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1章 変態紳士二度目の異世界転移

スキルを使って畑を耕す。

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 ゴメスは俺の記憶喪失の嘘を信じて泣きながらギルドに戻っていった。

 いつか嘘をついてることを謝ろう、ゴメんスって言って。

 取り合えずは家の周囲を散策してみた。周囲にはこの家以外には他に建物はなく、草が鬱蒼と生えてお化け屋敷の様相を呈していた。

 これは草むしりかな?

「何するです?」

 クニャラが俺の裾を引っ張り、なにか手伝いたいと言う。

「草むしりをしようと思うんだけど」

 そう言えばアイテムストレージにも色々道具があるんだよな、思い付くまま道具がらくたを外に出し右手で握ると様々な情報が表示された。

 どうやら俺は色々なスキルを使えるようで全ての道具で製作スキルが発動した。

 ただし全部レベル1だけど。

 俺は農業用フォークを手に持つとその中の項目『刈り取り』を選んだ。そのフォークを雑草にあてるとあっという間に牧草ロールのような円柱の束が出来上がった。

 農業用フォークをみると新たに低級肥料が現れたが灰色で選択できない。どうやら牧草ロールと水で作れるようで手元に水が無いから作れないようだ。

 水の入った袋をストレージから取り出すと案の定低級肥料が選べるようになった。

 低級肥料を選択してフォークを牧草ロールにあてるとたちまち肥料化した。

「すごいのです!」
「ケンタさん農業者でもあるんですか?」

「そうみたいだね、記憶喪失でよく分からないのだけど」

 空っぽになった水袋をプラプラとさせながらそう言うと。

「私が汲んできますね」とレオナは俺から水袋を引ったくり、井戸の方へ駆けてった。

 親切な子だなんかお礼したいが何が良いだろうか。などと考えながら次の作業に移る。

 次はクワを持った。

 耕すという選択が2個出た。とりあえず『耕す1』を選んでみた。

 それを地面にあてると土と肥料が合わさって地面が柔らかく耕された。

 因みに『耕す2』を選ぶとまるでネギを植えるような土手ができたので育てる植物で用途が違うようだ。

 エルダートレインの種も育てられるのかな? 

 今、手持ちの種はすべてエルダートレインの種ばかりだ。

 秘薬関係や観葉植物など多岐にわたるが、世界がそんなに違うわけではないならこれらを育てておいて損はないだろう。とは言え使い道がないものを育てても仕方がない。
 
 まず作るなら回復薬系だ。

 回復もできずに死ぬのはごめんこうむりたいからな。

 先程の道具がらくたを出したとき錬金術の道具をさわって出た項目は『回服薬(低)』だった。

 つまり素材さえあれば回服薬も作れる。ただ手持ちの秘薬はすべて回服薬(強)や上級薬のものばかりで『回服薬(低)』の素材がない。

「なあ、クニャラ回服薬の素材ってなにかわかる?」

「薬草を使うです、製法はよく分からないです」

 薬草か、エルダートレインと製法が違うな。エルダートレインでは回服薬(低)は人参とヤモリでつくる。つまりこの世界は前の世界と比べて近からず遠からずと言ったところか。

「持ってきました!」

 レオナが体をびしょびしょにして水袋と水桶を持ってきた。

「ありがとう」

 俺がそう言うとレオナはエヘヘと笑い、頭を出す。その頭を撫でてあげるとレオナは満面の笑みを浮かべる。本当にこの世界の娘は頭撫でられるの好きだな。今度ゴメスさんにも試してみるか。

 さて、せっかくレオナに水を持ってきてもらったが植えるものがない。

 製作できない秘薬の種を植えても意味がないし、そもそも上級秘薬なら腐るほどある。

「薬草の種がないんだよね」

「それならあるです」

 そう言うとクニャラが懐から袋を取り出して俺によこした。

「これが薬草の種なの?」

「はいです、それはゴウマ草の種で食べても美味しいです。その種自体には回復効果はないのです」

 つまり、これはクニャラのおやつか?

「もらって良いの?」

「もちろんです、これだけじゃお礼にもならないのです」

「ありがとう、ありがたくいただくよ」

 さて、せっかく種をもらったが、こんな細かいのをいちいち撒くのか? 撒き方も分からないし無暗に蒔いても育つ保証はない。

 道具を利き手に持つと情報が表示される。

 なら、畑に手を置いたらどうなる?

 俺は念のために畑に右手を置いてみた。

◎畑(状態:普通++)
・種を撒く
・水を散布する
・成育状態を見る

 お、いけるじゃないか。俺はさっそくゴウマの種を撒くとレオナが持ってきてくれた水を選択して散布する。

 成育状態を見ると。

・成育状態を見る
 植えたばかり(発芽まで10時間)

 わりと早く発芽するようだ。発芽時間が出るなら伐採時期も出るはずだ。刈り入れ時が分かるのはありがたい。

「よし、畑はこんなものか」

 家に戻ろうとするとクニャラが俺に頭をグリグリと押し付けてくる。

「どうしたのクニャラ?」

「バカなのです!」

「?」

 なにか怒らせたかなと思い「どうした?」と頭をなでると「もういいのです」と言って顔を赤くした。

 ふむ、たまにクニャラは良くわからんな。

 部屋に戻った俺たちは一休みのお茶休憩をすることにした。

 鉄釜に水を入れてお湯を沸かし、キュウスに紅茶の茶葉を入れカップに注いで二人に振る舞った。

「はわわ、なんですこれは!」
「すごい、おいしい」

「紅茶だよ?」

 俺も一口飲んでみたが、確かに地球上のどんな紅茶よりも美味しかった。いや世界中の紅茶をテイスティングした事無いけど。

 料理スキルの影響か、それともこの茶葉の実力かは後程試すことにして、今はこの香りを楽しみたかった。

 取り合えず今日で三日目だけど転移するような兆候は見られない。

 前回は胸騒ぎがひどかったからな、あれが警告だったのかもしれない。

 ふと二人の服を見るとかなりボロボロだった。

 そう言えば裁縫道具も道具がらくたの中にあったなと思い。取り出して右手に持つと。

◎裁縫道具 951/1000
・防具修復(鉄製品以外)
・魔法使いの帽子
・ベレー帽

 ◆魔改造チューニング
 ◎素材
 ・エルダーホースの皮
 ◎能力付与
 ・切れ味増強+10
 ・攻撃力UP+100%
 ・防御力UP+100%
 ・etc. 

 お!魔改造チューニングできるぞ、エルダーホースと言うのはたぶんエルダートレインの馬の皮だろう。それなら大量にストレージにある。これは試さないとね?

「二人とも服脱いで」

「なっ!?」「です!?」

「はやく! はやく!」

 急かす俺の顔を見ると、二人は顔を見合わせ、互いにウンとうなずくと「優しくしてほしいのです」「私も、初めてなので……」と言った。

 二人ともなに言ってるんだ? はじめて? 修復が? 

 二人が服をスルスルと脱ぎ出したので俺は後ろを向き二人にポンチョを差し出した。

「しないのです?」

「ん? 服の修理ならするよ?」

 しばらく、間があったのだが二人が後ろから俺をポカポカと叩く。

 痛い痛い。なんなんだよ、いったい……。

 脱いだ服を手に取るとメチャメチャあたたかい、くっコレが美少女の温もりと言うやつか、俺が極悪変態だったらクンカクンカしているところだぜ。

 変態紳士で助かったな。俺は温かい服に妄想でそれを伝えた。

 手から伝わる温もりを楽しみながら俺は裁縫の『防具修復』を使った。

 防具はあっという間に直り、まるで新品同様になった。

 それと手持ちの布で魔法使いの帽子とベレー帽を作った。

 魔法使いの帽子には魔力+10が付き、ベレー帽には俊敏+20が付いた。

 そして魔改造チューニングだ、布製品を皮で改造することはできないらしくレオナの皮鎧だけ魔改造することにした。

 レオナの鎧は魔改造によって俊敏+30 耐久+50を手に入れた。

 強すぎる気もしないではないが、かわいい娘達を怪我させたくないし、まあいいか?

 俺は出来上がった装備を二人に渡すと、二人とも目を丸くして喜んでくれた。

 特に新しく作った魔法使いの帽子とベレー帽はすごく喜んでくれた。

 こんな笑顔が見れるなら作った甲斐があったってもんだぜ。

「また、返しきれない借りができたのです」

「さっきいっぱい手伝ってくれたから十分だよ」

 俺のその言葉に二人とも不満そうだが、俺が頭をなでると不満顔もなくなったので、借りなどないと分かってくれたようだ。
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