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魔王時代編

4.魔王になろう

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 魔道具で見た景色は、これまでに見たどの景色よりも淀んでいた。かつて自分の後ろで怯え助けを求めていた人間など、一人も映っていなかった。悪魔の子供を弄び殺す様は、悪魔よりも悪魔らしかったほどだ。
 俺は魔道具から手を離して、後ずさるようにその場から離れた。

「その様子なら、もうわかったじゃろ」

「はい」

 ガジェルはその後こうも言っていた。

「いずれ人間どもはここまで来るじゃろう。じゃが誰にも止められん。わしらは滅ぶ運命かもしれんのう……」

「……」

 俺は何も言えなかった。それほどに強烈な光景だったのだ。信じたくなくても、もう信じるしかない。俺はとぼとぼと村へ戻ることにした。帰り道、溢れる感情を整理しながら考えた。

「俺は一体、なんのために戦ったんだ」

 気付けばぼそりと独り言がこぼれていた。
 勇者として、人類を救うために戦った。俺は正しい行いをしたはずなんだ。それがなんだ、この有り様は……。魔王が倒され人類は調子づき、争う意志の無い者たちを殺して誇らしげに笑っている。そこにどんな意味が、正義があるというんだ。
 俺はあんなやつらを守るために戦ったのか。俺が守りたかったものはどこにある? か弱い人類なんてどこにもいないじゃないか。

「間違っていた。俺が、間違っていたのか……」

 俺はそう思い始めていた。
 しかし嘆いても仕方が無いことだ。もう過去は変えられない。後悔したところで、この惨状が変わるわけじゃない。

「これから……か」

 俺は徐に空を見上げた。そうしながらガジェルの言った言葉を思い返す。

「このままじゃあの街も、いつかは俺の村もあんな風に――」

 光景を想像しただけで背筋が凍ってしまう。見知った顔が殺され、さらされ見世物にされている。そんな未来がいずれ訪れるかもしれない。そんなの――

「耐えられるわけ無いだろ」

 ではどうすればいいのか、俺は目を瞑って考えた。すると案外、簡単に答えは出た。
 丁度同じタイミングで村に到着する。俺は村の敷地を跨ぎながら、自分に言い聞かせるように口にした。

「俺は魔王になる」

 それが答えだった。
 人間達の侵攻の原因、それは魔王の不在が大きく関わっている。そして魔王を倒したのは俺だった。この事態を招いたのも、人類に勢いをもたせたのも俺なのだ。
 勇者としては失敗してしまった。だからこそ、魔王となって罪を告ぐなわなければならない。願わくば、二度とこんな争いが起きない世界に変革する。
 俺は魔族達の居場所を守るべく、魔王になることを決意したのだった。
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