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第二章 真の勇者は異世界人

精霊たちの戯れ

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 魔王より弱い勇者が、なぜ魔王に勝てるのか。
 自分の力に過信していた私は失念していた。

 これがゲームだったらどうする?

 簡単だ勝てない敵にはバフ(強化系魔法)で自身を強化すれば良いのだ。

 足りないなら補え。

 神代魔法 土の三文字

 ソイル スエロ フムス

(自身及び仲間の防御力100%アップ)

 神代魔法 風の二文字

 エアル バレル

(自身及び仲間の俊敏100%アップ)

 神代魔法 火の五文字

 カエン エルド チニヤ フエゴ フォク

(自身及び仲間の攻撃力300%アップ)

 神代魔法 光の二文字

リヒト ルスト

(精神力200%アップ)

 バフ、バフ、バフ、etc.エトセトラetc.エトセトラ

 かけられるだけの強化魔法や補助魔法をかけた。

 これで少しでも精霊鬼フィリィアに近づければ、勝機はあるはず。

「準備は整いましたか?」

「わざわざ、待ってくれてたんだ。ありがとう」

「ええ、相手が戦闘準備中は攻撃してはいけないとしず様に言われておりますので」

 ん? しず? どこかで聞いた名前だけど今はそんなことはどうでも良い、目の前の敵に集中だ。

 ミリアスは私のバフ以外に自分の神の祝福プライム 絶対領域おかされざるしんいきを使う。

 これは自分の防御力を300%上げ、パーティーメンバーへの攻撃を自動で迎撃する。

「では、準備運動と行きましょうか」

 精霊鬼フィリィアはまるで私達を試すように斬撃を放つ。

 斬撃はミリアスの盾に当たり衝撃が消し飛ぶ。

 いける斬撃の剣筋も見えた。

 これなら戦える。

 私の思いを察したのか精霊鬼フィリィアはニヤリと笑う。

「今の攻撃は私の20%の力です」

 力を抑えて戦うとか、どこの筋肉だるまよ。

「あなたも随分自惚れが過ぎるんじゃない、自分が最強のつもり?」

 意趣返しである。

 さっき、愚か者と言われて顔真っ赤なのである。

「そうですね世界で3番目に強いんですから最強と言ってもいいんじゃないですかね?」

 この女、自分をどれだけ強いと思ってるんだ、とは言え私も人のこと言えないわね。

 今まで自分が最強だと思っていたのだから。

「では、10%づつ上げていきましょうか」

 まずい、ミリアスの絶対領域おかされざるしんいきは自動防御だ、防御力を越えた一撃が与えられたらそのダメージはミリアスを襲う。

「私が前に出るわ」

「ダメだよマイラ姐! 俺が耐えるから、あいつの攻撃を見極めてくれ」

 ミリアスは人柱になるつもりだ。そんな事させるわけにはいかない。

 だけどミリアスは 私が前に出ることを許さない。

「俺を信じろよ、兄貴ほどじゃなくてもこらえて見せるから。それにこれは昨日俺が支えなきゃいけなかったのに直情的になった罰だ。だから今だけでもマイラ姐を守らせてくれよ」

 ミリアスの決意は固い。なら私のやることは一つだ、精霊鬼フィリィアの動きを見切る。

「分かった任せるわ」

 私の言葉にミリアスはサムズアップで答える。

「さあ、くそ女かかって来やがれ!」

「では、30%」

 まだ見える。

「それ、40%」

 大丈夫いける。

「ふふ、50%」

 最初は手だけで切っていたのが今ならわかる。

 冗談抜きで手を抜いていたのだ。

「ほらほら盾がもう持ちませんよ。60%」

「うるせぇ、お前の全力でも受けきってみせらぁ!」

「良い度胸です、ならば100%で行きましょうか」

 その言葉と共に、ミリアスの盾と鎧は粉々に切り裂かれ後ろに弾け飛ぶ。

 再度かけた守護星霊プラネットが致命傷を回避してくれた。

「さあ、次はそちらの小さな方ですか?」

 精霊鬼フィリィアはマリアに切っ先を向け挑発する。

 マリアは久々に二刀流になり精霊鬼フィリィアに攻撃を仕掛けようとするがが私はそれを止めた。

「お姉様、なんで止めるんですか」

 やる気になっていたマリアは抗議の声を上げる。

「大丈夫、あの女の弱点は見切ったわ。私にやらせて」

「さすがはお姉様です!」

 嘘である、ミリアスと違いマリアでは防御力が違いすぎる。

 守護星霊プラネットが付いていても精霊鬼フィリィアの一撃を防ぎきれるか五分五分、いやかなり分が悪い、だから私がいくのだ。

 とは言え、弱点が見えたと言うのは嘘ではない。

 この精霊鬼フィリィアの攻撃はばか正直なのだ。

 フェイントと言うものが一切ない。

 そして、最も重要な事は自分の力を過信して自惚れていると言うこと。

 良い例が私だ、自惚れは隙につながる、先程痛いほど分かった。

 精霊鬼フィリィアに勝つには、その隙に活路を見出だすしかない。

『ケンケン頼みがあるの』

 私は作戦をケンケンに伝えて協力をあおいだ。

『分かったやってみよう』

 私は振り向きざま精霊鬼フィリィアに切りかかった。

 精霊鬼フィリィアの100%は踏み込まなければ出せないからだ。

 だが、精霊鬼フィリィアに踏み込む隙を与えないように攻撃する私の作戦がバレているように精霊鬼フィリィアは躊躇無く前に踏み込んだ。

 100%よりも動きが早い、まさに全身全霊の120%の動きだ。

 だけど勝った、私は剣を突きで放つ。

 その瞬間勇者の剣ブレイブソードは槍に形状を変化して伸びる。

 私のスピードと精霊鬼フィリィアの120%の全力のスピード。

 更にケンケンが槍に変化して間合いが一気に伸びた。

 その攻撃は光速にも達する程の刹那せつなの一撃。

 精霊鬼フィリィアと私は打ち合い互いにすれ違う。

「嘘でしょ……あれを避けるの?」

 ダメだった矛先が精霊鬼フィリィアに当たる瞬間、刀で軌道をずらし刹那の一撃を避けたのだ。

 あの一撃をよけられたら猛攻撃する手段がない、同じ技は二度と効かない手詰まりだ。

 だが、避けた本人はわなわなと肩を震わせている。

 敵属性! 精霊鬼フィリィアの表示が赤くなる。

「きさま! よくも、よくもマスターから頂いた服を切り裂いてくれたな!!」

 見ると袖口が少し切れている、本当に少しだ。

「許さない、本気で相手をして上げましょう」

 本気? 今まで本気じゃなかったの?

「来い!四王剣」

 その声と共に、虚空より四本の剣が地面に突き刺さる。

「精霊転じて……」

 だが、精霊鬼フィリィアがその先の言葉を唱えることは無かった。 

 精霊鬼フィリィアが地面に突っ伏している。

 精霊鬼フィリィアが立っていた場所には一人の可憐な少女が立つ。

 精霊神である精霊龍メルティナ、精霊の中の精霊、神と同等の存在。

 その力は無限、魔王さえもひざまずく世界の理。

 なぜそれがここに。

「貴様、本当に殺すぞ」

 精霊龍メルティナは倒れている精霊鬼フィリィアの頭を蹴りつけそう言い捨てた。

「酷いですよ精霊龍メルティナ様、何するんですか」

 いつの間にか緑表示に戻った精霊鬼フィリィアが、不当な扱いだとばかりに精霊龍メルティナに抗議をする。
 
「愚か者が、婿殿のげんを忘れたか!」

「忘れていませんよ、でも見てくださいよこれマスターに初めて買っていただいた服を切られたんですよ? 服を切られたんだから、切れても仕方ないですよね?」

「なに上手いこと言った、見たいにどや顔しておるのだ」

 そう言うと精霊龍メルティナ精霊鬼フィリィアの頭をげんこつで殴る。

「痛いですよ精霊龍メルティナ様、初めては大切なものなんですよ? 初めても痛いんですよ?」

「婿殿にもらった全ての力で復元するエリキシーで直せばよいだろうに」

「分かってませんね精霊龍メルティナ様、これも大事な初めての贈り物のなんですよ? 乙女心もう少し理解しないとマスターに嫌われますよ?」

「うるさいわ、ゴブリン風情に乙女心とか言われたくないわ!」

 なんで漫才が始まったの? 意味が分からない。

 それにゴブリン? 誰が?

「まあよいわ、帰るぞ」

「仕方ありませんね、もう少し相手をしたかったのですが」

「ちょ! 何なのよ」

 私は唐突に帰ると言い出した二人に怒鳴り付ける。

 当たり前だ、殺すと言っていた奴をこのまま逃がすわけにはいかない。

「勇者マイラよ、今日の所はこれで引き上げよう、だが次に会ったときが貴様の命日だ!」

「なんだそれは」

 精霊龍メルティナ精霊鬼フィリィアの捨て台詞に首をかしげる。

しず様に帰ってくるときは、こう言えって言われたんですよ」

「ふん、あやつも相変わらず意味がわからんな。ん、マイラ?」

 私の名前を聞き、私の方にツカツカと歩み寄る。

「貴様、マイラと言うのか?」

 その目は闇、漆黒の闇、見ているだけで魂が消えてなくなりそうになる。

「そうよ」

 私は目をそらし、一言だけ答えた。

「そうか、貴様はこれから大いなる絶望を味わうことになるだろう。だがそれは予定調和なのだ、自身を責めるなよ」

 その言葉はあまりにも慈悲深い、なぜ? なんの事? 疑問は尽きないが問いただす事など出来ない。

精霊鬼フィリィア行くぞ」

「待ってくださいよ」

 なぜか私たちは殺されること無く、精霊達の蹂躙劇は終わりを告げた。
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