一度目は勇者、二度目は魔王だった俺の、三度目の異世界転生

染井トリノ

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魔法学園編(本編)

141.偽りの信仰

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 ゴードン宅を出た三人は、再び教会へ戻った。
 そこでカイン神父と合流し状況を説明する。

「そうですか……」

「大した情報も得られずすいません」

「すまん……」

 謝ったリルネットに続いて、グレンも反省した様子を見せた。

「いえ、あの男がそう簡単に話すとは思えませんでしたし……しかしまた振り出しですね」

「こうなったら現場を抑えるしかねぇよ。今晩から張り込みしようぜ!」

 グレンが提案する。
 情報が不足している現状では悪くない提案ではあった。
 しかし張り込むと言っても闇雲に探すのは効率が悪い。
 そういうわけでターゲットを絞る事にした。

「二手に別れよう。俺はこの教会を見張るから、二人はゴードンの周辺を見張ってくれ」

「わかった。アリスもそれで良い?」

「はい」

「私もお手伝いします」

 神父も名乗り出た。

「いえ、カイン神父はいつも通りで居てください。そうでないと子供達が心配しますから」

「そう……ですね。わかりました。ではよろしくお願いします」

 その日の夜、三人は手筈通りに見張りを立てた。
 グレンは教会に残り、子供達が見える位置で隠れている。
 リルネットとアリスはゴードン宅を観察できる場所、今は向かいの家の屋上に居る。
 見張りを開始して数時間が経過し、日を跨いだが変化は無い。
 しかし、

「リル様、あれを」

 深夜三時を過ぎた頃、ゴードン宅へ来訪者がやってくる。
 全身をマントのようなもので覆っていて、いかにも怪しい人物だった。
 扉を開けゴードンが対応している。
 そして何かを受け取っていた。

「あれって……」

 その日の朝、二人は教会に戻り見たことを説明する。

「金を受け取ってた?」

「はい、間違いありません。彼はその人物から金銭を受け取っていました。遠めだったので金額まではわかりませんが、袋の大きさと手にとったのが金貨だった事を考えると、かなり高額だと推測できます」

「まさか……私の子供達を売ったお金では―――」

「確かめに行くぞ!」

 最悪の映像が脳裏に過ぎった。
 グレンの掛け声にアリスも賛同する。

「行きましょうリル様、もしそんな事が行われているのなら一刻を争います」

「……わかった。行こう!」

 リルネットだけ一瞬迷った。
 しかし二人の勢いと熱意に押され協調した。
 一行は急いでゴードン宅へと向かう。

「何だまたお前らか……今度は何の用だ?」

「ゴードンさんよぉ、ちょっと部屋の中を見せてもらえるか?」

「あぁ? 何でそんな事―――」

「昨晩、貴方が全身を隠した人物と、金銭のやり取りをしている現場を目撃しました」

「なっ―――」

 ゴードンの顔色が一変する。
 その表情を見て、グレンは当たりだと確信した。
 
「入らせてもらうぜ」

 だから強引に中へと入って行く。
 引きとめようとしたゴードンの手を振り払い、ズケズケと踏み入る。

「まっ待て! 誰が入って良いと言った!」

「うるせぇ! 犯罪者の許可なんざいるかよ!!」

 興奮しきっているグレン、冷静そうに見えるアリスも少し気が高ぶっていた。
 そんな二人を見たリルネットはこう思った。

 二人とも冷静じゃない……だけど、たぶん止めても無駄だ。
 これはもう、真偽を確かめない限り止らない。

 リルネットも中へ入る。
 部屋の中を探索する三人、必死に止めようとするゴードン。

「やっ止めろ貴様ら! 訴えるぞっ!!」

 彼の声は届かない。
 探索を続ける中、グレンが奇妙な階段を見つけた。

「おい二人とも! こっちに下へ続く階段があるぞ!」

「あっ、おい!」

 グレンの声がした方へ急ぐ。
 ゴードンも走って向かおうとするが、

「っち、鍵がかかってるな。ならぶっ壊してやる!」

 グレンが拳を構える。
 到着したゴードンが止めようとした瞬間、拳を振り下ろし扉を破壊した。
 そして、その扉の向こうにあったのは……

「何だ? この部屋……」

 大量の木箱が並べてある。
 その中を覗き込むと、

「これ魔法石じゃねぇか!!」

 魔法石自体は珍しいものじゃない。
 ただし個人が所持する量としては、あまりに多かった。
 そして魔法石を売買する場合、国から発行される許可証が必要になる。

「まさかこいつ、魔法石を密輸してやがったな!? 昨日受け取ったのはその金だろ??」

「ぐっ……」

「グレンさん、ここに明細を見つけました。どうやら間違いないようですね」

 これでゴードンが犯罪行為に関わっている証明ができた。
 二人の中で、彼にかかっていた疑惑は真実へと変わる。

「これはもう確定だな。おいゴードン、子供達はどこだ!!?」

「なっ何だ! 子供なぞ知らんぞ!!」

「惚けるな! こんな事してたんだ! 子供も一緒に売ってたんだろ!?」

「知らんぞっ! 俺がやっていたのは密輸これだけだ!」

「この野郎……どうやら痛い目みないとわからねぇようだな」

 恐ろしい形相でグレンが迫る。
 すでに怒りは頂点に達していた。

「待ってグレン君、その人は嘘をついていないよ」

 そんな彼を淡白なセリフが止める。

「おいリルネット、今さら何言って―――!!」

 怒りで我を忘れかけていたグレンは、彼女の眼を見て正気に戻った。
 否、戻されたというべきだろう。
 なぜなら、彼女の眼は神から授かったものなのだから。

「リル様……神眼を」

「その人は嘘を言ってない。子供達の事は知らないよ」

 彼女の神眼が真実を見抜く。
 今の彼女の前では、あらゆる嘘が機能しない。
 同時にゴードンが今回の事件に関わっていない事を証明していた。

 ずっとおかしいと思っていた。
 いつも冷静なアリスに、グレン君だってそうだ。
 まるでいつも通りじゃない。
 何かに後押しされているような、操られているように短気になっていた。
 その理由はきっと、

「二人とも、わたしに協力して」

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次回更新は1/13(日)12時です。
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