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第三話 野生のNPCが現れた

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 宿屋に泊まって一晩、スキルボードに関しては大体分かった。スキルポイントというものがこの世界にはあって、それをスキルボードでスキルに振るとスキルを使えるようになる。ただし、一度振ったスキルは高級な霊薬か記憶喪失でないと変更できない。

 一度振ってしまえばそこで終わりに見えるこのスキルの仕組みだけど、実は振り分けて決定するまでは何度でもやり直せる。そして、スキルの育成した先の効果や派生が一目で分かるのも優しい点である。

 スキルには種類があって、第一スキルが身体強化系スキルで、第二が感覚強化系スキル、第三が第六感的スキル、第四がユニークスキルである。

 身体強化スキルは言わずもがな身体を強くしてくれるスキルであり、スキルによって効果や持続時間や発動条件が変わる。

 感覚強化スキルは五感を強化したり、ある程度の耐性を付けたりできる。恐怖や激高などの精神系から毒やマヒに対する耐性に加え、聴覚や嗅覚の鈍化鋭化することができる。

 第六感的スキルとは、他とは違いハンターや冒険者や兵士などに有利になるスキルで、周囲を感覚的に把握したり、隠れている生物の場所を何となく分かったり、求めるものの方角が何となく分かるといったスキルがある。

 ユニークスキルとは、個人に一つは出現するスキルで、主にスキルボードに反映されるスキルになっている。スキルポイント取得率の上昇やスキルの強化の限界突破やスキルの効果への変化をもたらす等々多岐にわたる。

「それで吾輩の体であるウンコ氏が取得したスキルがユニークスキルの【スキル生成】と、猫としての見た目である毛並みと鬱陶しいノミの処理に費やしていた……何て贅沢な投資だ」

 俺がこの姿になってまずした事は入浴だった。里ではみんな猫で水浴びを嫌がるし入浴の習慣もないときた。ノミがあっちでピョンピョンこっちでピョンピョン。

「火竜鉱石があるんだから水だって簡単にお湯にできるし、入浴の方が気持ちいいだけどな……確かに乾くまでがこれ……って思うじゃん!でも風竜鉱石ってのがあるわけだ!」

 とりあえずまずは問答無用でスキルポイントの半分でユニークスキル【スキル生成】を取得する。そして、スキルポイント取得時能力永続上昇効果という説明欄に記入すると、必要スキルポイントとスキル名が表示される。

「スキル名は【猫神化】……ん~猫進化!みたいな」

 独り言辛い。でもあれだし!ゲーマーあるあるだし!ボッチだからいいし!

「で、スキルポイントは……100!そ、それは高いんだけど……」

 ユニークスキルが二百ポイントで残りの半分を使うのか~、そんな事を思いつつポチる。

 スキルポイントの取得条件は、スキルボードの左端の花の絵に花弁が全て咲いたら10ポイント取得できるらしい。花の成長はモンスターの討伐やら日々の生活での行動の蓄積でどれをどれだけやるか、何をどれだけ狩るかで取得するタイミングが変わり、そのすべてが表示されることは無く手探りになる。

「コツコツ貯めた400ポイントなのか、それともだらだら貯まったのか……正直それが知りたいよなぁ」

 ポイントの入り次第ではスキルで強くなれるけど、今のところはポイント上昇による身体永続強化というものが俺の強みになるかどうかだ。

 さて、スキルのことはおいおいだな、まずは。

「ハンター登録しに来ました!」

「あ!ハンゾウさん!登録ですね!ではこちらの書類にサインをしてください!」

 規約を読んで、ハンターは自己責任うんぬんかんぬん、オケー!とサインを書いた俺はついにハンターになるのだ!

「これがハンターの証、ハンター免許です!」

 免許かよ!

「……身に着けるものではないんだね」

「はい、ハンターは基本信用第一ですので、周囲にハンターですよ~ってアピールしながら村に行くと“いつからハンターは冒険者みたいにゆるくなったんだ!”とクレームがきます」

 その理屈はちょっと分かりませんね。

「ハンター証が首飾りだった頃に“威圧的すぎる”とクレームがあり、冒険者たちから“ハンターと勘違いされて迷惑だ”って言われてしまった結果免許という形になりました」

「あ~要するにハンターが少数派だけど実力が冒険者より上だから目障りだったという訳だな」

「まぁそういうことですね」

 とにかくこれで俺はハンターになったわけだ!嬉しいぞ!本当に嬉しいぞ!

「あ~ところでギルドの借家って期限とかあるんですかね?」

「ハンター用の借家は今のところEランクの女の子とハンゾウさんだけがお住まいですので、余裕があるからいくらでもいてもいいですよ。食事もどうせ冒険者にも作るんですから、ついでですからね」

 その“ね”って時にうさ耳がピョコってなるのカワイイ!

「ではお言葉に甘えて……ところでアミュさん、ミュウちゃんは今日はいないんですか?」

「あの子は朝が苦手でして、奥の自室で寝てるんですよ」

「お二人はここに住んでるんですか?昨日の晩御飯の時も食堂にいましたよね?」

「はい、私とあの子は二人きりで、元々受付として働いていたんですけど数年前に結婚退職して、数か月前に夫が亡くなり出戻りなんですよ」

 おっと、とても気軽に聞いていいような話ではなかった。

「なんかすみません」

「気にしないでください、ハンターと結婚すればこうなるって知ってましたから」

 そうか、旦那さんハンターだったんだ。

「本当に気を使わないでくださいね、ランク昇格のお願いで結婚しただけですから」

「え?ランク昇格のお願いとは?」

「夫がランクBになったら私と結婚できるというものでした。ランクAはさすがに無理だろうと思い、Bにしたんですが万年Cだった夫が何とかBになって仕方なく結婚してあげました」

「……なるほど」

「私のような兎人族はこの辺りには珍しくて、私も同族が現れるのを待ってられなかったですしいいかな~って、だからハンゾウさんもランクのご褒美に結婚してあげてもいいですよ?」

「へ!本当ですか!」

 ついつい自分が猫だから一生結婚できないだろうという考えがあって、歓喜の反応をしてしまう。

「はい、Aランクのハンターになったご褒美にですけどね」

「そ、それはハードルが高くなってますな」

「はい、娘もいますので……そう簡単に死なない方がいいですね」

 アミュさんの表情にはこのハンゾウ、グッとくるものがありました。

「アミュさん、俺のランクはいくつでしたっけ」

「ランクですか?ハンゾウさんのランクは猫人族の試練を完了されていますので、通常はFランクから始まるところをCランクからですね」

「Cですか、ならAまで二つですね」

「はい?」

 俺は受付のカウンターに飛び乗ってアミュさんと目線を合わせると、まったく気負うことなく彼女の手を取った。

「Aランクまで駆け上がりますよ、だから吾輩を見ていてください」

「……ハンゾウさん――」

 冒険者たちの雑踏など気にならないくらいに俺はキメ台詞を吐いて、赤札一枚を手に取り去ろうとした。

「ハンゾウさん!その依頼を受けるならこちらで受理させてもらわないと!」

「……(メッチャ恥ずかしい!)はい」

 ドヤっただけにその後の数分間は本当に恥ずかしかった。でもアミュさんの表情も恥ずかしそうで、悪い気分になることは無かったのが救いだ。

 そうして突発的に受けた依頼はCランク討伐依頼、サーカドアラムの討伐だった。

「このギルド発行のモンスターガイドは凄いな、色んなモンスターの情報が書かれているぞ。全部読むのに一体どれだけ時間がかかるんだよ」

 銀貨2枚、20ゴルで買えるこのガイドのおかげで、どんなモンスターでどんな癖があって、どんな習性とどんな個体がいたかを知ることができたのはハンターとしてのアドバンテージになる。

「初めましてで初見即死があったゲームとは違い、入念な調査がされて事前情報があれば即死はまずないということだな。へー情報は縄張り争いの戦いを参考にしているのか、この辺はゲームとは違うって感じるところだな」

 アミュさんの情報ではこの依頼のスタートはこの街の北側で、そこで寄り合いのギルド竜車に乗り冒険者数名とハンター1名と一緒にハークーデレー領にあるウサンガ平原へと向かうらしい。

「にしても馬ではなく竜に荷車を引かせるのはさすが異世界だな~、乗り心地はやっぱ悪いんだろうか……俺車酔いとか船酔いとか経験あるから辛いのは無理なんだけどな」

 街中にはユニコーンのようなものが走っているけど、あれはラピューンというこちらではポピュラーな動物らしい。そして、都会に行けば飛竜がいて飛竜艇なるものが存在するらしい、まさにファンタジー。

「お!あれが……竜?」

 どう見ても恐竜、でも表情は優しい感じだ。例えるなら、そう……スピルバー〇ではなく宮〇駿感を出したって感じ。

「あんた最後のハンターさん?」

「吾輩はハンゾウだ、ハンターで間違いは無い」

「そう、俺っちはアクトン、見ての通りの竜使いだ」

 ほー、この世界では竜を使う人が運転手もしてるんだな。

「ほかの人はもう揃ってるからさっさと乗っちくれ」

「う、うむ」

 荷車に乗り込むと、そこには冒険者三人とハンターらしきフードを目深に被った人がいて、俺を全員が一瞥して挨拶もなく竜車が走りだした。

 数十分後、俺は早めの昼飯にと思いギルドの食堂で作った握り飯を取り出す。この世界にも米があるんだけど、どうやらおかゆやリゾット(しっかり芯がある)でしか食べられていない。

 ふっくら炊いた米を見た食堂のおっさんは口にしたその瞬間から米仲間になった。そして、具には何かのモンスターの肉や、コリコリした触感のや~つなどを入れている。

「いただきます」

 これはいける、美味い、とても美味い。パクパクと食べていると目の前に座っているフードのハンターの方から視線を感じて、チラッと見るとそこには口を開いて物欲しそうにこちらを見ている女の顔があった。

「……」

「……グ~」

「……く、食うか?」

「!くれるの!」

 さすがに腹の音が鳴っている女を放置しておける神経は持ち合わせていない。

「ほれ、握り飯と言って米……タムを使っている、中にはモンスターの肉が入ってる……」

 手渡した途端にガブガブっと食らいついて女は勢いよく平らげてしまった。よほどお腹が空いていたんだろうな。

「ありがとう、猫人の人」

「ハンゾウだ」

「私はレイカ、レイカ・バレーシア」

「レイカか……?レイカ・バレーシア……」

 その名前に聞き覚えがあって思い出そうとすると、HILのパッケージが思い浮かぶ。

 レイカ・バレーシアって!HILのサポートキャラの一人だ!この赤髪間違いない、でも少しなんか違和感があるな。

「ん?どうかしたの?」

「いや、腹を空かしている理由を知りたくてね」

「……そうよね、お礼に私の身の上話でも聞いてよ、止めてほしかったら言って結構暗い話だからさ」

 そうして予想外にもゲームであるHILで見たNPCが、リアルな感じで現れたため俺はついつい頭の中で思ってしまった。

 野生のNPCが現れた!
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