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閑話

ソラ①

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 清々しい朝が来る。
 差し込む日差しは眩しさよりも、程よい暖かさを届けてくれる。
 身体を起こして布団をどかし、ベッドから降りて背伸びをする。
 いつもの服に着替え終わった頃、トントンと扉をノックする音が聞こえてきた。

「おはようございます。ウィル様」

「おはよう、ソラ」

 向かい合いあいさつをする。
 一週間前、僕たちは夫婦になったんだ。
 お互い頬が赤いような気もするけど、自然に振舞うように意識する。

「朝食の準備が出来ています」

「ありがとう。すぐに行くよ」

 淡々と会話を交わし、並んで食堂まで赴く。
 すでに待っていた皆にもあいさつをしてから、仲良く朝食をとる。
 朝食が済んだら、僕は仕事のために執務室へ向かう。
 ソラも自分の仕事をしていく。
 日常は穏やかに、変わり映えしないまま続いていく。

「主らはあれじゃな。結婚しても全く前と変わっておらんのう」

「うっ……やっぱりそう思うよ」

「誰の目から見てもそう思うじゃろうな」

 執務室に来たユノが、机の上に腰を下ろしながら言う。
 脚をバタバタと動かしながら、ニヤついた表情で続ける。

「もっとイチャコラすれば良いじゃろ?」

「イチャコラって」

「何じゃ? したくないのか?」

「そんなのしたいに決まってるよ」

「急に正直じゃな」

「別に隠す必要もないでしょ? もう夫婦ではあるんだしさ」

 自分でそう言いながら、内心は照れているのは内緒だ。
 まぁたぶんユノには、バレているだろうけど。

「夫婦のう……そう言っても、全く変わらんのでは説得力はないのう」

「本当にね……自分でもそう思うよ」

 ユノに言われるまでもなくわかっている。
 夫婦になっても、夫婦らしいことは出来ていない。
 ここ数日を振り返っても、これまでと変わらないように接している。
 意識しているのは伝わるけど、逆にどうしればいいのかわからない。
 お互いに困っていると、僕は思っている。

「ソラはどう思ってるのかな」

「主と同じじゃと思うが?」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「ソラちゃんとウィル様、ホントに結婚したんだよね?」

「いきなり何ですか?」

「だってさ~ 前と変わってないよね?」

「っ……」

 ソラはニーナに図星をつかれて固まっている。

「ソラちゃんはさ。今のままで良いの?」

「……よくはないですね」

「だったらもっと積極的に行かなきゃ! 二人は夫婦なんだもん!」

「簡単に言ってくれますね」

「簡単だよ? だって大好きな人同士なんでしょ?」

 ニーナは無邪気に、心のままに意見する。
 その言葉はソラに響き、自分の胸に手を当てる。
 
「私は……」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 執務室で仕事中。
 ユノは暇そうにソファーで座っている。
 何の脈絡もなく、ひらめいたように僕は言う。

「よし決めた!」

「ん? 何をじゃ?」

「ソラをデートに誘うよ」

「ほう、それは思い切ったのう。プランはあるのか?」

「それを今から考える」

「気合だけではないか……大丈夫なんじゃろうな?」

 ユノは心配そうに僕を見つめる。

「たぶん大丈夫だと思うよ。ただ、数日はこの街を留守にするかも」

「それは問題ないのじゃ。ワシらがおるし」

「うん、じゃあ誘ってくるよ」

「今から? プランはもう決まったのか?」

 僕はこくりと頷く。
 ユノは呆れた表情をしている。

「実を言うと、結構前から考えてはいたんだよ」

「そういうことか。まぁあれじゃ、しっかりのう」

「うん、ありがと」

 そう言って僕は部屋を出る。
 きっと一人になったユノは、僕の後姿を見つめてこう思ったんだろう。

「やれやれ……世話のかかる奴じゃ」
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