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時間旅行編
167.悪い鬼
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それはベルゼが帰って二日後の夜に起こった。
珍しく大雨が降っていて、雷まで鳴っていて、いつもより暗い夜だった。
ピカッと空が光って、ゴロゴロと雷鳴が響く。
「っ……うるさいなぁ~」
雷の音に反応して、眠っていたニーナが目を覚ました。
元々雷が苦手だった彼女は、中々眠れずトイレに行こうと部屋を出た。
廊下は真っ暗で誰もいない。
外は嫌いな雷がなっている。
加えてその日は、昼にリンから怖い鬼の話を聞いていた所為もあり、暗闇が怖く感じていた。
何とかトイレを済ませ、早足で部屋に戻ろうとしたとき――
雷が街の近くに落ちた。
ニーナの目には、一瞬だけ光った廊下の先に、恐ろしい鬼が立っているように見えた。
リンの話に出てきたような……人を何人も喰らい、返り血を浴びた鬼だったという。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「悪い鬼がいた?」
「う、うん……昨日の夜……廊下に立ってたの」
僕が知ったのは、彼女が鬼を見たという日の翌朝だった。
ニーナが時間になっても部屋から出てこなくて、また寝坊していると思ったソラが部屋に入ると、布団に包まって怯えている彼女がいたらしい。
すぐに僕のところへ来て、事情を話してくれた。
今はニーナの部屋で、ソラと二人詳しい話を聞いている。
「寝起きだったのですよね? だったら寝ぼけていたという可能性はありませんか?」
「そんなことないよソラちゃん! あたしちゃんと起きてたもん!」
「そう言われても……さっき一通り屋敷の中を調べましたが、特に何もなかったですからね」
「ねぇニーナ、確かに見たんだね?」
「うん……」
「じゃあリンとトウヤにも聞いてみよう。本当にそれが鬼なら、彼らが何か知っているかもしれない」
といいつつも、僕はあまり本気にはしていなかった。
少なくとも鬼ではないだろうと、ニーナの見間違いのほうじゃないかとも思った。
ただ、彼女の怯え方が酷くて、このままでは良くないと感じたから、トウヤたちにも協力してもらうことにした。
「ソラ、悪いけど二人を呼んできてもらえるかな?」
「かしこまりました」
十数分後――
ニーナの部屋に、二人が入ってきた。
「失礼します」
「おうウィル、どうかしたか――って何だよこの空気」
「二人とも来てくれてありがとう。実は昨日の夜――」
僕は二人に事情を説明した。
説明が終わった後で、二人に心あたりがないか聞いてみる。
「お~ん……血だらけの鬼ねぇ。本当に鬼だったのかよ」
「ニーナが言うにはそうらしい。二人みたいに鬼の角が生えてたんだって」
「他に何か特徴はなかったのか?」
「目が、目が真っ赤になってたよ」
トウヤが尋ねると、ニーナが怯えた顔で答えた。
鬼と赤く染まった瞳……いつの日か、トウヤと戦った日のことを連想させる。
「先に言っとくが、オレは違うからな? 昨日の夜はすぐ寝ちまったし、一度も起きてねぇよ」
「わかってるよ。リンもありえないしね」
「はい。私も昨日は部屋から出ていません」
「ちなみになんだけど、昨日ニーナに鬼の話を教えてたって聞いたんだけど」
「あ、はい。それは本当です」
「どんな話だったの?」
「えっと、鬼族に昔から伝わるお話で、とっても怖い鬼が出てくるんです」
昔々、鬼族の村があった時代。
一人の鬼が盗みを働いた。
仲間の鬼たちは怒り、その鬼を村から追い出したそうだ。
追い出された鬼は、近隣の村を回ったが、どこへ行っても相手にされず、食べ物すら手に入らない日が続いた。
このままでは飢えて死んでしまう。
空腹がピークに達し、極限状態の中でその鬼が出した結論……。
それは、人を喰らうことだった。
まずは近隣の村を襲い、人間の子供を喰らったそうだ。
空腹で食べた人間の肉は、とても美味しく感じられてしまった。
そこで理性の鎖が一気に外れ、鬼は次々に人を襲った。
一つの村を滅ぼし、二つ目の村も滅ぼし……そうして食い漁って、最後にたどり着いたのが、かつて追放された故郷だった。
気付いたときには、仲間の鬼を喰らっていた。
いつから自我を失っていたのか、鬼自身もわからなかった。
ただ確実に言えるのは、仲間を殺めたのが自分だということ。
その鬼は酷く後悔し、自ら命を絶った。
「というお話なんです」
「お、思っていた以上に重い話だね」
「狂化した鬼の話だな。そうならねぇように気をつけろっていう……戒めってやつだよ」
「その話を聞いた夜に、血まみれの鬼を見たんだね」
ニーナはこくりと頷いた。
話を聞いて考えたけど、やっぱり見間違いなんじゃないかと思ってしまう。
怖い話を聞いた後だから、尚更そう見えただけとか。
だけど、安易に大丈夫だと言っても無駄だろうし。
かといって証拠もないから、退治したくても出来ない。
「どうしようかな……」
悩んでいる僕を見て、トウヤが長く息を吐く。
それからニーナに尋ねる。
「本当に鬼だったんだな?」
「うん」
「悪い鬼か?」
「うん」
「そうか、わかった! だったらオレがその鬼を退治してやるよ!」
「えっ……」
「トウヤ?」
「本当に鬼なら、同じ鬼であるオレがけじめをつけるべきだろ? まぁ任せとけって」
トウヤは自分の胸をバンッと叩いてそう言った。
珍しく大雨が降っていて、雷まで鳴っていて、いつもより暗い夜だった。
ピカッと空が光って、ゴロゴロと雷鳴が響く。
「っ……うるさいなぁ~」
雷の音に反応して、眠っていたニーナが目を覚ました。
元々雷が苦手だった彼女は、中々眠れずトイレに行こうと部屋を出た。
廊下は真っ暗で誰もいない。
外は嫌いな雷がなっている。
加えてその日は、昼にリンから怖い鬼の話を聞いていた所為もあり、暗闇が怖く感じていた。
何とかトイレを済ませ、早足で部屋に戻ろうとしたとき――
雷が街の近くに落ちた。
ニーナの目には、一瞬だけ光った廊下の先に、恐ろしい鬼が立っているように見えた。
リンの話に出てきたような……人を何人も喰らい、返り血を浴びた鬼だったという。
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「悪い鬼がいた?」
「う、うん……昨日の夜……廊下に立ってたの」
僕が知ったのは、彼女が鬼を見たという日の翌朝だった。
ニーナが時間になっても部屋から出てこなくて、また寝坊していると思ったソラが部屋に入ると、布団に包まって怯えている彼女がいたらしい。
すぐに僕のところへ来て、事情を話してくれた。
今はニーナの部屋で、ソラと二人詳しい話を聞いている。
「寝起きだったのですよね? だったら寝ぼけていたという可能性はありませんか?」
「そんなことないよソラちゃん! あたしちゃんと起きてたもん!」
「そう言われても……さっき一通り屋敷の中を調べましたが、特に何もなかったですからね」
「ねぇニーナ、確かに見たんだね?」
「うん……」
「じゃあリンとトウヤにも聞いてみよう。本当にそれが鬼なら、彼らが何か知っているかもしれない」
といいつつも、僕はあまり本気にはしていなかった。
少なくとも鬼ではないだろうと、ニーナの見間違いのほうじゃないかとも思った。
ただ、彼女の怯え方が酷くて、このままでは良くないと感じたから、トウヤたちにも協力してもらうことにした。
「ソラ、悪いけど二人を呼んできてもらえるかな?」
「かしこまりました」
十数分後――
ニーナの部屋に、二人が入ってきた。
「失礼します」
「おうウィル、どうかしたか――って何だよこの空気」
「二人とも来てくれてありがとう。実は昨日の夜――」
僕は二人に事情を説明した。
説明が終わった後で、二人に心あたりがないか聞いてみる。
「お~ん……血だらけの鬼ねぇ。本当に鬼だったのかよ」
「ニーナが言うにはそうらしい。二人みたいに鬼の角が生えてたんだって」
「他に何か特徴はなかったのか?」
「目が、目が真っ赤になってたよ」
トウヤが尋ねると、ニーナが怯えた顔で答えた。
鬼と赤く染まった瞳……いつの日か、トウヤと戦った日のことを連想させる。
「先に言っとくが、オレは違うからな? 昨日の夜はすぐ寝ちまったし、一度も起きてねぇよ」
「わかってるよ。リンもありえないしね」
「はい。私も昨日は部屋から出ていません」
「ちなみになんだけど、昨日ニーナに鬼の話を教えてたって聞いたんだけど」
「あ、はい。それは本当です」
「どんな話だったの?」
「えっと、鬼族に昔から伝わるお話で、とっても怖い鬼が出てくるんです」
昔々、鬼族の村があった時代。
一人の鬼が盗みを働いた。
仲間の鬼たちは怒り、その鬼を村から追い出したそうだ。
追い出された鬼は、近隣の村を回ったが、どこへ行っても相手にされず、食べ物すら手に入らない日が続いた。
このままでは飢えて死んでしまう。
空腹がピークに達し、極限状態の中でその鬼が出した結論……。
それは、人を喰らうことだった。
まずは近隣の村を襲い、人間の子供を喰らったそうだ。
空腹で食べた人間の肉は、とても美味しく感じられてしまった。
そこで理性の鎖が一気に外れ、鬼は次々に人を襲った。
一つの村を滅ぼし、二つ目の村も滅ぼし……そうして食い漁って、最後にたどり着いたのが、かつて追放された故郷だった。
気付いたときには、仲間の鬼を喰らっていた。
いつから自我を失っていたのか、鬼自身もわからなかった。
ただ確実に言えるのは、仲間を殺めたのが自分だということ。
その鬼は酷く後悔し、自ら命を絶った。
「というお話なんです」
「お、思っていた以上に重い話だね」
「狂化した鬼の話だな。そうならねぇように気をつけろっていう……戒めってやつだよ」
「その話を聞いた夜に、血まみれの鬼を見たんだね」
ニーナはこくりと頷いた。
話を聞いて考えたけど、やっぱり見間違いなんじゃないかと思ってしまう。
怖い話を聞いた後だから、尚更そう見えただけとか。
だけど、安易に大丈夫だと言っても無駄だろうし。
かといって証拠もないから、退治したくても出来ない。
「どうしようかな……」
悩んでいる僕を見て、トウヤが長く息を吐く。
それからニーナに尋ねる。
「本当に鬼だったんだな?」
「うん」
「悪い鬼か?」
「うん」
「そうか、わかった! だったらオレがその鬼を退治してやるよ!」
「えっ……」
「トウヤ?」
「本当に鬼なら、同じ鬼であるオレがけじめをつけるべきだろ? まぁ任せとけって」
トウヤは自分の胸をバンッと叩いてそう言った。
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