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第一章 勇者と魔王
すれ違い
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ふて寝をして夜中に目を覚ました俺はウィルソンが焚き火をの前で夜番をしているのを見て後悔した。
俺はすぐに起き上がり護衛を受けておきながら夜番をしない事をウィルソンに謝罪をした。
護衛がふて寝するなんて最悪だ。
だが、ウィルソンは全く気にする様子もなかった。
先程から、自動的に魔物が撃退されているのを眺めているだけなので楽なものでしたと言ってくれた。
「しかし、この魔法はすごいものですな」そう言って感心するのだった。
俺はそれには答えず、もう一度謝りウィルソンと夜番を代わってもらった。
焚き火に薪をくべとパチパチと弾ける。
焚き火の炎を見ると思い出す。
焚き火を囲んでミスティアと踊ったダンスは社交場でのダンスと違いお遊びのようなダンスだったが楽しかったな。
別に婚約とか結婚の約束した訳じゃない、俺が一方的に想いを寄せてただけだ。
恋人ができたミスティアを恨むのはお門違いだ。
焚き火を見ながら一人で悶々としているとマイラが荷馬車から降りてきて俺の横にちょこりと座る。
俺は少し腰をずらしマイラから離れる。
だがマイラはお構いなしに更に詰めてくる。丸太の椅子はここで終わりだ逃げ場はない。
「私のこと、お嫌いですか?」
マイラは悲しそうな表情をして俺の顔を覗く。
「……好きとか嫌いとかじゃないです。異性の方にこんなに近づかれたことはあまり無いもので」
村に同世代の異性はミスティアしかいなかった。
みんな母と言って差し支えない年齢の人達で意識することなどなかった。
そう言えばミスティアもマイラのようにお構いなしで抱きついてきたりしたっけ。
「夕食の時の話し、考えてもらえたでしょうか?」
夕食の時? なにか話しただろうか。
俺がキョトンとしていると思い出せないのを察したのか、マイラはもう一度説明をする。
「ガリウス様と一緒に、冒険者になる話です」
ああ、その話か。ゴブリンから逃げるような娘が冒険者など無理だろうに。
この娘はめげないな。
「その話なら最初から本気にしてないよ。マイラとパーティーを組んだとしても俺は君の安全を保証できないからな」
「大丈夫です、自分の身は自分で守ります!」
マイラは両手でガッツポーズをとってやる気を見せる。
「ゴブリンに追われていたような娘がか?」
少し厳しいようだが全く戦えない娘を同伴して冒険者などできるわけがない。
マイラは二の句がでず俺に懇願するような目で同情を誘う。しかし俺はムリなものはムリだと突き放すとマイラは勢いよく立ち、俺の前に来て宣言する。
「弱いせいで仲間にしないというのでしたら強くなります。ガリウス様の迷惑にならないように強くなります。強くなったらはガリウス様の仲間にしてください!」
生まれてこの方ここまで強く人に求められたことはない。ミスティアの件で弱っていたのかもしれない。これ以上断るのはマイラが可愛そうだと思ってしまった。
「そうですね、仮に貴女がA級冒険者になるようなことがあったら一緒に冒険しましょう」
この国でA級冒険者がいかほどいるかは知らないが、この娘がA級冒険者になるのは不可能だろう。
「ガリウス様 、言質は取りましたからね」
そう言うとにこにこと俺に微笑みかけた。
その笑顔の意味が俺に対する好意であることにさすがに気が付かない鈍感ではない。
「マイラさん」
「マイラでいいです」
間髪いれずに呼び名を正そうとするが、両親がいるのに急にマイラとか呼んだら変な意味に取られかねない。
「マイラさん、俺には好きな人がいるんです幼馴染で勇者のミスティアです」
真摯なマイラに嘘はつけない俺はミスティアのことを包み隠さず話した。
「それでも私は諦めません、必ず振り向いてもらえるように頑張ります」
マイラは真剣に俺の話を聞いて頷くがそれでも諦めないという結論を出した。
なんで、この娘は……。俺にもマイラのような強さが欲しい。
そうだな、諦めないか。
俺はまだミスティアに会ってすらいないのだ、結論は会ってからでも遅くない。
もし婚約が事実で、俺を恋愛対象としてみていなかったのなら、おめでとうと言ってミスティアを祝福しよう。
マイラと話し込んでいると、東の空が紫色に変わってきた。どうやら夜明けのようだ。
「きれいですね」
「ああ、心が洗われるよ」
「汚れてたんですか?」
「そうだね汚れてた」
「はっ!ガリウス様もしや私の体を狙ってたんですか!?」
「それはない!」
俺たちは互いの顔を見合わせると大笑いした。その笑い声でマイラの両親も起きてしまい互いにバツの悪い思いをした。
空がピンクに変わる頃に朝食の準備を始めた。昨日の残りの肉をスープにぶち込んで温めパンで朝食の準備をした。
マイラはこのパンがお気に召さないようで、柔らかいパンが食べたいと嘆息の息を漏らすのである。
柔らかいパンってなんだ?
俺たちはテントや調理道具を片付けると、一路城塞都市へと出発した。
夜営地から馬車で半日程進むと城塞都市が見えてきた。
この日は魔物に襲われることもなく快適な旅だった。
城塞都市の壁は大木よりも高く、見上げるほどの石の壁の上では数人の兵士が見張りをしていた。
門の前の橋では三台ほどの荷馬車が止まっており、荷物の検査を受けていた。
俺達の番が来るとウィルソンは守衛に通行手形と何かの書類を見せる。
上等な紙でできたそれは商人ギルド証だそうだ。
この城塞都市は商人が優遇されており商人ギルドに入っていれば通行税は免除される。
無論、護衛の俺も免除された。
「アスチラン地方から来て護衛が一人とは無謀な連中だ」守衛の隊長が呆れる。
ウィルソンが俺に助けられたことを言うと、騎士団試験を薦められた。
今度の騎士団試験は、勇者パーティーの補充もかねているという。
勇者パーティーか、もしミスティアが俺を必要だといってくれるなら……。
だが必要ないと言われたら?
そうだなさすがにこの国にいるのは辛い。どこか別な国に行こうと思う。
村長には怒られるだろうけど、
愛し合う二人の邪魔をするほど悪趣味じゃない。
しかし、わざわざ他から勇者のパーティーメンバーを募集するなど騎士団は人材不足なのだろうか?
「勇者にはベテランの騎士の方のほうが良いんじゃありませんか?」
守衛は俺の問にばつの悪そうな顔をして答える。
「これは内緒の話だがな。今代の勇者様はもっぱら弱いという噂でな、皆臆病風に吹かれたのよ」
騎士団は貴族の子弟で構成されており弱い勇者に巻き込まれて死ぬのはゴメンだとみなさんかを拒否しているのだという。
なによりも第十八王子が勇者のパーティーに参加して魔物との戦いで死亡したのがそれに拍車をかけているのだという。
だから他から強者を騎士団に入れて勇者のパーティに入れれば騎士団から出したというメンツは守れるし自分たちは死なないしで一石二鳥といって喜んでいると守衛は呆れる。
そしてこの話には続きはある。
王子を助けられなかった事にに憤慨した王がミスティアを糾弾した。
弱いミスティアのせいで王族が死んだと。それは王族を傷つけたことと同義だと言うのだ。
理不尽だがそれがまかり通るのが権力なのだそうだ。
そこでランスロットがミスティアに助け船を出した。
ランスロットのギュリアム家は王に連なる血統の家で、昔から王家に使え将軍なども輩出する軍人貴族なのだという。
そのランスロットと婚姻し王家の縁者となることで今回の件は不問にして欲しいと王に懇願したそうなのだ。
普通に考えればランスロットの行動は素晴らしい。だが俺には嵌められたような気がしてならない。そう思うのは俺の嫉妬だろうか?
商業ギルドに着くと、ウィルソンは俺とマイラを商談室に案内し、そこで待つように指示をした。
狭い空間に男女を閉じ込めるって親としてどうなのか心配になるが俺を信用してのことだろう。
だが案の定マイラは獲物を狙うような目つきで俺を見るマイラは信用出来ないぞウィルソン。
「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ?」
「マイラのその獲物を狙うような目が怖くてね」
おちゃらけてそう言うとマイラは頬をふくらませる。
「ちゃんとA級になってから、あなたを迎に行きますから」
「マイラは俺よりも意思が強いね」
「恋する乙女は最強ですから!」
「恋する男はヨワヨワです」
そう言って俺たちは笑い合った。何気にマイラとは冗談が言い合える中になっていた。
二人で笑い合っているとウィルソンとネバダが入って来た。
「お邪魔でしたかな」
そう言うウィルソンの顔は、微笑ましい物を見るようにニコニコしている。親公認の仲みたいな雰囲気出すのはやめて欲しい。
ウィルソンは俺に素材の料金と護衛の報酬を渡すと再度お礼を言う。
皮袋は重く、中には金貨がゴッソリと入っていた。
枚数を確認すると金貨が32枚入っていた。
ウィルソンに確認するとB・オーガの素材が思ったよりも高値で売れたそうなので、その増加分だそうだ。本当にお人好しだな。
お金をもらった俺はそこで皆に別れを告げ別行動をすることを告げた。
マイラは寂しそうにしていたが、約束通りA級を目指すと言って息巻いていた。
「必ず! 必ずあなたの隣に立ちますから!」
俺は笑顔でそれに手を振って答えた。
少し名残惜しかったが俺にはやらなきゃいけないことがある。
ミスティアに会わなければ。
しかし会う方法がどこにも無い、そもそもどこにいるのかも知らない。
俺は行くアテもなく街をブラブラと散策した。街を歩いていれば会える気がして。。
しばらく街の中を歩いていると魔法屋の看板が見えた。
なぜだか俺はその看板に引き込まれるように店のドアを開けた。
薄暗い魔法屋の中は色々なマジックアイテムや魔導書などがところ狭しと並べられていた。
「何かようかい?」
そこにいたのは三角帽に黒いローブ着たいかにも魔法使いと言う姿の老婆だった。
「魔法を教えてもらおうと思って」
老婆は鼻をフンッと鳴らすと水晶を台の上においた。
「この水晶に手をかざしな」
俺は言われるままに手をかざす。
老婆は一瞬驚愕の表情を浮かべるが、すぐ落胆したようにため息をつく。
「あんた、魔力量はとてつもないのに魔術回路がないから魔法は使えないね」
老婆の説明では魔法使いとは魔術回路を持つものだそうで、俺は魔力量こそすごいのだが魔術回路が無いので魔法は全く使えない無能力者らしい。
正直に言えば魔法剣士に憧れていたのでちょっと悔しい。
「世間には魔術回路が三つもある特異な奴もいるのにね、もったいない」
それでも、魔力を武器などに込めたり身体に流して強化する方法があるそうなので、その方法を教わることにした。
ただし結構な値段を取る200万G、金貨2枚もした。
魔力操作は何気に優秀で身体強化や目眩まし、用途は多彩だ。
この魔力操作は水晶を媒体に行われ一瞬で俺の記憶に刷り込まれた。
店を出て宿でミスティアを探すかと門前地区まで戻ろうとすると、目の前を歩くカップルの男が裏路地に女性を連れ込みキスをしだした。
女性は少し抵抗したが、そのまま身を任せていた。
前を通りにくいな、とは言えこちらに行かないと門前地区には戻れない。
なるべく見ないように通りすぎようとしたのだが、どうしても目が行ってしまう。
男は金髪のイケメンで女は銀髪の……。
彼女の姿を見たとき身体が固まり俺は動けなくなった。
女性の方と目が合った。
会ってしまった。ミスティアに……。
「ガリウス……」
ミスティアは俺を見る。蔑むような目で。
俺は魔力操作で身体強化して逃げた。
屋根の上に飛び、ひたすら逃げた。
気がついたら城壁の外の森にいた。
「人が飛び越えられる城壁って役に立たなすぎだろ」
俺は悪態をつき森の中で大の字に寝転がった。
別に誰が悪い訳じゃない、たぶんあのとき一緒に行かなかった俺自身が悪いのだ。
それにミスティアのピンチを救ったのはあの男なんだろう、良い男じゃないか。
だけど、あんな目で見ること無いじゃないか。
俺は大声で笑った自分の滑稽さを嘲るように。そして泣いたミスティアを忘れるために。
俺はミスティアの隣にはいられない。
ミスティアが選んだのはあの男だ。
俺は選ばれなかった。
どのくらい泣いただろうか、森の中なので時間がわからない。
辺りはどこもかしこも草や木が生い茂り現在位置さえ分からない。
これでは帰り道わからない、まあ城塞都市に帰る必要もないか……。
まずは街道にでないとな。
とは言え方角もわからない。
俺は石を拾い真名を考えた。
導き……いや違うか? 道を照らし出す……こうじゃないな、調子が悪い、思いつかない。
ショックのせいで頭が回らない。
面倒だ鑑定の時の文言を流用しよう。
汝は全ての道を示す者その石を俺の胸の前に近づけると、石は光だし地図が写し出されると石は粉々に砕け肺になる。
マップを見ると城塞都市から30kmも離れてる。
どんだけがむしゃらに走ったんだよ、失恋だけでこんなになってしまう自分にあきれた。
街道はこっちの方か、当然道など無い見渡す限りの森だ。
少し薄暗い森は足元もおぼつかない。
「明かりが欲しいな」
目眩ましはMP上限がない、MP1で目くらましなら俺の全MP使ったら松明みたいになるんじゃないか?
そんなふうに思いながら俺は全開の目くらましを使った。
目くらましは既に目くらましとは呼べなく手のひらから一条の光の柱を作った。
焦った俺は正面に手を向けた。その光の柱は木々を薙ぎ払い地面を削った。
「魔法いらないじゃん……」
俺はそのあまりにも馬鹿げた威力に驚き譫言のようにつぶやいた。
取り敢えず、歩き易くなったのは儲けものだな。
ステータスを見るとMPは0になってる。
完全にカラカラだ。特に体に違和感はないしむしろスッキリした感じがする。
だがカラカラだったMPがすぐに回復していく。どうやらMPは0まで使っても自然回復するようだ。
自分のステータスを見るとレベルが201になってる。
護衛のときにB・オーガ倒したけど、あいつが原因か?
『必殺技命名(動作を行うときに命名すると効果倍増)』
俺の頭の中で声が聞こえた天啓だ。
自己暗示の時と同じだ、つまり今レベルアップしたのか。
しかし、俺は何を殺したんだろう。
人間じゃないよな?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ここは魔王城の魔王の間、玉座には魔族の長である魔王が座り部下の報告を聞いていた。
その報告はとても信じがたいものだった。
勇者暗殺のために送られた部隊の全滅報告だった。
「魔王様、暗殺部隊が全滅しました」
「バカな! LV100 越えの者10人だぞ」
魔族のレベル100は人間で換算すると200を超える。
「はい、物見鳥の報告では一撃で消し飛んだそうです」
「ありえん、勇者側はそんな隠し球があると言うのか」
魔王は見えない敵に恐怖する。情報では今代の勇者は雑魚でとても魔王を倒すほどではないと報告を受けていた。
ならば先手必勝とばかりに刺客を送ったのにと魔王は自分の失策を嘆く。
「早急に! 早急に幹部および魔物の強化を行え、どんな手段を使っても構わん」
「はっ! 我が君の仰せのままに」
「勇者め……」
この事件を経て3年後、更なる強さになって魔王軍は進軍を開始するのである。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「俺にはもうなにもないんだな」そう言って見上げる空には一羽の鳥が舞うだけだった。
隠魔を暴き追撃するがその鳥を迎撃した。
「あ、魔物だったのね」
俺の浸ってた心返して……。
俺はすぐに起き上がり護衛を受けておきながら夜番をしない事をウィルソンに謝罪をした。
護衛がふて寝するなんて最悪だ。
だが、ウィルソンは全く気にする様子もなかった。
先程から、自動的に魔物が撃退されているのを眺めているだけなので楽なものでしたと言ってくれた。
「しかし、この魔法はすごいものですな」そう言って感心するのだった。
俺はそれには答えず、もう一度謝りウィルソンと夜番を代わってもらった。
焚き火に薪をくべとパチパチと弾ける。
焚き火の炎を見ると思い出す。
焚き火を囲んでミスティアと踊ったダンスは社交場でのダンスと違いお遊びのようなダンスだったが楽しかったな。
別に婚約とか結婚の約束した訳じゃない、俺が一方的に想いを寄せてただけだ。
恋人ができたミスティアを恨むのはお門違いだ。
焚き火を見ながら一人で悶々としているとマイラが荷馬車から降りてきて俺の横にちょこりと座る。
俺は少し腰をずらしマイラから離れる。
だがマイラはお構いなしに更に詰めてくる。丸太の椅子はここで終わりだ逃げ場はない。
「私のこと、お嫌いですか?」
マイラは悲しそうな表情をして俺の顔を覗く。
「……好きとか嫌いとかじゃないです。異性の方にこんなに近づかれたことはあまり無いもので」
村に同世代の異性はミスティアしかいなかった。
みんな母と言って差し支えない年齢の人達で意識することなどなかった。
そう言えばミスティアもマイラのようにお構いなしで抱きついてきたりしたっけ。
「夕食の時の話し、考えてもらえたでしょうか?」
夕食の時? なにか話しただろうか。
俺がキョトンとしていると思い出せないのを察したのか、マイラはもう一度説明をする。
「ガリウス様と一緒に、冒険者になる話です」
ああ、その話か。ゴブリンから逃げるような娘が冒険者など無理だろうに。
この娘はめげないな。
「その話なら最初から本気にしてないよ。マイラとパーティーを組んだとしても俺は君の安全を保証できないからな」
「大丈夫です、自分の身は自分で守ります!」
マイラは両手でガッツポーズをとってやる気を見せる。
「ゴブリンに追われていたような娘がか?」
少し厳しいようだが全く戦えない娘を同伴して冒険者などできるわけがない。
マイラは二の句がでず俺に懇願するような目で同情を誘う。しかし俺はムリなものはムリだと突き放すとマイラは勢いよく立ち、俺の前に来て宣言する。
「弱いせいで仲間にしないというのでしたら強くなります。ガリウス様の迷惑にならないように強くなります。強くなったらはガリウス様の仲間にしてください!」
生まれてこの方ここまで強く人に求められたことはない。ミスティアの件で弱っていたのかもしれない。これ以上断るのはマイラが可愛そうだと思ってしまった。
「そうですね、仮に貴女がA級冒険者になるようなことがあったら一緒に冒険しましょう」
この国でA級冒険者がいかほどいるかは知らないが、この娘がA級冒険者になるのは不可能だろう。
「ガリウス様 、言質は取りましたからね」
そう言うとにこにこと俺に微笑みかけた。
その笑顔の意味が俺に対する好意であることにさすがに気が付かない鈍感ではない。
「マイラさん」
「マイラでいいです」
間髪いれずに呼び名を正そうとするが、両親がいるのに急にマイラとか呼んだら変な意味に取られかねない。
「マイラさん、俺には好きな人がいるんです幼馴染で勇者のミスティアです」
真摯なマイラに嘘はつけない俺はミスティアのことを包み隠さず話した。
「それでも私は諦めません、必ず振り向いてもらえるように頑張ります」
マイラは真剣に俺の話を聞いて頷くがそれでも諦めないという結論を出した。
なんで、この娘は……。俺にもマイラのような強さが欲しい。
そうだな、諦めないか。
俺はまだミスティアに会ってすらいないのだ、結論は会ってからでも遅くない。
もし婚約が事実で、俺を恋愛対象としてみていなかったのなら、おめでとうと言ってミスティアを祝福しよう。
マイラと話し込んでいると、東の空が紫色に変わってきた。どうやら夜明けのようだ。
「きれいですね」
「ああ、心が洗われるよ」
「汚れてたんですか?」
「そうだね汚れてた」
「はっ!ガリウス様もしや私の体を狙ってたんですか!?」
「それはない!」
俺たちは互いの顔を見合わせると大笑いした。その笑い声でマイラの両親も起きてしまい互いにバツの悪い思いをした。
空がピンクに変わる頃に朝食の準備を始めた。昨日の残りの肉をスープにぶち込んで温めパンで朝食の準備をした。
マイラはこのパンがお気に召さないようで、柔らかいパンが食べたいと嘆息の息を漏らすのである。
柔らかいパンってなんだ?
俺たちはテントや調理道具を片付けると、一路城塞都市へと出発した。
夜営地から馬車で半日程進むと城塞都市が見えてきた。
この日は魔物に襲われることもなく快適な旅だった。
城塞都市の壁は大木よりも高く、見上げるほどの石の壁の上では数人の兵士が見張りをしていた。
門の前の橋では三台ほどの荷馬車が止まっており、荷物の検査を受けていた。
俺達の番が来るとウィルソンは守衛に通行手形と何かの書類を見せる。
上等な紙でできたそれは商人ギルド証だそうだ。
この城塞都市は商人が優遇されており商人ギルドに入っていれば通行税は免除される。
無論、護衛の俺も免除された。
「アスチラン地方から来て護衛が一人とは無謀な連中だ」守衛の隊長が呆れる。
ウィルソンが俺に助けられたことを言うと、騎士団試験を薦められた。
今度の騎士団試験は、勇者パーティーの補充もかねているという。
勇者パーティーか、もしミスティアが俺を必要だといってくれるなら……。
だが必要ないと言われたら?
そうだなさすがにこの国にいるのは辛い。どこか別な国に行こうと思う。
村長には怒られるだろうけど、
愛し合う二人の邪魔をするほど悪趣味じゃない。
しかし、わざわざ他から勇者のパーティーメンバーを募集するなど騎士団は人材不足なのだろうか?
「勇者にはベテランの騎士の方のほうが良いんじゃありませんか?」
守衛は俺の問にばつの悪そうな顔をして答える。
「これは内緒の話だがな。今代の勇者様はもっぱら弱いという噂でな、皆臆病風に吹かれたのよ」
騎士団は貴族の子弟で構成されており弱い勇者に巻き込まれて死ぬのはゴメンだとみなさんかを拒否しているのだという。
なによりも第十八王子が勇者のパーティーに参加して魔物との戦いで死亡したのがそれに拍車をかけているのだという。
だから他から強者を騎士団に入れて勇者のパーティに入れれば騎士団から出したというメンツは守れるし自分たちは死なないしで一石二鳥といって喜んでいると守衛は呆れる。
そしてこの話には続きはある。
王子を助けられなかった事にに憤慨した王がミスティアを糾弾した。
弱いミスティアのせいで王族が死んだと。それは王族を傷つけたことと同義だと言うのだ。
理不尽だがそれがまかり通るのが権力なのだそうだ。
そこでランスロットがミスティアに助け船を出した。
ランスロットのギュリアム家は王に連なる血統の家で、昔から王家に使え将軍なども輩出する軍人貴族なのだという。
そのランスロットと婚姻し王家の縁者となることで今回の件は不問にして欲しいと王に懇願したそうなのだ。
普通に考えればランスロットの行動は素晴らしい。だが俺には嵌められたような気がしてならない。そう思うのは俺の嫉妬だろうか?
商業ギルドに着くと、ウィルソンは俺とマイラを商談室に案内し、そこで待つように指示をした。
狭い空間に男女を閉じ込めるって親としてどうなのか心配になるが俺を信用してのことだろう。
だが案の定マイラは獲物を狙うような目つきで俺を見るマイラは信用出来ないぞウィルソン。
「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ?」
「マイラのその獲物を狙うような目が怖くてね」
おちゃらけてそう言うとマイラは頬をふくらませる。
「ちゃんとA級になってから、あなたを迎に行きますから」
「マイラは俺よりも意思が強いね」
「恋する乙女は最強ですから!」
「恋する男はヨワヨワです」
そう言って俺たちは笑い合った。何気にマイラとは冗談が言い合える中になっていた。
二人で笑い合っているとウィルソンとネバダが入って来た。
「お邪魔でしたかな」
そう言うウィルソンの顔は、微笑ましい物を見るようにニコニコしている。親公認の仲みたいな雰囲気出すのはやめて欲しい。
ウィルソンは俺に素材の料金と護衛の報酬を渡すと再度お礼を言う。
皮袋は重く、中には金貨がゴッソリと入っていた。
枚数を確認すると金貨が32枚入っていた。
ウィルソンに確認するとB・オーガの素材が思ったよりも高値で売れたそうなので、その増加分だそうだ。本当にお人好しだな。
お金をもらった俺はそこで皆に別れを告げ別行動をすることを告げた。
マイラは寂しそうにしていたが、約束通りA級を目指すと言って息巻いていた。
「必ず! 必ずあなたの隣に立ちますから!」
俺は笑顔でそれに手を振って答えた。
少し名残惜しかったが俺にはやらなきゃいけないことがある。
ミスティアに会わなければ。
しかし会う方法がどこにも無い、そもそもどこにいるのかも知らない。
俺は行くアテもなく街をブラブラと散策した。街を歩いていれば会える気がして。。
しばらく街の中を歩いていると魔法屋の看板が見えた。
なぜだか俺はその看板に引き込まれるように店のドアを開けた。
薄暗い魔法屋の中は色々なマジックアイテムや魔導書などがところ狭しと並べられていた。
「何かようかい?」
そこにいたのは三角帽に黒いローブ着たいかにも魔法使いと言う姿の老婆だった。
「魔法を教えてもらおうと思って」
老婆は鼻をフンッと鳴らすと水晶を台の上においた。
「この水晶に手をかざしな」
俺は言われるままに手をかざす。
老婆は一瞬驚愕の表情を浮かべるが、すぐ落胆したようにため息をつく。
「あんた、魔力量はとてつもないのに魔術回路がないから魔法は使えないね」
老婆の説明では魔法使いとは魔術回路を持つものだそうで、俺は魔力量こそすごいのだが魔術回路が無いので魔法は全く使えない無能力者らしい。
正直に言えば魔法剣士に憧れていたのでちょっと悔しい。
「世間には魔術回路が三つもある特異な奴もいるのにね、もったいない」
それでも、魔力を武器などに込めたり身体に流して強化する方法があるそうなので、その方法を教わることにした。
ただし結構な値段を取る200万G、金貨2枚もした。
魔力操作は何気に優秀で身体強化や目眩まし、用途は多彩だ。
この魔力操作は水晶を媒体に行われ一瞬で俺の記憶に刷り込まれた。
店を出て宿でミスティアを探すかと門前地区まで戻ろうとすると、目の前を歩くカップルの男が裏路地に女性を連れ込みキスをしだした。
女性は少し抵抗したが、そのまま身を任せていた。
前を通りにくいな、とは言えこちらに行かないと門前地区には戻れない。
なるべく見ないように通りすぎようとしたのだが、どうしても目が行ってしまう。
男は金髪のイケメンで女は銀髪の……。
彼女の姿を見たとき身体が固まり俺は動けなくなった。
女性の方と目が合った。
会ってしまった。ミスティアに……。
「ガリウス……」
ミスティアは俺を見る。蔑むような目で。
俺は魔力操作で身体強化して逃げた。
屋根の上に飛び、ひたすら逃げた。
気がついたら城壁の外の森にいた。
「人が飛び越えられる城壁って役に立たなすぎだろ」
俺は悪態をつき森の中で大の字に寝転がった。
別に誰が悪い訳じゃない、たぶんあのとき一緒に行かなかった俺自身が悪いのだ。
それにミスティアのピンチを救ったのはあの男なんだろう、良い男じゃないか。
だけど、あんな目で見ること無いじゃないか。
俺は大声で笑った自分の滑稽さを嘲るように。そして泣いたミスティアを忘れるために。
俺はミスティアの隣にはいられない。
ミスティアが選んだのはあの男だ。
俺は選ばれなかった。
どのくらい泣いただろうか、森の中なので時間がわからない。
辺りはどこもかしこも草や木が生い茂り現在位置さえ分からない。
これでは帰り道わからない、まあ城塞都市に帰る必要もないか……。
まずは街道にでないとな。
とは言え方角もわからない。
俺は石を拾い真名を考えた。
導き……いや違うか? 道を照らし出す……こうじゃないな、調子が悪い、思いつかない。
ショックのせいで頭が回らない。
面倒だ鑑定の時の文言を流用しよう。
汝は全ての道を示す者その石を俺の胸の前に近づけると、石は光だし地図が写し出されると石は粉々に砕け肺になる。
マップを見ると城塞都市から30kmも離れてる。
どんだけがむしゃらに走ったんだよ、失恋だけでこんなになってしまう自分にあきれた。
街道はこっちの方か、当然道など無い見渡す限りの森だ。
少し薄暗い森は足元もおぼつかない。
「明かりが欲しいな」
目眩ましはMP上限がない、MP1で目くらましなら俺の全MP使ったら松明みたいになるんじゃないか?
そんなふうに思いながら俺は全開の目くらましを使った。
目くらましは既に目くらましとは呼べなく手のひらから一条の光の柱を作った。
焦った俺は正面に手を向けた。その光の柱は木々を薙ぎ払い地面を削った。
「魔法いらないじゃん……」
俺はそのあまりにも馬鹿げた威力に驚き譫言のようにつぶやいた。
取り敢えず、歩き易くなったのは儲けものだな。
ステータスを見るとMPは0になってる。
完全にカラカラだ。特に体に違和感はないしむしろスッキリした感じがする。
だがカラカラだったMPがすぐに回復していく。どうやらMPは0まで使っても自然回復するようだ。
自分のステータスを見るとレベルが201になってる。
護衛のときにB・オーガ倒したけど、あいつが原因か?
『必殺技命名(動作を行うときに命名すると効果倍増)』
俺の頭の中で声が聞こえた天啓だ。
自己暗示の時と同じだ、つまり今レベルアップしたのか。
しかし、俺は何を殺したんだろう。
人間じゃないよな?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ここは魔王城の魔王の間、玉座には魔族の長である魔王が座り部下の報告を聞いていた。
その報告はとても信じがたいものだった。
勇者暗殺のために送られた部隊の全滅報告だった。
「魔王様、暗殺部隊が全滅しました」
「バカな! LV100 越えの者10人だぞ」
魔族のレベル100は人間で換算すると200を超える。
「はい、物見鳥の報告では一撃で消し飛んだそうです」
「ありえん、勇者側はそんな隠し球があると言うのか」
魔王は見えない敵に恐怖する。情報では今代の勇者は雑魚でとても魔王を倒すほどではないと報告を受けていた。
ならば先手必勝とばかりに刺客を送ったのにと魔王は自分の失策を嘆く。
「早急に! 早急に幹部および魔物の強化を行え、どんな手段を使っても構わん」
「はっ! 我が君の仰せのままに」
「勇者め……」
この事件を経て3年後、更なる強さになって魔王軍は進軍を開始するのである。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「俺にはもうなにもないんだな」そう言って見上げる空には一羽の鳥が舞うだけだった。
隠魔を暴き追撃するがその鳥を迎撃した。
「あ、魔物だったのね」
俺の浸ってた心返して……。
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