12 / 48
9話 依頼人のリザードマンの一人称に主は納得がいかないらしいです。
しおりを挟む「冒険者、ニワタイチ!冒険者、アラガキユカナ!いるか!」
朝からそんな大声が外から聞こえてくると、異世界に慣れてきた俺もさすがに驚いて恐る恐る扉を開けた。
扉を開けると、そこには見慣れない姿の存在が仁王立ちしていた。
見たところリザードマン、この世界では魔物ではなくエルフとかの亜人と同じタグ付けがされている存在だ。
「はい、俺が羽生太一ですが何か?」
「おお!ドラゴンスレイヤーのニワタイチ!どうか!お話を聞いてはもらえまいか!」
「いいえ、結構です」
新聞の勧誘を断るが如く、俺は扉を閉めた。
「ニ、ニワタイチ!ドラゴンスレイヤー!どうして戸を閉める!話をば!話をば聞いて頂きたい!」
「どうかしましたか?」
と俺にも聞こえる大きな声でリザードマンに話しかけるのは、半端魔法士エルフのパーフで間違いなかった。
「エルフか、この家のドラゴンスレイヤーに依頼があって来たのだが、どうやら警戒されてしまったらしいのだ」
「警戒ですかです?それは仕方ないですです、トカゲ野郎は人を食べることもあるのですです、そんなトカゲを警戒するのは当然ですです」
リザードマンって人間食うの?
「数千年も前の話、しかも人を食うのはレッドリザードマン、戦士の一族だけだ、ワニはグリーンリザードマン、人と対話し他種族と手を取り生きている種族だ」
トカゲなのに一人称がワニはないわ~、むしろトカゲって一人称でいいし。
「トカゲの区別など付かないのですです、レッドでもグリーンでも見た目も色も変わらんですです」
「鱗が違うだろうが!」
「全く一緒にしか見えないですです!」
このままではケンカの末にパーフが全裸になってしまう。
「……あの~リザードマンさん、お話を聞くので部屋へお入りください」
「おお!ありがたい!ドラゴンスレイヤー!」
「太一!こんな奴入れちゃダメですです!」
「話が終わったら一緒に散歩してあげるから、少し黙ってなさいパーフ」
「はい!ですです!」
そうして招き入れたのは間違いなくリザードマンだったが、彼が持ち込んだ話は俺にとっては厄介な事柄でしかなかった。
ズズっと茶を啜るリザードマンと二人きり、最初に口を開いたのはもちろんリザードマンの方だった。
「ドラゴンスレイヤー!」
「わ!ちょ!急に大声出すなよ!(ビックリし過ぎて玉ヒュンしたろーが!)」
「す、すまぬ、こ、興奮してしまってな……はぁはぁ」
はぁはぁと息の荒いリザードマンと二人きり、少しだけ寒気を感じた俺は話を進めることにした。
「用件を聞くから、落ち着いて話してくれ」
「はぁはぁ、うむ、ワニの村の近くにアースドラゴンがいる、倒して欲しい報酬は何でも払う!ワニの娘もやる!むしろワニをやる!はぁはぁ!」
何がはぁはぁ!だ!
魔物討伐の依頼だろ、相手がアースドラゴンだからドラゴンを倒した俺と柚夏奈に頼って来たと。
「い、一応ギルドに依頼を出してくれ、そうじゃないと俺たちは勝手に依頼を受けられないんだ」
「ギルドに依頼したら受けてくれるのか!分かった!ワニが今すぐ行ってくる!あとはワニの村で待っているから!お願いする!はぁはぁ!」
「お、おう」
そうしてリザードマンことワニは、名前を名乗ることなく帰って行った。
しばらくして買い出しに出ていた柚夏奈がペノーと一緒に帰ってきた。
「ただいま太一くん」
「ただいま帰りました、主」
「お帰り、柚夏奈、ペノー」
俺はすぐに柚夏奈にワニのことを話して、ギルドに依頼を受けに行く相談をした。
「今日の午後からの運動は無しにして、ギルドへ二人で依頼を受けに行くってことでいいよな」
「いいよ、久しぶりに二人きりだね」
柚夏奈がそう言うと、パーフが険しい表情で話しに入って来る。
「逢引の相談ですかです!」
「え?違うよ、今日はひき肉使うつもりだから、合い挽きはまた今度ね」
いや、お肉の話ではないのですよ天然娘さん。
「お肉の話ではないのですです!二人で厭らしいことする気なのですです!」
「今日はドラゴン退治に行くつもりなんだけど、パーフもついてくるかい?」
「ドラゴン!え、遠慮するです、私はこれから新作の魔法の訓練があるのですです」
さすがのパーフもドラゴン退治と聞けば逃げていくのは当然で。
「じゃ、ペノーちゃん、またドラゴンの鱗沢山持って帰ってくるからね」
「本当ですか柚夏奈さん!楽しみにしてますね!」
「私も、例の件よろしくねペノーちゃん」
「はい!任せてください!」
二人もずいぶんと仲良くなったな、最初はかなりギクシャクしていたのに。
「太一くん、行こう」
「オーケ」
俺と柚夏奈は村にあるギルドへと徒歩で向かうのだが、その時間はいつも彼女の変化を指摘して会話をするのが日課だ。
「制服、着替えたんだね」
「うん、もしも破れたら困るし、あ!太一くんのアビリティは信用してるんだよ。ただね、ほらこの服可愛いでしょ?ペノーちゃんに作ってもらったの」
「うんとても似合っているよ、その、可愛い」
「……」
耳を真っ赤にして俯く柚夏奈は、すぐに顔を上げると笑みを見せた。
「嬉しい、ありがとう、褒めてくれて」
「ほら、柚夏奈、もうすぐ村に着くよ」
元の世界でも全然手を出さなかった好感度上げのギャルゲーでもやっている気になってくるのはきっと俺がゲーム好きだからだろう。
日々柚夏奈の変化と自身の成長が垣間見えて、これはこれで楽しいものだ。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる