上 下
108 / 159
魔界開拓編

209.異質な力

しおりを挟む
「アガリアレプト、貴様……」

「これこそ……封印を解く儀式。私はそのための供物となる」

 ベルゼは哀れみの視線を向けている。
 アガリアレプトは満足げに笑いながら、両膝を地につける。
 
 アガリアレプトの能力は、【あらゆる謎の解明】。
 彼の前では、どんな秘密も無意味。
 その力によって、秘密は暴かれてしまう。
 彼が語った過去の真実や、狂った魔女の封印場所、その解除方法まで。
 すべては彼の能力で知りえたことだった。
 かつて先代魔王はアガリアレプトの能力を、もっとも恐ろしい力だと語ったらしい。
 強大な力を持つ魔王ですら、彼の能力には畏怖を覚えた。

 そんな力を使ってまで、自らを犠牲にする道を選んだ彼を、ベルゼは哀れに思っていた。

「供物……か。アガリアレプトよ、残念だが無駄な犠牲だ」

「……いいえ、そうはなりません。私の能力が告げている……あなたは負けると」

「ほう、ならば試してみるとしよう」

「ええ、ご存分に……あぁ、とても残念だ。あなたが負ける瞬間を、この目で見届けられないのは」

「安心するが良い。そんな瞬間は、もとより訪れん」

 ベルゼが否定すると、アガリアレプトはニヤリと笑い、力尽きて地面に倒れこんだ。
 すると、赤い光が彼の遺体を覆う隠すほど強くなる。
 彼の死をもって、封印の儀式は完了する。
 赤い光は束となり、柱となって天井を突き抜ける。
 強力なエネルギーをベルゼは感じ取る。
 天井は抜け、周囲の石畳が宙へ浮かんでいる。
 ベルゼが赤い光の柱を見つめていると、中に長い髪の女性の影が映った。

「現れたか……」

 ベルゼは女性を睨むように見つめる。
 
 遺跡から伸びる光の柱は、外で戦闘を続けている者たちにも見えていた。
 ネビロスが気付き、驚きと疑問の表情をする。

「何だ……あれは……」

 ネビロスは異様な力を感知し、不安が頭を過ぎっていた。
 それと同じくして、赤い光の柱は収束し、影しか見えなかった女性の全身が姿を見せる。
 彼女は宙に浮かんでいた。
 薄紫色のカールがかった長い髪をなびかせ、白いワンピースのような服を着ている。
 眠っているように目を瞑り、宙で浮かんだまま動かない。

「ほう、これが狂った魔女、中々美しい女性ではないか。まっ、我のサトラには劣るがな」

 暢気に容姿の感想を口にしているベルゼ。
 しかし、同時に違和感を感じ取る。

「妙だな……」

 復活の儀式の途中、光の柱からは強大な力を感じていた。
 魔力とも異なる極めて異質な力ではあったが、強大であることは理解できた。
 それがどうだろう。
 復活した今となっては、何も感じ取れなくなっていた。
 魔力はもちろん、異質な力すら感じられない。
 目の前にいる女性は、間違いなく狂った魔女なのだろう。

「もしや、失敗したのか?」

 という結論に至った。
 が、それは間違いだったとすぐに気付かされる。
 狂った魔女は目を覚ます。
 ゆっくりと重たそうな瞼をあげ、世界を認識する。
 その瞬間、狂った魔女は叫ぶ出す。

「■■■――■――!」

「っ――」

 異様な叫び声に、思わずベルゼも耳を塞ぐ。
 叫び声は衝撃はとなって周囲に広がり、遺跡の壁を破壊していく。
 遺跡だけではない。
 遺跡のあった周辺の地面を砕いていく。
 激しく、奇妙な叫び声は、当然ネビロスにも届いていた。
 外で戦っていた彼らの視線が、破壊された遺跡に集まる。

「くっ……魔王様は!?」

 ネビロスは視線の先にベルゼを見つけ安堵する。
 それと同時に、狂った魔女を視界にとらえ、ベルゼと同じ疑問を抱き眉をひそめる。
 そして、狂った魔女は叫びながら、上空へと昇っていく。
 ベルゼは耳を塞ぎながら空を見上げて言う。

「何をするつもりなのだ?」

 狂った魔女は上空でピタリと静止する。
 叫びを覚め、両手をダランとぶらさげる。
 数秒の沈黙を挟み――

「■■■――」

 なぞの言語を使い、自身の周囲に大量の魔法陣を展開した。
 魔法陣はすべて、地上へ向けられている。

「まさか――」

 ベルゼは気付く。
 しかし、すでに遅かった。
 魔法陣から雨のように砲撃が放たれ、地上を焼き尽くす。
 これにより、すでに勝利目前だった魔王軍は半壊した。
 立ち昇った土煙が晴れる頃、地上には無数のクレーターと、悪魔の遺体が転がっていた。
 咄嗟に防御した一部を除き、壊滅的は被害を受けてしまったのだ。

「貴様……」

 惨状を見て怒りをあわらにするベルゼ。
 ベルゼの怒りを無視して、狂った魔女は再度砲撃しようと魔法陣を展開している。

「させぬわ!」

 それより速く、ベルゼが同数以上の魔法陣を展開して攻撃した。
 空中で大爆発が起こる。

「魔王様!」

「ネビロス! 残った兵を下がらせろ! こやつは我が討つ!」

 命令を下し、ベルゼは空へと飛び上がっていく。
 一人で戦うのは危険だと感じたネビロスだったが、ベルゼの命令を遂行するため動き出す。

「皆下がれ! 城まで撤退するのだ!」

 事態は急を要していた。
 相手は強敵。
 ベルゼも本気で戦おうとしている。
 弱い味方は邪魔になる。
 だから、負傷した悪魔たちを逃がしていく。
 その様子を横目に確認しながら、ベルゼは宙で魔女と相対する。
しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。