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魔界開拓編

198.城下町開拓日誌④

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 城下町開拓四日目。
 僕がいつもの時間に畑を行くと、城下町のみんなが集まっていて、楽しそうに何かを話していた。
 ふと、一人が僕に気付いてあいさつをしてくる。

「こんにちは! ウィリアム様」

 続けて近くにいた人から順に、僕へあいさつをしてくる。
 昨日を境に、町の人たちは僕に話しかけてくれるようになっていた。
 僕は嬉しくて、ついついニヤけてしまう。
 そんな僕を見ていた子供が、無邪気に聞いてくる。

「お兄ちゃん、何で変な顔してるのぉ?」

「こ、こら! ウィリアム様に失礼だろ!」

「はははっ、大丈夫ですよ」

 僕は笑いながら、子供に歩み寄って腰をおろす。
 それから子供の頭を撫でながら尋ねる。

「そんなに変な顔だった?」

「うん!」

 子供はまたも無邪気に答えた。
 親らしき男性は、冷や汗をかいて慌てている。
 僕は変わらず笑いながら、その子供に言う。

「そっかぁ~ ちょっと嬉しいことがあったから、ついニヤけちゃったんだよ」

「嬉しいこと?」

「うん。君やみんなが、こうして毎日集まってきてくれることが、とっても嬉しいんだ」

 そう言いながら、僕は立ち上がり周りを見回す。
 それから、子供の父親らしき人に目を向け、話しかける。

「そんな顔をしないでください」

「で、ですが子供が失礼な……」

 僕は首を横にふる。

「僕はベルゼの部下じゃない。友人としてここにいます。だから別に、皆さんが僕に敬意を払う必要なんてない。そもそも人間だし、部外者なんですからね。ただ、仲良くはしたいと思っています」

 次に僕は、周囲のみんなにも聞こえる声で話す。

「皆さん、良い町を作りましょう! そのためには皆さんの力も必要です。昨日まで力を貸してくれたように、今日からも一緒に頑張りましょう!」

 おぉー!と、僕は拳をあげる。
 畑を耕し始めるときにも、同じことをやった。
 そのときは、互いの反応を見て、一つも手が挙がらなかった。
 だけど今は――

「「おぉー!!」」

 たくさんの手が同時に挙がっている。
 町が、町に住む人たちの心が、一つになっていくようだ。
 その中心にいるのが自分だと思うと、嫌でも優越感が湧き上がってくる。
 それが自分自身のやる気にも繋がる。

「では皆さん、今日も一日頑張りますよ!」

 四日目の作業は、こうして開始された。
 
 本日の作業は、貯水湖から畑へ用水路を引くことだ。
 まずは貯水湖から水を通す溝を掘っていく。
 畑全体に隙間なく、平等に水が流れるように、何本も溝を掘っていく。
 溝が掘り終わったら、そこへU字型のブロックを入れていく。
 ブロックは変換魔法で数百個作っておいた。
 作りすぎかなと思ったけど、畑の規模を考えたら、これくらいが妥当だろう。
 ブロックは石で出来ていて重い。
 運ぶ作業は、大人でも二人一組で行われる。
 U字ブロックには、数箇所穴が空いている。
 そこから畑の土へ、水が流れ染み込んでいく仕組みだ。
 
 作業開始から三時間ほどで、用水路は完成した。
 単純作業の繰り返しだったけど、みんなは文句一つ言わずにもくもくと取り組んでくれた。
 お陰で早く終わることが出来たので、さっそく種植え作業も始めてしまうことに。

 植える種は、僕らの畑でも最初に選んだものばかり。
 小麦と大麦、人参や芋といった根菜類を多めに。
 それから衣服や毛布の材料になる綿だ。
 悪魔たちの食について聞いたところ、ほとんど人間と変わらなかったので、同じラインナップにしてみた。
 種植えの作業が始まると、所々から期待の声が聞こえてくる。

「ねぇねぇパパ! これっていつになったら食べられるの?」

「さぁどうだろうなぁ~ かなり時間はかかると思うぞ?」

「えぇ~ 速くしてよぉ~」

 ダダを捏ねられ、お父さんが困っているようだ。
 成長促進薬があるから、通常の何倍も早く収穫できるけど……子供にとって、一ヶ月は早いとは思えないんだろうな。
 そう思いながら、心の中でお父さんがごめんなさい、と呟く。
 そして、一時間くらいで本日の作業を終了した。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 翌日。
 残りの種植え作業に取り掛かる。
 畑が広い分、人数がいてもかなり時間がかかる。
 ずっと中腰でいるのは、大人にとって辛いことだ。
 こういう作業は、背の低い子供のほうが向いている。
 なんて、文句を言っても仕方がないので、僕らはせっせと働いた。
 もちろん途中に休憩を挟みながら。
 その休憩中に、ユノが様子を見に来る。

「どうじゃ様子は?」

「見ての通り順調だよ」

「そうか。なら良かったわい」

 ユノは僕の隣にちょこんと座る。
 一緒に完成間近の畑を眺めながら、ぼそりと言う。

「楽しそうじゃな」

「うん、みんな良い顔してるよね」

「いや、主のことじゃよ」

「僕?」

 町のみんなのことかと思ったら違ったらしい。
 ユノは頷いてから、こう続ける。

「主……ずいぶん楽しそうな顔をしておるぞ」

「そうかな?」

 自分では無意識だったけど、ユノが言うならそうなんだろう。
 理由も、何となくわかる。

「何だか、あの頃を思い出してたんだ」

「領地へ来たばかりの頃か?」

「うん、正解」

 あの頃は、何もない領地に唖然としたり、みんなで協力しながら開拓したり。
 領民が増えていって、いつの間にか大きな街になっていて……。
 毎日が充実していた。
 これまでだって十分に楽しいけど、思い返せばあの頃が一番充実していたかもしれない。
 今となってはそう思っている。

「いや~やっぱりさ! 何かを一緒になって作るって、楽しいんだよね」

「そうじゃな」

 その楽しさが、ここにいるみんなにも伝わっていると良いな。
 僕とユノは、二人でそう話した。
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