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魔界編(本編)
181.ケルア草
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スズネを治療するため、俺は一人ケルア草採取へと向かった。
場所はガストニアを西に十数キロ下った洞窟である。以前ここへ親衛隊を向かわせたらしいが、それなりの道のりを歩いて、無駄骨だったというのだから報われない。
洞窟はすぐに見つけることができた。
岩肌にぽっかりと開いた穴、周辺には魔物の気配は無い。
「され、行きますか」
俺は洞窟の中へ入った。
当然だが明かりは無い。魔法で足元を照らしながら進む。
「なんだか暗い場所ばっかりきてるなぁ~」
俺は奥へと進みながらそうぼやいた。
こういう暗い道のりを歩くのは、遺跡に続いて二度目だ。魔界へ訪れて数日、地上を歩いている方が少ないように錯覚する。
洞窟には複数の魔物が生息している。出発前に入手した事前情報によると、少なくとも三種類はいる。そのうちの一種が、目の前に現れた。
「シュルルルルル――」
ヘビーシャーク、エリサがネクロマンスで召喚した魔物。今回は死体ではなく本物である。
巨大な蛇の魔物で、口から吐かれる毒の息は、洞窟のような密閉された空間では脅威である。
「【風魔法:風刃】」
真空の刃が、シャークの首を両断した。
シャークの攻略法は単純。毒の息を吐かれる前に、首を斬りおとせばいい。感知能力が高く、回避も得意なので、可能な限り速い攻撃がベストである。
「よっと」
付け加えると、シャークの体液にも触れてはいけない。息と同じく猛毒であるためだ。
俺はシャークの死体を飛び越えた。
さらに先へと進んでいく。途中別れ道もあり、いりくんでいるが問題はない。クロガネから正しい道順は聞いてある。
「お次は蜘蛛か」
続いて立ち塞がったのは、バンブルスパイダー。ハチのような模様をした蜘蛛の魔物である。
シャークほどの大きさは無いが、複数体が壁の左右上下に張り付いている。よくみると、すでに糸で巣を形成している。
スパイダーの吐く糸は、鉄の剣で斬れない強靭さをもっている。それを束ねさらに強度を増し、強い粘性で絡まった獲物を逃さない。
「【炎魔法:フレアバースト】」
洞窟を満たす程の炎を前方へ放つ。
スパイダーの糸は炎に弱い。さらにスパイダー本体も炎に弱く、相性は抜群である。
ただし、仲間が糸に捉えられている場合は控えよう。一緒に燃やしてしまうから。
「暑い……」
洞窟の中で炎を使うと一気に暑くなる。
魔法は周囲の環境、相手との相性など様々な情報を元に選択して使っていく。
さらに奥へ進んでいく。今のところ何も無いが、注意を怠ってはいけない。クロガネから聞いた最後の一種、ヘルバットが潜んでいるかもしれないのだ。
ヘルバットはコウモリも魔物、特殊な超音波によって、自らの音を消すことが出来る。さらに外見が真っ黒であるため、暗い洞窟では見つけ難い。そして超音波は攻撃にもなる。実態がない攻撃は、視認することが出来ず、音も無く察知が難しい。
「【探知魔法:マナフィール】」
こういう時に役立つ魔法が、魔力を感知する魔法である。
音や気配は無くとも、魔物であれば魔力を持っている。しばらく進んでいくと、前方に複数の反応を感知した。
一旦立ち止まり、千里眼で観察する。天井から黒い影が数体ぶら下がっているのを発見。
「【雷魔法:ライジュウ】」
すかさず遠距離狙撃をしかける。雷を束ねた光線が、ヘルバットを次々に撃ち落している。
合計九発打ち込み、同じ数のヘルバットを討伐した。強力な魔物だが、見つけてしまえばそれほど恐くない。
順調に進んでいくこと三十分。俺はようやく目的の場所へ到着した。
青く光る水晶、透き通る地下湖、そして優しい緑色をした草が生えている。
「ケルア草発見だな」
この空間に魔物がいないことを確認する。
俺はケルア草まで近寄り、膝をついてそっと手を伸ばした。
「うん、間違いないな。それじゃ――始めますか」
万能薬の調合、材料はすべてここに揃っている。
まずケルア草、これの葉だけをちぎりすり潰す。茎までとってしまうと、すぐに枯れてしまうのだ。
すり潰す際に加えるのが、湖の水と水晶のかけらである。
この湖の水には、余計なものが一切含まれていない。さらに水晶、これは魔法原石の一種で、高純度高品質に育っている。
どちらもこの環境が育んだ素材、これらでなくては万能薬は作れない。
「よし、あとは――」
すり潰し混ぜ合わせたそれに、僅かずつ魔力を注ぐ。
この作業は一番難しい。少しでも量を間違えたり、時間がずれれば万能薬は出来ない。この作業を最低一時間は行う必要があるのだ。
その間、神経を研ぎ澄まし続けなくてはならない。仮に敵が攻めてきたら、隙をつかれて負けてしまうかもしれない。それほどの集中が必要なのだ。
「スゥー……」
呼吸を整えならが耐える。
スズネを助けるため、彼女との約束を果すため、アリス達のもとへ帰るため。
俺は魔力を注ぎ続ける。
場所はガストニアを西に十数キロ下った洞窟である。以前ここへ親衛隊を向かわせたらしいが、それなりの道のりを歩いて、無駄骨だったというのだから報われない。
洞窟はすぐに見つけることができた。
岩肌にぽっかりと開いた穴、周辺には魔物の気配は無い。
「され、行きますか」
俺は洞窟の中へ入った。
当然だが明かりは無い。魔法で足元を照らしながら進む。
「なんだか暗い場所ばっかりきてるなぁ~」
俺は奥へと進みながらそうぼやいた。
こういう暗い道のりを歩くのは、遺跡に続いて二度目だ。魔界へ訪れて数日、地上を歩いている方が少ないように錯覚する。
洞窟には複数の魔物が生息している。出発前に入手した事前情報によると、少なくとも三種類はいる。そのうちの一種が、目の前に現れた。
「シュルルルルル――」
ヘビーシャーク、エリサがネクロマンスで召喚した魔物。今回は死体ではなく本物である。
巨大な蛇の魔物で、口から吐かれる毒の息は、洞窟のような密閉された空間では脅威である。
「【風魔法:風刃】」
真空の刃が、シャークの首を両断した。
シャークの攻略法は単純。毒の息を吐かれる前に、首を斬りおとせばいい。感知能力が高く、回避も得意なので、可能な限り速い攻撃がベストである。
「よっと」
付け加えると、シャークの体液にも触れてはいけない。息と同じく猛毒であるためだ。
俺はシャークの死体を飛び越えた。
さらに先へと進んでいく。途中別れ道もあり、いりくんでいるが問題はない。クロガネから正しい道順は聞いてある。
「お次は蜘蛛か」
続いて立ち塞がったのは、バンブルスパイダー。ハチのような模様をした蜘蛛の魔物である。
シャークほどの大きさは無いが、複数体が壁の左右上下に張り付いている。よくみると、すでに糸で巣を形成している。
スパイダーの吐く糸は、鉄の剣で斬れない強靭さをもっている。それを束ねさらに強度を増し、強い粘性で絡まった獲物を逃さない。
「【炎魔法:フレアバースト】」
洞窟を満たす程の炎を前方へ放つ。
スパイダーの糸は炎に弱い。さらにスパイダー本体も炎に弱く、相性は抜群である。
ただし、仲間が糸に捉えられている場合は控えよう。一緒に燃やしてしまうから。
「暑い……」
洞窟の中で炎を使うと一気に暑くなる。
魔法は周囲の環境、相手との相性など様々な情報を元に選択して使っていく。
さらに奥へ進んでいく。今のところ何も無いが、注意を怠ってはいけない。クロガネから聞いた最後の一種、ヘルバットが潜んでいるかもしれないのだ。
ヘルバットはコウモリも魔物、特殊な超音波によって、自らの音を消すことが出来る。さらに外見が真っ黒であるため、暗い洞窟では見つけ難い。そして超音波は攻撃にもなる。実態がない攻撃は、視認することが出来ず、音も無く察知が難しい。
「【探知魔法:マナフィール】」
こういう時に役立つ魔法が、魔力を感知する魔法である。
音や気配は無くとも、魔物であれば魔力を持っている。しばらく進んでいくと、前方に複数の反応を感知した。
一旦立ち止まり、千里眼で観察する。天井から黒い影が数体ぶら下がっているのを発見。
「【雷魔法:ライジュウ】」
すかさず遠距離狙撃をしかける。雷を束ねた光線が、ヘルバットを次々に撃ち落している。
合計九発打ち込み、同じ数のヘルバットを討伐した。強力な魔物だが、見つけてしまえばそれほど恐くない。
順調に進んでいくこと三十分。俺はようやく目的の場所へ到着した。
青く光る水晶、透き通る地下湖、そして優しい緑色をした草が生えている。
「ケルア草発見だな」
この空間に魔物がいないことを確認する。
俺はケルア草まで近寄り、膝をついてそっと手を伸ばした。
「うん、間違いないな。それじゃ――始めますか」
万能薬の調合、材料はすべてここに揃っている。
まずケルア草、これの葉だけをちぎりすり潰す。茎までとってしまうと、すぐに枯れてしまうのだ。
すり潰す際に加えるのが、湖の水と水晶のかけらである。
この湖の水には、余計なものが一切含まれていない。さらに水晶、これは魔法原石の一種で、高純度高品質に育っている。
どちらもこの環境が育んだ素材、これらでなくては万能薬は作れない。
「よし、あとは――」
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その間、神経を研ぎ澄まし続けなくてはならない。仮に敵が攻めてきたら、隙をつかれて負けてしまうかもしれない。それほどの集中が必要なのだ。
「スゥー……」
呼吸を整えならが耐える。
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