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9話 依頼人のリザードマンの一人称に主は納得がいかないらしいです。

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「冒険者、ニワタイチ!冒険者、アラガキユカナ!いるか!」

 朝からそんな大声が外から聞こえてくると、異世界に慣れてきた俺もさすがに驚いて恐る恐る扉を開けた。

 扉を開けると、そこには見慣れない姿の存在が仁王立ちしていた。

 見たところリザードマン、この世界では魔物ではなくエルフとかの亜人と同じタグ付けがされている存在だ。

「はい、俺が羽生太一ですが何か?」
「おお!ドラゴンスレイヤーのニワタイチ!どうか!お話を聞いてはもらえまいか!」

「いいえ、結構です」

 新聞の勧誘を断るが如く、俺は扉を閉めた。

「ニ、ニワタイチ!ドラゴンスレイヤー!どうして戸を閉める!話をば!話をば聞いて頂きたい!」
「どうかしましたか?」

 と俺にも聞こえる大きな声でリザードマンに話しかけるのは、半端魔法士エルフのパーフで間違いなかった。

「エルフか、この家のドラゴンスレイヤーに依頼があって来たのだが、どうやら警戒されてしまったらしいのだ」
「警戒ですかです?それは仕方ないですです、トカゲ野郎は人を食べることもあるのですです、そんなトカゲを警戒するのは当然ですです」

 リザードマンって人間食うの?

「数千年も前の話、しかも人を食うのはレッドリザードマン、戦士の一族だけだ、ワニはグリーンリザードマン、人と対話し他種族と手を取り生きている種族だ」

 トカゲなのに一人称がワニはないわ~、むしろトカゲって一人称でいいし。

「トカゲの区別など付かないのですです、レッドでもグリーンでも見た目も色も変わらんですです」
「鱗が違うだろうが!」

「全く一緒にしか見えないですです!」

 このままではケンカの末にパーフが全裸になってしまう。

「……あの~リザードマンさん、お話を聞くので部屋へお入りください」
「おお!ありがたい!ドラゴンスレイヤー!」

「太一!こんな奴入れちゃダメですです!」
「話が終わったら一緒に散歩してあげるから、少し黙ってなさいパーフ」

「はい!ですです!」

 そうして招き入れたのは間違いなくリザードマンだったが、彼が持ち込んだ話は俺にとっては厄介な事柄でしかなかった。

 ズズっと茶を啜るリザードマンと二人きり、最初に口を開いたのはもちろんリザードマンの方だった。

「ドラゴンスレイヤー!」
「わ!ちょ!急に大声出すなよ!(ビックリし過ぎて玉ヒュンしたろーが!)」

「す、すまぬ、こ、興奮してしまってな……はぁはぁ」
 はぁはぁと息の荒いリザードマンと二人きり、少しだけ寒気を感じた俺は話を進めることにした。

「用件を聞くから、落ち着いて話してくれ」

「はぁはぁ、うむ、ワニの村の近くにアースドラゴンがいる、倒して欲しい報酬は何でも払う!ワニの娘もやる!むしろワニをやる!はぁはぁ!」
 何がはぁはぁ!だ!

 魔物討伐の依頼だろ、相手がアースドラゴンだからドラゴンを倒した俺と柚夏奈に頼って来たと。

「い、一応ギルドに依頼を出してくれ、そうじゃないと俺たちは勝手に依頼を受けられないんだ」

「ギルドに依頼したら受けてくれるのか!分かった!ワニが今すぐ行ってくる!あとはワニの村で待っているから!お願いする!はぁはぁ!」
「お、おう」

 そうしてリザードマンことワニは、名前を名乗ることなく帰って行った。

 しばらくして買い出しに出ていた柚夏奈がペノーと一緒に帰ってきた。

「ただいま太一くん」
「ただいま帰りました、主」

「お帰り、柚夏奈、ペノー」

 俺はすぐに柚夏奈にワニのことを話して、ギルドに依頼を受けに行く相談をした。

「今日の午後からの運動は無しにして、ギルドへ二人で依頼を受けに行くってことでいいよな」
「いいよ、久しぶりに二人きりだね」

 柚夏奈がそう言うと、パーフが険しい表情で話しに入って来る。

「逢引の相談ですかです!」
「え?違うよ、今日はひき肉使うつもりだから、合い挽きはまた今度ね」

 いや、お肉の話ではないのですよ天然娘さん。

「お肉の話ではないのですです!二人で厭らしいことする気なのですです!」
「今日はドラゴン退治に行くつもりなんだけど、パーフもついてくるかい?」

「ドラゴン!え、遠慮するです、私はこれから新作の魔法の訓練があるのですです」

 さすがのパーフもドラゴン退治と聞けば逃げていくのは当然で。

「じゃ、ペノーちゃん、またドラゴンの鱗沢山持って帰ってくるからね」
「本当ですか柚夏奈さん!楽しみにしてますね!」

「私も、例の件よろしくねペノーちゃん」
「はい!任せてください!」

 二人もずいぶんと仲良くなったな、最初はかなりギクシャクしていたのに。

「太一くん、行こう」
「オーケ」

 俺と柚夏奈は村にあるギルドへと徒歩で向かうのだが、その時間はいつも彼女の変化を指摘して会話をするのが日課だ。

「制服、着替えたんだね」
「うん、もしも破れたら困るし、あ!太一くんのアビリティは信用してるんだよ。ただね、ほらこの服可愛いでしょ?ペノーちゃんに作ってもらったの」

「うんとても似合っているよ、その、可愛い」
「……」

 耳を真っ赤にして俯く柚夏奈は、すぐに顔を上げると笑みを見せた。

「嬉しい、ありがとう、褒めてくれて」
「ほら、柚夏奈、もうすぐ村に着くよ」

 元の世界でも全然手を出さなかった好感度上げのギャルゲーでもやっている気になってくるのはきっと俺がゲーム好きだからだろう。

 日々柚夏奈の変化と自身の成長が垣間見えて、これはこれで楽しいものだ。
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