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1章 変態紳士二度目の異世界転移

三日間寝ていたそうだが、その間の生理現象を誰が処理していたんだろう。

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 目を覚ますとそこは見慣れた家の中だった。

 まだ二日しか住んでいない家なのだが落ち着ける場所だ。

 周りをみると俺の枕元でレオナが船を漕いで寝ていた。

 左手と右足がないのが今更ながらに怖い。

 幸い右手は残っているので情報を見ることはできる。

 その右手を持ち上げると女神からもらった木の棒を握っていた。

「夢じゃなかったのか」

「け、ケンタさん?」

 俺の声で目を覚ましたことに気がついたレオナが抱きつきワンワンと泣き出す。

 生きててよかったと思える。それに新しい世界にいかなかったことも。

 レオナの泣き声を聞いて二回からドタドタと人が降りてくる、クニャラとシャーロンさんだ。

 抱きつくレオナにシャーロンさんが剣を突きつける。

「レオナ、私はケンタさんが目を覚めるまでの間ここにいて良いと言いました。出ていきなさい」

 レオナは涙を拭くと俺にお辞儀をして出ていこうとする。

「ちょ、待てって、どう言うことだよ。レオナ、戻ってこい!」

 俺がそう叫んだ瞬間レオナは逃げるように走り去った。

「なんでそんなこと言うです! それはケンタが決めることです!」

 クニャラは目に涙をためながらシャーロンさんを叩く。

 彼女はそれを歯牙にもかけることなく、俺に目が覚めてよかったと言う。

「どう言うことなんです、説明してくださいシャーロンさん」

 俺は怒気をはらませシャーロンさんに説明を求めた。

 彼女は努めて冷静に俺に説明する。

 今回のことはすべて戦士であるレオナが悪いとシャーロンさんは言う。

 まず、自分の力量を見極められずに無謀にも魔窟に入ったこと。

 そして撤退を提案した参謀役の魔法使いの指示を拒否したこと。

 なにより俺の手足を失わせたこと。

 だからレオナは俺にふさわしくない。二度と近づくなと勧告したのだと言う。

 ただ俺が目を覚めるまでは看病をしたいとレオナが懇願するので責任のとり方の一つとして居させてたのだという。

「レオナを俺から引き離す権利シャーロンさんにあるんですか!」

「あります、S級冒険者はB級以下の者の素行を見て不適切と判断したパーティーを解散させることができます」

「なら、レオナがここにいるのをあなたにとやかく言ういわれわ無い。レオナとはパーティーを組んだわけじゃないのだから」

「……それは」

「話は終わりです。俺はレオナを迎えに行く」

 俺はレオナを追うべく立ち上がろうとしたが力が入らない。

「ケンタダメです。寝てないとダメです」

 ふらつく俺をクニャラが支えて床に座らせる。クニャラの話では俺は三日も寝ていたそうでそんなに急に動いたらダメだと叱られた。

 だからってこのまま家でボケッとしてられないレオナは今も泣いているだろうから。

 しかし、三日も寝てたのか。その間の生理現象はどうなってたんだろ。

 ずっと溜め込んでいたにしてはあまりお腹が張っていないし尿も溜まっていないように思える。

 それをクニャラに聞くと「三人で交互にお世話をしてました」と衝撃発言を平然と言った。

「みんなでってシャーロンさんも?」

「はい、私の責任でもありますから」

 シャーロンさんは自分がさっさと魔窟を発見していればこんな事にならなかったと責任を感じていた。そして冒険者仲間が怪我をした場合には仲間が看護するのは当たり前だそうで、当然シモのお世話も仲間がするのだとか。

 つまり糞や尿を漏らし放題だったわけだ。……死にたい。

「でも、大丈夫ですよケンタさんのあれは他の人よりも大きかったですから」

 シモの世話をされてショックを受けている俺を慰めるつもりで言ったのだろうが大きい? 何が? フンですか? フンですね! フンボルトペンギンの話ですね。

 そんな大きいのを漏らしたのか。ショック&ショックである。

「意識不明になったのは多分魔物の持つ雑菌だと思われます。右足の傷を見ると噛み砕かれた形跡がありますので」

 シャーロンさんが言うには下位の魔物が付けた傷なら低レベルのポーションでも雑菌ごと癒すのだが上位の魔物になると別に毒消しのポーションを飲まないといけないらしい。

 消毒の概念があることに驚きだが、俺はそれを失念していた。

 これはゲームじゃないのだから、現実的に考えることを忘れていた。

 コモドドラゴンに噛まれるとその口の雑菌から死ぬと言う。

 今回もそう言うことで俺は生死の彷徨っていたのだろう。

 もしかして女神はなにも言わなかったが実は俺は死ぬ予定だったのかもしれないな。

 それで俺に選ばせることにしたのだろう。ゲームは知らないのに嫌な女神だ。

 俺は女神に感謝すると体を引きずりながら玄関へ向かう。

「どこへいくんですか」

「レオナを連れ戻す」

「でも、彼女はあなたを危険に陥れました。あなたにはふさわしくない」

 シャーロンさんは俺の前に立ち行かせまいと道を塞ぐ。

「ふさわしいとかふさわしくないってなんだよ。俺はそんな高尚な人間じゃない」

「あなたは素敵な人ですよ、誰も助けにいかなかった、助ける必要がなかった人の命を救ったのですから」

「レオナは助ける必要のない人じゃないよ。そういう事をいう貴女とは多分相容あいいれない。どいてください」

「……」

 俺はなにも答えないシャーロンさんを残して玄関へと向かうが、さすがに三日もなにも食べていないので力が全然でない。

 くそ、情けない。

 俺は農業用フォークを取りだし杖がわりにして立った。立ち眩みで目の前にノイズが走って倒れそうになる。

 俺はその場で目を閉じて呼吸を整えた。

 再び目を開けるとノイズは消えた。よし大丈夫だ。俺は残りの片足にブーツを入れると外へと飛び出した。

 クニャラは俺の後をついて来て俺を支えようとするがそれは断った。

 できることは自分でしなければいけない。時間をかければ一人でできるのに、誰かに頼ってしまっては頼ることが当然となってしまう。

 家の周囲にはレオナの姿はない。

 当然か……。あんな風に言われて、ここにいられるわけがない。

 ギルドにいるのか?

 いや。シャーロンさんがあの調子だ多分ギルド内でも針のむしろだろう。

 いるとしたら自分の家か。

「クニャラ、レオナはどこにすんでるの?」

「野宿です」

「は?」

「冒険者のテント村で住んでるのです」

 そうか、冒険者で家を持っているやつなんてそれなりの定期収入や財産があるやつだけだ、

 この世界にはアパートなんかないし低級冒険者の稼ぎじゃ宿屋は高い。

 だから下級冒険者のためにテント村のような場所が用意されているのか。

「ごめんクニャラ、その場所に案内してくれないか」

「ハイです」

 クニャラは俺の少し前を歩き、時折り俺の方を振り返りゆっくりゆっくり歩いて道案内をする。

 しかし三日も経っているのに傷が痛い、動いているから血の巡りが良くなったのだろう。

 雑菌がまだ残っていたらヤバイな。俺は毒消し(超)をストレージから取りだし一気に飲み干した。

 残りの毒消し(超)はあと3本か。毒消し(低)も作らないとな。

「なに飲んだのです?」

「毒消し」

「……持っていたんです?」

「うん、上級の魔物と戦って傷ついたとき毒消しを飲むと言うのを知らなくて。迷惑かけたね」

「いいのです、ケンタはクニャラの英雄なのです」

「英雄なんてガラじゃないよ」

 そう言うとクニャラは大好きですと言い顔を赤らめる。

 おじいちゃんとして少しは認めてもらえたかな。

 俺がそう言うと軽くパンチされた少し手加減されたが痛い。

 調子に乗るなと言うことだろうな。

 そうこうしていると冒険者のテント村に着いた。

 テントは全部で10ほど建っている。

 その一角の端にあるのがクニャラたちのテントなのだと言う。

 すえた臭いがしてここが劣悪な環境だということを教えてくれる。

 テントの前に立つとレオナのすすり泣く声が聞こえてきた。

「クニャラちょっとレオナと二人で話したい」

「わかったです」

 そう言うと少し散歩してくると言って俺に時間をくれた。

 テントの外から俺はレオナに声をかける。

「レオナ、俺だケンタだ入るぞ」

「け、ケンタさんなんで」

 中からレオナの声が聞こえるが入る了承をしてくれない。

 俺は了承を得ないままテントの中に入った。

 テント内はきれいに整理整頓されており中は思ったよりも綺麗だった。

 毛布の上に座るレオナは目を真っ赤にして涙が頬をつたっていた。

「レオナ……」

「け、ケンタさんこんなところに来ちゃだ目だよ。傷にさわるよ」

 俺はレオナを抱き締めた。どこにもいくなと。

「私は、私のせいでケンタさんを死の淵に追いやったの。だから一緒にいる資格がないの」

「そうシャーロンさんが言ったのか?」

「……」

「レオナ、俺は君とクニャラが側にいて楽しかった。君を失うなんて考えられなかった。だから助けることができた。それなのに俺はレオナを失うのか?」

「……でも、私は」

「誰がどう言ったとか関係ない、レオナは俺のことが嫌いか?」

「すき、大好きです」

「じゃあ一緒にいよう。ちゃんと責任とるから」

「私、がさつだし愛嬌ないし」

「うん、そうか? すごくかわいいよ」

「わ、わたし、おっちょこちょいだし迷惑かけるし」

「好きな人の迷惑なら望むところだよ」

「す、すき?」

「ああ、大好きだよ」

 俺がそう言うとレオナは俺に抱きついて泣きじゃくる。俺は彼女の頭をなで慰める。

「レオナ、俺は魔窟で約束したろ責任とるって、俺はちゃんとレオナが嫁にいくまで面倒みるつもりだよ」

「……え?」

「ん?」

「ええと、ケンタさん私のこと好きなんですよね?」

「うん、大好きだよ」

「ええと、お嫁にしてくれるんですよね?」

「え、俺の嫁?」

 そうかレオナは俺を怪我させたことで責任を感じてしまってるのか。

「レオナ、俺の怪我は気にすることはないぞ。これは俺がやりたくてやっただけだ。だから気に病んで俺の嫁になるとか言わなくて良いんだよ」

「ちが!」
 
 俺はレオナを抱き締める。

 俺なんかと結婚する必要はない、こんなおっさんより若い男などいくらでもいるのだから。

 とはいえゼロスような男をつれてきたら、あの魔獣のように消滅させてやるけどね。

「痛っ!」
 
 なぜかレオナが俺の首筋を噛む。なんなの肉食なの? お腹減ったの? お父ちゃん食べても美味しくないよ?

「ケンタさん……バカです」

「は、はい?」
 
 レオナは何も言わず俺をギュッと抱き締めるだけだった。




 第一章★完
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