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魔王時代編

13.第一の試練

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 幻想的な空間を進み、俺は魔剣が触れられるまで近づいた。
 この空間の中で、魔剣だけが威圧感を放っている。近づけば近づくほど、周りなど気にならないほどの恐ろしさを感じる。
 寒気が止まらない。まだ触れてもいないのに、ただ目の前にあるだけで震えてしまう。これから魔王になろうとしている者が情けない……そんなことすら思えない。まさに畏怖の塊りだった。しかし同時にこうも感じていた。この魔剣を手に入れれば、絶対に魔王になれる。
 俺は全身の震えを気合で止めて、右手で剣を掴んだ。

「なっ――」

 触れた直後、視界が真っ黒になった。
 自分の身体すら見られないほどの暗闇が、突如として広がったのだ。俺は戸惑い周囲を見渡した。右も左も上も下も、どこに視線を向けても黒しか映らない。徐々に不安がこみ上げる中、どこからか声が聞えてくる。

「助けて……」

 少女の声だった。微かに聞えた声を頼りに、俺は一歩一歩とその場から移動した。

「助けて……助けて……」

 少しずつ声が大きくなっていく。俺は恐る恐る進んでいく。そして――

「助けて……助け……――殺してやる」

 少女の言葉が、恨みを孕んだ言葉に変わった。

「許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない――」

「ぐっ……なんだこれは」

 頭の中に声が響き、いくつものイメージが浮かび上がってきた。全て人が死ぬ直前のイメージだ。恨みを抱き、誰かを呪い殺そうとする強い意志を感じる。そんなイメージが荒波のように、俺の脳内へ押し寄せてきた。

「うっ……ぐぁ……」

 俺は頭を抱えて苦しんだ。
 呪いの魔剣ティルヴィングには、この世で生まれた大量の怨念が込められていたのだ。使用者はこの怨念を一身に受け止めなくてはならない。
 これが魔剣を制するための、第一の試練だった。

 俺の瞳からは涙が溢れていた。ただし恐怖による涙ではなく、哀れみの涙だった。俺は悲しくて仕方が無かったのだ。これほどの恨みを残して死んでしまった者達が、不憫で仕方が無かったのだ。
 きっと未練だらけだろう。やりたい事も満足に出来ず、後悔の涙すら流せず死んでいったのだろう。そう思うと、涙を流さずにはいられなかった。

「はぁ……はぁ……」

 徐々にイメージの波が治まっていく。何千何万という死のイメージを見せられた。普通の精神力では耐えられない苦痛だ。俺が耐えられたのは奇跡としか思えない。
 全てのイメージを見終わった直後、俺は強く心に誓った。

「お前達の呪い想いは……俺が背負おう」

 俺が魔王になって、二度と恨みなんて生まれない世界に変えてみせる。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

いよいよ本日、第一巻の刊行日です。
書店に並ぶのは22日頃になりますが、すでにアマゾンでは予約販売が開始されております。
発売日と同時に該当話数はレンタルへ移行します。
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