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花嫁編

221.魔界を繋ぐ扉

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 魔女との戦いが終わり、僕らは穏やかな日常を取り戻していた。
 そして、六月末の昼下がり。
 僕は一人、ベルゼのいる魔王城を訪ねる。

「やぁベルゼ」

「ん? おー! ウィルではないか!」

 城の廊下を歩くベルゼに、僕は声をかけた。
 するとベルゼは、嬉しそうな顔をして駆け寄ってくる。
 後ろから、一緒に歩いていたネビロスも歩み寄ってくる。

「こんにちは、ウィリアム様」

「こんにちは。アポなしですいません」

「いえいえ、アポなど必要ありませんよ。ウィリアム様は、いつでも好きな時にいらしてください」

「ありがとうございます」

 あの戦いで重傷を負っていたネビロスも、今ではすっかり元気になっている。
 僕らと同じように、魔界でも穏やかな日常が戻っている様子だ。

「して、今日は何用か?」

「ちょっとした相談があってね」

「相談?」

「うん、今から少し時間あるかな?」

「もちろんだとも!」

 ベルゼはキッパリと答えた。
 僕は念のため、確認を求めるようにネビロスへ視線を送る。
 ネビロスが視線に気付いて、小さく頷いた。
 どうやら大丈夫なようだ。

「じゃあ、場所を移して話そうか」

「うむ!」

 僕らはソファーのある部屋に移動して、寛ぎながら話をすることに。

「そういえば、城下町のほうはどう?」

「順調だぞ? お陰さまでな!」

「そっか、なら良かったよ」

「うむ! 少しずつではあるが、ウィルの街に近づいておる。いずれは超えるかもしれんぞ?」

「それは嬉しいことだよ」

 幸せの波が出来て、周囲に広がっていく。
 僕の街のように、たくさんの人が笑顔になれる場が増えれば、世界はもっと平和になる。
 激しい戦いが終わった後だからこそ、平和を大切にしたい気持ちが強くなった。

「お互い、もっと楽しくて住みやすい街にしたいね」

「まったくだ」

「今日の相談も、そのためになると思うんだ」

「ほう……今度は何を企んでおるのだ?」

 ベルゼはニヤリと悪い顔をする。
 企むって……もっと別の言い方をしてほしいな。
 そういう所は、やっぱり魔王なんだなと思えるよ。
 僕は苦笑いしながら、話を続ける。

「僕の街と城下町を、自由に行き来できるようにしたいんだ」

「む? それならもう出来ているではないか?」

 ベルゼは魔王城に開いている扉のことを言っている。
 僕は首を横に振ってから言う。

「それは僕たちだけでしょ? そうじゃなくて、僕の街のみんなが城下町へ遊びに来たり、反対にこっちから僕の街へ来たりさ」

「おぉ~ そういうことであったか」

 ベルゼはふむふむと頷く。

「なるほど、悪くない提案だな。だが平気か? こちらの者はともかく、そちらの住民の理解は?」

「わかっているよ。いきなりは無理だろうね」

 僕の街の人たちには、少なからず悪魔への恐怖心が芽生えている。
 それを生み出した張本人は、目の前にいるわけだけど……。
 まぁ仮にそれがなくとも、単純なイメージが不安を煽るだろう。

「それについての対策は用意してあるんだ」

「そうなのか? ちなみにどのような策なのだ?」

「希望者を集めて、僕らがガイドをするんだよ」

「ガイド? 道案内をするというのか?」

「うん。僕らが一緒なら不安も軽減できると思うし、何より案内したほうが、色々と伝わりやすいでしょ?」

 僕らと一緒に回りながら、おすすめのスポット紹介する。
 なるべく面白い場所や、楽しいことを伝えていくことで、良い思い出を持って帰ってもらう。
 思い出が噂になり、町に広まっていけば、興味を持つ者も増える。
 何より楽しい気持ちは、周囲に伝播しやすい。
 観光している様子が楽しそうなら、それを見た街の人たちも、恐怖心や緊張が和らぐかもしれない。
 そういう意図で、この提案をしている。

「最初のうちは僕らがガイド役をして、定着し出したら、他の誰かに一任しようと思ってる」

「ふむふむ、中々に良い提案だな! さすがウィルだ!」

「そういうセリフは、成功してから言うものだよ」

「何を言っておる! ウィルの提案が、失敗するわけがないだろう?」

「言い切ったね……」

 それも豪快に、堂々と言い放った。
 自分のことではないのに、よくそんな風に言えるな。
 と思っていると、ベルゼがどや顔で言う。

「当然だろう? ウィルは我の兄なのだからな! 失敗などありえんのだ!」

 そう言って、屈託のない笑顔を見せるベルゼ。
 信頼と敬愛を感じ、僕はほっと身体が温かくなったように感じる。
 弟にここまで信じられているんだ。
 これは意地でも失敗なんて出来ないな。

「じゃあ決まりだね」

「うむ!」

 そうして僕らは握手をかわす。
 その後、具体的なスケジュールを決めた。
 
 翌々日――

 ウィルの街に、巨大な門が建造された。
 門は仰々しくも歪で、魔界を象徴するような門だ。
 その門を潜れば、城下町へと続いている。
 城下町側に建てられた門は、太陽のイメージを形にしたように、鮮やかなオレンジ色をしていた。

 城下町とウィルの街。
 本来なら一生交わることのなかった二つが、こうして繋がったのだ。
 
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