上 下
89 / 132
魔王時代編

1.二度目は魔王

しおりを挟む
 俺の前世は勇者だった。
 異世界から呼び出されて、仲間と共に世界を巡った。魔族の侵攻を食い止め、虐げられていた人類を救うために戦った。旅の果てに現実を知り、仲間の死を乗り越えて、因縁の魔王と対峙した。
 そして遂に、俺は魔王に勝利した。世界の命運をかけた戦いは、人類の勝利で終わり、勇者と魔王の死をもって幕を下ろした。
 七〇〇年後、俺は再び世界に降り立った。

「なんだよこれ……」

 悪魔の成長は人間よりも速い。苛酷な環境を生き抜くため、生後一ヵ月もすれば人間の中高生程度の知能・運動能力を手に入れる。
 転生を果した俺は、物心ついた頃に知った。

「俺……悪魔になってる?」

 初めて認識した自分の姿は、人間とは異なる特徴を持っていた。水面に移った自分の顔、頭部には二本の角が生えている。腰からは長く黒い尻尾が伸びていた。背中を水面に向けて確認すると、小さな羽根まで生えている。瞳の色は赤く、目つきは鋭い。皮膚の色や感触は人間とほとんど変わらない。目立った特長さえ隠せば、人間に見えなくもないだろう。
 しかし、それ以上に漂う雰囲気が、魔力が隠しきれていなかった。

「どうすればいいんだ」

 俺はあらぬ事態に困惑していた。
 以前の俺は、人間であり勇者だったのだ。悪魔とは対極に位置する存在、敵として向かい合っていた存在だった。それが今度は真逆の立場になっている。困惑せずにはいられないだろう。
 それでも時間は過ぎていく。状況に納得できないまま、気付けば一年が経っていた。
 その頃には、高校生くらいの体格へ成長していた。悪魔の中には、魔力の総量によって肉体が変化する者がいる。どうやら俺はそうだったらしく、歳月と共に増加した魔力によって、俺の肉体は急成長を遂げた。

「さて、始めるか」

 一年を経て、俺はこれからどうしていくか考えた。悪魔になってしまったことは変えようが無い。最初は耐えられないと感じていたけど、時間が経つにつれて感覚も薄れてきた。どうやら転生と一緒に、感性が悪魔よりに変貌しているようだ。落ち着きを取り戻した頃から、一年間ずっと悩み続けた。
 結論から言うと、答えは出なかった。何をどうすればいいのか、なんのために生きればいいのか。悪魔としての生き方が、勇者だった記憶に邪魔されて考えられなくなっていた。
 そして――

 そうだ……今の世界はどうなっているんだろう。

 俺は一つの未練を思い出した。
 魔王に勝利した死の直前、確かに俺は感じた。自分が救った世界のその後を、自分の目で確かめてみたかったと。
 
 これは俺が、レイブ・アスタルテになる前の物語。
 二度目の生涯の記憶である。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

レイブが魔王だった頃のお話、いわばプロローグのようなものです。
エレナとの出会いのエピソードもありますよ。
魔界へ突入する前に、知っておいてほしい物語です。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

試される愛の果て

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:43,774pt お気に入り:2,300

悪役令嬢は国一番の娼婦を目指したい

恋愛 / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:3,167

公達は淫らな美鬼を腕に抱く

BL / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:122

秘密の聖女(?)異世界でパティスリーを始めます!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:71pt お気に入り:4,831

【クラス転移】復讐の剣

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:6

転移先で世直しですか?いいえただのお散歩です

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:535

俺はモブなので。

BL / 連載中 24h.ポイント:2,073pt お気に入り:6,537

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。