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11話 例えばその剣がドラゴンを倒せる剣だから起こりえる展開。
しおりを挟む沼地の西には平地との境目に廃村の址があり、その場所をアースドラゴンが寝床としているようだと、この隣にいるワニことトカゲ人間が言う。
「ついてくるんだね……」
「もちろんだ!ドラゴンスレイヤー柚夏奈!」
「ちょ、その呼び方なんか嫌!レスラーみたいだもん」
「カッコイイじゃないか!ドラゴンスレイヤー柚夏奈!」
ワニは、俺たちがドラゴンを倒す様子をその目で確かめて、後世に語り継ぎたいと言ってついてきた。
俺がステータスが見えるようになったのは、アイテム鑑定士として成長したから、そんな風に柚夏奈に言ったけど、本当はスロットが開いている指輪の一つにクラス【全ステータス鑑定士】というものを加えたからだ。
結果、俺はスロットにクラスを当てはめるだけでそのクラスの能力が使えることが分かった。
でも、使えないクラスもあって、それが戦闘系のクラスだということもあり、柚夏奈には言わないことに決めた。
雑用系のクラスにいくらなれても戦いには不向きなわけだから、柚夏奈が知る必要性が出てこない限りは黙っていようと思う。
そんな俺がワニのステータスを見た結果、あのウルリアさんの三倍以上のステータスで、クラスは竜騎士だとか。
竜騎士と聞けば本来はドラゴンに乗る騎士だと思うんだけど、この世界ではリザードマンの騎士は竜騎士という戦士クラスをであることが多いらしい。
「こんなんでも戦力にはなるか」
と言いつつ、柚夏奈のステータスを見ると、ステータスこそ一般人だけど付与ステータスにはあらゆる攻撃が無効や魔法無効などと書かれていて、攻撃など効果がない以上は護衛など不要かな。自分自身を見れたら、いったいどんなステータスになっているか想像もできないな。
「カガミで見ても見えないからな……」
「何か言った?」
「アースドラゴンもカースドラゴン同様に油断しきっているなってさ」
「だね、ところで、この剣は前と同じような剣なの?ペノーちゃんが鱗欲しいって言ってたから持って帰りたいんだけど」
「いいや、今回の剣はもっと楽に倒せるし体も全部残るよ」
「そっか、残った肉とかでゾンビとかになったりしない?前にアニメでそんなの見たけど」
「あ~腐るまえに獣たちや虫たちが食べるよ、生き物が腐るまでそこに残るってのは少ないからね。でも、ドラゴンほどの巨体だと腐るまで残るだろうから……持って帰って俺たちも食べる?」
「ど、ドラゴンの肉って食べられるの?」
「らしいよ、美味しいわけじゃないらしいけど」
と俺たちが話していると、ワニがよこから小声で言う。
「タレに付けたり、燻製にすると美味ですよ」
タレ、燻製……うまそうだな。
「じゃ、持って帰ろか」
「だな」
まだ倒してもいないのに、お持ち帰りの相談をする俺たちをワニはジッとその様子を窺っているようだった。
そうして柚夏奈が剣を片手に前に出ると、ワニは俺に対して声をかける。
「ドラゴンスレイヤータイチは戦わないのか?」
「ああ、俺は楯だからな、柚夏奈に危険が迫ったら前に出るさ」
「た、楯……」
ま、その反応になるんだろうな、男が戦うって感覚はどの種族でも一緒だろうし、アマゾネスなんて部族がいれば別なんだろうけど。
「いきます!」
柚夏奈はペノーソードを構えると、それをサッと横に振った。
その剣にはドラゴン特攻に加え、三枚下ろしに即死効果を付けて、人とリザードマンに無効化と自然破壊不可を付けている。
自然破壊不可に関しては、前回ドラゴン結晶なる鉱石が、沼地付近に落ちていたけど、それさえも塵になってしまっていたからだ。
ドラゴン結晶はドラゴンの排便から採取される鉱石で、消化器官が弱いドラゴンが時々鉱石の魔物を食べてしまうことで生成されるとか。
「な!」
寝ていたアースドラゴンは綺麗に三つに切り裂かれ、崩れたハンバーガーのように眠ったまま死んだ。
声を上げることも、その巨大な胴体を揺らすこともなく。
「ド、ドラゴンスレイヤーユカナ……ドラゴンスレイヤーユカナ!ドラゴンスレイヤーユカナ!」
「妙なテンションに入っちゃったなワニのやつ」
柚夏奈の後ろから両手を振り上げてドラゴンスレイヤーユカナを連呼するワニに、柚夏奈自身も困惑している様子で。
「え、なに?どうしたの?あれ?もしかしてこの剣の影響?た、太一くん助けて~」
とうとう柚夏奈の目の前で両手を上げ始めると、彼女もさすがに慌てて俺の後ろへと逃げる。
「ワニ、柚夏奈が怖がるからもうその辺で落ち着けって」
「……タイチ、お前は前のドラゴンの時も見ていただけか?」
「ああ、基本俺は見てるだけさ」
「……なんだ、ドラゴンスレイヤーはユカナだけってことなのか?」
賢い奴だ、そういう考えが回るところ、間違いなく知性があると思える。
「違うよ!この剣にドラゴンを退治できる力があるんだよ!」
「では、剣を持てばワニにもドラゴンを退治できると?」
「うん、そうだよ」
「おいおい、勝ってに話を進めるなよ」
ドラゴンを退治はできるけど、それは……。
「その剣、お借りする!」
「あ!ちょっと!」
そう言って柚夏奈の剣を一瞬で奪ったワニは、一目散にどこかへ走り出す。
「くそ、剣を奪う行為は別に攻撃じゃない、想定外だ」
「太一くん、ワニさん、どうするつもりなの?」
「くだらないことだろうさ、名誉、名声それに固執するタイプの奴が考えそうなことは」
ドラゴンを退治することで得られる称号、ドラゴンスレイヤー。
ワニはドラゴンを退治するために、アースドラゴンの巣へと向かったに違いない。
「でも、あの剣は」
「ああ、後二分ともたない……ワニのやつ、仕方ないか。柚夏奈、キミは帰っていてくれないか」
「やだ、彼を迎えに行くんでしょ?なら、私も一緒に行くから」
柚夏奈は言い出したらきかない、それに、彼女は弱くはない。
「分かった、だけど、走るから疲れるぞ」
「だ、大丈夫だよ!毎日運動して少しは体力付いているんだからね!」
そうして俺たちは、ドラゴンの遺体に少し細工して、アースドラゴンの住むと言われる平原の向こうの荒野へと向かった。
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