上 下
33 / 41

利用され、利用する

しおりを挟む
「上条、あいつら出て行ったけど放っておいていいのか?」

「別に構わない。この空間にいるのに耐えきれなかったんだろ」

 もし俺があいつらの立場だったらこの店に入るなんてできない。完全に場違いだからな。それでも店に入り食事をして出て行った。それは思わぬ仕返しに腹を立てたから、悔しかったからだろう。まぁ後は普段こんな豪華な食事なんてできないから、せっかくなら食べたいと食べ物に釣られちゃったのかな? そう思うとおかしくて笑いが止まらない。

「この店に入れるような奴らじゃないもんなー」

「ほんとだよな! あの貧乏どもが」

「俺たちとは住む世界が違うんだよ」

 あいつらが出て行った今、ここぞとばかりに好き勝手言うクラスメイト。しかし俺はこれで終わりだとは思っていない。おそらく仕返ししようと考えているだろう。

「多分店の外にまだいるぞ? これから仕返しされるはずだ」

「「え……」」

 クラスメイトはみな同じ反応だった。こいつらはどれだけアホなんだ。

「考えれば分かるだろ。こんなことされて黙ってると思うのか?」

「それは……」

「そうだけど、そもそも悪いのは上条だろ? どーにかしろよ!」

「そうだ! 直也のせいじゃねーか」

 俺のせいなのは分かってるが、正直ここまでひどいと呆れるな。

「分かってるよ。だからお前らはこの店出たら好きにしろよ。俺はあいつらのところに行くから」

「は? 行ってどうするんだよ」

「行ったところで直也に何ができるんだよ」

「俺にどうにかしろって言ったのはお前らだろ? じゃあなんだ? お前らが何かしてくれんのか?」

「………」

 そうだよな。結局友達なんてこんなもんだ。俺を助けようとはしてくれない。俺といるのだって金があるからってだけ。

 俺は15万円をテーブルの上に置いて席を立つ。

「何だよこれ。明らかに多いだろ」

「余りはお前らにやるよ」

「まじかよ!」

「やりぃ!」

 ほらな。やっぱり金にしか目がないんだよ。

「なぁ」

「んー?」

「なんだよ」

 こいつらの親は俺のおかげで現在まで父の会社で働くことができている。

『こんなことを直也君に頼むなんてどうかしていると思っている。けれどこのままだと今の会社をクビになり家族を養うことができなくなってしまう。だから雇ってもらえないかお父さんに頼んでくれないか? この通りだ! お願いします!』

 中学生になったばかりの俺にすがりつき、地に頭をつけて頼んできた。他の二人の親も似たようなことを言って同じように頼んできた。本当に情けない大人だと思ったよ。まぁたまたまこいつらとは仲が良かったから父に口を利いてやったが、それ以降こいつらは親子共々調子に乗るようになった。まるで自分の力で成り上がったかのように。今まで別に気にしてなかったが今回のことでこいつらとはもう終わりだ。

「お前らの親、次の仕事が見つかるといいな」

 俺は最後の言葉を残して店を出て行った。




「なんだ? お前一人で出てきたのか?」

 店の外に出ると予想通り、奴らは俺たちを待っていた。あちらは俺が一人で出てくるとは思ってなかったようだが。

「そうだよ。君たちが待っているのは分かっていた。そして俺のせいでこんなことになっている。だから一人で出てきた。何かおかしいかい?」

「テメェ舐めてんのか?」

 鬼のような形相で距離を詰めてきたことに俺はビビりながらも表面上は平然を保っていた。

「別に舐めてる訳じゃないよ。たださっきは気分を悪くしただろうから改めて謝罪しようと思っているだけだよ」

 すると表情が一変して再び何かを企むようなにやけ顔になった。

「そうだな。今度は俺だけでなく俺の連れにまで嫌な思いをさせたんだからなぁ? まぁとりあえず今日一日金出せよ」
 
 こんな要求は誰もが拒否するだろうが俺にとっては好都合だった。

「分かったよ」

 そう一言返すと目の前にいた四人は再びファンタジーランド内で行動し始めた。俺はというと金魚の糞のようにただ後ろをついていくだけだった。
 歩き始めた時、四人は俺をチラチラと見ながら何か話し合っていた。少し揉めているようにも見えたがすぐに話し合いが終わったので気のせいかもしれない。

 そうして様子を伺っていると四人の足が止まった。どうやら目的地に着いたらしい。

「おい、行くぞ」

 中に入るとそこはハンバーガーやポテト、ピザなどのファーストフードが食べれる店だった。さっきの店では満足に食べることができなかったからだろう。今は先程とは違い、楽しそうにメニューを見て注文をしていた。

「早く払えよ」

 俺は何も注文せずに金を払った後、座るための席を取りに行った。それからすぐに四人が来て各々が注文した物を勢いよく食べ始めた。
 そして全員が食べ終わった後、再びパーク内を歩くがアトラクションに乗るよりも何かを食べることの方が多かった。歩きながら飲み食いを繰り返し、日が暮れてライトアップし始めた頃にはお土産を買うためにそういった店を散策しまくっていた。

 そうしているうちにあっという間に閉園時間となりパークから出た。俺がこの日使った金額は約30万円だった。四人の両手には山程のお土産の入った袋が握られていた。山程というのは決して過剰表現ではない。支払いは全て俺なわけで、四人は容赦なく欲しいものを買い物カゴに入れていった。

「いやー途中最悪だったけど何だかんだいい一日になったな」

「これで今日のことは許してくれるよね?」

「そうだなー…… いや、だめだ」

「今日一日金を出したら許すはずじゃないか!」

「何言ってんだ? 忘れたか? 俺はって言ったんだよ」

 あの時企んでいたのはこれだったんだな。今日だけでなくこれから可能な限り俺から金を取ろうということか。思い通りになったのだろう、俺が動揺しているのを見てニヤニヤが止まらないようだ。

「とりあえず携帯出してLINK開け」

 俺は言われるがまま携帯を出しLINKのアプリを開くと、無理やり携帯を取られた。しかし携帯はすぐに返ってきた。

『西島修也』

 新しく追加された連絡先のところにそう表示されていた。

「上条直也か。おい、夏休み中呼び出すからその時は絶対に来いよ? 来なかった時はどうなるか分かってるよな?」

「分かったよ」

 そうして西島は満足そうな顔をして連れと一緒に電車に乗って帰っていった。

 一方俺はというと駐車場へ行き、迎えの車が止まっているところへ向かう。昼のうちにすでに迎えを呼んでおいたのだ。近づくと運転手がドアを開けて待ってくれているのが見えた。

「迎えご苦労」

「お連れの方はどうされましたか?」

「ああ、いないよ。それと今後あいつらに会ってもこの車には乗せたりするなよ?」

「かしこまりました」

 運転手と少し会話をして俺は車に乗り込む。この黒のロールス・ロイスは俺専用車である。あいつらにも度々家まで送ったりしていたが縁を切ったので二度と乗せない。


 帰りの道中、俺は今日のことを振り返り上手く事が運んだことに満足していた。最後までビクビクと怯え、動揺しているように演技していたが見事騙すことができた。
 とはいえ西島との出来事が起こった時は本気で焦った。人生終わったなと思ったが、それも思いついた計画によってそんな思いはすっかり消えた。
 俺は今日の目的であった連絡先を交換することに成功した。正直ここまで上手くいくとは思っていなかった。無理やりにでも連絡先を交換しようと思っていたくらいだからな。そしてこうして一日を過ごして西島がどういう人間かは分かったつもりだ。あくまでつもりなのでこれからもっと知る必要はあるが、今日だけでもはっきりと分かったことがある。それはとても扱いやすい人間ということだ。だってこんなに思い通りになったのだから。


 
 帰りの道中、俺は連れとダチのカップルに責められていた。

「やっぱりやりすぎだったって! あいつにいくら使わせたのよ」

「俺たちまだ高一だぜ? こんなの通報されたら終わりじゃね?」

「そうよ! お土産だって修也ができる限り高いものを買いまくれっていうからその通りにしたけどこれはまずいよ」
 
 ビビるのも無理はない。俺だってあんなに現金持ってるなんて思ってなかったしな。でももう関係ない。俺はすでに決めたんだからな。

「気にすんなよ。言ったろ? あいつにとってはなんてことないんだよ。それに連絡先だって持ってる。すぐに呼び出してちゃんと躾けるから心配ねぇよ」

 あのバカ高い店に入った時はビビったが、店を出てから上条は大人しく俺の言うことを聞いていた。所詮やはりビビリの英才科だったってことだ。途中調子に乗ってあんなことしていたが結局一人になった途端にまだビクビクしてたしな。
 あんなに金持ちであれほど扱いやすい人間はなかなかいない。



 この時、偶然にも上条も西島も同じ言葉を口にした。

「「これからあいつを存分に利用してやる」」

 計画のために二人は相手を利用しようと考えた。

 上条は西島を、西島は上条を。二人は知らずのうちに互いに利用され、互いを利用するのだった。
 

 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結【R―18】様々な情事 短編集

秋刀魚妹子
恋愛
 本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。  タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。  好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。  基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。  同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。  ※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。  ※ 更新は不定期です。  それでは、楽しんで頂けたら幸いです。

彼はもう終わりです。

豆狸
恋愛
悪夢は、終わらせなくてはいけません。

[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。

ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい えーー!! 転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!! ここって、もしかしたら??? 18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界 私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの??? カトリーヌって•••、あの、淫乱の••• マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!! 私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い•••• 異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず! だって[ラノベ]ではそれがお約束! 彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる! カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。 果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか? ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか? そして、彼氏の行方は••• 攻略対象別 オムニバスエロです。 完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。 (攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)   

【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)

幻田恋人
恋愛
 夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。  でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。  親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。  童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。  許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…  僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…

元婚約者様の勘違い

希猫 ゆうみ
恋愛
ある日突然、婚約者の伯爵令息アーノルドから「浮気者」と罵られた伯爵令嬢カイラ。 そのまま罵詈雑言を浴びせられ婚約破棄されてしまう。 しかしアーノルドは酷い勘違いをしているのだ。 アーノルドが見たというホッブス伯爵とキスしていたのは別人。 カイラの双子の妹で数年前親戚である伯爵家の養子となったハリエットだった。 「知らない方がいらっしゃるなんて驚きよ」 「そんな変な男は忘れましょう」 一件落着かに思えたが元婚約者アーノルドは更なる言掛りをつけてくる。

選ばれたのは私の姉でした

杉本凪咲
恋愛
朝から大雨が降るその日。 愛する人は私に婚約破棄を告げる。 彼は私の姉が好きみたいです。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

処理中です...