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花嫁編

248.不公平じゃろ?

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 自分の心に触れて、思い出を振り返る。
 そうして、答えは出てしまう。
 後は伝える勇気だけだ。
 ほんの少しでも良い。
 誰かを想い、傷つける勇気がほしい。

「主は綺麗なままで片付けたいと思っておるな」

「うん、たぶんね」

「それも間違いではない。じゃが、主の言う通り傲慢でもある」

「僕もそう思うよ」

「なら、そのまま伝えてはどうじゃ?」

「そのまま?」

「うむ。主の想いを、形を変えずに真っ直ぐじゃ」

 秘めた想いも葛藤も、全て包み隠さず話せば良い。
 ユノはそう言ってくれていた。
 選べないという気持ちも、僕の本心であることは間違いない。
 それも含めて全力に、ただ想いを伝える。

「あとは成り行き任せになりそうじゃがな? まっ、実際に面と向かって話したほうが、気持ちの整理も付けやすいじゃろ」

「そうかもしれないね」

 お見合いの返事は翌日の正午。
 伝えるべき人の所へ行く、ということになっている。
 こうしている間にも、約束の時間は刻一刻と迫っていた。

「じゃあ、どっちから伝えよう……」

「それこそ決まっておるじゃろ?」

「……うん」

 また見透かされてしまっている。
 僕の想いを伝える順番は、考えなくても決まっている。
 あとはどう伝えるかだけど、ここで考えていても仕方がないか。

「なるようになる……か」

「そういうことじゃ」

 ユノは頷き、机に向かって作業をしている。
 彼女も普段通りだ。
 そんな彼女を見つめていて、僕はあることを思う。
 僕の視線に気付いたユノは、手を止めて僕に言う。

「何じゃ? そうじっと見て」

「ユノはその……良かったのかなって」

 ユノは首を傾げる。

「何がじゃ?」

「いや、その……僕とのお見合いのこと。君も立候補するかなって、勝手に思っていたから」

 自分で言っていて恥ずかしい。
 勝手な思い込みを口走っている自覚がある。
 ようするに、僕はユノに好かれていると思っているわけだ。
 モジモジしている僕を見て、ユノはニヤッと笑う。

「な、なんだよその顔!」

「ふふっ、いや~ 主にそんなことを言われるとはのぉ~」

「むっ、そうやってからかう。てっきりユノも、僕のことが好きだと思ってたのになっ!」

 僕は何を言っているんだ?
 と開き直った後で我に返った。
 後悔と羞恥で顔が真っ赤になりそうだ。
 だけど、その前にユノが――

「ん? 好きに決まっておるじゃろ?」

 そう言ったことで、赤面するタイミングを逃した。

「えっ……」

「何を呆けておる? 主だってわかった上で聞いたのではないか?」

「いっ、そ、そうだけど……」

 動揺する僕を見て、呆れたようにユノがため息をもらす。
 それからユノは、真剣に僕を見て言う。

「ワシは主のことを愛しておるよ。世界で一番、愛おしく思っておる」

 ユノの告白。
 ハッキリと疑いなく、僕の目を見て伝えてきてくれる。
 あの時の二人と同じだ。

「主を想う気持ちなら、誰にも負けん自身すらあるわ」

「じゃ、じゃあ何で……」

「結婚することだけが愛の形ではなかろう? 少なくともワシにとっては、そこが絶対に必要というわけではない。ワシはただ……この先も主の隣におれれば良い」

 そう言っているユノは、初めて見るくらい頬を赤らめ、うっとりとした目をしていた。
 僕は思わず魅入ってしまう。
 今すぐ抱きしめてしまいたい。
 そうすれば、二度と離れられなくなりそうな予感をしている。

「そもそもじゃ! ワシと主は眷属契約で繋がっておる。ワシが生きておる限り、主も生き続けられる」

 神祖は不老不死の存在。
 眷属である僕も、同じように不老の存在となった。
 僕とユノは、この先もずっと生き続ける。
 誰もいなくなっても、二人だけになったとしても……文字通り永遠に。

「つまりワシは、主と永遠に添い遂げる権利を、すでに持っておるということじゃ。他のやつ等では到底得られん幸福を、ワシだけが持っておる」

 ユノは嬉しそうに語る。
 無邪気に、僕の手を握ってくる。
 そして、屈託のない笑顔で僕にこう言うんだ。

「じゃから、一時の幸福くらい分けれやらんと不公平じゃろ?」

 ユノの言葉が、僕の心を揺さぶる。
 響き、膨れ上がり、どうしようもなくなる。
 篭っていた殻が打ち破られたような感じだ。
 浮き彫りになった本心に触れて、僕は不意に笑ってしまう。

「ユノらしいね」

「そうじゃろ? じゃから主も、主らしくやれば良い」

「そうだね……うん、そうするよ」

 ユノは僕の顔を見て言う。

「うむ、良い顔になった」

「ユノのお陰だよ」

「それは何よりじゃ」

「ねぇユノ」

「ん?」

「僕はユノ好きだよ。これから先もずっと、君が隣にいてほしい」

「ふっ……今更じゃな? 知っておるよ」

「そっか」

 僕らは笑い合う。
 いつものように、当たり前みたいに。
 そうして笑顔の中で、僕は呟く。

「伝えなくちゃ……に、僕の想いを」
 
「そうじゃな」

 答えは出た。
 この選択が正しいかどうかなんて、もうどうでも良い。
 たとえ無責任だと言われても構わない。
 だっても僕は、それしか選べないんだから。
 僕は僕らしく、自分の心に従おう。
 ユノみたいに真っ直ぐ、僕にしか出来ないことをやろう。

「言ってくるよ」

「うむ、頑張れ」

 愛する者に見送られ、僕は想いを伝えに行く。
 
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