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【完結話】或るシングルマザーの憂鬱

#14 3人行動

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「お届け物です」


後ろから野田の調子はずれな声がかかり、あたしの横にキュンキュン・バーガーと書かれた紙袋が置かれた。
圭吾が「わあ」と声をあげる。


「ご苦労様」


あたしがひとこと告げると、「滅相もございませぬ」と、ほざいた。

横のベンチに座ろうとして、高校生のカップルに先をこされている。

やむを得ず野田は、あたしたちのベンチとカップルのベンチの間に立ち、紙袋をひろげキュンキュン・バーガーを頬張った。
カップルが怪訝な目で見やった。


「のだっさんも、こっちすわりなって。いっしょにたべようよ」


哀れみをかけて、圭吾が野田を呼んだ。


「えっ、で、でも、他人なので野田なのでそれはちょっと…。いいんですか?」


野田はまごつきながらも、辞退せずに圭吾の横に腰を下ろしてきた。
圭吾は嬉しそうに野田に擦り寄った。


「のだっさん、またあったね。なんかのった?おれ、のったぞ」


「わたしは白いコーヒーカップに乗りました」


「へー!だれと?」


「…空気とです」


口に入れていたパンが見えるくらい大きな口をあけて、圭吾は笑った。
野田も照れ笑いする。

あたしには寒いだけの野田のおどけぶりも、困ったことに圭吾にはツボにはまるらしい。

野田は調子に乗ってきた。

「あ、空を見よ!」と圭吾の気をそらせ、圭吾のポテトを一本せしめた。
圭吾も真似して、野田のポテトをごっそり横取りする。

同じタイミングでハンバーガーを口にしたり、わざと相手のジュースのコップを持ったりして、二人は仲良くたいらげていった。

横でぼんやり親密な雰囲気の二人を見ていて、不覚にも「親子みたいだな」と思ってしまった。

寒気がする。

あたしはハンバーガーを鬼の形相で食らった。



食事が終わると、あたしは圭吾と野田を引き離した。


「のだっさん、のだっさん」


圭吾は親友と生き別れするかのような切ない顔をする。
そして2、3歩歩いて野田の元に駆け出していった。
野田の腕に手を回し、満面の笑みでこちらに手を振ってくる。


「はー。わかったよ。三人で一緒にまわればいいのでしょ」


「いいの?ママ」「いいのですか?」


「圭吾の意思を尊重します。あたしの意思ではないです。あくまでも圭吾のため、ですから」


やむなく特別恩赦として、野田に一緒に行動することを許可した。


「ははぁっー。ありがとうございます」


野田はひれ伏して感謝の意を述べた。



圭吾をはさんであたしと野田、三人で歩き始める。


「あれ、なに。あれ、なに?」


としつこく尋ねる圭吾に、野田はパンフレットを片手に、どういうアトラクションかをわかりやすく説明した。

うっとりとキュンキュン・ワールドに酔いしれる圭吾は、空を散歩するというアトラクションを選び、あたしと野田の手を引いて列に並んだ。

列が前に進んでいき屋内に入ると、綿菓子みたいに丸いフワフワの雲の乗り物が、モノレール上に等間隔でやってくるのが見えた。

いよいよあたしたちの番がやってきて、乗り込むときに野田が優しく圭吾に手を差し伸べた。ついでに、といった感じであたしの手もとろうとしてきたが、おもいきり拒否した。

フワフワ雲の中身はゴムでできているのか、足元以外は体を押し付けると弾むように押し返される。
圭吾はトランポリンで遊ぶ感じでお尻を跳ねさせる。

雲が一回転するときには、圭吾は大げさによろめいてあたしや野田に寄りかかったりした。
大きな目と口をしたお日さまが目前までせまってきたときには、掴もうと手を伸ばし、不意にフラッシュをたかれて面食らっていた。
圭吾は野田に抱きつく。

出口でそのときに撮られた写真が、他の子供たちの写真とともにテレビ画面に映し出されていた。

子供は皆一様に、手を伸ばして太陽を取ろうとしているのが面白かった。
圭吾は誰より太陽に近づき過ぎ、広げた手の平しか写っていなかった。


「こういうことなら、さきにおしえてほしかった」


圭吾はがっかりしていたが、良く写っていても、一枚千円もする写真をあたしなら買うはずがないな、と思って笑った。

野田は、記念だからと言って、受付に惜しげもなくお金を払い、キュンキュンの台紙つきの手の平写真を圭吾に手渡した。


他にも圭吾は、キャラクターショップでキュンキュンのバッジやキホルダー、ぬいぐるみなどを野田に買ってもらっていた。
バッジをジャンパーにつけてもらって、大喜びだ。

その後、竜の体の中を駆け巡るジェットコースターや、真っ白いメリーゴーランドにも行き着いた。

メリーゴーランドは圭吾と野田だけが乗った。野田は圭吾を笑わせようと、体や手をくねらせて馬にまたがっていた。
圭吾は大笑いだ。

あたしは囲みの外で待ち、スマホのカメラで圭吾のはしゃぎ様を激写していた。
何枚か野田がブレながら写りこんでいて、ムンクの叫びの絵のようで笑えた。


つづく
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