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2章 ゴブリンの花嫁たち

ゴブリン軍団50万VS一人の生産者

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「50万!?」

 シーファさんがシャーロンさんの言葉を反芻するように言うと出入り口から顔を出し外を見る。

「あ、あり得ないわ」

「どうしたんだシーファさん」

 外を見たシーファさんが体を震わせて戻ってくるとゴブリンキングがいると言う。

 だがその自分の言葉を否定するように首を振る。

「進化してるわ。あいつはもうゴブリンキングじゃない。魔神王ゴブリン・グリーディ、ゴブリンキングを越えた存在。あんなのはもうゴブリンじゃない」

「見ただけで実力が分かるんですか?」

「私には鑑定眼があるの。だからその魔物の情報が読み取れるのよ」

 S級冒険者がここまで怯えるのだその実力は相当なものなのだろう。
 
「しかし、なぜ攻めてこないんでしょう」

 レオナが外を見て訝しむ。小さいゴブリンがギャンギャン騒いでるだけで大型のゴブリンはまるで動く気配がないと言う。

「たぶん遊んでいるのでしょう。あいつらはそう言う奴です」

 攻めてくる気が無いなら二人の防具を整えよう。

 裸のシーファさんやボロボロの装備を着てるサラはこのまま戦うのは厳しいからな。

 素材はエルダートレイン産の皮で作り、俊敏性や防御力等がこの世界の物より格段に上がっている。

 それとシーファさんにはゴブリンナイトのブロードソードを研いで切れ味+2をつけたものを渡した。

 鍛冶場や金床があれば武器を作れるんだが。まあ、無い物ねだりをしても仕方ない。今やれる最善をつくそう。

「ケンタさん、先ほどから私のことをさん付けで呼んでますけど、呼び捨てで良いですからね?」

 シーファが年下に敬語はおかしいと呼び捨てを要求する。

 俺は初対面なら5才児相手でも敬語で話す礼儀正しい男だ。

 まあ確かに俺の娘になるのださん付けはおかしいか。

 良いだろう、呼び捨てで呼ばれて顔を真っ赤にするが良い。

「シーファ」
「はい、良くできました」

 シーファは呼び捨てで呼ぶ俺の襟を引っ張り頭を下げさせると頭をなでる。

 年下なのにお母さんキャラ?

 まさかここに来てバブみを感じられるキャラが出るとは予想外である。

 確かに我が娘たちよりも何倍もバブみを感じる。

 よし、シーファは今日から俺の義理の母な? それで毎日甘えちゃうんだからね!

「あのう、それなら私もさんを付けないでください」

 シャーロンが一人だけさん付けは不公平ですと言って俺に異議を申し立てる。シャーロンさんももう大事な仲間だ。確かにさん付けはおかしいな。

「わかったよシャーロン」
「ふにゃぁらぁ」

 シャーロンはなぜか俺の言葉に顔を真っ赤にして目をくるくると目まぐるしく動かす。

「しかし、これじゃ外に出れないわね」

 サラがそう言うと魔剣を肩に担ぐ。その姿はまるで狂戦士や蛮族の戦士を彷彿とさせ闘気さえ感じさせる。

「私のアローレインじゃダメでしょうか?」

「アローレインじゃ良いところ1000匹が限界だね、とても50万の敵を相手にはできない」

「手詰まりですか」

 レオナがそう言うと、サラは自分の魔剣を肩から下ろし魔剣を見る。

 魔剣は普通に強いがレオナの物よりも数段落ちる。
 
 エアーストラッシュでは数匹単位しか倒せないから桁が違う。

 サラの戦いたい気持ちは俺にも痛いほどわかる自分の呪いを解きたいと言うのもあるだろうがシーファをひどい目に合わせたやつに復讐したいのだろう。

「サラ特攻なんてしようと思うなよ」

「でも……。」

 やはりそうか自分が囮になることを考えてたのかシーファのように。

 だけど戦うのはサラでも他の誰でもない。

 ここは俺が行くのが一番いいのだ。

「道は俺が開くから」

「え、ケンタさんこの状況をなんとかできるんですか?」

 レオナが心配そうに俺を見る。不安そうな顔のレオナの頭を撫でる。

「ああ。問題ない」

 そのとき、頭の中にゴブリンの声が響き渡った。

『愚かなる冒険者よエルフの娘を差し出せば命は助けてやってもよいぞ』

 ゴブリンの癖に直接頭の中に思念を飛ばしてくるとはやるじゃないか。どうやらこの声はみんなにも聞こえたようで、シャーロンが俺たちの前に立ち自分を差し出せと言う。

「何言ってるのシャーロン。あなたはまだ若いのだから自分が生き残ることを考えなさい」

 シーファがシャーロンさんをまだ若いと言う。

 あれ? 子供冒険者のシーファが13歳だろ。その子に若いと言われるシャーロンは何歳なんだ?

「シャーロンって何歳なの?」

「私は12歳です」

 は?身長は170cm台で、こんなバインバインの娘が12歳?

「この子もシーファと同じで天才なのよ」

 いや、俺が突っ込みたいのはそこじゃないからね?

 なんで12歳の娘がこんなバインバインなナイスバディなのかってところだからね?

 だいたいシャーロンが12歳だったらゼクスの奴も十分ロリコンじゃないか全身鎧男のことロリコンとか罵れないからね?

「いや、なんで12歳がこんなにナイスバディなのかと……。」

「ケンタは記憶喪失だったっけね。エルフは10歳で成人を迎えてから死ぬ直前まで永遠に姿は変わらないんだよ」

 サラさんは平然とそう言うが最初に説明して欲しかったと思う。

「そんなことよりも私が今度は身を差し出しますだか――」
「そんなのダメに決まってるだろ! シャーロンも俺の家族だ。だから家族を犠牲になんてできない」

「家族……でも。私一人でみんなが助かるんですよ?」

「でもじゃない。そんな選択は無い。ここでシャーロンを人身御供にしたら俺たちは一生十字架を背負う。その苦しみはサラさんを見てきたシャーロンなら分かるだろ?」

「ですが」

「俺を信じろ! 俺はできないことは言わない絶対にみんなであの家に帰るんだ!」

 家族を犠牲にするなんて俺にはできない。

 この世界の家族の代わりなんて存在しない一人でも欠けたらダメなんだ。

 誰か一人の笑顔も曇らせたくないんだ。

「シャーロン、ケンタを信じましょう」

 シーファがシャーロンの肩を叩いて俺を信じようという。

「……分かりましたケンタさんを信じます」

「ケンタさん! 絶対に勝ってくださいね」

 レオナが笑顔を作り俺を応援してくれる。その肩は震え目に涙をためて泣かないように我慢しているようだ。俺は大丈夫だとレオナの頭をなでる。

「ケンタがいかないとダメです?」

 クニャラが俺の裾を引っ張り外に出るのを止める。珍しく自分の感情をあらわにしている。

「ああ、俺にしかできない」

 俺は語気を強めていった。絶対にみんなで帰るんだという強い意志を込めて。

「分かったです。でもちゃんと帰ってくるです。その時にケンタに言いたいことがあるです」

 何を言われるんだろう。

 おじいちゃん年寄りなんだからあんまりいじめないでね?

 まあ、俺がワガママをするのだ怒りたいのだろう。

 帰ったら甘んじて怒られることにするよ。

「じゃあ、俺が良いと言うまで出てきちゃダメだぞ」

 皆はなにも言わず頭を下げて返事をする。

 俺は手を振り洞窟から外へとでた。

『人よ、一人で出てくるとは豪気よな。その心意気に免じてチャンスをやろう』

 ひときわ大きいゴブリンが俺の頭に直接話し書けてくる。なぜか話しかけてきてるのはそいつだと分かった。

「その前に聞きたい、先程の巨大なゴブリンはゴブリンキングではないのか」

 
「愚か者が、あやつは我ら四天王最弱のゴブリンジェネラルよ」

 その問いに答えたのは魔神王ゴブリン・グリーディではなく、サラが倒したゴブリンと同じサイズのゴブリンで俺を煽るように馬鹿にする。

 ゴブリンの癖に四天王とかあるのかよ。

「でも、日本には四季があるから……」

 俺がそう言うと人語がわかるゴブリン達はポカーンとして俺を見る。

 これだからギャグを解さない猿頭は始末が悪い。

『では四天王残りの三人に勝って見せよ。さすれば貴様の命助けてやろう』

「俺の命だけか?」

『そうだ、貴様の命だけだ』

「ならお断りだね。お前を殺して俺たちはみんなで帰るんだからよ」

 俺のその言葉に怒りを隠すことができない魔神王ゴブリン・グリーディは大きくタメ息を吐くと俺に興味をなくした。

『ふん、余興を楽しもうと思ったがもうよいわ。殺せ』

 その言葉にゴブリン達が興奮して武器を振り回して歓声をあげる。

 ゴブリンナイトやら上位のゴブリンもいる。そして四天王の残りか。

 四天王の三人が俺の方に悠々と歩み寄る。攻撃されても勝てる自信があるのだろう。

 なめられたものだ。

「残念だったな。お前らの人生ここで終わりだ」

 俺がそう言うとゴブリンジェネラル達は大口を開けてバカ笑いをする。

「ガハハハッ! たかが人が、この人数を相手に勝てると思っているのか。あまりにバカなことを言うものだから笑いすらも出んぞ」

 いや君今笑ったよね? ちゃんと見てたんだからね!

「残念だけど勝てるぞ。”武器庫解放ログ・アームズ・レリーズ”」

 俺がそう唱えると剣や槍が地面から現れゴブリンを貫き、斧やつちが空から現れゴブリンを押しつぶす。

 様々な武器が現れてはゴブリン達を鏖殺おうさつしていく。

 この技はスキル熟練度1000まで上げたときにもらえる特典のスキルだ。

 今まで作った武器の総数が敵を襲う。

 スキル熟練度0から1000まで上げるために作り上げた武器たちだ。

 その数10億!

 それらの武器がゴブリン達を一斉に襲った。

 たかだか50万の軍勢が俺の努力の結晶である武器の総数に勝てると思うなよ!

 ただこの技は一度解放すると記録ログを失う。

 つまり、また一から貯め直さないといけないのが難点だ。

 しかし,この技はすごいな初めて使ったが辺り一面武器のお花畑だ。

 とはいえ、これだけの魔物を倒してもレベル上がらないとか詐欺だろ。

 俺は自分の瞳に写るレベル2の文字を見ながら悪態をつく。

「みんな終わったよ。出てきて良いぞ」

 俺の言葉に皆は恐る恐る顔を覗かせる。

「……なにこれ」

 みんなが剣や槍に貫かれ槌に押し潰されたゴブリン達を見て目を白黒させている。

「この剣はすごい剣ですね」

 ただ一人何事にも動じないシーファが一本の聖剣を取ろうとした瞬間、すべての武器が消え去った。まあ、あくまでも記憶の残像だからね、数秒は持てるけどすぐ消えちゃうんだ。

 そして武器が消え去った後に残るのはゴブリン達の死体の山。

 四天王と言っていた連中も地面に情けなく転がっている。

 あの超弩級のゴブリンである魔神王ゴブリン・グリーディさえも。

 終わった、これでサラさんの呪いも解除されたはずだ。

 俺はサラさんの足をなめ回すように見た。

 エロい!

 だけど同時に驚愕した。まだ呪いが解除されていないことに。

『”暴食の魔光くわれろ”』

 黒い閃光が死んだはずの魔神王ゴブリン・グリーディから放たれ、全てを食い尽くそうと俺たちを襲った。
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