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時間旅行編

171.巫女の伝承

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 ウィルの街に新しい仲間が加わった。
 仲間と言っても人じゃなくて動物なんだけどね。
 まぁ動物というか、ネコマタの親子だよ。

「わーい! こっちだよ~」

 子供のネコマタと駆け回って遊ぶロトン。
 それを見守る親ネコマタとイズチ。
 先日二人が助けた子供と、その親が懐いてついてきたらしい。
 大きくて鋭い爪を持っていて、見た目は怖いけど、懐く姿は普通の猫だった。

「楽しそうだね、ロトン」

「ウィル……ああ、どっちも楽しそうだ」

 見守る二人、イズチはロトンの保護者みたいになっていた。
 いつの間にか、みんなそれぞれに仲良くなっていて微笑ましいね。

「ところで何しに来たんだ? 用もなくぶらついてたわけじゃないんだろ?」

「うん、大樹へ向かう途中だったんだ。ヒナタに来てほしいってお願いされてね。そしたら楽しそうに遊んでるのが見えて、ちょっと覗きに来ただけ」

「ああ、なるほど。しかしお前もよく通うよな」

「まぁ好きでやってることだからさ。じゃあ僕は行くよ」

「おう、またな」

 僕は手を振りながら、その場から立ち去った。
 近くにあった転移装置を使って、ヒナタのいる大樹上層部へ移動する。
 四月も中旬になり、照りつける日差しも和らいできた。
 枝と葉が日を遮って影を作れば、多少はましになるほどに。
 僕は影をつたいながら歩いていく。
 すると、道中に設置していあったベンチに、彼女は座っていた。

「ヒナタ」

 名前を呼ぶと、素早くクルリと顔を向ける。
 僕と目があった途端に、彼女は嬉しそうな笑顔を見せた。
 そして僕の名前を呼ぶ。

「ウィル!」

 ヒナタはベンチから立ち上がり、僕のほうへと駆け寄ってきた。
 ちょっと前まで歩くのがやっとだった気がするのに、今ではその面影すらない。
 順調に回復していることを安心して、僕は顔がほころぶ。

「おはよう。待っていてくれたの?」

「うん! 早く会いたかったから!」

「僕も会いたかったよ。最近は仕事が忙しくて、あまり会いに来れなくてごめんね」

「ううん、いいの! ウィルが忙しいって知ってたから、私も会いに行くのは止めてたもん」

 ヒナタはニコニコしながらそう語った。
 気を使ってくれていたのか。

「ありがとう。で、今日は話があるって聞いて来たんだけど」

「うん! こっちに来て! お母さんが待ってるよ!」

 ヒナタは僕の手を引っ張る。
 どうやら僕に話があるのは、彼女ではなくスメラギらしい。
 僕は彼女に引っ張られながら、最上部にある建物へと向かう。
 初めてこの場所へ来たときのことを思い返す。
 あの頃はピリピリしていて、他ごとを考える余裕はなかったな。
 そうこうしているうちに、スメラギのいる部屋の前にたどり着いた。

「お母さん! ウィルをつれて来たよ!」

 ヒナタが襖越しに話しかける。
 そして、中から返事が聞こえてくる。

「入ってください」

「失礼します」

 襖を開けると、上座にスメラギが座っていた。
 僕とヒナタは中へ入っていく。

「どうぞお座りください」
 
 座布団が敷かれていたので、僕はそこに座った。
 ヒナタはスメラギの方まで歩いていって、隣にちょこんと座った。
 スメラギが僕に語りかける。

「ウィリアム様、急な呼び出しに応じていただき感謝いたします」

「いえ、お気になさらず。それで話というのは何ですか?」

「はい、実はウィリアム様に折り入ってお願いしたいことがあるのです」

「お願い? 僕に出来ることなら引き受けますよ」

 と、内容を聞く前に僕は了承した。
 いつものことなんだけど、毎度驚かれて同じセリフを返される。

「よろしいのですか? まだ内容もお伝えしておりませんが」

「いいんでよ。僕は頼られるのが好きなので」

「ウィルらしいね」

 そう言ってヒナタが笑う。
 大抵ソラ辺りには、呆れられるんだけどね。

「じゃあ内容を教えてもらってもいいですか?」

「はい。では先にこちらをお見せしておきますね」

 そう言ってスメラギは、一冊の古い本をヒナタに手渡した。
 受け取ったヒナタは立ち上がり、僕のほうまで来て、今度は僕に手渡す。

「これは?」

「我が一族に代々受け継いできた書物です」

「読んでみて!」

 ヒナタに催促され、僕は古びた本を開く。
 ページは日焼けしていて茶色くなっていたけど、びっしり書かれた文字は見やすかった。
 そして、本に記されていた内容は、この大樹に残る伝承だった。

 昔々、遥か昔の話。
 大樹にはたくさんの狐人が集まり、一つの国を形成していた。
 国を治めていたのは、巫女と呼ばれる女性だった。
 巫女は太陽の加護を持っており、特別な力で病める者に癒しを与え、強い信仰を集めていた。

 ある日、大樹を大災害が襲った。
 三日三晩続く嵐、昼間でも太陽が見えず、真っ暗な一日が続いたそうだ。
 その影響か、皮膚が黒くなる極めて危険な病が大流行してしまった。
 多くの仲間が死に至り、不穏な空気が立ち込めた。
 このままではいけないと巫女が立ち上がる。
 巫女は国中へ出向き、癒しの力で病を浄化していった。

 しかし、嵐は一向に治まることを知らず、太陽は十日間顔を出さない。
 巫女はこうなった原因が、太陽の不在にあると考えた。
 太陽の光さえ戻れば、この病は終息する。
 そう考え、巫女は己の力を全て使い、命まで犠牲にして太陽を呼び戻した。
 太陽が空から顔を出したことで、嵐は治まり、病もバッタリ出なくなった。
 巫女は人々の命を救ったのだ。
 自分の命を引き換えに――
 
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