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時間旅行編
174.招待状
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五月に入り気候が変化した。
最初にこの場所へ来たときと同じ、極度の乾燥が襲う。
雲を発生させられる今となっては、この時期もさして脅威にはならない。
そんなある日、嵐のように彼女はやってきた。
「久しぶりね」
「レミリア様!? 何で、というかいついらしたんですか?」
「ついさっきよ。この間もらった魔道具を使ったわ。便利ねこれ」
「いや、前から言ってますけど、来るならせめて事前に連絡してくださいよ。ビックリするじゃないですか」
「何言ってるのよ。ビックリさせるために敢えて抜き打ちで来てるのよ」
「えぇ……そうだったんですか?」
「嘘よ。単に連絡が面倒だっただけ」
「えぇ……」
「だって遠いんだもの」
「まぁ、はい。そこはすいません」
レミリア様はソファーに座って寛ぎ始めた。
目を瞑り、長く息を吐いて背もたれに身体を委ねている。
「えっと、今回は何の御用で来られたんです? また兄上の件ですか?」
「残念ながら違うわ」
「へぇ、珍しいですね。じゃあ何でここへ?」
僕が尋ねると、レミリア様は一通の紙を取り出した。
それは封筒で、封には王国の紋章が刻まれている。
「これをあなたに渡したくて来たのよ」
「それは?」
「招待状よ。建国記念日に催される祭りのね」
「えっ、僕にですか?」
僕は驚きながら、レミリア様から封筒を受け取った。
信じられない僕に、レミリア様は言う。
「中を開けてみればわかるわ。ちゃんとお父様からの招待状よ」
ごくり……
僕は息を飲み、言われた通り封筒を開けた。
中には一枚の紙が入っていた。
そして、紙には祭りへ来賓として招待したい、という旨が記されていた。
「本当だ……陛下のサインまでちゃんとある。だけどこれ、どういうことなんですか?」
「何のことかしら?」
「だってほら! 陛下が僕を招待するわけないじゃないですか」
陛下と最後に会ったのは、この街が独立する直前。
僕は陛下を、変換魔法を使って脅したんだ。
元々好かれていなかった上で、あんなことをしてしまった。
嫌われているどころか、恨まれていても不思議じゃない。
何か裏があるんじゃないか……。
失礼だけど、自然とそう考えてしまう。
「何か意図があるんですか? 僕を呼ぶことで何か」
「意図なんてないわよ? というか、あなたを招待するって言い出したのは私だもの」
「えっ、ちょっ……何をしたんです?」
「何もしてないわよ。ただあなたを招待したいって伝えて、お父様に招待状を作ってもらっただけよ? とっても嫌な顔をされてしまったけどね」
そりゃそうでしょ。
と心の中でツッコミを入れる。
「何で僕を? わざわざ」
「大した理由じゃないわ。単にウィリアムにも見てほしかったの。ほら、私もパレードに参加するから」
「ああ、そうでしたね」
パレードは、この間やった生き雛の行列に近い。
うちのも盛り上がったけど、王国のは規模が全然違う。
大きな御輿を用いて、王様たちが揺られながら王都を周る。
毎年行われる恒例行事の一つで、もっとも賑わう祭りだ。
僕も何度か行ったことがあるけど、人が多すぎて大変だった記憶しかない。
途中から行かなくなったな。
「安心しなさい。来賓席があるから、人ごみに流される心配はないわ」
「はぁ……でも僕、もう他所の人ですし」
「別に良いじゃない。もともと他の国の貴族も誘うんだし、あなたを誘っても問題はないわ。それとも私の誘いじゃ不服なの?」
「いやいやまさか! とっても嬉しいですよ? 嬉しいですけど……ちょっと不安というか」
思えばウィルの街になったあの日以来、王都へは一度も行っていない。
たかだが数ヶ月が、永久だったかのように感じられる。
というより、僕はもう二度と、あの場所には入れないと思っていたんだ。
「偶にはこっちへ顔を出しなさいよ。私ばかりに足を運ばせないで」
「そう……ですね。わかりました」
ちょうど良い機会かもしれない。
そう思って返事をした。
「確かに聞いたわよ? 間違っても当日に怖気づかないでね」
「大丈夫だと思いますよ。たぶん……」
「そう、まぁ信じてあげるわ」
そう言ってレミリア様はソファーから立ち上がった。
扉のほうへと歩いていく。
「もう帰られるんですか?」
「ええ、今日はそれを渡しに来ただけだもの。あーそうそう、参加するときはもう一人、女性のパートナーを連れてきなさい」
「えっ……」
「何を驚いているの? そういう催しでしょ」
レミリア様はそう言い残し、ニヤッと意味深に笑って出て行った。
一人部屋に残った僕は、彼女の言葉を頭で再生している。
「もう……レミリア様はイジワルだな」
パレードに参加する男性貴族の中には、女性のパートナーと一緒に参加する者がいる。
それは婚約者だったり、意中の相手だったり。
そういう相手がいる場合は、他の貴族たちに示すんだ。
自分にはもう、決まった相手がいるのだと。
いない場合は一人で参加すればいいのだけど、レミリア様は敢えて一人連れてくるようにと言った。
普通に無視すればいいけど、たぶん後が面倒になる。
それに……
「ふぅ……そろそろちゃんと考えろってことなのかな?」
僕は窓の外を見ながら、ため息混じりに呟いた。
最初にこの場所へ来たときと同じ、極度の乾燥が襲う。
雲を発生させられる今となっては、この時期もさして脅威にはならない。
そんなある日、嵐のように彼女はやってきた。
「久しぶりね」
「レミリア様!? 何で、というかいついらしたんですか?」
「ついさっきよ。この間もらった魔道具を使ったわ。便利ねこれ」
「いや、前から言ってますけど、来るならせめて事前に連絡してくださいよ。ビックリするじゃないですか」
「何言ってるのよ。ビックリさせるために敢えて抜き打ちで来てるのよ」
「えぇ……そうだったんですか?」
「嘘よ。単に連絡が面倒だっただけ」
「えぇ……」
「だって遠いんだもの」
「まぁ、はい。そこはすいません」
レミリア様はソファーに座って寛ぎ始めた。
目を瞑り、長く息を吐いて背もたれに身体を委ねている。
「えっと、今回は何の御用で来られたんです? また兄上の件ですか?」
「残念ながら違うわ」
「へぇ、珍しいですね。じゃあ何でここへ?」
僕が尋ねると、レミリア様は一通の紙を取り出した。
それは封筒で、封には王国の紋章が刻まれている。
「これをあなたに渡したくて来たのよ」
「それは?」
「招待状よ。建国記念日に催される祭りのね」
「えっ、僕にですか?」
僕は驚きながら、レミリア様から封筒を受け取った。
信じられない僕に、レミリア様は言う。
「中を開けてみればわかるわ。ちゃんとお父様からの招待状よ」
ごくり……
僕は息を飲み、言われた通り封筒を開けた。
中には一枚の紙が入っていた。
そして、紙には祭りへ来賓として招待したい、という旨が記されていた。
「本当だ……陛下のサインまでちゃんとある。だけどこれ、どういうことなんですか?」
「何のことかしら?」
「だってほら! 陛下が僕を招待するわけないじゃないですか」
陛下と最後に会ったのは、この街が独立する直前。
僕は陛下を、変換魔法を使って脅したんだ。
元々好かれていなかった上で、あんなことをしてしまった。
嫌われているどころか、恨まれていても不思議じゃない。
何か裏があるんじゃないか……。
失礼だけど、自然とそう考えてしまう。
「何か意図があるんですか? 僕を呼ぶことで何か」
「意図なんてないわよ? というか、あなたを招待するって言い出したのは私だもの」
「えっ、ちょっ……何をしたんです?」
「何もしてないわよ。ただあなたを招待したいって伝えて、お父様に招待状を作ってもらっただけよ? とっても嫌な顔をされてしまったけどね」
そりゃそうでしょ。
と心の中でツッコミを入れる。
「何で僕を? わざわざ」
「大した理由じゃないわ。単にウィリアムにも見てほしかったの。ほら、私もパレードに参加するから」
「ああ、そうでしたね」
パレードは、この間やった生き雛の行列に近い。
うちのも盛り上がったけど、王国のは規模が全然違う。
大きな御輿を用いて、王様たちが揺られながら王都を周る。
毎年行われる恒例行事の一つで、もっとも賑わう祭りだ。
僕も何度か行ったことがあるけど、人が多すぎて大変だった記憶しかない。
途中から行かなくなったな。
「安心しなさい。来賓席があるから、人ごみに流される心配はないわ」
「はぁ……でも僕、もう他所の人ですし」
「別に良いじゃない。もともと他の国の貴族も誘うんだし、あなたを誘っても問題はないわ。それとも私の誘いじゃ不服なの?」
「いやいやまさか! とっても嬉しいですよ? 嬉しいですけど……ちょっと不安というか」
思えばウィルの街になったあの日以来、王都へは一度も行っていない。
たかだが数ヶ月が、永久だったかのように感じられる。
というより、僕はもう二度と、あの場所には入れないと思っていたんだ。
「偶にはこっちへ顔を出しなさいよ。私ばかりに足を運ばせないで」
「そう……ですね。わかりました」
ちょうど良い機会かもしれない。
そう思って返事をした。
「確かに聞いたわよ? 間違っても当日に怖気づかないでね」
「大丈夫だと思いますよ。たぶん……」
「そう、まぁ信じてあげるわ」
そう言ってレミリア様はソファーから立ち上がった。
扉のほうへと歩いていく。
「もう帰られるんですか?」
「ええ、今日はそれを渡しに来ただけだもの。あーそうそう、参加するときはもう一人、女性のパートナーを連れてきなさい」
「えっ……」
「何を驚いているの? そういう催しでしょ」
レミリア様はそう言い残し、ニヤッと意味深に笑って出て行った。
一人部屋に残った僕は、彼女の言葉を頭で再生している。
「もう……レミリア様はイジワルだな」
パレードに参加する男性貴族の中には、女性のパートナーと一緒に参加する者がいる。
それは婚約者だったり、意中の相手だったり。
そういう相手がいる場合は、他の貴族たちに示すんだ。
自分にはもう、決まった相手がいるのだと。
いない場合は一人で参加すればいいのだけど、レミリア様は敢えて一人連れてくるようにと言った。
普通に無視すればいいけど、たぶん後が面倒になる。
それに……
「ふぅ……そろそろちゃんと考えろってことなのかな?」
僕は窓の外を見ながら、ため息混じりに呟いた。
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