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魔法学園編(本編)

114.フレンダ・アルストロメリア③

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 カンカンカンカン!
 街に鐘の音が鳴り響く。
 これは警報、街に危険が迫っている事を知らせる合図だ。

「警報!?」

「レイブ君急ぎましょう!」

「了解」

 レイブとフレンダは会話を中断し走り出す。
 向かうは城門の上。
 警報と同時に流された肉声の放送によると、街の外から敵が迫ってきているらしい。
 急ぎ現場へ向かう二人。
 行き交う人々も慌てざわめいている。
 先程までの穏やかな時間は消え、街中に不安の恐怖が漂う。
 城門の下に到着した二人は、そこでリルネット達と合流。
 一緒に階段を駆け上がり、城門の上へ辿り着いた。

「隊長!」

「フレンダか? 他の者も一緒だな」

 階段を駆け上がった先で待っていたのは、隊長のマッケンだった。
 彼が城門の外を見るように指示を出す。

「では頼む」

「了解しました。先輩」

「ええ」

 レイブとフレンダが両目をぐっと閉じる。
 そして一気に見開く。

「「千里眼!!」」

 二人の眼の色が変わる。
 急速にズームしていく視界。
 その眼に映った光景……

「人間?」

 フレンダが呟く。
 二人の視界に見えていたのは、ゆっくりと歩く人間達だった。
 しかし様子がおかしい。

「まさか……」

 視界に捉えた内容を理解できないフレンダに対し、レイブは何かを悟った。

「本当にいやがったのか……死霊使い!」

 レイブの一言で周囲に緊張が走る。

「お、おいレイブ! 今死霊使いって言ったのか?」

「ああそうだ」

「って事は……今ここに向かってきてるのは―――――」

 グレンの顔が青ざめる。
 フレンダは再度千里眼で接近する集団を見た。
 よだれを垂らしゆっくり歩く。
 確かに生気は感じられない。
 それを察した瞬間、フレンダの身体に寒気が走る。

「ゾンビ……亡霊の軍隊だ」

 一同が唖然とする中マッケンが瞬時に動き出す。

「総員! 砲撃準備!」

「マッケン隊長!?」

 フレンダの声。

「今の話が事実なら、これ以上近寄らせるわけにはいかん! 君達も準備に入ってくれ!」

「了解!」

 これ以上近寄らせてはいけない。
 その理由は単に接近されれば不利だからというわけではない。
 しかし今は説明しないでおこう。
 それはこの後すぐにわかる。

「隊長! 敵軍を視界に捉えました!」

 部下の騎士が言う。
 迫り来る敵影が、千里眼を必要としない距離まで近づいた。
 大砲を構える騎士達は、その光景にたじろぎ恐怖を感じる。

「放てぇぇぇ!」

 マッケンが指示を出す。
 団員達は一斉に砲撃を放った。
 魔法による砲撃は、見事軍団に命中する。
 土煙が舞っているが直撃した事を確認した。
 騎士達が安堵し肩を下ろす。
 しかし安息はまだ訪れなった。

「なっ……」

「嘘だろ?」

 敵は死霊、紛れも無くゾンビだった。
 バラバラに吹き飛んだ身体が再生していく。
 つぶれた眼球を広い、自分の眼底にはめ込む。
 それを視ていた騎士達は恐れ、あまりの気持ち悪さに吐き気を催す者まで出現した。
 十数秒かけてゾンビ達は回復した。
 そして、一斉に走り出し迫り来る。

「はっ、走ってきたぞ!」

 グレンが声を上げる。
 怯えるリルネット達を見たレイブ。

「隊長! 降ります!」

「レイブ君!」

 そう一言だけ言って飛び降りた。
 そして落下しながらこう続ける。

「お前達はそこにいろ!」

「レイ!」

 リルネットの声を聞きながらレイブは着地した。
 その直後に右手を構え魔法を放つ。

「【炎魔法:エンテレイン】!!」

 レイブの身体の倍はある魔法陣が展開される。
 そこから炎の弾が無数に飛び出し、ゾンビたちを攻撃する。
 しかし燃えようが弾けようが関係なく、ゾンビたちは再生して迫ってくる。
 大きな舌打ちをするレイブ。

「レイ!」

 リルネットの声が背後に迫る。
 振り返るとリルネットだけではなく、フレンダを含むほかのメンバーが降りて来ていた。

「お前ら! 上に居ろって言っただろ!」

「何言ってんだ! 俺達も戦うに決まってるだろ!!」

 グレンが言う。
 他のメンバーも同じ意見だった。
 レイブは皆の眼を見る。

「我々も戦うぞ」

 するとさらに上からマッケン達騎士団員が降りてきた。

「我々は騎士だ。たとえ相手が何であっても街を守る」

「わかりました……それじゃお願いします!」

 眼を見て納得したレイブは、視線をゾンビたちに戻す。
 そしてマッケンの号令を合図に、一斉に駆け出した。

「うおぉぉぉぉぉ」

 騎士達が剣を振るう。
 斬り倒されるゾンビ達だが、すぐに再生して起き上がる。

「普通に斬っても無駄だ! 魔法が使える者は魔法で動きを止めろ! 使えない者は足を狙え!!」

 マッケンが指示を飛ばす。
 指示通り動く騎士達。
 リルネット達も同様に対処する。
 しかし状況はあまり良くなかった。

「く、くそっ――――」

 何度斬っても復活する。
 人間の形をしたゾンビを、騎士たちは何度も何度も殺す。
 その作業染みた戦闘に、やがて心が磨耗していく。
 これこそ、先程マッケンが近寄らせてはいけないと言った理由だった。
 いくら訓練を積んだ騎士とは言え、人殺しに慣れている者などそうは居ない。
 ゾンビであっても人間の形をしている。
 それを何度も殺していて、心が正常を保てるわけが無い。
 次第に押されだす騎士団陣営。

 このままじゃ不味いな。
 そう感じたレイブが一気に後方へ跳ぶ。

「皆! 少しの間時間を稼いでくれ!」

 レイブは両手を胸の前で組む。
 指と指を絡め、力強く握り締める。
 そして――――

「強き者も弱き者も―――――我が力の前では等しく無力――――――」

 詠唱。
 上位魔法以上の高度な魔法において、発動に必要な呪文の事を言う。
 これまで、彼は一度も詠唱をした事などなかった。
 だからこそ、リルネット達は察した。
 彼がこれから使用する魔法で、この戦況が一気に逆転する事を。
 そして彼を守るために戦う。
 詠唱が終わるまでに要する時間は10秒。
 その間、無防備になるレイブを必死で守る。

「――――――我が力は全てを制す―――――我が決断は全てを示す――――――我が神託は、我に仇名す全てを否定する!」

 そして詠唱が終わる。

「【広域反魔法:ラプラス】!!」

 巨大な魔法陣が大地を覆う。
 その直後、ゾンビ達は次々に消滅していった。
 ラプラスは、ラプスの広域バージョン。
 使用できるのはレイブだけだ。

「す、すげぇ……」

 最初に声を漏らしたのは、案内を務めたマレクだった。
 彼もこの戦闘に参加していたのだ。

「はぁ……はぁ……」

 レイブは息を乱し膝をつく。
 この魔法は発動までに時間がかかる上、膨大な魔力を消費する。
 無限の魔力を持つ彼でも、押し寄せる疲労感は半端ではなかった。
 しかしこれで脅威は去った。
 そう誰もが思い安堵した。
 
 それが間違いだった。

「え……」

 マレクの心臓を剣が貫く。
 凍りつく戦場。
 倒れたマレクの後ろに立っていたのは――――

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

次回更新は11/27(火)12時です。
感想お待ちしております。
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