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花嫁編

238.素敵な贈り物

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 レミリア様と他愛ない雑談を楽しんだ後、僕から用件を問いかける。

「それで、今日はどんな用件で来られたんです?」

「むっ、それって何? 用件がないと来ちゃ駄目ってことかしら?」

「えっ、いや! そういうつもりじゃ」

 急に不機嫌になったレミリア様に、僕は慌てて言い訳をする。
 すると、レミリア様はぷすっと風船の空気が抜けたように笑い出す。

「ふふふっ、冗談よ冗談」

「なっ、ちょっ……驚かせないでくださいよ~」

「ごめんなさい。ちょっとからかってみたかったの」

 レミリア様は無邪気な笑顔でそう言った。
 まったく勘弁してくれ。
 緊張で心臓が止まるかと思ったよ。

「こういう冗談が言えるのも、友人同士の特権でしょ?」

「確かにそうではありますね」

 そう言いながらも、僕は心の中でため息を漏らす。
 王女様と友人になるのも、中々に骨が折れるんだな。
 まぁ、これはこれで退屈しないか。

「で、結局用件は何ですか? わざわざ伝言までくれたんだ。何かあるんでしょ?」

「ええ、もちろんよ」

 ようやく話が先に進む。
 レミリア様は、改まった口調で話し始める。

「今日の用件は二つよ。あなたに渡したい物があるのと、報告があるの」

「報告ですか」

「そっちは後よ。というより、今日のメインはこっちなの」

 レミリア様はそう言いながら、手のひらサイズのケースを取り出し、机の上に置く。

「これは?」

「ちょっと早いけど、あなたへの誕生日プレゼントよ」

「えっ……」

 意外な言葉に、僕は思わず声を漏らした。
 驚いた僕を見て、レミリア様は首をかしげて言う。

「あら間違ってた? 確か今月だったわよね?」

「い、いえ合ってますけど」

 今日は七月二日。
 僕の誕生日は、五日後の七月七日だ。
 レミリア様の言っていることは合っている。
 僕が驚いているのはそこじゃない。
 
「こ、これを僕のために?」

「そう言っているでしょ? 何をそんなに驚いているのかしら」

 驚くに決まっている。
 だってレミリア様は、兄上のこと以外興味がない人なんだから。
 こんなこと言うのは失礼だとわかってる。
 でも他者への贈り物なんて、立場上の理由がなかれば絶対にしない。
 少なくとも、僕の知っている彼女はそういう人だ。
 そもそもこれまで、彼女は僕の誕生日なんて気にしていなかった。

「何? その顔は文句でもあるのかしら?」

「ち、違います! ただ驚いてるんですよ。レミリア様から贈り物なんて、今年が初めてじゃないですか? だからその、どうしてなんだろうって」

「あぁ、そんなこと」

 レミリアは呆れた顔をする。
 それからなぜか顔を背け、恥ずかしそうにモジモジして言う。

「ほ、ほら、私たちって友達同士になったじゃない?」

「え、あ、はい」

「去年まではずっと、契約上の関係ってだけだったけど、今はそうじゃないでしょ? 友人として、誕生日に贈り物を用意するのって、普通だと思わない?」

「そう……ですね」

「それにね? あなたにはずっと感謝していたの。この間だって、指輪作りを手伝ってくれたでしょ? これまでだって……だから、お礼がしたかったの」

 レミリア様は照れくさそうに、頬を赤らませながら微笑んだ。
 それを聞いた僕は、自分の察しの悪さに呆れた。
 同時に、暖かい気分で包まれた。
 この一年間で、僕のレミリア様に対する印象はガラリと変わっている。
 彼女に限った話ではない。
 たった一年で、僕の周囲は大きく移り変わった。
 その変化を、僕は改めて実感する。

「開けてもいいですか?」

「どうぞご自由に」

「じゃあ遠慮なく」

 僕は箱を手に取る。
 レミリア様は気になるのか、チラチラと見ていた。
 箱は小さいけど程よく重い。
 パカっと蓋を開けると、中に入っていたのは銀色の懐中時計だった。

「王国一の職人に特注で作らせた世界に一つだけの時計よ」

「特注? わざわざ僕のために?」

「そうよ。あなたって忙しいくせに、時計の一つも持ち歩いていないでしょう? 時間を確認できる物くらい持ってても損はないわ」

「よく見てますね……」

 僕は懐中時計を眺める。
 銀色に輝く外装には、変わった模様が掘り込まれていた。

「その模様は太陽をモチーフにしているの」

「太陽?」

「ええ。あなたの髪が太陽に似ているでしょ?」

「ああ、確かに」

 僕は自分の髪に触れながら確かめる。
 他の人にも、よく同じようなことを言われるな。

「いえ、髪だけじゃないわね。あなた自身も太陽のようだわ」

「僕が?」

「ええ、誰かにも言われたことがあるんじゃないかしら? あなたは明るくて、優しくて、温かい……だから、いろんな人があなたの周りに集まってくる」

 そう言って、彼女は窓のほうへ目を向ける。
 さらにこう続ける。

「この街もあなたに似てきたわ。街に住む人たちは、誰も彼も楽しそうで幸せそうだった。きっとそれは、あたなの街だからなんでしょうね」

「街が僕に……」

 そんな風に言われたのは初めてだ。
 しかし、そうか。
 レミリア様には、この街がそう見えているんだな。

「だとしたら、うれしい限りです」

「ええ、本当にピッタリの名よ。ウィルの街は」

「はい! 全くですよ」
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