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時間旅行編

185.穴のない大陸

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 森の奥へと戻った僕は、フォールグランドへ向かうため、変換魔法でドラゴンを生み出した。
 そこで重要なことを思い出す。
 僕はドラゴンの背中へ乗る前に、思い出した疑問をユノへ投げかける。

「ねぇユノ、僕たちってちゃんと元の時代に帰れるの?」

 僕がそう尋ねると、ホロウが隣で心配そうな表情をした。
 不安にさせて申し訳ないと思いつつ、僕はさらに言う。

「聖杯の力でこの時代へ来られたけど、戻る方法はちゃんとあるのかな」

 過去へ来られたことに浮かれて、重要なことを忘れてしまっていた。
 思い出してヒヤヒヤしている。
 だけど、表情を見る限り、不安になっているのは僕とホロウだけのようだ。
 ユノは冷静に答える。

「心配はいらんよ。目的が済めば勝手に戻れるはずじゃ」

「目的って?」

 僕は言っている意味がわからなくて、キョトンとした表情をする。
 すると、ユノは呆れた顔で言う。

「何を呆けておるのじゃ? 主は聖杯に何を願った?」

「えっと、神代を見てみたい……だったかな」

 より正確に言うなら、亜人種が生まれる前の世界を見てみたかった。
 精霊たちがどういう風に暮らしていて、どんな最後を迎えたのか。
 話に聞いているだけだったから、歴史的瞬間を目撃したかったというのが本音だ。

「聖杯は所持者の願望を叶える器じゃ。それ以上のことはせん。主の願いを叶えたら、再び聖杯が現代に帰すじゃろう」

「そうなの? だったら良いのだけど」

 ユノの言い方が、少し憶測交じりに聞こえて、僕の不安は消えなかった。
 それを感じ取ったのか、ユノは腰に手を当てながら言う。

「まぁ駄目なら別の方法をとるまでじゃ! じゃからそう心配そうな顔をするでない」

「……わかった。そのときはユノに任せるよ」

「うむ、そうするが良い。ホロウ、主もじゃ」

「は、はい。お二人がそうおっしゃるなら」

 そうして、僕らは不安を残しつつ、ドラゴンの背に乗った。
 ドラゴンは森から空高く飛び上がり、フォールグランドに向けて飛翔する。
 その前にちょっとした興味で、王都があった場所も見て通ることにした。
 結論から先に言うと、そこには何もなかった。
 ただ森が広がっているだけで、人が暮らしているような街はなかったよ。
 僕が生まれた国の誕生は、どうやらずっと先らしい。
 何ともガッカリさせられながら、今度こそフォールグランドへ向けて出発する。

 二時間後――

 ドラゴンの最高速度はアルゴーより速い。
 ただ、そんなスピードに僕らが耐えられるはずもないので、振り落とされないギリギリの速度で飛行している。
 アルゴーで向かった際にも五日間かかった。
 今回も同じくらいかかりそうだ。

 二日後――

 数回の休憩を挟みつつ、フォールグランドまでの道のりを行く。
 途中に立ち寄った街は、どれも独創的な建物が多く、現代との違いを強く感じさせられた。
 姿を隠すためとは言え、四六時中ローブを着ていると、気分的にも良くない。
 夜は変換魔法で小屋を作って過ごしている。

 四日後――

 僕らを乗せたドラゴンは、ついに海の上へ突入した。
 このまま直進すれば、今日中に到着できそうだ。
 ドラゴンはさらに高度を上げていく。
 フォールグランド周辺の気候は、現代と変わっていなかった。
 てっきり穴が開いた後に気候が変化したのだと思っていたけど、実際は最初からだったらしい。
 嵐を避けるため、ドラゴンは雲の上まで上昇。
 そこから直進し、雲の避け目を探す。
 
 そしてついに――

「ウィル様!」

「うん、見えてきたね」

 ホロウが興奮気味にドラゴンの背から乗り出す。
 下を覗き込むと、雲の裂け目から大陸が見えている。
 穴の開いた大陸……ではなく、穴の塞がった大陸。
 これじゃフォールグランドとは呼べないな。
 
 三人で上空から覗き込んでいると、ユノが何かを発見する。

「ん、街が見えるのう」

「あー本当だ。大きい街があるね」

 僕も確認がとれた。
 ホロウだけは見つけれず、頑張って目を凝らしている。
 たぶん僕とユノにしか見えない。
 距離的に、普通の目じゃ無理だからね。

「下がろうか」

「うむ」

 ドラゴンが高度を下げていく。
 念のためゆっくりと降りていくと、徐々に街の輪郭がハッキリと見え始めた。
 ホロウにもわかる距離まで近づく。
 上から見る限りだと、普通の街にしか見えない。
 僕は降りれそうな場所を探す。
 すると――

「あっ! あそこの丘って確か」

 僕は指をさす。
 ユノも確認して、はっと思い出す。

「変わらんようじゃのう……二千年後も」

「うん」

 現代でアルゴーを停めた場所だ。
 この時代でも同じ風景が見られるなんて思わなかった。
 いや、同じではないのだけど。
 少し安心して、ドラゴンを丘へと近づける。
 そうしてやっと、僕らは目的の大地に足をつけた。
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