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第三章 ミスティアとクロイツ ―ふたりの魔王討伐―

ミスティアとゴブリン軍団 終演

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   外壁が作った砂山に向かって走っている、後方からは傷ついた7人の狼人たちがついてきている、ゼンクウはダイスに担がれていて未だ気絶中だ。

「あなた達はここで傷の回復を優先して」

「ミスティア救助に行くんだろ、俺達もいくぜおいてけぼりは無しだぜ」

「……わかった、なら手伝って」

 城壁がない以上魔物が砂山を乗り越えて町に侵入する可能性もある。狼人達には魔物から国民を守るように指示を出した、皆は獣化して四方に散った。

 そういえば絆を深めていないみんながなぜ変身できるのだろう。

 そんな事よりも、今は人命救助が優先だ。

 砂山は500mはある。下に埋まった人は掘れないんじゃないかと思ったけど、どうやらあの魔法球とやらは包んだ人を自然に上方へと引き上げてくれるようだ。

 上がってきた魔法球を刻印のある方の手で叩くと、パリンと言う音とともに人が飛び出した。

 飛び出してすぐは意識がなかった人たちも、しばらくすると皆意識を取り戻し生きている喜びを味わっていた。

 だけど私はそれらの中に入ることは無く、まだ魔法球に閉じ込められている人たちを助けるために奔走した。

 救出はそんなに難しいことではないけど、救出後そのまま放置すると砂の中に潜ってしまうので一回一回地面が硬い場所まで連れて行かなければいけない。

 これでかなりの時間をさいてしまう。

 何度かやるうちにあることに気が付いた、魔力球の中は液体で満たされており割ることでその液体も外に漏れだす、その液体が砂に吸収されしばらくすると砂漠のような砂から栄養は豊富そうな黒色の土壌へと変化するのだ。

 しかも連鎖的に広がるので救出した砂山は今や小高い山になっている。

 それにより格段に救出速度が上がったがまだまだ数は多い。

 大和神国を囲む壁が崩壊したのだからこの国を一周する必要がある。

 私は不眠不休で魔力球を割っていった。


「これが最後の一個」

 私は1週間ほどかけ全ての魔法球を破壊した。

 最後の一個を割ると同時に大歓声と拍手が沸き起こる。いつの間にか私の周りには大勢の人が集まっていたのだ。

「ミスティアありがとう!」

「ミスティアはやっぱり俺達の勇者だ」

 元グランヘイムの民達が私を祝福してくれている。涙を流して私の名を呼んだり、手を合わせて拝んでいる人さえいる。

 素直にうれしい、許されたことが、いや許されてはいないかもしれないだけど私を勇者として認めてくれている。

 それはガリウスから与えられた力であり、ガリウスが認められたことと同義なのだ。

 今、私を罵倒したり石を投げるものはいない。みんなは石の代わりに食事を渡してくれる。そういえば一週間何も食べていなかった。

 よく体が動くものだと自分の身体ながら感心する。

 私はその場に座り込み、みんながくれた食料を口に運ぶ。いつも食べてる配給品の食事なのにおいしい、こんなにおいしい食事をしたのは久しぶりだ。
 
 でも少し、しょっぱいかな……。




◆◇◆◇◆

「マスター戻りました」

 精霊鬼フィリィアが城に戻ると臣下の礼をとる、今までの精霊鬼フィリィアなら飛びついてきそうなものをやはり部下や子を持つと変わるんだな。

「お帰り精霊鬼フィリィア、作戦は成功したかい?」

 俺は玉座に座り戦果を聞く。戦果と言っても誰が何を倒したとかではない、作戦はうまくいったかということだ。

「それが、てんで弱いんですよあの犬っころ達」

「モミジ、まだ報告が終わってませんよ、控えなさい」

「は~い」

 モミジが少し前の精霊鬼フィリィアのように振舞う、今度はモミジに部下を付けないとダメかな、そしてその部下も……。無限ループだな。

「大和神国の外壁はすべて砂となって崩壊しましたが、住民を巻き込んでしまいました」

 人死には覚悟していた、無関係な罪のない人間を殺すことに罪悪感がないわけではない、だとしても俺はミスティアを助けたい、助けた後ならいくらでも罪を償おう。

「とは言え、誰も死んではいないだろ?」

「やっぱりリライマをよこしたのはマスターですか。そんなに私が頼りないですか?」

 リライマを隠密で行動させたことで、精霊鬼フィリィアを怒らせてしまったか。
 最初から説明したらリライマが従軍に加わることを断固拒否されたろうしな。

「そうじゃないよ、精霊鬼フィリィアの力は信じてるし頼りにもしてる。でも、精霊鬼フィリィアはまだ精霊として若い、それ故に魔法も使えないだろ? だから不測の事態に対応できない、リライマは保険だよ」

「納得はできませんが、理解はしました」

 そう言うと精霊鬼フィリィアは俺に抱き着こうとするが精霊龍メルティナのデコピンではじけ飛ばされる。

「酷いですよ何するんですか、精霊龍メルティナ様」

「お前は現在この中で3位の実力だ1位がリライマ、2位がワシ、つまり婿殿の両翼はうまっておる抱きつきたければ強くなれ」

「そんなー、魔王マオタンちゃんは4位なのに、ガリウス様の膝の上に乗ってるじゃないですか」

「私はガリウス様のペットなので膝の上が定位置なんですよ?」

 いや、ペットと言われても、少女をペットにする変態になったつもりはないですよ?

 見た目は10歳ほどの少女だが実年齢はマイラさんと同い年だから幼女ではないんだが。
 正直、重い……。

「ずるい! ずるい! ずるい!」

 精霊鬼フィリィアはまるで欲しいものが買ってもらえない駄々っ子のように、床に寝そべりじたばたする。

 大人になったと思ったのは気のせいでした。

「いい加減にしろ子供じゃあるまいし、5人衆もあきれておるぞ」

 リライマが精霊鬼フィリィアに怒鳴るがどこ吹く風、馬耳東風である。

「私はガリウス様に頭をなでられるまでここを動きませんし、もう何もしません。働きたくないでござる」

 静さんの影響か、たまに変な言葉を使うようになった。あまり変なことは教えないでほしいんだけど。

 俺は魔王マオタンを玉座に座らせると精霊鬼フィリィアに歩み寄る。頭をなでると精霊鬼フィリィアは俺に抱きつき耳打ちをする。

 『ガリウス様、ミスティアをこちらに引き入れることはできないんですか?』

 この話は何度もしてるし、この話をするとリライマが怒るので駄々をこねるふりをして俺をこさせたのか。

 俺はその問いに黙って首を振った、壁を壊したのは力の誇示と言うのもあるがグランヘイム国民の離反を狙ったというのもある。

 ただ、あそこの生活はかなり水準が高く離反するものはほとんどいないだろう。つまりミスティアを新グランヘイムに連れていくことはできないということだ。

 国民が一人でも残ればミスティアは見捨てないだろう。だから新グランヘイム王国では駄目なのだ。

 ミスティアは思い込みが激しい、こうと思ったら猪突猛進だ。

 子供の頃、俺が孵化させようと思って取ってきた山鳥の卵をゆでて食べちゃって、俺が一日中泣いていたらボロボロになって山鳥の卵を二個取ってきてそれをゆでて殻をむいて、俺の口に押し込んで無理やり泣き止ませたっけ。

 何も考えてないだけかもしれないけど。俺は懐かしさのあまり噴き出してしまった。

「わたし、なにかおかしいこと言いましたか?」

 精霊鬼フィリィアは俺が噴き出したことをにキョトンとした表情をする。

「ごめん、子供の頃のミスティアを思い出して、噴き出してしまった」

「そうですか、ミスティアも同じようなことを言って噴出してましたよ」

「意外と同じ思い出なのかもしれないね」

「共通の思い出があるのはすごく羨ましいです」

 俺はそれに黙って頭をなでて答えるしかなかった。

「そうだ! 静様もっとパワーアップしてください」

 唐突に精霊鬼フィリィアが静にパワーアップの懇願する。

「何じゃ藪から棒に、お主のパワーアップはもう限界じゃぞ」

「もっと強くなりたいんです、リライマを倒せるくらいに」

 仲間を倒すためって。俺らは一応、世界を敵に回す魔王軍だからね。

「無理だよね……。精霊龍メルティナでさえ勝てないのに精霊鬼フィリィアが勝てるわけないだろ」

「そんなー」

 静は精霊鬼フィリィアのパワーアップは無理だと言う。

 神剣デバイスも装備させてるし色々な能力も与えた。しかし、基本スペックはこれ以上あげることはできない。

 精霊故にパワーアップには時間が必要なのだそうだ。

「おい静、勝手に負けたことにするな、ワシは母神様の言いつけで精霊龍同士では戦ってはならぬという掟を守っただけだ」

 まあ、こ奴がその掟に触れるかはわからぬが母神様を怒らせたくないでなと精霊龍メルティナが言う。

「で精霊龍メルティナ様、実際戦ったらどちらがお強いんですか?」

 モミジが空気を読まずに危険な質問をする。だが、そこは二人とも意外に大人なので争いにならない。
 今回は特に精霊龍メルティナが引くというありえないミラクルが起こっているしな。

「正直、戦えばワシが勝つだろうがこの星に住む者がいなくなるぞ」

「ほう、言うじゃないか白黒はっきりさせないとダメなようだな」

 全然大人じゃなかった……。


 1位である総長は軍を管理しなければいけないので、面倒くさがりの精霊龍メルティナはワシはやらんと言い、暫定でリライマが一位になったのだが白黒はっきりしないのに順位を付けたのは良くなかったな。

 軍を作るうえで順位は大切だと言う静さんの助言でやったものだったのだが。

 「よし、では第二計画に移ろうか」

 俺はじゃれる二人を止め次の作戦にうつることにした。


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