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第二章 同性同名のの有名人ってはっきり言って迷惑だよね
違う、僕は何も、何もやっていないんだ……。
しおりを挟むそして、暗闇にさせられた
今、世界を包んでいるのは光だったはずだ。
だというのに、今は、まったく光のない世界だ。
太陽はもちろん、夜になると必ず見える月の輝きもここでは何も見えない。
見ることができない。
ただ、分かるのは自分が今、何かに座っていて、腕が机らしきものの上にあるという事だけだ。
指先に魔力を集中させ—―「ポッ」とロウソクの火のような火を灯す。
見えたのは、全長五mあるかと思われる長い長方形の机。
その反対側に見えるのは、髪と同色の、月の輝きをした瞳をした美しい女性が静かに佇んでいた。
銀色の髪によく合う深い藍色のドレスを着た美しい女性は僕と目を合わせると、にこりと微笑む。
そのあまりにも魅力的な笑みに、青年は思わず息を吞む。
青年はこの魅力的な微笑みを知っていた。
先日のことだ。
混龍シャバウォックを倒したティーナ・フォーン・ダスティネス将軍とその軍の勝利と功績を祝う凱旋パレードが行われた。
その始まりの挨拶で王が話しているときに、隣に立っていた女性だ。
名前をアイリス・モンテスキュー・フォルテイス。
絶世の美女と言われるこの国の第一王女だ。
だからこそ、青年は考えるのだ。
この状況はいったい何だ。と。
「何かが、おかしい……。そうは思いませんか?」
青年が優しい声で語りかけるように言う。
爽やかで、とても聞き心地の良い声だ。
「何がおかしいのですか?」
別の声が発言を促すように聞いた。
凜とした印象を持たせる、透き通った綺麗な声だ。
青年は腕を組み、しばらくもったいぶって沈黙していたが、顔を上げ、王女様に言った。
「なぜ、僕は誘拐されているのでしょうか?」
「私はあの日、ユーリ様のことを観察していました。
そして知っているのです。あれはユーリ様がしたことなのだと」
ほんの少しの静寂があって、青年は言葉を紡ぎ足す。
まるで、遠いところへ向かって喋っているような口調だった。
「僕は、なにもしていない。ただ、王都の街を歩いていただけで……。
決して、殿下が見たようなことはしていないです」
「ええ、分かっています。ユーリ様はあの日なにもしていない」
「……。」
「私は千里眼と呼ばれる恩寵を授かりました。
この恩寵は、その名の通り遠くの景色まで見ることのできる恩寵です」
王女様は微笑みを浮かべ、「それに」と言って言葉を続ける。
「あそこに居た全員が目撃しています。ユーリ様があの日をなかったことにしたくとも、ユーリ様が行った事実は消えません」
「……。殿下はどこまで知っているのですか?」
「私が見ていたのは途中からでしたが、おおよそのことは知っています」
「……。なるほど」
後悔しても遅いことは分かっている。
それでも青年は思わずにはいられない。
あのとき、ちゃんと確認しておけば……。と。
事の発端は昨日の凱旋パレードで起きた。
♢
僕はその日王都を散歩していた。
国を蝕み続けた混龍シャバウォックを討伐したと言うことで街はとても賑わっていた。
街を少し歩くだけでも、
「外報―!外報―!本日、隣国のモンブラン共和国の国王が来国!さらに皇子と王女も来るらしい!この国始まって以来の快挙だ!!!さあ、買った買った!」
「一冊くれ!」「こっちにもおくれ!」「あ、俺も頼むぜ!」
「あいよ!まいどあり!」
「そこの兄ちゃん!王都名物オークの焼き鳥はどうだい!今日はめでたい日だ!特別サービスでいつもの半額で売るぜ!!」
「なら、全部くれ!!!」
「おお、マジか!有り難いけど兄ちゃん、ほんといいのかい?」
「お祝いの日だ!こんなときに金使わないでどうするよ!」
「そりゃちげぇねえ!ガッハッハ!!」
この盛り上がりようだ。すこし騒がし過ぎる気がするが、一生に一度あるかないかぐらいのお祝いの日だ。
豪快なくらいがちょうど良いのかも知れない。
それに、騒がし過ぎる、たまにはそんな日があってもいい。
そう思い徐々に僕も人混みのなかに紛れていった。
そして、三時間後、それは起きた。
それは、人の通りの多い広場でのことだ。
……なぜこんなところに?と思わずにはいられないほど、不自然な場所にそれはあった。
僕は、それを、うんこを……踏んだ。
踏んだときは、逆によく皆踏まなかったなと感心したほどだ。
だが、余裕ぶっていてもいられない。
もし、こんな人の多いところでうんこ踏んだとかバレでもしたら、どうなる?
間違いなく馬鹿にされる。
それは僕の沽券に関わる大問題だ。
だから僕は誰にも気づかれないように、近くの銅像にこっそりと擦り付けた。
そして、その行いが……僕の過ちだった。
「きゃああああ!!!!」
金切り声が広場に響く。
楽しい雰囲気から一変、広場に動揺が広がる。
「どうした!何があった!」
すぐさま、広場に常駐していた兵士が駆け寄る。
声を上げた女性はその問いにはなにも言わず、その代わりに指を指すことで兵の問いに答えた。
「なんてことを……。誰だ!!国王様の銅像にうんこを擦り付けた者は!!」
兵士は女性の指す方向へ視線を向けると声を荒げる。
それもそのはず、王の銅像を汚すことは、王への侮辱。
それに値するのだから。
そして僕は…………逃げた。
そのあとのことを僕は、なにも知らない……。
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