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2章 ゴブリンの花嫁たち

救いたい人を救っただけで俺ならそれできるからやっただけだ。

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 結局、俺たちはあの三匹のゴブリン以外のゴブリンに遭遇しなかった。

 あの三匹は哨戒しょうかい任務に当たっていたのかもしれない。

 それよりもシャーロンさんが走る方でゴブリンの叫び声や炸裂音がとめどなく聞こえる。

 そこにサラがいるのは確定だ。俺はクニャラを担いでその音のする方へと急いだ。

 小高い丘に上がると今まさにサラさんがゴブリン達に襲われる直前だった。

「レオナ、アローレインだ!」

「アローレイン!」

 レオナが剣を上空に掲げると、剣から無数の光の矢が放たれた。それらはすべてのゴブリンを直撃し光の粒へと変えた。

 うあ、これはえげつない。

 まあ、これでもエルダートレインの魔物使いモンスターテイマーにはまるで効かないんだけどな。

 そんなことよりもサラだ。体を朱色に染めているかなりの大ケガだ。俺は大丈夫だとサムズアップでサインをしてサラを安心させる。

 サラの怪我は右肩をえぐれ、血がドクドクと滝のように流れていた。

「サラこれを飲んで」

「私は……」

「良いから飲むんだ!」

 俺は彼女の口に回復薬(大)の瓶をつけ無理矢理飲ませた。傷はみるみる治り顔色も艶のある色へと変わった。

「みんなごめん」

 傷が治ったサラは俺たちに頭を下げる。

「なんで謝るんだ?」

「私はみんなを裏切った、家族だって言ってくれたのに、自分の思いだけで裏切った」

「でも、後悔はしてないんだろ?」

「うん、わたしはシーファを助けたい。だからそれは後悔はしてない」

「なら気にするな、俺たちはバカな家族のサラを助けに来ただけだから」

 俺はボサボサになっているサラさんの頭をなで慰める。

「ケンタは甘すぎです」

 クニャラがそう言うとポカッとサラの頭を杖で叩く

「じゃあ私もケンタさんの代わりに、いいえこれでも私も怒ってるんですよゴメスさん」

 レオナもグーでサラのお腹を殴る。

「お姉さま、みんなお姉さまが好きなんですよ?」

 シャーロンさんはサラの頬を平手打ちする。

 叩かれたことで先程よりも晴れやかな顔をしている。

 こういうことで負い目がなくなって気持ちが楽になることもあるんだなと思ったが、俺には出来そうにはないのでサラを強くを抱き締めた。

「間に合ってよかった、次からはちゃんと相談してくれ。家族を失うなんて耐えられないから」

「うん、ごめんなさい」

 ”ミシミシッ”

 俺の背骨が悲鳴をあげる。さば折りかな?

 いや、これはサラ折り?

 痛いよこれ、折れちゃうよ?

 おれの背骨折れちゃうよ?

「さら、ぐるしぃ。ぐっ」

 そんな俺の鬼気迫る言葉を聞いて、みんながサラを止めるが泣いていて手がつけられない。

 ああ、これ死ぬかもしれない。まさか胸上死がリアルで起こるとはな。しかし、サラの胸の弾力ヤバイな死ぬ前にさわっとこ。

 俺はサラの胸を横から鷲掴みにして揉みしだいた。

「きゃっ!」

 サラはまるで乙女のような声をあげると俺から手を放し後ろに飛び退く。

 た、助かった。さすがファッションビッチ。エロ攻撃に弱いとはビッチを名乗るには3年早いぜ?

 俺はゴホゴホと咳き込みながらなんとか回復薬(大)を飲んで事なきを得た。

「ごめんケンタ、嬉しくて力の加減がつかなかった」

「ゴメスはバカです」

「自重してくださいゴメスさん」

「お姉さま……」

 みんなから散々な言われようのゴメスさんの腕を取り、俺は彼女の指に指輪をはめた。

「これは?」

「俺たち家族の証だよ」

 俺とクニャラとレオナは自分の指についた指輪を見せる。それは太陽の光を吸収し、まるで赤い糸が繋がっているように光っていた。

「ありがとう」

 そう言うとサラは、また俺に抱きつこうとする。

 当然三人は殺らせねえよと言わんばかりにブロックする。

「それよりもシーファさんを助けにいこう」

「……うん、そうだね」

「それなら、あちらです。あちらからシー姉様の気が感じられます」

 エルフである。シャーロンさんは生物の探知に優れている。

 それで先程のゴブリンの敵襲も気がついたのだ。渓谷にはいくつも洞窟があり、その一つの中にシーファさんがとらわれていると指を指す。

 シャーロンさんが指を指した洞窟に入ると、まるで養豚場や養鶏場のような臭いが充満していた。中を明かりで照らすと一つの生き物がいた。

 腕や足はなくお腹がいくつにも別れ膨らんでいた。

 それはまるでブドウの房のようにいくつも分かれている生き物がいた。

「シーファ……」

 サラが剣を抜きシーファさんのなれの果てに近づく。

「さ、サラ?」

「私がわかるの?」

「ああ……シャーロンまでいるじゃない。よかったあなたち生きて残れたのね」

「あなたのお陰で、みんな元気よ」

「良くやったわサラ、私の意図を組んであのときすぐに逃げたからみんな助かったのよ。自分を誇りなさい」

 サラはもう動けないシーファさんを抱き締める。

「わたし、汚いよ」

「汚いもんですか、あなたは世界一美人よ忘れたの?」

「ふふ、じゃあ世界一はあなたに譲るわ、そろそろ殺してくれると嬉しいかな」

「わかった、あなたは最高の親友で最高のリーダーだったわ」

「サラ、あなたは私の人生でこれ以上はないって位の親友だったわよ」

「「また、いつか会いましょう」」

 二人の声がハモるとサラが剣を叩き下ろす。俺はそれをツルハシで弾く。俺の突然の行動にサラは驚く。

「ケンタなにするの」

「俺もシーファさんを救いたいんだ、少し時間をくれ」

「た、助けられるの?」

「わからない、ただシーファさんの気持ちを聞きたい」

 俺は彼女に対峙して一つの質問をした。

「シーファさん元の体に戻れるなら生きたいか?」

 その質問がどんな意味かは理解できないかもしれない。これほどひどい扱いを受けて精神が病んでしまったかもしれない。それでも、少しでも行きたいと思うなら俺は死よりも生を与えたい。

「も、戻れるなら生きたい……。死にたくない!」

 その声はとても力強く強い意志がこもっていた。

「分かった、なら俺の持つすべての知識を以てでシーファさんを救うよ」

 俺はまず回復薬(大)を飲ませた、切られた腕や足が生え自殺防止のために折られた歯が生え揃った。それにありとあらゆる怪我が治った。

 たがブドウのような体は元に戻らなかった。

「戻らない……」

 シーファさんはそう呟いたが、俺には失敗することがわかっていた。

 この体は太ってるのと同じ状態なのだ、だから回復薬では治らない。

 俺は女神からもらった木の棒を錬金術の人工子宮へと変えた。

「シーファさん今から一度死んでもらう。ただ絶対に復活させるから怖がらないで欲しい」

 俺はそう言うとこれからやることをシーファさんに説明した。

「つまり姿形は人間だけど厳密にいえば人間ではなくなるのですね?」

「いいえ、人間です。それは信じてもらっていいです」

「分かりました。どうせ一度は死んだ身です。すべてあなたにお任せします」

「かならず助けます」

 人工子宮をドラゴンの精液で満たし、マンドレイクやドラゴンの骨髄、数種の秘薬を投入しサイドのタンクにドラゴンの血をセットした。

 これは通常ホムンクルスを製造するための手順だ。

 しかし、それではシーファを救うことが出来ない。

 だがホムンクルス上位版である人造人間ジーンリッチなら救えるはずだ。

 人造人間ジーンリッチの特徴は魔物と合成できることだ。

 倒した魔物の頭と四肢をホムンクルス製造液に入れることで強化型人造人間ジーンリッチである合成亜人アヒトが作れる。

 合成亜人アヒトは素材にした魔物の記憶や性能を保持すると公式に書いてあった。

 ネットの情報では人間を素材にして作った合成亜人アヒトは分類が人間だったと言う。

 もちろんNPCノンプレイヤーキャラを殺して素材を手に入れて設計人間ジーンリッチを作ってもできるのは人間だし、NPCノンプレイヤーキャラを殺したことで殺人者のペナルティを受けてしまうデメリットがあるので普通は誰もやらないし俺もやったことが無い。

「サラ、シーファさんの首と四肢を切ってください」

 助けると言った俺の言葉とは真逆の命令にサラは戸惑う。

 俺の説明を聞いていても、やはり助かる可能性があることで首を切るのを戸惑ってしまうのだろう。

「シーファさんは必ず助けます。俺を信じてください」

 俺の強い言葉にサラは頷く。

「わかった、ケンタを信じる」

「サラできるだけ痛くないようにお願いね」

 これから自分の首が落とされると言うのに冗談を言うようにニコリと笑う彼女は相当な精神力の持ち主であることがうかがえる。

「大丈夫よ腕は鈍ってないわ――」

 サラはその言葉が終わる前に一瞬でシーファさんの首と四肢を切断した。俺はすぐさまそれを拾うと人工子宮へ投入しシステムを起動した。

 血が精液と混じりピンク色の液体になる。

 ホムンクルス製造液が人工子宮内でカクハンされシーファさんの四肢が溶かされ顔も無くなる。

 しばらくすると子宮の中に影ができる。それは人の形を形成していく。

 ホムンクルス製造液が無色透明になり人の姿がはっきりとわかる。

「シーファ!」

 サラが喜びの声をあげる。

 それと同時にブザーが鳴り透明になったホムンクルス製造液が排出され蓋が開くとシーファさんが空気に触れる。

 目を開き、自分の手で体を触り確認するしぐさをする。

「ちゃんと私になってる?」

「うん、あの時のあなたよ」

 サラがそう言うやいなやシーファさんを抱き上げ喜びの声をあげる。

 失敗した。元に戻すって言ったのに子供にしてしまった。

「ごめん、失敗した子供になるとは思わなかった」

「大成功よケンタ。これがシーファの本当の姿なのよ。この子は天才で子供S級冒険者なんだから」

 なにそれ、どこの店長よ。

 下ろされたシーファさんは俺の側に来て頬にキスをする。

「ケンタさんありがとうございます。わたしの名前はシーファと言います。このご恩は生涯忘れることはないでしょう」

「いいえ、あなたを救ったのはサラとシャーロンさんですよ。それに救いたい人を救っただけで俺ならそれできるからやっただけですから」

 俺がそう言うとシーファはクスリと天使の微笑を浮かべる。

「謙虚なんですね、そう言う方は好きですよ」

 ふむ、これはシーファも俺の娘になるフラグかな?

 良いでしょう、良いでしょう。

 そんなに俺の娘になりたいなら、娘として迎え入れましょうぞ。

 その時ふとサラの足にまだゴブリンの花嫁の呪印が見えた。

 あれ、なんでださっきゴブリンキングはサラが倒したろ?

 なんで呪いが解けてないんだ。

「え、嘘!」

 シャーロンさんが驚きの声をあげる。

「どうしたんですかシャーロンさん」

「1万、3万、え……10万、いいえ30万……なんで……」

 愕然がくぜんとして茫然自失ぼうぜんじしつになるシャーロンさんにシーファが歩みより何があったのかを話すように促す。

「みなさん50万のゴブリンの軍勢に囲まれました。終わりです」

 シャーロンさんが絶望の表情で俺たちを見て言った。

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