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0話 望まぬ異世界へ
しおりを挟むクラスの人気者、そんなのはクラスにだいたい一人はいるものだ。だけど、同じクラスに学年一美人な女子とその次に美人な女子がいることは奇跡的な確率だ。
その確率はアイテムを一つ一つ売却して、その個数も1から限界値の99個をいちいち変化させて売却して、ある個数で売却値が高いあるいは低いというバグが発生するほどの確率だ。
そんな確率を引き当てたこのクラスで、さらにその二人が同時に女子に人気の男子二人に別々に告白される確率は、ある意味キャラクター製作画面で名前を記入した時に、ステータスバグを引き当てるくらいの確率くらいに低い。
ま、そんなありえない確率を引き当てたこのクラスは本当にレアケースに当たる。
加えて、そんな場面に出くわした人間は間違いなくレアであり、確率的には装備を付け替え続けてある装備が消失するくらいのレアに当たる。
ま、これはそれなりに引き当てる確率、レアであるが、まさによくあるレアである。
「な~太一、こんなのありか?才能も容姿も秀でている者同士で、愛までともに育もうとしてるんだぜ」
なんだそれ、って内心思っていることは言わないで置くとして、俺と一緒にこのレアケースを見ているのは内海尚斗、一応俺の親友である。腐れ縁とも言うけど、こいつ以上に仲のいい奴は今のところいない。
その他にも二人、伏見蒼と木下和也も同類に当たるけど、二人は俺ではなく尚斗の同類。
「い~な~俺もOKされるなら新野さんか市宮さんに告白するんだけどな」
そんな結果が見えていなければ何もできない奴には、本当に何も起きはしないと思うけど。
「伏見、お前じゃ無理だろ、お前がいけるなら俺が行ってるさ」
「尚やん、夢ぐらい見てもいいだろ~」
伏見は尚斗とはかなり仲が良い、木下はそんな二人に付き合わされているだけで、立場的には俺と同じだ。
「太一はどう思う?俺ならいけるかな」
「……ん~?あ~どうだろう、やってみないと分からないんじゃないかな?」
俺がそう言うと尚斗は口元に笑みを浮かべるが、伏見はそうじゃない様子だった。
「身勝手なこと言うなよな羽生、上手くいくか分からないだろ?」
「……」
ほら、尚斗もやる気がなくなったじゃないか伏見。この時点で確率はゼロになったわけだ、するのとしないのでは大きく確率に差が出る。
同じバスケ部だったこともあるし、尚斗は高身長でまあまあな顔をしているから、ゼロではないと思うんだけどな。
そんなことよりも、俺は今すぐ帰って新作のMMOをしたい、バグ探ししたい、またアカバンされるかもだけど。
俺がそんな事を考えている間も、美女二人は少し落ち着かない様子で待っている。そう、彼女たちだって男子に告白されることに慣れているわけじゃないし、思春期でそういうことにも興味ある年頃だ。
「ね、心優」
「ん?なに?二人とも来た?美衣香」
新野心優、クラスで一番可愛い女の子、主に容姿と性格で彼女は一番に選ばれた。バスケ部に所属しているけど、運動している時の彼女を見るために体育館には連日人だかりができるとか。
市宮美衣香、クラスで二番目に可愛い女の子、容姿はともかく性格が原因で二番と言われているけど、俺的には一番だと思っている、主に胸とか。バスケ部に所属していて、体育館の人だかりの一因であるのは間違いない。
「待たせたな、美衣香、新野」
放課後の教室に入って来たのは御崎刀夜、美衣香とは小学校から一緒らしく仲が良い。その後ろにいるのは新光一サッカー部に所属していて、イケメンと言えば彼の名前が出てくる。
察するに、御崎刀夜は新野心優に告白する、そして、新光一が市宮美衣香に告白するのだろう。
確率を観察するに、御崎と新野は……半分程度の確率かな。新と市宮は……ま、付き合うんだろうな……新光一はいい奴だからな、悪い奴と付き合うよりずっといい結果だろうな。
なんてことを考えていたら、視界がチラチラと歪む。
「あれ……景色が二重に?」
呟いた瞬間、意識はあるはずなのに、映画を見せられているような、スライドショーを見せられているような、そんな感覚を覚えて次の瞬間には尚斗が叫んでいた。
「な!なんだよ!ここ!」
「え?あれ!ここ、教室じゃない!」
「和也、尚やん!え!これ、なんだ!」
まったくもって理解不能、これはあれか?白昼夢か?
現実感の無い開けた青空に、遺跡のような広場はまるで空の上にでもあるかのように視界に他の建造物が入らない。
なのに、現実感の無い中世の欧州を彷彿とさせる甲冑に剣を身に着けている人が多数、あとは王冠を乗せた雅なデカいおっちゃんと、日本人の俺には分かり兼ねるけど美女であろう女の子がいた。
「近衛聖騎士長」
「は!」
雅なおっさんが一番偉そうな騎士をそう呼ぶと、ローブを纏う女であろう人へ指示を出すと、新光一から順に俺までをザッと見ていく。そしてその偉そうな騎士のもとへ戻った。
「勇者のパーティーメンバーに選ばれた者は誰だ!鑑定士!」
そう言った騎士に耳打ちするローブ姿の女。そうして騎士は、御崎刀夜、新光一、市宮美衣香、新野心優を指さして「ついて来い!」と声をかけた。
そうして告白組が騎士や王っぽいのと姫っぽいのと一緒にいなくなると、残された俺や尚斗、あとは木下と伏見、あとはメガネをかけた胸の大きな。
「ね……羽生くん、私たちどうなっちゃうんだろう……」
「……委員長、まぁ、まずは殺されてないから何とかなるよ、たぶんね」
「落ち着いてるね、羽生くんは」
落ち着いているのは観察しているから、状況は理解できないけど、状況の変化はドッキリで海外旅行へ連れて行かれた芸人とほぼ一緒。
「こういう時混乱することは最も愚かだと分かっているからかな」
「……そ、そうだね」
そう言った委員長はナチュラルに俺の袖を掴んだ。
「尚やん俺らどこ連れてかれんの!」
「知らねぇ!俺が知るかよ!」
リアクションはまんまドッキリ素人のそれだ。
落ち着かないのは分かるけど、これがドッキリじゃないのは体感で分かるし、すぐに、まぁ、慣れるだろう。人って生き物はそういう生き物だから。
「で、俺らはこれからどうなるんだろうな、委員長」
「わ、分からないけど、おじいちゃんとおばあちゃん……心配するだろうな」
あ~っと察するに、両親が他界しているか、母は死に別れ父のみで単身赴任ってケースかな。
人それぞれ、思うところはあるけど、俺もそのうち禁断症状が出るかもしれない。
「それでは皆様、私についてきてください。皆さまに滞在していただく屋敷へと案内します」
そう言ったローブ姿の女性は、布に隠れてはいるが中々に美人なスタイルをしている。
俺たちはそんな美人であろう人に連れられて、遺跡のような場所から移動を開始する。
「なんだこれ、まじでどこだよ……」
「ん?どうした尚斗」
身長180ある尚斗じゃなくても分かる。視界に広がるその景色はまるで現実味の無い光景だった。
山の山頂から麓を見下ろすように街が広がる。左手には街の奥に城らしきものがあって、中央には噴水であろう構造物と、右側には広大ながら運動場のようなものがあることからしても、そこは兵舎か何かだろう。
綺麗な景色だな……ゲームなら、この辺でジャンプすると背景バグがあったり、この辺の石が張りぼてってことだってあったり。
「羽生くん?どうしたの?」
「ん?いや、別に」
委員長、あんまり話したことなかったけど、意外と声綺麗だな。
「な、太一さんよ」
「ん?なんだい尚斗さんよ」
「委員長のこと好きなん?」
「……いや、普通かな」
そう普通、もしもここで俺が委員長のこと好きって言ったら、きっと彼女のこと狙いだすよな尚斗は。
尚斗がバスケ部に入った理由、市宮美衣香が好きだたから、自分も同じ位置に立ちたいって思っていたからだって言ってたし。それも、俺が市宮美衣香のこと好きかもって入学してすぐ言ったことがきっかけだっただろうし。
昔から、女とかゲームとか勉強とか、勉強は体育限定だけど、俺が好きだって言ったバスケだけは俺より上手くなろうってしてたし。バスケはほら、パスさえ出せば楽できるから。
別に俺が優れているわけでもないのに、俺と比べて、俺に勝ってそれで安心しているの何となく分かってた。
ま、そういう尚斗だから、俺も楽で傍にいたんだけど。悪意ある奴よりも、そうやって俺と比べている奴の方が楽でいい。
そんなだから親友って言ってもいいってわけでもない、けど、ま、もう何年もそうしているけど、尚斗は自分の事を隠さないし、俺との間に壁も嘘も作らないから、だから親友なわけだけど。
改まってこんなことを考えてしまうのも、この状況が原因だってことも分かってる。
関係なんてものは環境あってのものだ。環境が変化し破壊された時、関係だって自ずと変化し破壊されていくものだ。
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