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魔界開拓編

201.城下町復興日誌⑥

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 ベルゼに頼まれ自分のことを話した後、一方的に知っているのは不公平だと言い出し、今度はベルゼの話を聞くことになった。
 強引に話を始められたけど、僕もちょっと興味があったので、黙って聞くことに。

 ベルゼビュート、生まれも育ちも当然魔界。
 年齢も見た目通り十五歳と若く、魔王となってから数ヶ月しかたっていない。
 先代魔王であり父サタンは、若い頃に受けた呪いによって落命した。
 その強さは圧倒的で、魔界全土をたった一晩で統一してしまうほど強大だったそうだ。
 ベルゼ曰く、今も彼では足元にも及ばないとか。
 とはいえ、魔王の血を引く彼も、同等の力を秘めている。
 発展途上ゆえの荒さがあるものの、すでに魔界一の強さを持っている。
 
 しかし、先代魔王の強さが絶大すぎだ。
 悪魔にとって強さは絶対的な指標。
 先代魔王は強さとカリスマ性、どちらも有していた。
 故に、ベルゼにも同等の期待が集まる。
 だが彼はまだ幼かった。
 強さも、カリスマ性も及んでいない。
 先代を崇拝していた者たちの多くは、その差に愕然として去っていった。
 
 とても悲しいことを、ベルゼは笑いながら話していた。
 僕はベルゼに、辛くはなかったのかを問う。
 するとベルゼは、あっけらかんとしながら答える。

「辛いなど思ったことはないな。父上の偉大さに遅れをとることは必然! 仕方のないことだ。むしろ、今の我が同等だと思われるほうが、父上に失礼であろう」

 ベルゼの言葉から、彼が父親を尊敬していたことが伝わってくる。
 そうして、僕の頭には自分の父親の顔がちらつく。
 僕にはベルゼの想いがわからない。
 少しだけ、ベルゼが羨ましく思い始めたとき――

「だがまぁ……情けなくは思うがな」

 ベルゼは切なげな表情をして、ぼそりと呟いた。
 父の偉大さを尊敬しながら、追いつけないことへの歯がゆさ。
 父が作り、守ってきたものを、自らの弱さが壊してしまうことを、彼は情けないと思ったらしい。
 それを聞いて、僕は羨ましいなんて思うのは、失礼だと悟った。

「最初から完璧な人なんていない」

「ん?」

「と、僕は思うよ」

 気が付けば、口が勝手に動いていた。
 考えがあって話しているわけじゃない。
 ただ、伝えたいことはあるような気がして、僕は思うままに口を動かす。

「悩む必要はないと思う。ちゃんと明確な目標があって、何が足りないのかわかってるみたいだしさ。君はきっと、良い魔王になるよ」

「ウィル……良いことを言うではないか! ああ、そうだな、その通りだな!」

 ベルゼは豪快に笑う。
 吹っ切れたように清々しく、良い笑顔をしている。
 魔王を励まそうなんておこがましいことを……とか、言ってから後悔しかけたけど、彼の笑顔を見たらどうでもよくなった。
 
 それから僕らは、他にもたくさん話をした。
 ウィルの街で起きたこととか、意中の相手サトラとのエピソード。
 僕なりに、二人の仲を深められそうな話題を、出来るだけたくさん教えた。
 そうしたら、いつの間にか夕刻になっていたことに気付く。
 僕とベルゼは部屋を出て、帰る前にもう一度畑を見ておくため、廊下を歩いていく。
 道中、廊下の向こう側から声をかけられる。

「魔王様、ウィリアム殿」

「おぉ、ネビロスか! 戻っておったのだな」

 声をかけてきたのはネビロスだった。
 僕らは廊下の真ん中で立ち止り、話をする。

「はい。お二人は何を?」

「ウィルから話を聞いておったのだ! 実に有意義な時間であったぞ!」

「それはそれは。ウィルアム殿、ありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ。僕もいろんな話が聞けて楽しかったですから」

「そうですか。ちなみにどんな話をなされたのです?」

「う~ん……」

 僕は唸りながら、隣にいるベルゼへ視線を向ける。
 ベルゼは意図を察し、ニヤリと笑い、代わりに答える。

「それは内緒だな!」

「ええ、内緒ですね」

「……」

 そう言った僕らを、ネビロスはじっと見つめてくる。
 驚いたように口を開けている。
 思っていた反応と違って、ベルゼが首をかしげ尋ねる。

「その顔は何だ?」

「あ、いえ! 魔王様が、随分と楽しそうな顔をなさっていたので」

「そ、そうであったか?」

「はい。お二人はまるで、仲の良い兄弟のようでしたよ」

「「兄弟……」」

 僕とベルゼは互いの顔を見合う。
 種族が異なり、見た目も性格も全然似ていない僕らが、そんな風に見えるなんて。
 ただ、まぁ悪くないかなと思う。

「それ良いな! 悪くない! ならば当然、我が兄であろう」

「えぇ? 年齢的にも僕だと思うけど?」

「むぅ……そうであったな。仕方あるまい! ならば特別に、我が兄として認めようではないか!」

「はははっ、じゃあ僕も、ベルゼを弟だと思うよ」

 どこまでが本気で、どこからが冗談なのか。
 甚だハッキリしないけど、僕らは笑いあい、語り合った。
 兄しかいない僕にとって、弟というのは、聞くだけで心躍る単語でもある。
 
 その後、魔王城を出た僕は、一人で畑を確認した。
 衣食住……うちの食はほぼ完遂している。
 次に取り掛かるのは――

「衣、かな」

 開拓は次の段階へと移る。
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