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時間旅行編

【特別編】メリークリスマス

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 これは一つの可能性。
 あったかもしれない未来、もしくはこれから訪れる未来。
 十年後のウィルの街で送る温かいお話だ。

 十二月二十日。
 寒さがいっそう際立つ季節。
 外は雪こそ降っていないが、連日の大雪で雪化粧に包まれている。
 街の人たちは、暖かい部屋でぬくぬくと過ごしていた。
 かくいう僕もその一人だ。

「はぁ、あったかい」

 今は夕食が出来るのをコタツで待っている。
 鏡で見なくてもわかるくらい、きっとだらしない顔をしているだろう。
 まぁコタツの前じゃ誰だってそうだ。
 息子のユミルも一緒に寛いでいるんだけど、隣から寝息のような声が聞こえてくる。
 
「ユミル、寝ちゃ駄目だぞ? もうすぐご飯なんだから」

「ん~ わかってるよぉ」

 そう言いながら目を擦る。
 頑張って起きようとしている姿が可愛くて、僕は頭を撫で回す。
 すると、キッチンのほうから声が聞こえてくる。

「パパー! ユーちゃん! ご飯できたよぉー!」

 元気いっぱいで僕の前に走ってきたのは、双子の妹リルカだった。
 後ろからお母さんのソラがついてくる。

「あったかそうね」

「うん、ソラも一緒にどう?」

「魅力的なお誘いだけど、それはご飯の後ね」

 つまり早くコタツから出ろということだ。
 僕は意図を察し、名残惜しさを感じながらコタツを出る。
 また後で来るからな、なんてことを呟きながら。

 僕らは揃って食卓を囲む。
 家族団らん、温かい食事が身体にしみるようだ。
 会話も弾み、ソラが壁にかかったカレンダーを見ながら言う。

「もう今年も終わるね」

「ああ、早いものだな。二週間後くらいには一気に季節も変わる」

「準備しておかないとね」

「ねぇパパ、ママ! もうすぐクリスマスだよ!」

 僕とソラの会話に、リルカが割って入ってくる。
 僕らは顔を見合わせ、驚いたフリをする。

「そうだったな」

「年の瀬より、そっちが先ね」

 僕らは揃って忘れていたような口ぶりで話した。
 だけど、もちろん覚えている。
 クリスマスは数年前に街で始めたイベントの一つ。
 古い書物に記されていた催しを、僕らでアレンジしたものだ。

「サンタさん来てくれるかな~」

「二人が良い子にしてたら、ちゃんと来てくれるよ」

「本当? わたしとユーちゃん良い子だった?」

「うん、とってもね」

「やったー!」

 嬉しそうに笑うリルカ。
 僕とソラはほっこりさせられる。
 これは気合を入れてプレゼントを用意しないとだね。
 まずは二人のほしい物を探らないと。

「ちなみに二人は何がほしいの?」

 そう尋ねながら、先にユミルのほうへ視線を送る。

「ぼく?」

 僕はこくりと頷く。
 ユミルはちょっと照れくさそうにして答える。

「ぼくは剣がほしい!」

「剣?」

「うん! イズチおじちゃんが使ってるみたいな、かっこいい剣がほしい」

「ああ~」

 ユミルはイズチに剣の稽古をつけてもらっている。
 その影響が出たのか。
 憧れの先生の真似をしたいというやつか。
 父親としてはちょっと悔しいな。

「リルカは?」

「私はねぇ~ 内緒!」

「そっか~ 内緒かぁ~」

「あとでお母さんにはこっそり教えてね?」

「駄目だよ~ ママにも内緒なの」

 リルカは教えてくれなかった。
 可愛いから良しとする。
 それから二人が寝静まった夜。
 僕とソラで作戦会議をすることに。

「さて、プレゼントの準備しないとね」

「そうね。ユミルは教えてくれたけど、リルカはどうするの?」

「そっちは大丈夫。知り合いに眼を借りて、未来を覗いてもらうから」

「他力本願ね」

「じゃあ他に案はある?」

「ないからこれ以上は言わない」

 僕らは子供たちが起きないように小さく笑う。

「ユミルは剣だったよね?」

「うん、剣というか刀かな。イズチが持ってるのと同じなら」

「どうするの? 真剣は危ないでしょ?」

「そこは心配要らないと思うよ。使い方も心構えも、イズチがちゃんと教えてくれてる。そもそも稽古で真剣使ってるみたいだし」

「そう、なら任せていい?」

「もちろん。素材は集めてくるから、作るほうはギランに頼むよ」

 こうして、その日の作戦会議は終わった。
 翌日、ヒナタに頼んで探ってもらうと、リルカは料理が上手くなりたいと言っていたことが判明。
 プレゼントは可愛らしいエプロンとか、料理に使える道具を一式そろえることにした。
 そっちはソラに任せて、僕は刀の素材集めへ。
 せっかくだし、とびっきり格好良い刀をプレゼントしたい。
 我が子のことながら、張り切りすぎたよ。

 そして――

 十二月二十四日。
 クリスマスの前日になる。
 外は雪化粧で染まり、街の明りがイルミネーションのように輝いている。
 夕食もちょっとしたパーティー気分だ。

「いよいよだね~ 二人とも楽しみ?」

「「うん!」」

 ウキウキ気分の二人。
 頑張って準備したんだ。
 喜んでくれるといいなぁ。
 と思っていたら――

「ねぇお父さん」

「ん?」

「お父さんとお母さんはプレゼント何がほしいの?」

「「え」」

 唐突にユミルがそんな質問をしてきた。
 驚く僕らに、リルカが加えて言う。

「パパとママも良い子だったもん! サンタさんぜーったい来てくれるよ! ね! ユーちゃん!」

「うん!」

 僕とソラは顔を見合わせた。
 思わず笑ってしまう。
 僕らの子供たちは、なんて優しいんだと。
 僕は二人の頭にぽんと手を置いて言う。

「ありがと。期待して待ってるよ」

 その日の夜。
 枕元にこっそりとプレゼントを置いていく。
 二人の寝顔を眺めながら、僕とソラは同じことを思った。

 プレゼントならとっくに貰っているよ。
 二人が僕らの元に生まれてきてくれた日から、毎日ずっと幸せで……これ以上もらったら壊れちゃうくらいにね。
 
 どうかこんな温かい日が、ずっと続いていきますように。
 願わくば、僕たち以外の家でも、幸福な毎日が訪れますように。
 ソラと寄り添い、誓い合う。

 メリークリスマス!

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 いわゆるIFストーリーです。
 本編とは今のところ繋がりませんが、もしかすると?
 今後にご期待ください。
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