120 / 159
花嫁編
221.魔界を繋ぐ扉
しおりを挟む
魔女との戦いが終わり、僕らは穏やかな日常を取り戻していた。
そして、六月末の昼下がり。
僕は一人、ベルゼのいる魔王城を訪ねる。
「やぁベルゼ」
「ん? おー! ウィルではないか!」
城の廊下を歩くベルゼに、僕は声をかけた。
するとベルゼは、嬉しそうな顔をして駆け寄ってくる。
後ろから、一緒に歩いていたネビロスも歩み寄ってくる。
「こんにちは、ウィリアム様」
「こんにちは。アポなしですいません」
「いえいえ、アポなど必要ありませんよ。ウィリアム様は、いつでも好きな時にいらしてください」
「ありがとうございます」
あの戦いで重傷を負っていたネビロスも、今ではすっかり元気になっている。
僕らと同じように、魔界でも穏やかな日常が戻っている様子だ。
「して、今日は何用か?」
「ちょっとした相談があってね」
「相談?」
「うん、今から少し時間あるかな?」
「もちろんだとも!」
ベルゼはキッパリと答えた。
僕は念のため、確認を求めるようにネビロスへ視線を送る。
ネビロスが視線に気付いて、小さく頷いた。
どうやら大丈夫なようだ。
「じゃあ、場所を移して話そうか」
「うむ!」
僕らはソファーのある部屋に移動して、寛ぎながら話をすることに。
「そういえば、城下町のほうはどう?」
「順調だぞ? お陰さまでな!」
「そっか、なら良かったよ」
「うむ! 少しずつではあるが、ウィルの街に近づいておる。いずれは超えるかもしれんぞ?」
「それは嬉しいことだよ」
幸せの波が出来て、周囲に広がっていく。
僕の街のように、たくさんの人が笑顔になれる場が増えれば、世界はもっと平和になる。
激しい戦いが終わった後だからこそ、平和を大切にしたい気持ちが強くなった。
「お互い、もっと楽しくて住みやすい街にしたいね」
「まったくだ」
「今日の相談も、そのためになると思うんだ」
「ほう……今度は何を企んでおるのだ?」
ベルゼはニヤリと悪い顔をする。
企むって……もっと別の言い方をしてほしいな。
そういう所は、やっぱり魔王なんだなと思えるよ。
僕は苦笑いしながら、話を続ける。
「僕の街と城下町を、自由に行き来できるようにしたいんだ」
「む? それならもう出来ているではないか?」
ベルゼは魔王城に開いている扉のことを言っている。
僕は首を横に振ってから言う。
「それは僕たちだけでしょ? そうじゃなくて、僕の街のみんなが城下町へ遊びに来たり、反対にこっちから僕の街へ来たりさ」
「おぉ~ そういうことであったか」
ベルゼはふむふむと頷く。
「なるほど、悪くない提案だな。だが平気か? こちらの者はともかく、そちらの住民の理解は?」
「わかっているよ。いきなりは無理だろうね」
僕の街の人たちには、少なからず悪魔への恐怖心が芽生えている。
それを生み出した張本人は、目の前にいるわけだけど……。
まぁ仮にそれがなくとも、単純なイメージが不安を煽るだろう。
「それについての対策は用意してあるんだ」
「そうなのか? ちなみにどのような策なのだ?」
「希望者を集めて、僕らがガイドをするんだよ」
「ガイド? 道案内をするというのか?」
「うん。僕らが一緒なら不安も軽減できると思うし、何より案内したほうが、色々と伝わりやすいでしょ?」
僕らと一緒に回りながら、おすすめのスポット紹介する。
なるべく面白い場所や、楽しいことを伝えていくことで、良い思い出を持って帰ってもらう。
思い出が噂になり、町に広まっていけば、興味を持つ者も増える。
何より楽しい気持ちは、周囲に伝播しやすい。
観光している様子が楽しそうなら、それを見た街の人たちも、恐怖心や緊張が和らぐかもしれない。
そういう意図で、この提案をしている。
「最初のうちは僕らがガイド役をして、定着し出したら、他の誰かに一任しようと思ってる」
「ふむふむ、中々に良い提案だな! さすがウィルだ!」
「そういうセリフは、成功してから言うものだよ」
「何を言っておる! ウィルの提案が、失敗するわけがないだろう?」
「言い切ったね……」
それも豪快に、堂々と言い放った。
自分のことではないのに、よくそんな風に言えるな。
と思っていると、ベルゼがどや顔で言う。
「当然だろう? ウィルは我の兄なのだからな! 失敗などありえんのだ!」
そう言って、屈託のない笑顔を見せるベルゼ。
信頼と敬愛を感じ、僕はほっと身体が温かくなったように感じる。
弟にここまで信じられているんだ。
これは意地でも失敗なんて出来ないな。
「じゃあ決まりだね」
「うむ!」
そうして僕らは握手をかわす。
その後、具体的なスケジュールを決めた。
翌々日――
ウィルの街に、巨大な門が建造された。
門は仰々しくも歪で、魔界を象徴するような門だ。
その門を潜れば、城下町へと続いている。
城下町側に建てられた門は、太陽のイメージを形にしたように、鮮やかなオレンジ色をしていた。
城下町とウィルの街。
本来なら一生交わることのなかった二つが、こうして繋がったのだ。
そして、六月末の昼下がり。
僕は一人、ベルゼのいる魔王城を訪ねる。
「やぁベルゼ」
「ん? おー! ウィルではないか!」
城の廊下を歩くベルゼに、僕は声をかけた。
するとベルゼは、嬉しそうな顔をして駆け寄ってくる。
後ろから、一緒に歩いていたネビロスも歩み寄ってくる。
「こんにちは、ウィリアム様」
「こんにちは。アポなしですいません」
「いえいえ、アポなど必要ありませんよ。ウィリアム様は、いつでも好きな時にいらしてください」
「ありがとうございます」
あの戦いで重傷を負っていたネビロスも、今ではすっかり元気になっている。
僕らと同じように、魔界でも穏やかな日常が戻っている様子だ。
「して、今日は何用か?」
「ちょっとした相談があってね」
「相談?」
「うん、今から少し時間あるかな?」
「もちろんだとも!」
ベルゼはキッパリと答えた。
僕は念のため、確認を求めるようにネビロスへ視線を送る。
ネビロスが視線に気付いて、小さく頷いた。
どうやら大丈夫なようだ。
「じゃあ、場所を移して話そうか」
「うむ!」
僕らはソファーのある部屋に移動して、寛ぎながら話をすることに。
「そういえば、城下町のほうはどう?」
「順調だぞ? お陰さまでな!」
「そっか、なら良かったよ」
「うむ! 少しずつではあるが、ウィルの街に近づいておる。いずれは超えるかもしれんぞ?」
「それは嬉しいことだよ」
幸せの波が出来て、周囲に広がっていく。
僕の街のように、たくさんの人が笑顔になれる場が増えれば、世界はもっと平和になる。
激しい戦いが終わった後だからこそ、平和を大切にしたい気持ちが強くなった。
「お互い、もっと楽しくて住みやすい街にしたいね」
「まったくだ」
「今日の相談も、そのためになると思うんだ」
「ほう……今度は何を企んでおるのだ?」
ベルゼはニヤリと悪い顔をする。
企むって……もっと別の言い方をしてほしいな。
そういう所は、やっぱり魔王なんだなと思えるよ。
僕は苦笑いしながら、話を続ける。
「僕の街と城下町を、自由に行き来できるようにしたいんだ」
「む? それならもう出来ているではないか?」
ベルゼは魔王城に開いている扉のことを言っている。
僕は首を横に振ってから言う。
「それは僕たちだけでしょ? そうじゃなくて、僕の街のみんなが城下町へ遊びに来たり、反対にこっちから僕の街へ来たりさ」
「おぉ~ そういうことであったか」
ベルゼはふむふむと頷く。
「なるほど、悪くない提案だな。だが平気か? こちらの者はともかく、そちらの住民の理解は?」
「わかっているよ。いきなりは無理だろうね」
僕の街の人たちには、少なからず悪魔への恐怖心が芽生えている。
それを生み出した張本人は、目の前にいるわけだけど……。
まぁ仮にそれがなくとも、単純なイメージが不安を煽るだろう。
「それについての対策は用意してあるんだ」
「そうなのか? ちなみにどのような策なのだ?」
「希望者を集めて、僕らがガイドをするんだよ」
「ガイド? 道案内をするというのか?」
「うん。僕らが一緒なら不安も軽減できると思うし、何より案内したほうが、色々と伝わりやすいでしょ?」
僕らと一緒に回りながら、おすすめのスポット紹介する。
なるべく面白い場所や、楽しいことを伝えていくことで、良い思い出を持って帰ってもらう。
思い出が噂になり、町に広まっていけば、興味を持つ者も増える。
何より楽しい気持ちは、周囲に伝播しやすい。
観光している様子が楽しそうなら、それを見た街の人たちも、恐怖心や緊張が和らぐかもしれない。
そういう意図で、この提案をしている。
「最初のうちは僕らがガイド役をして、定着し出したら、他の誰かに一任しようと思ってる」
「ふむふむ、中々に良い提案だな! さすがウィルだ!」
「そういうセリフは、成功してから言うものだよ」
「何を言っておる! ウィルの提案が、失敗するわけがないだろう?」
「言い切ったね……」
それも豪快に、堂々と言い放った。
自分のことではないのに、よくそんな風に言えるな。
と思っていると、ベルゼがどや顔で言う。
「当然だろう? ウィルは我の兄なのだからな! 失敗などありえんのだ!」
そう言って、屈託のない笑顔を見せるベルゼ。
信頼と敬愛を感じ、僕はほっと身体が温かくなったように感じる。
弟にここまで信じられているんだ。
これは意地でも失敗なんて出来ないな。
「じゃあ決まりだね」
「うむ!」
そうして僕らは握手をかわす。
その後、具体的なスケジュールを決めた。
翌々日――
ウィルの街に、巨大な門が建造された。
門は仰々しくも歪で、魔界を象徴するような門だ。
その門を潜れば、城下町へと続いている。
城下町側に建てられた門は、太陽のイメージを形にしたように、鮮やかなオレンジ色をしていた。
城下町とウィルの街。
本来なら一生交わることのなかった二つが、こうして繋がったのだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
5,859
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。