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花嫁編

233.故郷を探して

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 思い立ったら即行動。
 そう言わんばかりに、二人は出発の仕度を整えた。
 ウィルが出した候補は三箇所。
 どれも同じ範囲内にあるとは言え、それなりに距離が離れている。
 全て周るためには、最低でも二、三日はかかるだろう。

「水と食料、あとはキャンプ用品か。重い物は俺が持つよ」

「そんな! ボクも持てますよ!」

「見栄を張らなくて良い。歩けなくなられても困る」

「うっ……ごめんなさい」

「何で謝るんだよ」

「だってボクのために色々……」
 
 モジモジと身を縮めるロトン。
 そんなロトンの頭に、ぽんと軽く手を乗せる。

「俺がそうしたいだけだ。お前が気にすることじゃない」

 そう言うと、ロトンはニコッと笑う。
 二人は仲良く準備を進めていく。
 時計の針が正午を告げることには、出発の準備は整っていた。
 大きなリュックをイズチが背負い、小さなカバンをロトンが持つ。
 二人は玄関の前に立ち、ウィルとユノが見送る。

「ウィル様、行ってきます!」

「うん、気をつけてね」

「俺がついてる。ちゃんと無事に帰ってくるさ」

「そうだね……うん」

 気持ちよく見送られると思っていた。
 なぜかウィルは浮かない顔をして、イズチに目を向ける。

「イズチ」

「何だ?」

「知るってことには、覚悟が必要なときがある。僕には出来なかったけど、君なら別の答えを見つけられるかもしれない」

「何の話だ?」

「さぁね……たぶん、すぐにわかると思うよ。期待しているから」

 そうしてウィルは、最後に意味深な言葉を残す。
 イズチとロトンは首を傾げるが、ウィルはそれ以上何も言わなかった。
 結局わからないまま、二人は扉を潜っていく。
 残されたユノとウィルは……

「行ってしまったのう」

「うん……」

「良かったのか?」

「わからない」

 ウィルは二人が消えた扉を見つめる。

「ただ……イズチは僕じゃない。彼ならもしかしたら……って思うんだ」

「……期待か」

「うん。理不尽な言葉だよね」

「そうじゃな」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 扉を潜った二人は、森の中を歩いていた。
 最初に向かうのは、比較的大きな集落があった場所だ。

「ウィルの話だと、そこから何人も俺たちの街へ移住してきてるらしい」

「え? じゃあ誰も残っていないんじゃ」

「そうとも限らないらしいぞ。移住を拒んで、残っている者もいるって話だ」

 残った中に、ロトンの両親がいるかもしれない。
 そんな期待を胸に歩いていく二人。
 イズチはふと、ウィルの言葉を頭に思い浮かべる。

 知るには

 知るってことには、覚悟が必要なときがある――

 あれはどういう意味だ?
 やっぱりウィルは、何か知っているんじゃ……だったら何で黙っている?
 知る覚悟……か。
 
 イズチの脳内では、考えたくない可能性が浮かんでいる。
 ともて口には出来ないことだ。
 もしもそうなら、自分はなんて残酷なことをしているんだろう、と後悔するだろう。
 イズチは悪い考えを頭の端に寄せ、期待のほうを優先することにした。

 それからしばらく歩き――

 二人は目的の場所へたどり着く。
 そこには集落が残っていた。
 木の策で囲われていて、何十軒もの建物が並んでいる。
 話に聞いた通り、比較的大きな集落のようだ。
 ほとんど人がいなくなり、半分ゴーストタウンのようになっているが――

「あっ! 誰かいますよ!」

 ロトンが気付き声をあげた。
 視線の先には、年老いた獣人が歩いていた。
 他にもポツポツと人影がある。
 どうやら残ったのは、ほとんどが年老いた獣人のようだ。

「話を聞いてみようか」

「はい!」

 二人は村の中へ入っていく。
 そうして村人に事情を話したが……
 結論を先に述べる。
 ここはロトンと無関係な村だったようだ。
 彼女を知るものはなく、ロトンも懐かしさをまったく感じなかったからだ。
 候補の一つ目は、あっけなく不発に終わった。

「……」

 しょぼんとするロトン。
 イズチは頭を撫でる。

「まだ一箇所目だ。次へ行こう」

「はい」

 少し元気がないが、希望は捨てていない目をしている。
 そうして、二人は次の目的地へ向かう。
 つもりだったが、いつの間にか日が暮れかけていたことに気付く。

「夜の森は危険だ。一旦ここで野宿だな」

「そうですね」

 二人は村敷地内でテントを広げる。
 余っている家を使っても良いと言われたが、無人とは言え他人の家。
 気が引けると断ったのだ。

「寒くないか?」

「ちょっと寒いです」

「なら俺の毛布をやる」

「駄目ですよ! それじゃイズチさんが風邪を引いちゃいます」

「俺は平気だから」

「駄目です!」

「頑なだな……だったらどうする?」

「い、一緒に使う……とかじゃ駄目ですか?」

 もじもじと照れながら言うロトン。
 彼女が甘えるなんて珍しい。
 その可愛らしさに、イズチも思わずドキッとする。

「わかった」

 さすがのイズチも断れない。
 二人は仲良く、一つの毛布を使って眠る。
 イズチの近くで見えるロトンの表情は、とても満足げで嬉しそうだった。
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