上 下
68 / 132
魔法学園編(本編)

112.フレンダ・アルストロメリア①

しおりを挟む
 後悔している。
 父を失ったあの日、なぜ私は共に戦えなかったのか。
 幼かったのだから仕方がいないと……
 そう言ってしまえばお終いだ。
 だけど、私はそんな風には納得できなかった。
 父のような立派な騎士になりたい。
 いつか父に認められたい。
 それが私の夢で、生きる目標でもあった。
 今でもそれは変わらない。
 立派な騎士なるためにこれまで研鑽を重ねてきた。
 そうして遂に、念願の騎士団へ入団することができたのだ。
 嬉しかった。
 この嬉しさを父に伝えたいと思った。
 でもそれは叶わない。
 嬉しいはずなのに、なぜだか涙が止まらない。


「うぅ……」

 フレンダは懐かしい夢を見て目が醒める。
 目が醒めた時、瞳から涙が流れた跡が残っている。
 とても悲しくて切ない夢だった。
 今は亡き父の姿が脳裏に浮かぶ。

「いけないわ」

 フレンダは自分の頬をパンッと叩く。
 脳裏に浮かんだ父の姿を吹き飛ばすため渇を入れる。
 それから騎士服に着替えた後、自分の部屋を出て行く。
 朝食をとるため食堂へ向かう途中、隊長室の前を通りかかった。
 扉の向こうから声が聞える。

「それじゃ今の件、お願いしますね」

「ああ、任せてくれ」

 この声……
 レイブ君かしら?

 隊長室の扉が開く。
 声の主は予想通りレイブだった。

「失礼しました」

 レイブは部屋を出て扉をしめる。
 そのまま扉から離れた時、フレンダの存在に気づく。

「フレンダ先輩、おはようございます」

「おはよう、レイブ君。隊長に用事でもあったの?」

「ええ、まぁちょっとした相談事ですよ。先輩はこれから食堂ですか?」

「ええ」

「俺も朝食まだなんで、一緒に行ってもいいですか?」

「もちろんよ」

 そのまま二人で食堂に向かう。
 食堂に到着すると、すでにリルネット達4人が座っていた。
 気づいたリルネットが声をかける。

「あっ、おはよう! レイ! それからフレンダ先輩も!」

「おはようリル、皆も」

「おう!」

「おはよーっす!」

「おはようございます」

「おはよう。皆早いのね」

 二人が食卓の輪に加わる。
 リルネット達は騎士団員では無いが、依頼中はここで寝泊りをしている。
 本当はあまりよく無いらしいけど、国王からの依頼だから特別なのだと言う。

「そういえばレイブ君、昨日はどこへ行っていたの? 途中から姿が見えなかったけど」

 朝食をとっていると、フレンダが昨日の事を思い出し聞いた。
 リルネット達も、あーそういえば……という表情をしている。

「ちょっと街を散歩してただけですよ? なんとなく静かな場所でリラックスしたいな~なんて思って」

「そう? だったらいいのだけど」

「そんな事言って、実は逢引でもしに行ってたんじゃないのか~」

 ニヤつきながらグレンが言う。
 その単語に反応した3人の視線が、レイブにささる。

「グレン……冗談はよしてくれ」

 リル達の視線が痛いから……

「あっはっは、悪い悪い。だけど気をつけろよ? 最近変な噂もあるらしいからさ~」

「変な噂? この街にか?」

「そうだぜ? なぁ、クラン」

 グレンが話題をクランにふる。
 クランは食事の手を止めた。

「そうっすね~ 昨日の巡回の時なんすけど……街の人が妙な話をしてたんすよ」

 昨日の巡回でこの二人は組んで仕事をしていた。
 その最中、街のあちこちで同じ噂を耳にする。

「ねぇ聞いた? また出たらしいわよ?」

「えぇ……またなの? 本当に怖いわね~ あれでしょ? 死んだはずの人が街を歩いてるって言う……」

「そうそう。本当なのかしらね?」

「さぁね~ 信じられないけど、もう何人も目撃してるんでしょう?」

 噂する街人をクランが見つめている。

「死人が街を?」

 レイブが言った。

「そうみたいっすよ? あたしも最初は嘘だと思ったんすけど……街行く人が毎回同じ話をしてて、現に見たって人にも会ったんすよ」

「本当なの? クランちゃん」

 リルネットが聞く。

「本当っすよ。その人は死んだ母親が歩いてたらしいっす」

「幻覚か何かじゃないのか?」

「それがどうも違うみたいなんすよ~ その目撃した人なんすけどね? ずいぶん酔ってたらしいんすけど、亡くなった母親に会えた嬉しさで声をかけたらしいんす」

「へぇ~ 声を……それで?」

「返事は無かったみたいっす。何度呼びかけても無視されて、その人今度は近寄って引きとめようとしたんすよ」

「引き止めようと? まさか触れられたのですか?」

 今度はアリスが聞く。
 それに対してクランが頷く。
 他の皆も驚いている様子だ。

「だけど、それでも反応しなかったんす。だからその人――――」

 その男性は、掴んだ肩を引っ張った。
 そうすれば当然顔がこちらに向く。
 男性は至近距離でその顔を見た。
 その瞬間、鳥肌が立ったという。
 彼が目にしたのは、紛れも無く母親の顔だった。
 しかし懐かしいと感じるより、嬉しいの思うより……
 目の前に居る母親の、異常なまでの生気の無さに恐怖した。
 その様はまるで――――

「ゾンビみたいだった……らしいっす」

「ゾンビか」

 この時、レイブの脳裏にはあの魔女が浮かんでいた。
 そして同時に、もう一つの可能性に思い当たる。
 今の話が事実ならば、もしかすると彼女も……
 フレンダも出会ってしまうかもしれない。

 亡き父に―――――

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

次回更新は11/24(土)12時です。
感想お待ちしております。
また現在執筆中の新作ですが、諸事情により投稿開始を来年にする可能性があります。
その前にキャラ文芸で一つ書くのでそっちは今月中に出します。 
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

試される愛の果て

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:42,494pt お気に入り:2,296

悪役令嬢は国一番の娼婦を目指したい

恋愛 / 完結 24h.ポイント:371pt お気に入り:3,167

公達は淫らな美鬼を腕に抱く

BL / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:122

秘密の聖女(?)異世界でパティスリーを始めます!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:78pt お気に入り:4,831

【クラス転移】復讐の剣

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:6

転移先で世直しですか?いいえただのお散歩です

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:535

俺はモブなので。

BL / 連載中 24h.ポイント:2,472pt お気に入り:6,537

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。