122 / 159
花嫁編
223.初出店
しおりを挟む
時を遡ること数ヶ月前。
ベルゼが初めてウィルの街を訪れた日。
その数日前に、もう一つ大きなイベントがあったことを思い出してほしい。
そう、空中商店ラナの出航だ。
シーナとラルク、二人と若干名の乗組員を乗せ、生まれ変わったアルゴーが飛び立った。
これは彼女たちのお話。
初めての航空が、二人に強い絆をもたらす。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
アルゴーに乗り飛び立った二人は、甲板に出てウィルの街を見つめる。
徐々に遠のいていく街を眺めるシーナに、ラルクが尋ねる。
「やはり不安ですか?」
「はい、ちょっとだけ」
「そう……ですよね」
ラルクは申し訳なさそうに下を向く。
すると、シーナが――
「でも、後悔はしていませんよ?」
そう言って振り向く。
ラルクは顔をあげ、二人は目を合わせる。
シーナは穏やかに微笑みながら、ラルクに伝える。
「これはワタシが選んだことです。一緒に行きたい……そう思ったから、ここにいます。だから、そんな顔をしないでください」
「シーナさん……」
「商人は笑顔が大事! そう教えてくれたのは、ラルクさんですよ?」
「……そうですね! 笑顔でいましょう!」
シーナに元気付けられ、ラルクは笑顔になる。
出会ってから日が浅いにも関わらず、二人は通じ合っているように見える。
よほど相性がいいのだろう、と周りの乗務員は微笑ましそうに眺めていた。
「ラルクさん、最初はどこへ行くんですか?」
「ユナンという街です。ここから北へ数十キロ上ったところにある街ですね」
「ユナン、どんな街なんですか?」
「そうですね~ 一言で表すなら『のどか』という感じです」
ラルク曰く、ユナンのある場所は、他に人工物のない自然豊かな土地らしい。
森や川、近くには山もあり、数多くの動物が生息している。
奇跡的というのか、魔物は一切確認されていないという話だ。
そして、豊かな土地を生かし、農業で発展した街でもある。
「以前から交流のある街です。何度も訪れているので、他の街より顔が利きますよ」
「そうなんですね」
「はい。これから向かうことも、事前に手紙で伝えてあります。いきなり大きな船が飛んで来たら、誰でも驚いてしまいますから」
「ふふっ、確かにそうでうね」
準備は万端という感じだった。
ただ一つだけ、シーナには不安があった。
ふと、その不安をシーナが口にする。
「ラルクさん」
「はい?」
「亜人のワタシたちを、皆さんはどう思うのでしょうか?」
「それは……」
ラルクは言葉を詰まらせた。
その理由を、シーナが察して諭すように言う。
「気を使わないでください。むしろ、こういうことはハッキリと言ってほしいです」
商売なんだから、とシーナがさらに付け足す。
すると、ラルクは腹をくくり、唇を噛んでから話す。
「快くは思われない……と、思います」
「……」
「亜人種に対する偏見は、どの国でも変わっていません。商人として多くの方々と接してきて、そこは強く感じています」
「……やっぱり、ワタシはいないほうが――」
「それは違います!」
落ち込むシーナの手を、ラルクは力強く握る。
少し痛いと感じたのか、シーナはマユを潜める。
「あっ、す、すいません」
と言いながら、ラルクは握る力を緩める。
「シーナさん……」
「良いんです。事実ですから……仕方ありません」
シーナはラルクの手を優しく解く。
くるりと回り、船内のほうへ向いてしまう。
服についていたフードを被り、エルフの特徴である耳を隠す。
「こうしていたほうが良いですよね?」
「そんな! 私は別にそこまで……」
「ワタシたちの所為で、ラルクさんが困る姿は見たくありませんから」
そう言って、シーナは船内へと歩いてく。
ラルクは何も言えなかった。
そのことが不甲斐なくて、彼は拳を力いっぱいに握る。
一時間後。
二人を乗せた船は、ユナンの近くにある草原に到着した。
草原から街までは少し距離がある。
ただ、歩いて移動できないほど遠くもないので、草原に停船することになった。
ゆっくりと下降し、船を地に着ける。
到着してラルクが船から下りると、数人の男性が集まってきていた。
「おぉ~ 本当に船で来るとは……」
「これは立派だ」
物見客、というわけではなく、彼らはユナンにいる商人たちだった。
今回の件で連絡を入れ、街の人たちとの間を取り持ってくれることになっている。
ラルクが彼らに近寄り、挨拶をする。
「お久しぶりです皆さん。今日から数日間、よろしくお願いします」
「いやいやこちらこそ。期待しておりますよ」
男の一人が船を見上げる。
「手紙を見たときは、何かの冗談かと思いましたが……」
「はははっ、そうでしょうね」
ラルクは自慢げに笑う。
「期待していますよ?」
「ええ、応えてみせます!」
そう言って、握手を交わす二人。
その様子を船の中から、シーナはじっと見つめている。
ベルゼが初めてウィルの街を訪れた日。
その数日前に、もう一つ大きなイベントがあったことを思い出してほしい。
そう、空中商店ラナの出航だ。
シーナとラルク、二人と若干名の乗組員を乗せ、生まれ変わったアルゴーが飛び立った。
これは彼女たちのお話。
初めての航空が、二人に強い絆をもたらす。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
アルゴーに乗り飛び立った二人は、甲板に出てウィルの街を見つめる。
徐々に遠のいていく街を眺めるシーナに、ラルクが尋ねる。
「やはり不安ですか?」
「はい、ちょっとだけ」
「そう……ですよね」
ラルクは申し訳なさそうに下を向く。
すると、シーナが――
「でも、後悔はしていませんよ?」
そう言って振り向く。
ラルクは顔をあげ、二人は目を合わせる。
シーナは穏やかに微笑みながら、ラルクに伝える。
「これはワタシが選んだことです。一緒に行きたい……そう思ったから、ここにいます。だから、そんな顔をしないでください」
「シーナさん……」
「商人は笑顔が大事! そう教えてくれたのは、ラルクさんですよ?」
「……そうですね! 笑顔でいましょう!」
シーナに元気付けられ、ラルクは笑顔になる。
出会ってから日が浅いにも関わらず、二人は通じ合っているように見える。
よほど相性がいいのだろう、と周りの乗務員は微笑ましそうに眺めていた。
「ラルクさん、最初はどこへ行くんですか?」
「ユナンという街です。ここから北へ数十キロ上ったところにある街ですね」
「ユナン、どんな街なんですか?」
「そうですね~ 一言で表すなら『のどか』という感じです」
ラルク曰く、ユナンのある場所は、他に人工物のない自然豊かな土地らしい。
森や川、近くには山もあり、数多くの動物が生息している。
奇跡的というのか、魔物は一切確認されていないという話だ。
そして、豊かな土地を生かし、農業で発展した街でもある。
「以前から交流のある街です。何度も訪れているので、他の街より顔が利きますよ」
「そうなんですね」
「はい。これから向かうことも、事前に手紙で伝えてあります。いきなり大きな船が飛んで来たら、誰でも驚いてしまいますから」
「ふふっ、確かにそうでうね」
準備は万端という感じだった。
ただ一つだけ、シーナには不安があった。
ふと、その不安をシーナが口にする。
「ラルクさん」
「はい?」
「亜人のワタシたちを、皆さんはどう思うのでしょうか?」
「それは……」
ラルクは言葉を詰まらせた。
その理由を、シーナが察して諭すように言う。
「気を使わないでください。むしろ、こういうことはハッキリと言ってほしいです」
商売なんだから、とシーナがさらに付け足す。
すると、ラルクは腹をくくり、唇を噛んでから話す。
「快くは思われない……と、思います」
「……」
「亜人種に対する偏見は、どの国でも変わっていません。商人として多くの方々と接してきて、そこは強く感じています」
「……やっぱり、ワタシはいないほうが――」
「それは違います!」
落ち込むシーナの手を、ラルクは力強く握る。
少し痛いと感じたのか、シーナはマユを潜める。
「あっ、す、すいません」
と言いながら、ラルクは握る力を緩める。
「シーナさん……」
「良いんです。事実ですから……仕方ありません」
シーナはラルクの手を優しく解く。
くるりと回り、船内のほうへ向いてしまう。
服についていたフードを被り、エルフの特徴である耳を隠す。
「こうしていたほうが良いですよね?」
「そんな! 私は別にそこまで……」
「ワタシたちの所為で、ラルクさんが困る姿は見たくありませんから」
そう言って、シーナは船内へと歩いてく。
ラルクは何も言えなかった。
そのことが不甲斐なくて、彼は拳を力いっぱいに握る。
一時間後。
二人を乗せた船は、ユナンの近くにある草原に到着した。
草原から街までは少し距離がある。
ただ、歩いて移動できないほど遠くもないので、草原に停船することになった。
ゆっくりと下降し、船を地に着ける。
到着してラルクが船から下りると、数人の男性が集まってきていた。
「おぉ~ 本当に船で来るとは……」
「これは立派だ」
物見客、というわけではなく、彼らはユナンにいる商人たちだった。
今回の件で連絡を入れ、街の人たちとの間を取り持ってくれることになっている。
ラルクが彼らに近寄り、挨拶をする。
「お久しぶりです皆さん。今日から数日間、よろしくお願いします」
「いやいやこちらこそ。期待しておりますよ」
男の一人が船を見上げる。
「手紙を見たときは、何かの冗談かと思いましたが……」
「はははっ、そうでしょうね」
ラルクは自慢げに笑う。
「期待していますよ?」
「ええ、応えてみせます!」
そう言って、握手を交わす二人。
その様子を船の中から、シーナはじっと見つめている。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
5,859
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。