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魔界開拓編

219.封印魔法

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 変換魔法と空間魔法。
 二つの力に挟まれ、脅威に晒され退く魔女。
 どちらにも集中しなくてはならない。
 一方でも近寄らせれば、僕らの力は彼女に届く。

 もっと集中しろ!
 そして迷え!!

「■■■、■■――」

 狂った魔女は動きを止める。
 僅か一瞬、一点で立ち止まり、体勢を立て直そうとする。
 今の彼女には、僕らの存在しか見えていない。
 忘れてしまっている。
 もう一人、自らに届く存在が、この場にはいるということを――

「ベルゼ!」

「小僧!」

「フッ――」
 
 刹那。
 雷よりも速く、静寂よりも静かに、一閃の光が駆ける。
 駆けた光は、魔女の懐で静止する。
 視線を下げれば、自身の末裔が迫っている。

「封印魔法――」

 ベルゼは魔女に触れている。
 優しく、労わるようにそっと触れている。
 そして――

「アルタイル!」

 封印魔法が発動する。
 ベルゼの触れた部分から、光の帯が飛び出し、鎖のように巻きついてく。
 狂った魔女は必死の抵抗を見せる。
 バタバタと駄々を捏ねる子供のように、手足を動かし抵抗している。

「無駄だセリカよ。すでに封印は始まっておる」

 封印が始まったことで、嵐や雷が止まる。
 攻撃をする力すら、封じられてしまっている。
 彼女に出来るのは、あんな風にして身体をバタつかせることくらいだ。
 見ていて哀れに思えてくる。
 そんな彼女に、ベルゼは言葉を投げかける。

「最後に一つだけ、そなたに言っておきたいことがある」

 セリカは抵抗を続けながら、ベルゼに目を向ける。

「そなたは、己だけを愛してほしいと願ったのだな?」

 ピクリと反応を見せる。
 バタつかせていた手足を止め、狂った魔女は力を抜く。
 狂った魔女は、セリカはベルゼの言葉に耳を傾けているようだ。

「それは……悪いことではないな。誰かに愛されたい、愛したいと思うことは、ごくごく自然なことだ。我も同じように思っておる」

 そう言いながら、ベルゼはきっとサトラのことを考えているのだろう。
 今でもハッキリと覚えている。
 ベルゼがサトラに告白したことを。
 男らしくて格好良かった。

 ベルゼはさらに続ける。

「愛とは素晴らしいものだ。だが、我もそなたも、根本的に間違えておるのだ」

 ベルゼは真剣な表情をして、まっすぐにセリカの瞳を見つめる。
 そして言う。

「愛とは与えるものではない。ましてや望むものでもない。愛とは、共に守り育むものなのだ」

 ベルゼは愛について語る。
 力強く熱烈に、感情を高ぶらせて叫ぶ。

「そなたのは愛ではない! 断じて違う! 独りよがりで傲慢な歪んだ嫉妬心だ! そんな物の先に幸せなどある筈がない」

 厳しい一言を口にしている。
 ただ、僕にはなぜか、ベルゼ自信にも言い聞かせているように聞こえた。
 そうなってはいけないと、自分自身を正すように……。

 すると、セリカの瞳かあら雫が零れ落ちる。
 そのことに驚きながら、僕は思う。
 あの涙はきっと、後悔と懺悔が生み出したものだろう。
 ベルゼの言葉が、想いが、彼女の中に残っていた感情を揺さぶったんだ。

「悔いるが良い。そして、次があるのなら……今度こそ間違えるな」

 封印の光が彼女を包み、消える。
 宇宙のような暗い世界で、死ぬまで生き続ける。
 それこそが、彼女に与えられた罰だった。

「終わったね」

「じゃな」

 こうして、愛で全てを狂わせた魔女は封じられた。
 この戦いで僕らが得たものは、この先にきっと大切な意味を持つだろう。
 何となくだけど、そう思ったのは確かだ。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 死闘を終えた僕たちは、早急に魔王城へ帰還した。
 狂った魔女が封じられたことで、彼女に与えられたダメージが回復するようになった。
 ベルゼの傷は癒え、瀕死だったネビロスも回復した。
 斬り落とされた腕も、ベルゼの魔法で回復させてしまった。
 さすがに、死んでしまった者たちは蘇らない。
 多くの犠牲を孕んだことを噛み締める。

 そして、翌日――

 戦勝と弔いの意を込めて、魔王城を開放してパーティーが行われた。
 盛大な催しが、魔王城だけでなく城下町まで続く。
 食品や資材に関しては、僕の街から提供した。

「ウィリアム様、ユノ様、この度はまことに申し訳ありませんでした」

「良いですって! そんなに謝らないでください」

「ですが、お二人には多大なご迷惑を……側近として不甲斐ないばかりです」

 賑やかな光景の中、ネビロスが何度も頭を下げて謝罪してくる。 
 僕はタジタジしながら、ユノは呆れながら言う。

「別に構いませんよ。僕たちは好きで助けに行ったんです。むしろ行かなかったら、もっと後悔していたと思います」

「借りなら心配する出ない。ちゃんと小僧に返してもらうからのう」 

「……ありがとうございます」

 ネビロスはさらに深く頭を下げた。
 やれやれと身振りをするユノ。
 僕は周りを見渡しながら、思ったことを口にする。

「それにしても賑やかですね~」

「パーティーというより祭りじゃな」

「そうだね。まっ、みんな楽しそうだし良いかな」

「うむ」

 ふと、あることに気付く。

「あれ? そういえばベルゼは?」

 ネビロスと一緒に、キョロキョロと周りを見回す。
 楽しそうに団らんする人たちの中に、ベルゼの姿が見当たらない。

「サトラもおらんくなったのう」

「もしかして……」
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