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第三章 ミスティアとクロイツ ―ふたりの魔王討伐―

ミスティアと勇者の功績 その二

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 ここは大和神国の地下実験施設、私もここで作られた・・・・その一角に牢屋のような場所がある。実験体を保管しておく部屋だ。ここで私は実験体一号の精霊鬼フィリィアに会った。

 元々実験体2号に会うために来てたのだけど、実験体に番号が付くのは真奈美が直接関与した場合で私には番号は無い。

 実験体2号の牢の前にたどり着くと彼はうなり声をあげる。
 もう言葉もロクに話せない彼に私は手を差し出す。
 その手の温もりを味わうように彼は頬ずりをする。

 しばらく好きにさせたあと私は腕を引き戻すが彼は名残惜しそうに指を絡める。

「今日はお別れを言いに来たの」
「ぎゃ?」

「私は勇者になる為にここを出るわ」

「ぎゃだ!」

「ごめんね、でも行かなきゃいけないの」

「いがないじぇ!」

「ごめんねランスロット」

 私は彼に謝りきびすを返すと牢を後にした。後ろからはガンガンと檻を叩く音と猛獣のような呻き声がが響き渡っていた。



「それじゃあ、みんな私のいない間、町の事をよろしくね」

 私は他の獣人達に、町のみんなを守るようにお願いをした。

「大丈夫、ミスティアが勇者になって帰ってくるの待ってるからさ」

 そう言ったのは副隊長サブリーダーのゼンクウだ。待つか……。

「おいサグル! ミスティアのこと任せたからな。手を出したらぶっ殺すぞ」

「大丈夫ですよ、僕はそう言うの興味ありませんから」

 その言葉にゼンクウ達はグウのもでない。
 あの戦いの後、ゼンクウ達は一日中土下座をして謝ってきた。ニグルの行いを見ていて自分達がどれだけ私に酷いことをしていたのか理解したと言うのだ。

 私は皆を許した。ちゃんと何が悪かったのか分かってくれた。だから許した。怒るほど、きれいな体でもないしね。


「それじゃあ行くわね」

「気をつけてな!」「頑張れよ!」

 みんなが思い思いの激励をして私達を送り出す。
 私達は仲間や町の人達に手を降ると馬に乗り旅立った。

「ミスティア様、まずどこに行くんですか」

「魔王城」

「え?」

 予想もしていなかったのか、サグルの顔は驚きの色を隠せない。

「だから魔王城よ、ガリウスに直接会って魔王をやめさせる。半年後の選抜なんて待っていられないわ」

「分かりました。では、テレポーターで南のドリステン王国に転移してそこから向かいましょう」

「とめないの?」

「はい、僕はミスティア様のサポートですから」

「……そう」

 テレポーターは大和神国にもある。だけど大和神国のテレポーターを使用するわけにはいかない。行き先がバレてしまうし、使わせてくれるわけがない。

 一応、勇者候補者はそれぞれ代表国から連合王国より渡された通行書代わりのペンダントを持つ。それでテレポーターを自由に使うことができるそうなのだ。

 まあ、遠い国では王国連合まで1年以上かかるし当然の処置ね。

 このテレポーターは大和神国の技術で作られている。動力に魔物の魔石を使った魔道具だ。

 大和神国製の魔道具は全部魔石を使う術者のMPは一切使わない上に特殊なものが多く便利だ。

 だがそのせいで魔石の供給が追い付いていない。魔石の値段は高騰しており冒険者は冒険をせず魔物狩りにいそしむものばかりになっている。

 冒険者なんだから冒険しなさいよ。

 冒険者ギルドが狩猟ハンターギルドではない理由は3年に一回現れる迷宮ラビリンスタワー伏魔殿パンデモニウムの三種の幻想遺跡ルイナス、それらを調査、踏破するのが冒険者ギルドの使命なのだ。

 冒険者ギルドには3人の覇王がいる迷宮の覇王、塔の覇王、伏魔殿の覇王だ覇王になるにはS級冒険者でなおかつ幻想遺跡ルイナスを攻略したもののみが現覇王に挑戦して勝つことにより覇王になることができる。

 つまり冒険者は覇王を目指すために幻想遺跡ルイナスを踏破するのが本筋なのだ。とは言え幻想遺跡ルイナス内の魔物は魔石を落とさない。

 代わりにアイテムを落とすのでそれを売って生計をたてるのだけど危険の割に実入りが少ない。アイテムはかさばるし奥に行かなければ魔導具や魔法具は手に入らない。

 魔石を持つ魔物を狩るなら魔窟に入るかフィールドにいる魔物を狩るしかない。

 しかしゴブリン種だけは別だ、あれだけは自然繁殖をするその為魔石を持っていないものが多数なのだ。

 もちろん魔窟から出てきたゴブリンは魔石を持つしかし外見上からは判断ができない。だから冒険者はゴブリンを狩らない。なのでゴブリンが増えると言う悪循環が生まれる。

 その為B級冒険者の責務として任務化しているのだ。放っておくとゴブリンはねずみ算式に増えていくから狩らないと大変なことになる。

 しかも奴等は進化する進化してグレムリンやオーガ等の鬼種と言われる魔物に進化する。進化をするとその体に魔石を宿すので余計ゴブリンを狩らなくなるのだ。

 勇者をしてた頃の冒険を思いだし愚痴をこぼすが、彼らも生活しなければいけないのだから身入りが良い方にいくのは仕方ないことか。

 クロイツ……。

 初めて私と会ったのはグランヘイムで鑑定書に救国の女勇者ヴァルキリアと出てから3ヶ月ほどした後のことだった。

 通常は勇者は勇者としか出ないのだが、私は救国の女勇者ヴァルキリアとでた。
 当然だ、この称号はガリウスに付けてもらったのだから。

 でも、それが間違いだった。私は勇者でうまい汁を吸おうとする貴族連中に利用された。

 でもそのお陰でクロイツに会えたのだけど。彼女とは親友だった村を出て始めてできた友達だ。
 そして恋のライバル……。

 ガリウス、あなたはなぜクロイツを殺したの。彼女はあなたを好きだといっていたのに。

 あの時、私はどうかしていた。クロイツのことをもっと聞きたかったはずなのに、ランスロットとキスをした。ガリウスをさげすみながら。

 今度はあの時とは違う、ちゃんと話し合おう。そして魔王なんてやめさせないと。

 この辺りの魔物は現在はほとんどいない、魔石をとるために乱獲された。

 大和神国は都市維持のため大量の魔石を消費する。なんでも現代科学とやらはこの世界では作った瞬間灰になって崩れ落ちるそうで、異世界の技術で置換しなければならないと、前にカスミが言っていた。

 カスミは最近接し方が最初の頃とは全然違う。今は本当にフレンドリーなのだ。

 私の装備を整えてくれているのも彼女なのだ今回もイクスソードを改造してくれた。

 獣人であり精霊である私は魔法が使えない。だからイクスソードに魔法回路を入れて凝縮魔石から送られるマナをMP変換していくつかの魔法を使える魔導具を組んでくれた。

 使える魔法は全部で三つ。中級火魔法の火災旋風ファイオウインディ、中級水魔法の超酸の雨アシッドレイン、中級魔法剣の風刃剣ブラストソード疾風はやての三つだ。

 使用回数はどれを使っても30回、30回使ったらカートリッジを取り替えなければならない。そのカートリッジは全部で10個持たされている。補充もしてくれるのでまさに至れり尽くせりだ。

 まるで自分の罪を許してもらうかのように私に良くしてくれる。カスミは人工的に生まれた生命だそうだが、そんな彼女にも人の心があるのか、それとも芽生えたのか……。

 彼女がしたことは許せないけど今の彼女を見ていると怒る気がしない。生まれたばかりで人の感情を解してなかった故の行いだったのだろう。それに装備を充実させてくれるのは素直にありがたい。

 次に会うことがあれば、笑いかけてみよう。

 生きてかえってこれればね。


 二日ほど街道を進むと前方から軽装な鎧を来た一団が見えてきた。中には見知った顔もいる。現在、唯一大和神国と貿易が許されているブルギネス王国の商隊だ。

 ブルギネス王国は大和神国と王国連合をり成した国なので特別に許されているのだ。

 あちらも私達に気がつき騎士達が前に出て防御陣形をとる。
 彼らの目じゃ私達の顔は認識できないか。
 そのまま構わず前進すると隊長格が気がついたようで武器を下ろさせる。

「これはこれはミスティア様ではないですか、このような所まで私達を出迎えに来てくれたのですかな」

 そう言ったのは商隊の隊長、ニコルだ。

「いえ、私達は大和神国代表の勇者として選ばれるために功績を積みに行くところです」

「おお! そうでしたか、私は昔からミスティア様のファンでして選ばれるのを期待しております」

「ありがとうございます」

「どうでしょう、今日はここでキャンプを開きますので夕食をご一緒にでも」
 隊長のニコルはここに来る前に遭遇したグレートベアーを狩ったそうでそれを振る舞うと言う。

 私はずっと壁の守りで外の情報を知らない。サグルは色々情報を持っているようだけど、私がなにが分からないかを分からないだろう。
 情報交換しておいた方が良さそうね。

「分かりました、ご相伴におあずかりします」

「おお! では早速夜営の準備をさせますので」

 そう言うとニコルはすぐさま部下に指示をだし、夜営のキャンプをはらせた。
 さすが軍隊手際がいい。

 薪を組み火をくべると熊の肉を処理が始まった。大体の処理は狩ったときに終わっており、あとは切り分けて串に刺すくらいだ。

 旅の調理と言えば基本は直火焼きでスープなどに肉は入れない塩味のお湯が基本だ。

 洗い物ができない街道での食事はそれが普通なのだが、この商隊は大和神国製の魔導具を大量に持っており水やお湯も魔導具で作り出せる。

 この大和神国製の魔導具は凝縮魔石でしか動かない。凝縮魔石は大和神国しか作れない。

 だから魔導具を真似て作っても凝縮魔石がなければ同じ効果はでない。つまり便利な生活をしたければ大和神国と友好を結ばなければいけないのだ。

 うまいことを考えるものだと素直に思う。これによりグランヘイムを滅亡させたことは過去の出来事になっている。

 威張りくさるだけのグランヘイム王国より自分達の生活を豊かにしてくれる大和神国の方をとるのは仕方ないことなのだ。

 しかも人は一度便利な生活を覚えてしまうと、その生活を捨てれない。今の元グランヘイム国民がそうだ。世界を遮る壁が無くなり外には魔物をすらいないと言うのに大和神国から出ようとするものは一人もいない。

 それだけ大和神国の生活は魅力的なのだ。

 私達は隊長ニコルのテントに案内され、そこで食事をすることになった。しばらくニコルとワインを飲み談笑をしていると料理が運ばれてきた。

 出てきたのは豪華なフルコースだった。まさかこんな場所でフルコースを味わうことになるとはこの商隊はコックも常駐しており、朝昼晩と3食ご馳走が食べられるとニコルが自慢をする。まあ全ての調理器具は大和神国製なんですけどねと言うオチ付きで。

 フルコース料理なんて久しぶりだけど、正直この料理は貴族達との怠惰な生活を思い出させる。

 隊長達と席を共にして食事をしながらも世界情勢等を聞くが。ガリウスはすでに三つの国を滅ぼしたそうだ。私はその事実に愕然として知らずに涙を流した。

 ニコルはその国の国民たちのために涙を流したと勘違いしたようで国民達は魔王軍に蹂躙されず、主に腐敗した王や貴族たちが粛清されただけだと言う。

 魔族や魔物達が人を選んで襲うなんてことがあるわけがない。だがニコルが言うには死んだのは全て民を苦しめていたり圧政を強いていた貴族や王族ばかりだと言う。

 つまり、ガリウスは魔王になっても正義の人だと言うことなのだ。

 でも、世界は滅ぼすと言う。言ってることとやってることが支離滅裂だ。

 もしかしてガリウスは誰かに操られているんじゃないの?

 そうだよ、あのガリウスが世界を破壊するなんてするわけがない。

 食事を終えた私は話しもそこそこに床に着くことにした。

 眠い、すごく眠い。久々の旅で疲れたのかしら。

 サグルはニコルとまだ話がしたいと言うので彼を残して私は自分の為に立てられたテントに潜り込むと、すぐさま眠りに落ちた。

 次に目を覚ましたとき私の上にはニコルがいた。

「これが勇者ミスティアか、たまんねーぜ」

 体が動かない、なんで? そして息も荒く腰を動かすニコルの姿が徐々に変化していく。その姿は異形、話しに聞く魔族のそれだった。

 なぜニコルが魔族に。

「ぐぎゃ!」

 異形に変わったニコルの胸に鋭利な刃が生える。後ろからサグルが刺し殺したのだ。

「ミスティア様大丈夫ですか!」

「か、からだ。うごか……ない」

 ロクに喋ることもできない。なんで? 私の体は半分精霊で毒に耐性があるはずなのに。

 サグルは私を毛布ごと抱えるとテントを飛び出す、騒ぎを聞き付けた兵士達が私達を取り囲む。

「ニコルは魔族でミスティア様を襲った。ミスティア様を助けるためにニコルを殺した確認して欲しい」

 それを聞いた兵士達に動揺が走る。

「分かった、ならば私が確認しよう」

 そう言ったのは副隊長のザコスだった。彼と数人がテントに入り検分が行われた。兵士達は私達に武器を向けたままである。

 私の体も依然として不自由なままだ。

「すみません3m以内に入っていますが許してください」

「ヴぁが……。いばはカンゲイないでじょ」

 ダメだうまくしゃべれない。まるでランスロットのようだ。

 しばらくすると検分をしていたザコス達がテントから出てきて兵士に武器を下げるよう命じた。

 そして、ザコスは私に謝罪をする。魔族の侵入を見抜けぬばかりに辛い目に遭わせてしまったと。

 テントから出されたニコルの遺体はそのまますぐに焼きつくされた。魔族は焼き払わないと復活すると言う伝承があるからだ。

 人の焼ける臭いが鼻にまとわり付き、不快感が私の心を苛立たせる。

 サグルは私の側を離れにずにいる。あなたは僕が必ず守ると言って。

「魔族がミスティア様を襲うと言うことはガリウスが仕掛けてきたと言うことでしょう」

「そんじゃわげがにゃい!」

 ダメだ否定したくても舌が回らない。

 でも、魔族達の王がガリウスなら……。

 ガリウスは私を恨んでいるのかもしれない。いや恨んでいる。あの時ガリウスは私を責めたてた。

 そうだよね他の男とイチャついてたら誰だって怒るよね。

 ……私はバカだ。
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