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魔界編(本編)
176.獣人の国ガストニア
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獣人の国ガストニア。総人口二十万、世界中に存在する獣人種のほぼすべてが、この国で暮らしている。
その首都アムルは、外周を十メートルある塀が囲んでいる。建ち並ぶ建物や街頭は、江戸時代の街並みを髣髴とさせる。そして、中央にある神宮のような建物に、この国を治める者たちが暮らしてた。
「スズネちゃんはまだ見つからないの!?」
「申し訳ございません。我々の総力をかけて探しているのですが……」
「あの子ったら、こんな時にどこへ……。もっとよく探しなさい!」
「はっ!!」
屋敷の中が異様に慌しい。使用人が駆け回り、着物を着た焦りあたふたしている。
金色の長い髪を右へ左へなびかせながら、部屋の端から端まで行っては戻りを繰り返している。お尻から生える九本の尻尾、頭から獣の耳がピンと立っている。どちらのキツネと類似していた。
彼女の名前はシオン、巫女と呼ばれるガストニアの主である。
「お願いだから無事でいて」
シオンは祈るように両手を握り締めた。
その頃、ガストニアを囲う塀の外に、レイブ達が到着していた。
アリスが視界を遮る塀を見上げながら言う。
「ようやく到着しましたね」
「ああ」
この様子だと、まだゼロは何も仕掛けてないみたいだな。間に合ってよかった。
俺は安堵して長く息をはいた。
「どうやって入るのですか?」
「普通にあそこから入るよ」
俺が指差す方向には、街中へ繋がる門が設置されていた。大きな門のすぐ横に、人が通れる小さな門がある。受付をしている役員に入国手形を渡すと、入国許可証を渡される。
「入国手形? そんなもの私は持っていませんよ」
「大丈夫、エレナから二人分もらってるから」
俺はアリスに手形を渡した。黒い木材で出来た手のひらサイズの板に、獣人種が用いる言語で「入国手形」と書かれている。
「これが手形ですか。ただの板のように見えますが」
アリスは簡単に偽造できてしまいそうだと感じた。見た目は黒い以外に目立った特徴は無い。
これなら普通の木に黒い漆でも塗れば……。
「ただの木材じゃないぞ。材料に使われているのはクロキリという樹木なんだが、これはガストニアでしか栽培されていない。特殊な方法で育てられた樹木で、他の国では栽培できないんだ」
「そんなに珍しい樹木を材料に……。ですが、見た目だけなら簡単に再現できてしまいますよ?」
「ご尤もだ。けど、彼らが確認しているのは見た目じゃない。触れた感覚や匂い……そういう目に見えない情報を読み取ってるんだ。獣人は五感が鋭いからな」
「なるほど。理解しました」
加えて彼らは第六巻も鋭い。特に魔力や殺気の感知は悪魔以上だ。そんな彼らが味方に付けば心強いんだが……。はたして話を聞いてくれるだろうか。
「主殿!」
「どうした?」
「我輩の分は無いのでありますか?」
「えっ、ああー……お前は猫だからいらないかと……」
「そうでありますか……。残念であります」
ムウはしょんぼりと寂しそうに言った。
今度ムウの分も用意してもらおう。俺は密かにそう思った。
その後門へと足を進め、受付をしている犬耳の女性に手形を見せた。
「確認しました。こちらが許可証になります。滞在中は、常に首からぶら下げていてくださいね」
「ありがとうございます」
俺とアリスは手渡された許可証を首に下げ、受付に一礼してから中へ入った。
広がる景色に懐かしさを感じる。ずっと昔、転生前の世界で見た江戸時代の風景によく似ていた。
これまで二度の生涯をおくってきた俺は、獣人の国へ来るのも初めてじゃない。その時にも同じように懐かしさを感じた気がする。
「変わった街並みですね」
「そうか? 俺はしっくり来るんだけどな」
俺は街並みを眺めながら、道行く獣人たちの視線に気付いた。
人類種がこの国を訪れるのは珍しいのだろう。みな警戒しているようだった。
「いくぞ。この先に主がいるはずだ」
「はい」
俺達は視線を警戒の感じながら進んだ。
あまり心地いい視線ではない。それでもリルネットが日々感じていた視線よりはマシなのだろう。アリスも周囲の視線には気付いていた。しかし平然としているのは、リルネットと一緒にいたからなのだろう。
そうして屋敷に向けて進んでいく。
「巫女様!」
「見つかった?」
「い、いえ! その件ではなく……」
一人の従者がシオンへ報告に向かった。
彼女はスズネが見つかったのかと期待したようだが、違ったと知ってしょんぼりと尻尾を下ろした。
「……それで、なんの用かしら?」
「は、はい! 巫女様にお会いしたいという方々がおりまして」
「こんな忙しい時に……。一体誰なの?」
「名をレイブ・アスタルテとおっしゃっておりました。なんでも、イルレオーネ王国から来られたと」
「イルレオーネ?」
それって人間界の国じゃ……ってことは人間!? どうして人間がこの国に……。もしかして――
「わかりました。ここへお連れしなさい」
「はっ!」
従者は急いでレイブ達の下へと戻った。
その数分後、二人を連れてシオンの前に戻ってきた。
「突然の申し出に応じていただき、まことにありがとうございます。私はレイブ・アスタルテ、見ての通り人間です」
「私はアリス・フォートランドと申します」
「お二人とも初めまして。私がこの国を治める巫女、名をシオンと申し上げます」
互いにあいさつを交わし、目と目を合わせる。
その首都アムルは、外周を十メートルある塀が囲んでいる。建ち並ぶ建物や街頭は、江戸時代の街並みを髣髴とさせる。そして、中央にある神宮のような建物に、この国を治める者たちが暮らしてた。
「スズネちゃんはまだ見つからないの!?」
「申し訳ございません。我々の総力をかけて探しているのですが……」
「あの子ったら、こんな時にどこへ……。もっとよく探しなさい!」
「はっ!!」
屋敷の中が異様に慌しい。使用人が駆け回り、着物を着た焦りあたふたしている。
金色の長い髪を右へ左へなびかせながら、部屋の端から端まで行っては戻りを繰り返している。お尻から生える九本の尻尾、頭から獣の耳がピンと立っている。どちらのキツネと類似していた。
彼女の名前はシオン、巫女と呼ばれるガストニアの主である。
「お願いだから無事でいて」
シオンは祈るように両手を握り締めた。
その頃、ガストニアを囲う塀の外に、レイブ達が到着していた。
アリスが視界を遮る塀を見上げながら言う。
「ようやく到着しましたね」
「ああ」
この様子だと、まだゼロは何も仕掛けてないみたいだな。間に合ってよかった。
俺は安堵して長く息をはいた。
「どうやって入るのですか?」
「普通にあそこから入るよ」
俺が指差す方向には、街中へ繋がる門が設置されていた。大きな門のすぐ横に、人が通れる小さな門がある。受付をしている役員に入国手形を渡すと、入国許可証を渡される。
「入国手形? そんなもの私は持っていませんよ」
「大丈夫、エレナから二人分もらってるから」
俺はアリスに手形を渡した。黒い木材で出来た手のひらサイズの板に、獣人種が用いる言語で「入国手形」と書かれている。
「これが手形ですか。ただの板のように見えますが」
アリスは簡単に偽造できてしまいそうだと感じた。見た目は黒い以外に目立った特徴は無い。
これなら普通の木に黒い漆でも塗れば……。
「ただの木材じゃないぞ。材料に使われているのはクロキリという樹木なんだが、これはガストニアでしか栽培されていない。特殊な方法で育てられた樹木で、他の国では栽培できないんだ」
「そんなに珍しい樹木を材料に……。ですが、見た目だけなら簡単に再現できてしまいますよ?」
「ご尤もだ。けど、彼らが確認しているのは見た目じゃない。触れた感覚や匂い……そういう目に見えない情報を読み取ってるんだ。獣人は五感が鋭いからな」
「なるほど。理解しました」
加えて彼らは第六巻も鋭い。特に魔力や殺気の感知は悪魔以上だ。そんな彼らが味方に付けば心強いんだが……。はたして話を聞いてくれるだろうか。
「主殿!」
「どうした?」
「我輩の分は無いのでありますか?」
「えっ、ああー……お前は猫だからいらないかと……」
「そうでありますか……。残念であります」
ムウはしょんぼりと寂しそうに言った。
今度ムウの分も用意してもらおう。俺は密かにそう思った。
その後門へと足を進め、受付をしている犬耳の女性に手形を見せた。
「確認しました。こちらが許可証になります。滞在中は、常に首からぶら下げていてくださいね」
「ありがとうございます」
俺とアリスは手渡された許可証を首に下げ、受付に一礼してから中へ入った。
広がる景色に懐かしさを感じる。ずっと昔、転生前の世界で見た江戸時代の風景によく似ていた。
これまで二度の生涯をおくってきた俺は、獣人の国へ来るのも初めてじゃない。その時にも同じように懐かしさを感じた気がする。
「変わった街並みですね」
「そうか? 俺はしっくり来るんだけどな」
俺は街並みを眺めながら、道行く獣人たちの視線に気付いた。
人類種がこの国を訪れるのは珍しいのだろう。みな警戒しているようだった。
「いくぞ。この先に主がいるはずだ」
「はい」
俺達は視線を警戒の感じながら進んだ。
あまり心地いい視線ではない。それでもリルネットが日々感じていた視線よりはマシなのだろう。アリスも周囲の視線には気付いていた。しかし平然としているのは、リルネットと一緒にいたからなのだろう。
そうして屋敷に向けて進んでいく。
「巫女様!」
「見つかった?」
「い、いえ! その件ではなく……」
一人の従者がシオンへ報告に向かった。
彼女はスズネが見つかったのかと期待したようだが、違ったと知ってしょんぼりと尻尾を下ろした。
「……それで、なんの用かしら?」
「は、はい! 巫女様にお会いしたいという方々がおりまして」
「こんな忙しい時に……。一体誰なの?」
「名をレイブ・アスタルテとおっしゃっておりました。なんでも、イルレオーネ王国から来られたと」
「イルレオーネ?」
それって人間界の国じゃ……ってことは人間!? どうして人間がこの国に……。もしかして――
「わかりました。ここへお連れしなさい」
「はっ!」
従者は急いでレイブ達の下へと戻った。
その数分後、二人を連れてシオンの前に戻ってきた。
「突然の申し出に応じていただき、まことにありがとうございます。私はレイブ・アスタルテ、見ての通り人間です」
「私はアリス・フォートランドと申します」
「お二人とも初めまして。私がこの国を治める巫女、名をシオンと申し上げます」
互いにあいさつを交わし、目と目を合わせる。
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