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時間旅行編

188.真実

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 ユグドラムは、しばらくホロウを見つめた後、視線をユノへ向ける。
 そのままユノの正体について確認する。

「ユノさん、あなたは神祖様ですね?」

「うむ」

 ユノはあっさり肯定した。
 誤魔化しても、もう手遅れだから。
 次にユグドラムは僕を見る。

「ウィリアムさん、あなたからは人間と神祖、両者の気配を感じます」

「はい。僕は元人間で、ユノの眷属です」

 僕は自ら補足する。
 そして、最後に残ったホロウへ視線を戻す。
 ユグドラムは目を細め、疑うような目つきで問う。

「ホロウさん、あなたは何者ですか? あなたは人間でも神祖でもない。ましてや私たち精霊とも違う」

「え、えっと……私は……」

 ホロウは戸惑い、回答を躊躇う。
 オロオロとしながら、助けを求めるように僕を見てくる。
 そうなるのは仕方がない。
 僕は優しく微笑んでから、ユグドラムに問う。

「それを答える前に、こちらからも一つ確認させていただきたいことがあります」

 質問を質問で返す。
 初対面でこれは失礼だとわかっている。
 承知の上で聞いている。

「ユグドラムさん、あなたは……いえ、あなた方はこれから、何を成そうとしているのですか?」

「――!」

 ユグドラムは明らかに動揺していた。
 遠まわしな言い方が。
 直接聞けたらよかったんだけど、生憎まだ出来ない。
 彼女がどこまで考えていて、どこまで気付いているのか。
 それをハッキリさせてからじゃないと、ホロウのことも話せない。
 ユグドラムは眉をひそめながら黙っている。
 僕はさらに続ける。

「あなたは未来が見えると言いましたよね? 実際どこまで見えているんですか? 僕らのことではなく、自分たちの未来を」

「……」

 ユグドラムは黙ったまま目を閉じた。
 そして、閉じた目を開け、納得したように呟く。

「なるほど……あなた方が何者なのか、どこから来られたのか。何となくわかりました」

 そう言った後、ユグドラムは自分の力について語り出す。

「私の力には、本来制限はありません。見たいと思った未来を、どれだけ先だろうと見ることが出来ます」

 この時点で、僕とユノは違和感に気付く。
 望んだものが見えるのならば、なぜホロウのことを知らないのか。
 僕らの来訪を見たというのに、それより先を見なかったのか。
 疑問の理由は、すぐに彼女の口から語られる。

「ですが突然、ある日の先の未来が見えなくなってしまいました」

「突然……か。きっかけがあったはずじゃ」

「はい、その通りです。きっかけは、一つの計画が練られた日でした。その計画の内容は――」

 概念魔法の発動。
 人と精霊の間に子を儲けるため、世界に変革をもたらす計画。
 その計画の主導者は、目の前にいる彼女だった。
 この街では精霊と人間が共存している。
 ユグドラムは、精霊たちの母のような存在であり、この街を管理する役目をおっていた。

 一ヶ月ほど前。
 彼女のもとに、精霊と人間が一緒にやってきた。
 二人は愛し合っていて、子を成せないことを嘆いていた。
 どうにか方法はないか。
 これが初めてではない。
 同じような相談が、これまでに何度もあった。
 かくいう彼女自身も、かつて同じように感じ、愛した人間を看取ったという。

 ユグドラムは精霊と人間を集めた。
 問題を解決できる方法が一つだけある。
 それこそが概念魔法。
 世界の法則すら変えられる魔法だった。
 リスクもある。
 しかし、可能性もある。
 どちらも伝え、選択を委ねる。
 答えはすぐに出た。
 皆が何を選択したのか、もはや言うまでもない。

 しかし、その日を境に、彼女は未来を見れなくなった。
 より正確に言うならば、概念魔法発動後の世界は、どうやっても見えなかった。
 瞳に映る光景は、真っ暗な世界。
 暗闇そのものだった。

 全てを話し終えたあと、ユグドラムは自分に言い聞かせるように言う。

「薄々気付いていました。未来が見えないということが、何を意味するのか……」

「ユグドラムさん、そのことは他の皆さんは知っているのですか?」

 僕が質問すると、彼女は首を横に振る。

「確証のない事実です。言っても悪戯に不安を煽るだけと判断しました」

「そう……ですか」

「ですが、決行の日が近づくにつれ、伝えるべきではと思い始めています。もしこの先に、一切の希望がないのなら、踏みとどまるべきだとも」

「それは! ……いえ、そうでしょうね」

 駄目だとは言えない。
 だって、僕が同じ立場だったら、彼女と同じ葛藤をすると思うから。
 そんな僕の反応を見て、ユグドラムは問いかける。

「ただ、きっと皆さんは止まらないでしょう。皆さんは、街の方々を見ましたか?」

「はい」

「とても楽しそうだったでしょう? その理由は、変革された世界に希望を見ているからです。違和感に気付いているのは、私一人だけ……どれだけ叫んでも、今の皆さんには聞こえません」

 ユグドラムは諦めたように言った。
 自分が言い出したことだけに、後悔もあるのだろう。
 彼女は真剣な目をして、僕に問う。

「あなた方がもし、私の想像する通りの方々なら、どうか教えていただけませんか? 私たちの選んだ先に、一体何が待っているのか」

「それは……」

 僕は躊躇う。
 ユグドラムは言う。

「覚悟は出来ています。知りたいのです。一筋でも、希望があるのなら……」

 彼女の声は震えていて、縋るような想いが伝わってくる。
 僕は一頻り迷った。
 すると、ユノが僕の袖を掴んでくる。
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