(全く何が起きているのか分からない)。
「太一くん、この子……何を言っているのかしら」
「いや、俺にも全く分からないけど」
『怖いの、夢なの、襲ってきたの』
「夢?つまり夢の中で襲われたってことかな?」
「それだ!間違いない!」
ってつまり今までの全部夢って落ち!
ホッとした、何か途轍もない陰謀に巻き込まれていて、それから逃げて来たのかと思っていたから。
『アーはドレイ、ベシュラのドレイ、男と寝ることが仕事って言われて、男が服脱いでるうちに窓から逃げた』
『その……体の返り血は?』
『逃げてる時、食堂通った、鳥の首刎ねているところ、アーその血浴びた』
「なるほど、だから返り血」
アーってのは間違いなく一人称、つまりワニとは違う可能性もある。
『キミの名前は何ていうんだ?』
『アー、アーの名前はない、ベシュラにはアンタって言われてた』
なるほどな。
「太一くん……」
言わなくても分かるよ、柚夏奈が思っていることは。
「面倒みてあげよう」
「追い返しましょう!」
「ペノーちゃん?」
「おいおい、ペノー、こんな子を追い返すのか?」
「危険です!相手がドレイ商人だったら、きっとドレイ士でドレイ魔法を使えるはず……」
ペノーの言葉にパーフがようやく口を開く。
「ドレイ士はドレイを持つことができる唯一のクラスですです。気が付けばドレイってことはよるあることですです」
聞くだけで厄介な存在ってのが分かるな。
「関わらないことが最善だと思います」
「ペノー、何かあったのか?」
「私は何もないですけど……よく聞くんです、亜人が簡単にドレイになったこととか、ドレイにされ人に襲われてってことも」
柚夏奈は怯えるペノーを抱き、「大丈夫だよペノーちゃん」と頭を撫でる。
「私も、太一くんもドレイ士に何て負けないから、ね、太一くん」
「おそらくだけどな」
基本的に無敵だけど、どこに穴があるか分からない。
『……これからキミを呼ぶときに名前が無いのは不便だ、何か呼んで欲しい名前とかあるかい?』
『名前?ん~ない』
『シロってのはどうかな?髪も眉もまつ毛も肌も白いし』
『シロ、シロか、シロって呼んでもいいかな?』
『……アーはシロ!シロ!』
本人が気に入ってくれたようだから彼女の名前はシロになった。
柚夏奈の服を着せ、柚夏奈の傍でウロウロする彼女は、年齢は一緒なのに精神年齢は幼いからか、柚夏奈も女性としては見ていないようだった。
その証拠に、シロが俺に胸を密着させても怒らない。
「……」
絶対に怒ることはない、胸を背中に押し当てても、頭の上に乗せても。
「……っシロ、こっちに来て」
「いや」
「シロ、今すぐ!こっちに来て」
「いやだ~」
怒ってない怒ってない。少しだけ、ほんの少しだけ表情にイラって文字が見えるだけだから。
「……ムカつく」
「口に出したらもうそれは怒っているとしか言えない」
「シロどんどん言葉覚えるのに、私の言う事は全然聞いてくれないだよ、太一くんも怒ってよ」
「いや、俺はシロに教育とかそんなことはできないしさ。だいたい、俺が言ったところで……シロ、柚夏奈の言う事聞いてくれ」
「……いや!」
「ほらな」
シロは基本わがままで、子どもとしか言いようのない行動をとる。
「どうして太一くんに抱き付くの?」
『……タイチ、強いから、守ってくれるから』
俺は別に強くはないんだけどな……。
一体、どうして俺が強いって思っているんだろうか。
『タイチ、怪物飼ってる、ドラゴンより強い、魔王より強い、勇者よりも悪魔よりも神よりも』
「……なに?どういうことシロ」
彼女には俺が何に見えているんだろうか。
そういえば、夢の中でも神がどうのとか……ま、関係ないよな。
何も分からないまま、俺たちはシロを受け入れることにした。ドレイ士が彼女を取り返そうと向かってくることは簡単に想像できた。
その結果、まさかあんなことになるなんてことは想像すらできないことだったけど、もっと警戒はしておくべきだった。
そうすれば、俺はあんな面倒に巻き込まれることもなかったのに。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる