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時間旅行編
181.聖杯
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過去を変えたい。
そう思ったことがない人は、きっといないと思う。
誰だって一つくらい、変えられるなら変えたい過去があるはずだ。
僕にもある。
だけど、それがイケナイことだと知っている。
これから起こる出来事は、僕がそれを知るきっかけになったこと。
たくさんの人の願いが合わさって、今があるのだと理解したお話しだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
吹き抜ける風が、漂っていた雲を攫い空が顔を出す。
すでに太陽は西の空に沈みかけていて、空はオレンジ色の光で染まっていた。
僕は一人、屋敷の階段を下っていた。
向かっているのは、ユノのいる研究室。
今日の朝方、空いている時間をみつけて来てほしいと頼まれていたからだ。
用件は伝えられていない。
焦っている様子はなかったので、緊急の要件ではなさそうだ。
階段を下りきったところで、玄関の扉が開く。
「あっ、ウィル様」
中へ入ってきたのはホロウだった。
彼女は僕を見つけると、駆け足で近寄ってくる。
「ホロウ、どこかへ行っていたのかい?」
「はい。ソラさんに頼まれて、ちょっとおつかいに行っていたところです」
そう言ったホロウは、右手に小さな紙袋を持っていた。
僕は彼女に尋ねる
「へぇ~ ちなみに中身は?」
「香辛料です。今日の夕食で使う予定だったんですが、確認したら量が足りなかったみたいで」
ホロウは説明しながら、紙袋の中身を見せてくれた。
赤い粉が入ったビンと、黄色い粉の入ったビンが一本ずつ入っている。
色合い的にどっちも辛そうだな。
それにしても、ソラがうっかりしているなんて珍しい。
「おつかいご苦労様」
「ありがとうございます。ウィル様はこれからどちらに?」
「ユノのところだよ。ちょっと呼ばれてね」
「そうなんですね。じゃあ夕食が出来たら、お声をかけに行きますね」
「うん、よろしく。たぶんその頃もまだ研究室にいると思うから、先に見にきて」
「かしこまりました」
ホロウは一礼して、キッチンのほうへと歩いてく。
僕は彼女が見えなくなるまで待って、ユノの元へと向かった。
研究室途中の階段は、相変わらず暗くて不気味だ。
だけど、最近はちょっぴり落ち着くなんて思うようになった。
これも神祖の眷属になった影響なのか。
「どんどんユノに近づいてるな~」
ふと、独り言のつもりで呟いた。
すると……
ガチャ――
「何じゃ不服か?」
突然扉が開いて、ムッとした顔でユノが出てきた。
「ユノ! 何で?」
「来るのが遅かったからのう。こちらから呼びに行こうかと思っておった」
「えっと、聞こえてた?」
「バッチリとな」
ユノはじとーっと僕を見つめてくる。
怒っていると思った僕は、弁解するため言う。
「……ごめん! 別に嫌とかそういう意味で言ったわけじゃないんだ! ただ何となくそう思っただけで」
「何をそう慌てておるのじゃ? ワシは怒っておらんぞ」
「え、いや、ムスッとしてたし」
「あれは主が全然来ないからじゃ。ワシはてっきり昼前には来るものじゃと……」
「あ、ああ……そういうこと」
怒っているわけじゃなかった。
拗ねていたからムスッとしていたのか。
「ならやっぱりごめん……だね。来るのが遅くなって」
「まったくじゃ。しかしまぁ許そう。用件を言わなかったワシにも非がある」
ユノはそう言いながら、扉を大きく開けて僕を手招きしてくる。
僕が中へ入ると、ユノは扉を閉め、部屋の奥へと歩きながら話し出す。
「さて、主に来てほしかったのは、逸早く教えたいことがあったからじゃ」
「教えたいこと?」
「うむ」
ユノは棚に飾ってあった古い器を手に取り、机の上に置いた。
「これって、前にダンジョンで見つけた器だよね」
「そうじゃ。あの日以来、ワシはこの器の正体を調べておった」
彼女が机に置いた器は、雪山のダンジョンで手に入れた物の一つだ。
保存状態が悪く、錆が酷くて所々欠けてしまっている。
大事そうに箱の中に入っていたから、大切な物だとは思うけど……。
「ユノが調べていたことは知ってるよ。だけど、全然わからないって嘆いてなかった?」
「まぁそんなこともあったのう」
「それに確か、もう知らん!とか言って調べるのも止めてたようなぁ……」
「うむ、言ったな。じゃがこの通り止めてなどおらん! 大体じゃ、諦めるようなマネをワシがするはずがないじゃろう」
そう言ったユノはドヤ顔をしていた。
まぁ確かに諦めるとか、ユノはあんまりしないほうだけどさ。
本気で嫌ってなったらわりと普通に投げ出すこともあるよ。
今言ったら怒られるから言わないけど。
「てことはさ? わかったんだよね」
「うむ、ついにじゃ! ワシはこの器の正体をつき止めた」
彼女がそう言うと、自分の鼓動が強くなったように感じる。
実際のところ、僕もずっと気になっていたんだ。
この器が何なのか……それがやっとわかる。
僕はワクワクしながら、彼女が教えてくれるのを待つ。
「聞いて驚くなよ? これは【聖杯】じゃ」
「せいはい?」
僕のキョトンとした表情に、ユノは目を細めて言う。
「何じゃピンとこんか? 主も言葉くらいは聞いたことがあるはずじゃぞ。願いを叶える器を」
「願い……ってまさか! あの聖杯!? 御伽噺とかで出てくるような?」
「そうじゃ。これこそが聖杯、願いを叶える力を持つ器じゃ」
そう思ったことがない人は、きっといないと思う。
誰だって一つくらい、変えられるなら変えたい過去があるはずだ。
僕にもある。
だけど、それがイケナイことだと知っている。
これから起こる出来事は、僕がそれを知るきっかけになったこと。
たくさんの人の願いが合わさって、今があるのだと理解したお話しだ。
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吹き抜ける風が、漂っていた雲を攫い空が顔を出す。
すでに太陽は西の空に沈みかけていて、空はオレンジ色の光で染まっていた。
僕は一人、屋敷の階段を下っていた。
向かっているのは、ユノのいる研究室。
今日の朝方、空いている時間をみつけて来てほしいと頼まれていたからだ。
用件は伝えられていない。
焦っている様子はなかったので、緊急の要件ではなさそうだ。
階段を下りきったところで、玄関の扉が開く。
「あっ、ウィル様」
中へ入ってきたのはホロウだった。
彼女は僕を見つけると、駆け足で近寄ってくる。
「ホロウ、どこかへ行っていたのかい?」
「はい。ソラさんに頼まれて、ちょっとおつかいに行っていたところです」
そう言ったホロウは、右手に小さな紙袋を持っていた。
僕は彼女に尋ねる
「へぇ~ ちなみに中身は?」
「香辛料です。今日の夕食で使う予定だったんですが、確認したら量が足りなかったみたいで」
ホロウは説明しながら、紙袋の中身を見せてくれた。
赤い粉が入ったビンと、黄色い粉の入ったビンが一本ずつ入っている。
色合い的にどっちも辛そうだな。
それにしても、ソラがうっかりしているなんて珍しい。
「おつかいご苦労様」
「ありがとうございます。ウィル様はこれからどちらに?」
「ユノのところだよ。ちょっと呼ばれてね」
「そうなんですね。じゃあ夕食が出来たら、お声をかけに行きますね」
「うん、よろしく。たぶんその頃もまだ研究室にいると思うから、先に見にきて」
「かしこまりました」
ホロウは一礼して、キッチンのほうへと歩いてく。
僕は彼女が見えなくなるまで待って、ユノの元へと向かった。
研究室途中の階段は、相変わらず暗くて不気味だ。
だけど、最近はちょっぴり落ち着くなんて思うようになった。
これも神祖の眷属になった影響なのか。
「どんどんユノに近づいてるな~」
ふと、独り言のつもりで呟いた。
すると……
ガチャ――
「何じゃ不服か?」
突然扉が開いて、ムッとした顔でユノが出てきた。
「ユノ! 何で?」
「来るのが遅かったからのう。こちらから呼びに行こうかと思っておった」
「えっと、聞こえてた?」
「バッチリとな」
ユノはじとーっと僕を見つめてくる。
怒っていると思った僕は、弁解するため言う。
「……ごめん! 別に嫌とかそういう意味で言ったわけじゃないんだ! ただ何となくそう思っただけで」
「何をそう慌てておるのじゃ? ワシは怒っておらんぞ」
「え、いや、ムスッとしてたし」
「あれは主が全然来ないからじゃ。ワシはてっきり昼前には来るものじゃと……」
「あ、ああ……そういうこと」
怒っているわけじゃなかった。
拗ねていたからムスッとしていたのか。
「ならやっぱりごめん……だね。来るのが遅くなって」
「まったくじゃ。しかしまぁ許そう。用件を言わなかったワシにも非がある」
ユノはそう言いながら、扉を大きく開けて僕を手招きしてくる。
僕が中へ入ると、ユノは扉を閉め、部屋の奥へと歩きながら話し出す。
「さて、主に来てほしかったのは、逸早く教えたいことがあったからじゃ」
「教えたいこと?」
「うむ」
ユノは棚に飾ってあった古い器を手に取り、机の上に置いた。
「これって、前にダンジョンで見つけた器だよね」
「そうじゃ。あの日以来、ワシはこの器の正体を調べておった」
彼女が机に置いた器は、雪山のダンジョンで手に入れた物の一つだ。
保存状態が悪く、錆が酷くて所々欠けてしまっている。
大事そうに箱の中に入っていたから、大切な物だとは思うけど……。
「ユノが調べていたことは知ってるよ。だけど、全然わからないって嘆いてなかった?」
「まぁそんなこともあったのう」
「それに確か、もう知らん!とか言って調べるのも止めてたようなぁ……」
「うむ、言ったな。じゃがこの通り止めてなどおらん! 大体じゃ、諦めるようなマネをワシがするはずがないじゃろう」
そう言ったユノはドヤ顔をしていた。
まぁ確かに諦めるとか、ユノはあんまりしないほうだけどさ。
本気で嫌ってなったらわりと普通に投げ出すこともあるよ。
今言ったら怒られるから言わないけど。
「てことはさ? わかったんだよね」
「うむ、ついにじゃ! ワシはこの器の正体をつき止めた」
彼女がそう言うと、自分の鼓動が強くなったように感じる。
実際のところ、僕もずっと気になっていたんだ。
この器が何なのか……それがやっとわかる。
僕はワクワクしながら、彼女が教えてくれるのを待つ。
「聞いて驚くなよ? これは【聖杯】じゃ」
「せいはい?」
僕のキョトンとした表情に、ユノは目を細めて言う。
「何じゃピンとこんか? 主も言葉くらいは聞いたことがあるはずじゃぞ。願いを叶える器を」
「願い……ってまさか! あの聖杯!? 御伽噺とかで出てくるような?」
「そうじゃ。これこそが聖杯、願いを叶える力を持つ器じゃ」
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