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時間旅行編
156.ミリオン鉱石
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奥へ進んでいくと、魔物の痕跡がチラホラ見つかった。
食い散らかされた残骸にハエがたかっている。
大きな獲物は、奥に引きずられたような跡も残っていた。
「間違いなく、この奥に魔物が巣くっていますね」
「そう……」
「どうします? やっぱり引き返しますか?」
僕がそう尋ねると、レミリア様は黙って考え始めた。
ランタンで照らされた表情は険しく、出発前の明るさは感じられない。
怖くて当たり前だ。
僕だって怖くないわけじゃないんだから。
「そうね。洞窟はここだけじゃないでしょうし、一旦戻って――」
ベチャ……――
レミリア様が退却を判断した直後だった。
僕たちの前方から、何かが接近してきている気配を感じる。
粘ついた何かを踏んでいるのか、ベチャベチャ音を立てながら、ゆっくりと確実に近づいてくる。
僕はレミリア様を庇うように一歩前で出る。
腰のランタンを外し、前方を照らせるように持ち上げる。
すると――
「グゥゥゥ……ガアアァァァァァ!!」
凶悪な牙を持つ獣が雄叫びを上げた。
外見はトラに近いが、牙の大きさが桁違いだ。
図体も僕たちが知っているトラと比較して、六倍はあるだろうか。
洞窟の横幅がギリギリで、通り抜けられそうなスペースもない。
「あれが魔物!?」
「はい、確かあれは……グレートバング?だったと思います」
以前に本で見たことがある。
俊敏な動きと鋭い牙を武器に、自分より大きな魔物すら殺せるらしい。
洞窟に生息しているなんて書いてなかったけど、ここを巣穴にしているみたいだ。
「ちょっ、これ逃げられるの?」
「無理ですね。あっちのほうが確実に速いです」
「じゃあどうするのよ!?」
「大丈夫です。僕がいますから」
グレートバングはよだれを垂らしながら近づいてきている。
そうして僕らとの距離を測り、大きく飛び掛るタイミングを見計らっている。
対する僕は右手を上にかざし、魔法を唱える。
「何を言ってるのよ? あなたは魔法が――」
「変換魔法――【魔力→大剣】」
生成したのは、バングと同じくらい大きな剣だ。
そして次の瞬間、バングは大きく飛び掛ってくる。
僕は大剣をバングに向けて射出する。
大きく開けた口に、強靭な剣が突き刺さり、バングの体ごと吹き飛ばした。
「これでよし。レミリア様、怪我はありませんか?」
「な、なな……」
「レミリア様?」
「何で魔法が使えるの? あなたは魔法が使えないはずでしょ?」
「あっ……」
僕は今更気がついた。
そういえば、レミリア様には変換魔法のことを話していない。
というか、意図的に話さないようにしてきたんだった。
彼女も王国の人間だし、余計なトラブルを避けるためにね。
咄嗟のことで守るほうを優先したら、そのことを忘れてしまっていた。
「えっと……あの~」
レミリア様はじーっと僕を見つめてくる。
何とか誤魔化せないか考えたとき、レミリア様に友人と言ってもらえたときのことを思い出した。
そうしたら、誤魔化すんじゃなくて、正直に言うべきだと思うようになった。
「そうですね。どこから話せばいいのかなぁ」
僕は話すことにした。
奥へと足を進めながら、無能判定をされた日から、今日までのことを。
長い話になったけど、僕の歩みを伝えた。
「そう……。瞳が赤くなったのも、眷属になった所為かしら?」
「あ、はい。魔法を使うとそうなるみたいで」
眷属になってから、変換魔法を使うと瞳の色が真っ赤に変わるようになった。
ユノ曰く、僕の中にユノの魔力が混ざっていて、それが反応して赤くしているらしい。
「すいません。ずっと黙っていて」
「いいわよ。私が同じ立場でも、きっと同じようにしたわ」
「そう言ってもらえると嬉しいです。ありがとうござます」
「お礼を言うのはこっちよ。あなたのお陰で助かったわ。だけど危ないところだったわ」
「えっ? もしかしてどこか怪我を?」
「違うわ」
隣を向くと、レミリア様の頬が赤らんでいるように見えた。
そしてそっぽを向きながら僕に言う。
「格好良くて、危うく惚れそうになったもの」
「それは一大事ですね」
僕は笑ってそう答えた。
ちゃんと話せてスッキリした僕は、レミリア様を守りながら先を急ぐ。
といっても、それ以降は魔物の気配もなく平和だった。
バングが全部狩ってしまったのか、最初からいなかったのか。
どちらにしろ、僕らは幸運だった。
いや、魔物のことではなくて、洞窟の奥深くにちゃんとアレがあったことが――
「ありましたよ! あれが――」
「ミリオン鉱石!」
開けた空間に洞窟湖があって、上には鍾乳洞が出来ている。
鍾乳洞の先には、ランタンの光を当てると七色に光る部分があった。
その僅かな部分こそ、僕らが探していたミリオン鉱石だ。
とびきり幸運なことに、鍾乳洞のほとんどにミリオン鉱石が生成されている。
本来は、一本か二本くらいにしか出来ないと、読んだ本には書いてあったのに。
「まさかこんなにもあるなんて」
「日頃の行いが良いからよ」
「そうですね。レミリア様は――」
「違うわ、あたなのよ」
「えっ……」
こうして僕らは、ミリオン鉱石を手に入れた。
たくさん手に入ったので、一部は僕が貰うことになった。
プレゼントには原石と指輪を用意したいらしく、加工が難しいので、そこはギランに依頼した。
レミリア様に振り回された一日は、いろんな体験を経て無事に終わった。
食い散らかされた残骸にハエがたかっている。
大きな獲物は、奥に引きずられたような跡も残っていた。
「間違いなく、この奥に魔物が巣くっていますね」
「そう……」
「どうします? やっぱり引き返しますか?」
僕がそう尋ねると、レミリア様は黙って考え始めた。
ランタンで照らされた表情は険しく、出発前の明るさは感じられない。
怖くて当たり前だ。
僕だって怖くないわけじゃないんだから。
「そうね。洞窟はここだけじゃないでしょうし、一旦戻って――」
ベチャ……――
レミリア様が退却を判断した直後だった。
僕たちの前方から、何かが接近してきている気配を感じる。
粘ついた何かを踏んでいるのか、ベチャベチャ音を立てながら、ゆっくりと確実に近づいてくる。
僕はレミリア様を庇うように一歩前で出る。
腰のランタンを外し、前方を照らせるように持ち上げる。
すると――
「グゥゥゥ……ガアアァァァァァ!!」
凶悪な牙を持つ獣が雄叫びを上げた。
外見はトラに近いが、牙の大きさが桁違いだ。
図体も僕たちが知っているトラと比較して、六倍はあるだろうか。
洞窟の横幅がギリギリで、通り抜けられそうなスペースもない。
「あれが魔物!?」
「はい、確かあれは……グレートバング?だったと思います」
以前に本で見たことがある。
俊敏な動きと鋭い牙を武器に、自分より大きな魔物すら殺せるらしい。
洞窟に生息しているなんて書いてなかったけど、ここを巣穴にしているみたいだ。
「ちょっ、これ逃げられるの?」
「無理ですね。あっちのほうが確実に速いです」
「じゃあどうするのよ!?」
「大丈夫です。僕がいますから」
グレートバングはよだれを垂らしながら近づいてきている。
そうして僕らとの距離を測り、大きく飛び掛るタイミングを見計らっている。
対する僕は右手を上にかざし、魔法を唱える。
「何を言ってるのよ? あなたは魔法が――」
「変換魔法――【魔力→大剣】」
生成したのは、バングと同じくらい大きな剣だ。
そして次の瞬間、バングは大きく飛び掛ってくる。
僕は大剣をバングに向けて射出する。
大きく開けた口に、強靭な剣が突き刺さり、バングの体ごと吹き飛ばした。
「これでよし。レミリア様、怪我はありませんか?」
「な、なな……」
「レミリア様?」
「何で魔法が使えるの? あなたは魔法が使えないはずでしょ?」
「あっ……」
僕は今更気がついた。
そういえば、レミリア様には変換魔法のことを話していない。
というか、意図的に話さないようにしてきたんだった。
彼女も王国の人間だし、余計なトラブルを避けるためにね。
咄嗟のことで守るほうを優先したら、そのことを忘れてしまっていた。
「えっと……あの~」
レミリア様はじーっと僕を見つめてくる。
何とか誤魔化せないか考えたとき、レミリア様に友人と言ってもらえたときのことを思い出した。
そうしたら、誤魔化すんじゃなくて、正直に言うべきだと思うようになった。
「そうですね。どこから話せばいいのかなぁ」
僕は話すことにした。
奥へと足を進めながら、無能判定をされた日から、今日までのことを。
長い話になったけど、僕の歩みを伝えた。
「そう……。瞳が赤くなったのも、眷属になった所為かしら?」
「あ、はい。魔法を使うとそうなるみたいで」
眷属になってから、変換魔法を使うと瞳の色が真っ赤に変わるようになった。
ユノ曰く、僕の中にユノの魔力が混ざっていて、それが反応して赤くしているらしい。
「すいません。ずっと黙っていて」
「いいわよ。私が同じ立場でも、きっと同じようにしたわ」
「そう言ってもらえると嬉しいです。ありがとうござます」
「お礼を言うのはこっちよ。あなたのお陰で助かったわ。だけど危ないところだったわ」
「えっ? もしかしてどこか怪我を?」
「違うわ」
隣を向くと、レミリア様の頬が赤らんでいるように見えた。
そしてそっぽを向きながら僕に言う。
「格好良くて、危うく惚れそうになったもの」
「それは一大事ですね」
僕は笑ってそう答えた。
ちゃんと話せてスッキリした僕は、レミリア様を守りながら先を急ぐ。
といっても、それ以降は魔物の気配もなく平和だった。
バングが全部狩ってしまったのか、最初からいなかったのか。
どちらにしろ、僕らは幸運だった。
いや、魔物のことではなくて、洞窟の奥深くにちゃんとアレがあったことが――
「ありましたよ! あれが――」
「ミリオン鉱石!」
開けた空間に洞窟湖があって、上には鍾乳洞が出来ている。
鍾乳洞の先には、ランタンの光を当てると七色に光る部分があった。
その僅かな部分こそ、僕らが探していたミリオン鉱石だ。
とびきり幸運なことに、鍾乳洞のほとんどにミリオン鉱石が生成されている。
本来は、一本か二本くらいにしか出来ないと、読んだ本には書いてあったのに。
「まさかこんなにもあるなんて」
「日頃の行いが良いからよ」
「そうですね。レミリア様は――」
「違うわ、あたなのよ」
「えっ……」
こうして僕らは、ミリオン鉱石を手に入れた。
たくさん手に入ったので、一部は僕が貰うことになった。
プレゼントには原石と指輪を用意したいらしく、加工が難しいので、そこはギランに依頼した。
レミリア様に振り回された一日は、いろんな体験を経て無事に終わった。
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