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第三章 ミスティアとクロイツ ―ふたりの魔王討伐―
クロイツと勇者候補選抜御前試合 その十三 ~親子喧嘩とゆずれない思い~
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「あなたの気配に誘われてみれば、なぜ師匠がこの子を殺そうとしてるのです」
オババ様が私の前に立ち黒髪の女と対峙する。そのオババ様の周囲には見たこともない魔導具が浮いていた。
「久しぶりねジュリエッタ、そんなシワシワになっちゃって。だから一緒に来なさいと言ったのに」
そう言うと黒髪の女は土煙で汚れた服をパンパンと叩く。
「お師匠様、私は人間として生き、人間として死ぬそれでいいと思ってるのですよ。それで、なぜこの子達を襲うのです」
「ルールを破ったからよ。この世界で生まれたものにはズルは許さない。それはあなたも知っているでしょう」
オババ様はその言葉になるほどとうなずく。黒髪の女を師匠と呼ぶオババ様にはその理由が得心するものだったのだろう。
「なら見逃してはもらえないでしょうな」
「当然ね、だけど命はとらないわ。私の作った村で一生を終えてもらうけどね」
「村? てっきり、お師匠様は大和神国の女王になったと思っていたのですが」
オババ様の言葉に黒髪の女は首をかしげなぜそう思ったのかをオババ様に問いかける。
オババ様は言う「村を作ると言っていたのと、なにより魔導具の製造の癖があなたのものでした」と。
「なるほどね、知らず知らずの内に、私の色が出てしまいましたか。まあ、そんなものに気がつくのはあなたぐらいでしょうけどね。それでジュリエッタ。あなたは私の邪魔をするの?」
「我が弟子を殺すと言うなら」
黒髪の女は呆れ顔で言う。「弟子と言っても三日程度の関係でしょうに、その娘との三日が私とあなたの関係に勝るとでも?」
オババ様は女の言葉に大笑いして身体の前で二回半円を作りながら言った。「お師匠様、こんなボインボインで可愛い娘が私の初弟子で物覚えが良いとなれば、かわいくないわけがないでしょう?」
「そう、だけどね。私の目的はそのティアと言う娘なの、あなたの弟子は関係ないわ素直に渡せばあなたの弟子の命も取る気はないわ」
そう言われたオババ様は私の方を振り向いて問いかける。
「アリエル、その子を渡すことはできないのかい?」
「できません、大事な家族です」
「……そうかい。ならば決まりです、お師匠様。私はアリエルを守りますしその子も守ります。あなたが昔私にしてくれたように」
そう言うとオババ様は一本の剣を空間から取り出した。オババ様もアイテムボックスを持っていることにも驚きだがその剣はただの剣ではなくまるで勇者の剣のような力を秘めているようだった。
「そう、それで魔神剣まで持ち出して私に対峙したと言うことは死んでも良いと言うことなのね?」
「まだやりたいことはありますが、弟子を守るくらいはさせてもらいますよ」
「やれやれだわジュリエッタ。さんざん可愛がってきたあなたに牙を向かれるとはね」
その言葉と同時に、黒髪の女が手を振ると風が巻き起こりオババ様に何かの衝撃が当たり後方へと弾かれた。その衝撃は空中に浮く魔導具が吸収したようでオババ様にはダメージはなかった。
「ふう、危ないですな師匠。しかし、あのボンクラは何をやっておるのだ。王都から動いてないではないか」
オババ様が王都の方へ顔を向けて眉をひそめる。
「オババ様見えるのですか?」
「うむ、隠しだてしてももう仕方ないが、私もマップをもっているのよ」
オババ様は「仕方ない」と言って王都の方を向いたまま印を結んで術を唱えた。
「何をされたんですか?」
「”虫の知らせ”と言う術を使った。これであのボンクラが気がついてくれれば良いのだが」
「ねえ、ジュリエッタ。あなたその体で魔神剣が振れるの? すでにふらふらじゃない」
「ふふふ、お師匠様、私もだてに魔導具研究をしていたわけではないのですよ”纏え魔導具”」
その言葉に呼応するようにオババ様の周りで浮いていた魔導具の一つが剣と組合わさり一本の槍となった」
「……余計に重くしてどうするのよ」
「そうですかな?」
オババ様が一息で黒髪の女との間合いを詰め槍を突く、その一撃は避けられたがオババ様の猛攻は続く、その動きからは年齢を全く感じさせなかった。
黒髪の女は距離を取るとため息をつく。
「あなたを殺さなきゃいけないのは本当に鬱だわ。私はあなたを本当の娘のように愛してるのよ?」
「わかっていますよお師匠様、……いいえお母様。でも、母親であるあなたに逆らってでも守らなきゃいけないものもあるのですよ」
「そう……。分かったわ」
そう言われた黒髪の女も空間から剣を取り出した。
「それは? お師匠様の魔神剣とは違うようですが」
「これは私の新しい魔神剣よ。その力は今までの魔神剣の比じゃないわ。言うなれば真魔神剣ね」
黒髪の女の持つ剣はまるで生き物のような気配を放ち、その力は確かに真魔神剣と自負するようにオババ様の持つ剣よりも遥かに威圧感があった。
「そうですか、ですが私も日夜遊んでいたわけではないのですよ。あなたに追い付きたくて私はひたすら研鑽しました。その成果お見せしましょう」
対峙する二人の間に静寂が流れる。オババ様は自分では気がついてはいないようだがじりじりと後退している。それほどの力をあの黒髪の女は秘めているのだろう。
私も手伝わないと。四神が無い今使えるのは杖のみ。しかし、この杖の使用方法は不明でその力を発揮することはできない。でも無いよりまし。
私はオババ様に強化魔法系の補助魔法をかけた。その魔法を受けたオババ様は振り向かずに言う。
「ありがとうのうアリエル。でも、これは親子喧嘩だから、手を出さずそこで見ておいで」
「私も一緒に戦います」
「だめさね、あんたは力をためておきなさい。あのボンクラが間に合うように一秒でも長く生きられるようにね」
「ジュリエッタ、おしゃべりしてて良いの?」
オババ様の目の前にすでに黒髪の女は剣を振り上げて立つ。
「お師匠様は相変わらずせっかちですね」
そう言うとオババは槍の石突きで地面を叩く。その瞬間地面から火柱が上がり黒髪の女を焼く。
「やった!」
だけど、その炎は黒髪の女を焼いていなかった。と言うか、あの女は元の位置から一歩も動いていなかった。
「なんですかな今のは」
「ふふふ、最近忍術を学ぶ機会があってね。試しに使わせてもらったわ」
「にんじゅつ? これはまた面妖な技を取得なされましたな。確実にそこに実体があったはずなのに」
「これが最後の勧告よ、引きなさいジュリエッタ。私はあなたを殺したくない」
「お母様、300年前に私が言った言葉覚えてますか?」
「……覚えてるわ、忘れるわけがないでしょ。あなたがはじめて私に逆らった言葉なんだから」
「お母様、あなたは優しすぎるのです。だから私はデスの一人になれなかった。時には厳しさも必要なのですよ」
「皆から私がなんて揶揄されていたか知ってますか?」
「知らないわね。何て言われてたの?」
「デス・ビーンズですよ、弱い私は皆からお豆扱いされていたのです。だからあなたから離れたた、強くなるために」
「そう、それはすまないことをしたわね」
「まあ、他にも目的があったからあなたから離れたのですがね」
そう言うとオババ様は悲しそうに黒髪の女を見る。まるで子供が辛そうな母親を見るような目で。
「で、そんな老体になって強さは得られたの?」
「どうですかな。ただ大事なものは増えましたよ。歳を自然に取ると言うのは存外良いものですよお母様」
「あなたから大事なものができたなんて言葉を聞くとはね。だけどね私も大事なものはあるのよ。だからあなたを殺すわ、ジュリエッタ」
「そう簡単にこの命取らせはしませんぞ!」
オババ様が槍を黒髪の女に向けると刃先から光弾が何発も放たれる。しかしその光弾はすべて手のひらをヒラヒラと振るだけで四方に散ってしまった。
「どう言うことです、この魔法は魔石から作り出した魔法。魔法防御は効かないはず」
「それを撃つのなら普通の魔法の方がいいわよ。私には魔石の魔法は効かないから」
「そうですか、ならば!」
今度はオババ様が一瞬で黒髪の女との間合いを詰める。その動きは魔法使いとは思えないほどの素早さだった。
「魔神剣 mode:聖剣ノ煌」
オババ様の体が光り、穂先が光の剣になる。その剣は一瞬で伸び黒髪の女を貫くように見えたが真魔神剣により攻撃を防がれた。
真魔神剣はそのままオババ様を切り裂くように体勢を変えるが、オババ様は後方にバックステップをして斬撃を回避した。
「おしいわね、ジュリエッタ。本当に惜しいわ。あなた私以外のすべてのデスを越えたわ。それだけに本当に惜しい。あなたを殺さなきゃいけないことが」
「それが身内贔屓だと言うのですよお母様。良いところ神剣なしのデス達に一対一で引き分けできる程度でしょうな」
オババ様がその言葉を言い終わる前に魔神剣に組ついた魔導具がすべて砕け灰になった。
「なっ!」
「選択ノ死よ、私の力は知っているでしょう。」
「いつの間に……」
「あなたが強くなったように私も強くなったのよジュリエッタ」
魔導具の補助をなくしたオババ様には魔神剣は重いようで切っ先を地面につけてなんとか持ち上げる。
「終わりよジュリエッタ」
黒髪の女は数体に別れ、オババ様の周囲を囲む。
「オババ様!」
「魔神剣 mode:終焉ノ――」
「それはさせませんよ選択ノ死」
その言葉でオババ様は崩れ落ちた。崩れ落ちたオババ様を黒髪の女が真魔神剣を投げ捨て抱き締める。
「やっぱり本気で戦ってくれないじゃないですか、お母様」
「ごめんなさいねジュリエッタ。でも、あなたは強かったわ」
「せめて、あなたを呪縛から解放したかった。だからあなたから離れた。ごめんなさいお母様」
「ジュリエッタ……。あなた」
「お母様、あなたより先に死んでしまう親不孝をお許しください。そして、どうか私の死であの子達をお許しください」
「分かったわ……。もう眠りなさいジュリエッタ。あなたは私の最高の娘だったわ。さようならジュリエッタ、選択ノ死」
「お、かあ、さま……」
その言葉と共にオババ様がマップから消え去った。死んでしまった。私たちを守るためにオババ様が。
黒髪の女がオババ様を地面にそっと寝かせるとゆらりと立ち上がり私を鋭い目でにらむ。
「あなた達、私に大事な娘を殺させたのよ。その罪を、その身で償いなさい」
この女はオババ様との約束を守る気がない、そう思った瞬間私の体は宙を舞っていた。多分お腹を殴られた、そのせいで身体が浮いたのだ。
だけどお腹の痛みを感じる前に私は地面の土をなめた。そしてやっとお腹と背中に痛みが走った。呼吸ができない。身体が動かない。黒髪の女はオババ様の言うとおり本気を出していなかった。
私では動いてることさえ認識できない。
いつでも自爆できるように集束しておいた天使力を散らされた。
だめだ、この女には絶対に勝てない。
動けなくなった私の体は、何かの力で宙に浮きぶら下がったような状態になる。
「あなたが素直にティアを渡さないから!」
黒髪の女は見えない拳で私のお腹を寸分の狂いもなく同じ場所を殴る。
「ぐふっ!」
「やめてください、私が行きますから! それ以上アリエルさんを殴らないで!!」
「うるさい、そこで待っていなさい、選択ノ死」
その言葉でティアちゃんはその場に崩れ落ちるように倒れた。マップでも鑑定目でもまだティアちゃんは確認できる。死んではいない?
あの選択ノ死は殺す技じゃないの?
しかし、それを解明する間もなく私は何度も何度も殴られ意識を保つので精一杯な状態になった。
何度か殴られたろう私はついに吐血した。内蔵が壊れたのだ。天使力が働かない、そのせいで全く身体が回復しない。多分この拳は天使力にもダメージを与えているのだ。
だめだ、多分私は死ぬ。ティアちゃんを守れない。
せめて死ぬ前にクロイツ様に文句を言いたかった。なぜあのとき私たちに相談してくれなかったのかと。私はクロイツ様に復活して欲しいと思っている。でもクロイツ様に対する恨みもある。
ガリウス様を悲しませた恨み。私はその恨みを晴らすためにクロリア様の側にいる。そして毎晩彼女の体を凌辱する。心はクロリア様のものでも、どこかで繋がって見ているだろうから。
でも後悔もしている。そんな気持ちでクロリア様と一つになっているから。私を好きだといってくれているクロリア様を欺いた。
私はクロリア様を心から好きかと言われれば、その気持ちはティアちゃんにすら劣るのかもしれない。
でも離れたくない、クロリア様から離れたくない気持ちは本当だ。
離れたくはない。けど、クロリア様の精神が、心が、私とシルフィーネ様で作ったものだと知ったらクロリア様はなんと思うだろうか。やはり嫌われるだろう。わたしは自分勝手で最低の女だから、それもしかたない。
でも、捨てられたくない。
……できれば最後に謝りたかった。
ドゴンッ!!
爆音が響き渡り、私はその衝撃で弾かれ地面に落ち横たわる。うっすらと見覚えのあるレッグアーマーが目に入る。
あれは私の作った鎧だ。心を込めてあの人のために作った白い鎧だ。
「この糞女! 人の嫁にこんなことして生きて帰れると思うなよ!!」
そこにいたのは天空王ノ翼剣と黒魂ノ勇者剣の二本の剣を持ったクロリア様だった。
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なろう掲載日 2018/11/19 21:33
オババ様が私の前に立ち黒髪の女と対峙する。そのオババ様の周囲には見たこともない魔導具が浮いていた。
「久しぶりねジュリエッタ、そんなシワシワになっちゃって。だから一緒に来なさいと言ったのに」
そう言うと黒髪の女は土煙で汚れた服をパンパンと叩く。
「お師匠様、私は人間として生き、人間として死ぬそれでいいと思ってるのですよ。それで、なぜこの子達を襲うのです」
「ルールを破ったからよ。この世界で生まれたものにはズルは許さない。それはあなたも知っているでしょう」
オババ様はその言葉になるほどとうなずく。黒髪の女を師匠と呼ぶオババ様にはその理由が得心するものだったのだろう。
「なら見逃してはもらえないでしょうな」
「当然ね、だけど命はとらないわ。私の作った村で一生を終えてもらうけどね」
「村? てっきり、お師匠様は大和神国の女王になったと思っていたのですが」
オババ様の言葉に黒髪の女は首をかしげなぜそう思ったのかをオババ様に問いかける。
オババ様は言う「村を作ると言っていたのと、なにより魔導具の製造の癖があなたのものでした」と。
「なるほどね、知らず知らずの内に、私の色が出てしまいましたか。まあ、そんなものに気がつくのはあなたぐらいでしょうけどね。それでジュリエッタ。あなたは私の邪魔をするの?」
「我が弟子を殺すと言うなら」
黒髪の女は呆れ顔で言う。「弟子と言っても三日程度の関係でしょうに、その娘との三日が私とあなたの関係に勝るとでも?」
オババ様は女の言葉に大笑いして身体の前で二回半円を作りながら言った。「お師匠様、こんなボインボインで可愛い娘が私の初弟子で物覚えが良いとなれば、かわいくないわけがないでしょう?」
「そう、だけどね。私の目的はそのティアと言う娘なの、あなたの弟子は関係ないわ素直に渡せばあなたの弟子の命も取る気はないわ」
そう言われたオババ様は私の方を振り向いて問いかける。
「アリエル、その子を渡すことはできないのかい?」
「できません、大事な家族です」
「……そうかい。ならば決まりです、お師匠様。私はアリエルを守りますしその子も守ります。あなたが昔私にしてくれたように」
そう言うとオババ様は一本の剣を空間から取り出した。オババ様もアイテムボックスを持っていることにも驚きだがその剣はただの剣ではなくまるで勇者の剣のような力を秘めているようだった。
「そう、それで魔神剣まで持ち出して私に対峙したと言うことは死んでも良いと言うことなのね?」
「まだやりたいことはありますが、弟子を守るくらいはさせてもらいますよ」
「やれやれだわジュリエッタ。さんざん可愛がってきたあなたに牙を向かれるとはね」
その言葉と同時に、黒髪の女が手を振ると風が巻き起こりオババ様に何かの衝撃が当たり後方へと弾かれた。その衝撃は空中に浮く魔導具が吸収したようでオババ様にはダメージはなかった。
「ふう、危ないですな師匠。しかし、あのボンクラは何をやっておるのだ。王都から動いてないではないか」
オババ様が王都の方へ顔を向けて眉をひそめる。
「オババ様見えるのですか?」
「うむ、隠しだてしてももう仕方ないが、私もマップをもっているのよ」
オババ様は「仕方ない」と言って王都の方を向いたまま印を結んで術を唱えた。
「何をされたんですか?」
「”虫の知らせ”と言う術を使った。これであのボンクラが気がついてくれれば良いのだが」
「ねえ、ジュリエッタ。あなたその体で魔神剣が振れるの? すでにふらふらじゃない」
「ふふふ、お師匠様、私もだてに魔導具研究をしていたわけではないのですよ”纏え魔導具”」
その言葉に呼応するようにオババ様の周りで浮いていた魔導具の一つが剣と組合わさり一本の槍となった」
「……余計に重くしてどうするのよ」
「そうですかな?」
オババ様が一息で黒髪の女との間合いを詰め槍を突く、その一撃は避けられたがオババ様の猛攻は続く、その動きからは年齢を全く感じさせなかった。
黒髪の女は距離を取るとため息をつく。
「あなたを殺さなきゃいけないのは本当に鬱だわ。私はあなたを本当の娘のように愛してるのよ?」
「わかっていますよお師匠様、……いいえお母様。でも、母親であるあなたに逆らってでも守らなきゃいけないものもあるのですよ」
「そう……。分かったわ」
そう言われた黒髪の女も空間から剣を取り出した。
「それは? お師匠様の魔神剣とは違うようですが」
「これは私の新しい魔神剣よ。その力は今までの魔神剣の比じゃないわ。言うなれば真魔神剣ね」
黒髪の女の持つ剣はまるで生き物のような気配を放ち、その力は確かに真魔神剣と自負するようにオババ様の持つ剣よりも遥かに威圧感があった。
「そうですか、ですが私も日夜遊んでいたわけではないのですよ。あなたに追い付きたくて私はひたすら研鑽しました。その成果お見せしましょう」
対峙する二人の間に静寂が流れる。オババ様は自分では気がついてはいないようだがじりじりと後退している。それほどの力をあの黒髪の女は秘めているのだろう。
私も手伝わないと。四神が無い今使えるのは杖のみ。しかし、この杖の使用方法は不明でその力を発揮することはできない。でも無いよりまし。
私はオババ様に強化魔法系の補助魔法をかけた。その魔法を受けたオババ様は振り向かずに言う。
「ありがとうのうアリエル。でも、これは親子喧嘩だから、手を出さずそこで見ておいで」
「私も一緒に戦います」
「だめさね、あんたは力をためておきなさい。あのボンクラが間に合うように一秒でも長く生きられるようにね」
「ジュリエッタ、おしゃべりしてて良いの?」
オババ様の目の前にすでに黒髪の女は剣を振り上げて立つ。
「お師匠様は相変わらずせっかちですね」
そう言うとオババは槍の石突きで地面を叩く。その瞬間地面から火柱が上がり黒髪の女を焼く。
「やった!」
だけど、その炎は黒髪の女を焼いていなかった。と言うか、あの女は元の位置から一歩も動いていなかった。
「なんですかな今のは」
「ふふふ、最近忍術を学ぶ機会があってね。試しに使わせてもらったわ」
「にんじゅつ? これはまた面妖な技を取得なされましたな。確実にそこに実体があったはずなのに」
「これが最後の勧告よ、引きなさいジュリエッタ。私はあなたを殺したくない」
「お母様、300年前に私が言った言葉覚えてますか?」
「……覚えてるわ、忘れるわけがないでしょ。あなたがはじめて私に逆らった言葉なんだから」
「お母様、あなたは優しすぎるのです。だから私はデスの一人になれなかった。時には厳しさも必要なのですよ」
「皆から私がなんて揶揄されていたか知ってますか?」
「知らないわね。何て言われてたの?」
「デス・ビーンズですよ、弱い私は皆からお豆扱いされていたのです。だからあなたから離れたた、強くなるために」
「そう、それはすまないことをしたわね」
「まあ、他にも目的があったからあなたから離れたのですがね」
そう言うとオババ様は悲しそうに黒髪の女を見る。まるで子供が辛そうな母親を見るような目で。
「で、そんな老体になって強さは得られたの?」
「どうですかな。ただ大事なものは増えましたよ。歳を自然に取ると言うのは存外良いものですよお母様」
「あなたから大事なものができたなんて言葉を聞くとはね。だけどね私も大事なものはあるのよ。だからあなたを殺すわ、ジュリエッタ」
「そう簡単にこの命取らせはしませんぞ!」
オババ様が槍を黒髪の女に向けると刃先から光弾が何発も放たれる。しかしその光弾はすべて手のひらをヒラヒラと振るだけで四方に散ってしまった。
「どう言うことです、この魔法は魔石から作り出した魔法。魔法防御は効かないはず」
「それを撃つのなら普通の魔法の方がいいわよ。私には魔石の魔法は効かないから」
「そうですか、ならば!」
今度はオババ様が一瞬で黒髪の女との間合いを詰める。その動きは魔法使いとは思えないほどの素早さだった。
「魔神剣 mode:聖剣ノ煌」
オババ様の体が光り、穂先が光の剣になる。その剣は一瞬で伸び黒髪の女を貫くように見えたが真魔神剣により攻撃を防がれた。
真魔神剣はそのままオババ様を切り裂くように体勢を変えるが、オババ様は後方にバックステップをして斬撃を回避した。
「おしいわね、ジュリエッタ。本当に惜しいわ。あなた私以外のすべてのデスを越えたわ。それだけに本当に惜しい。あなたを殺さなきゃいけないことが」
「それが身内贔屓だと言うのですよお母様。良いところ神剣なしのデス達に一対一で引き分けできる程度でしょうな」
オババ様がその言葉を言い終わる前に魔神剣に組ついた魔導具がすべて砕け灰になった。
「なっ!」
「選択ノ死よ、私の力は知っているでしょう。」
「いつの間に……」
「あなたが強くなったように私も強くなったのよジュリエッタ」
魔導具の補助をなくしたオババ様には魔神剣は重いようで切っ先を地面につけてなんとか持ち上げる。
「終わりよジュリエッタ」
黒髪の女は数体に別れ、オババ様の周囲を囲む。
「オババ様!」
「魔神剣 mode:終焉ノ――」
「それはさせませんよ選択ノ死」
その言葉でオババ様は崩れ落ちた。崩れ落ちたオババ様を黒髪の女が真魔神剣を投げ捨て抱き締める。
「やっぱり本気で戦ってくれないじゃないですか、お母様」
「ごめんなさいねジュリエッタ。でも、あなたは強かったわ」
「せめて、あなたを呪縛から解放したかった。だからあなたから離れた。ごめんなさいお母様」
「ジュリエッタ……。あなた」
「お母様、あなたより先に死んでしまう親不孝をお許しください。そして、どうか私の死であの子達をお許しください」
「分かったわ……。もう眠りなさいジュリエッタ。あなたは私の最高の娘だったわ。さようならジュリエッタ、選択ノ死」
「お、かあ、さま……」
その言葉と共にオババ様がマップから消え去った。死んでしまった。私たちを守るためにオババ様が。
黒髪の女がオババ様を地面にそっと寝かせるとゆらりと立ち上がり私を鋭い目でにらむ。
「あなた達、私に大事な娘を殺させたのよ。その罪を、その身で償いなさい」
この女はオババ様との約束を守る気がない、そう思った瞬間私の体は宙を舞っていた。多分お腹を殴られた、そのせいで身体が浮いたのだ。
だけどお腹の痛みを感じる前に私は地面の土をなめた。そしてやっとお腹と背中に痛みが走った。呼吸ができない。身体が動かない。黒髪の女はオババ様の言うとおり本気を出していなかった。
私では動いてることさえ認識できない。
いつでも自爆できるように集束しておいた天使力を散らされた。
だめだ、この女には絶対に勝てない。
動けなくなった私の体は、何かの力で宙に浮きぶら下がったような状態になる。
「あなたが素直にティアを渡さないから!」
黒髪の女は見えない拳で私のお腹を寸分の狂いもなく同じ場所を殴る。
「ぐふっ!」
「やめてください、私が行きますから! それ以上アリエルさんを殴らないで!!」
「うるさい、そこで待っていなさい、選択ノ死」
その言葉でティアちゃんはその場に崩れ落ちるように倒れた。マップでも鑑定目でもまだティアちゃんは確認できる。死んではいない?
あの選択ノ死は殺す技じゃないの?
しかし、それを解明する間もなく私は何度も何度も殴られ意識を保つので精一杯な状態になった。
何度か殴られたろう私はついに吐血した。内蔵が壊れたのだ。天使力が働かない、そのせいで全く身体が回復しない。多分この拳は天使力にもダメージを与えているのだ。
だめだ、多分私は死ぬ。ティアちゃんを守れない。
せめて死ぬ前にクロイツ様に文句を言いたかった。なぜあのとき私たちに相談してくれなかったのかと。私はクロイツ様に復活して欲しいと思っている。でもクロイツ様に対する恨みもある。
ガリウス様を悲しませた恨み。私はその恨みを晴らすためにクロリア様の側にいる。そして毎晩彼女の体を凌辱する。心はクロリア様のものでも、どこかで繋がって見ているだろうから。
でも後悔もしている。そんな気持ちでクロリア様と一つになっているから。私を好きだといってくれているクロリア様を欺いた。
私はクロリア様を心から好きかと言われれば、その気持ちはティアちゃんにすら劣るのかもしれない。
でも離れたくない、クロリア様から離れたくない気持ちは本当だ。
離れたくはない。けど、クロリア様の精神が、心が、私とシルフィーネ様で作ったものだと知ったらクロリア様はなんと思うだろうか。やはり嫌われるだろう。わたしは自分勝手で最低の女だから、それもしかたない。
でも、捨てられたくない。
……できれば最後に謝りたかった。
ドゴンッ!!
爆音が響き渡り、私はその衝撃で弾かれ地面に落ち横たわる。うっすらと見覚えのあるレッグアーマーが目に入る。
あれは私の作った鎧だ。心を込めてあの人のために作った白い鎧だ。
「この糞女! 人の嫁にこんなことして生きて帰れると思うなよ!!」
そこにいたのは天空王ノ翼剣と黒魂ノ勇者剣の二本の剣を持ったクロリア様だった。
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なろう掲載日 2018/11/19 21:33
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あらすじを読んでいただきありがとうございます。
併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。
より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!
性奴隷を飼ったのに
お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。
異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。
異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。
自分の領地では奴隷は禁止していた。
奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。
そして1人の奴隷少女と出会った。
彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。
彼女は幼いエルフだった。
それに魔力が使えないように処理されていた。
そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。
でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。
俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。
孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。
エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。
※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。
※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。
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