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【完結話】或るシングルマザーの憂鬱
#4 イケメン後輩くんという救世主
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昨日の圭吾のお払いのおかげか、今日のあたしは気分が良い。
この調子だと、野田の戯れも気にならないのではないかと気がついた。
試しに今日は、野田がやって来ても席に留まっていようと決めた。
給湯室でポットにお湯を入れている、今朝のお茶当番の三浦さんの横であたしは、
「今日は、野田さんから逃げませんから」
と、誓いの言葉を述べた。
「うん。何か今日のコキちゃん、いつもと違う」
三浦さんは感嘆の声をあげた。
「そういう三浦さんも、いつもと違う。あ、デートですか?」
あたしが肩をつつくと、嬉しそうにうなずいた。
「クリスマスのプレゼントを一緒に買いに行くんだー。でも、今年は彼が給料・ボーナスカットになったから、あんまり高いものはねだれないな」
「でも、いいなぁ。あたしなんか、圭吾にあげるだけでもらえないもん」
心底三浦さんのことが羨ましく思えた。
「圭吾くん、サンタさんのこと信じている?」
三浦さんが菩薩様みたいに柔和な顔つきで聞いてきた。
「あの子は、超現実派だからな。本当に欲しいものは言わないで、あたしに買えそうな安いものを言ってくる辺り、すでにサンタ不在の事実を知っているんじゃないかと思う」
今年の圭吾のクリスマスプレゼントの希望商品は、おじいちゃん、おばあちゃんサンタに伝えているのは自転車。
親のあたしサンタに乞うてきたものは、トミカの覆面パトカー、550円也。
うちの経済状況を知り尽くしているか如くの見事な金銭感覚だ。
「ほんとのほんとは何が欲しい?」と、しつこく詰め寄ったら、「しかく」とだけ無表情に答えた。
最初は何のことかさっぱりわからなかったが、それが「キュンキュン・ワールドへ行くための資格」のことだと気づいた。
圭吾は幼い心で、あたしに負担をかけまいと我慢しているのだ。
「キュンキュン・ワールドにでも連れて行ってやったら喜ぶだろうなー」
あたしは、三浦さんに苦笑いしながら言った。
本当は連れて行ってやれるのだ。
へそくりやボーナスからほんの一部を使ったらいいだけの話だ。
何が崩れるわけでもない。
ケチなあたしは悩む頭の後ろに手を大きく回した。
何かを殴った感じがした。
ギョッとして振り向くと、そこに野田が顔面を押さえてよろけていた。
野田は「あああ」と小さく叫んで廊下にへたり込んでいく。
思いもしなかった給湯室での野田との急な遭遇と、不意に殴りつけてしまった非からか、あたしは気が動転した。
そして、
「そうだ、野田さん。キュンキュン・ワールドに連れて行ってくださいよ」
などと、無意識にしてもあまりにも自分の思いと正反対なことを口走ってしまった。
「いや、嘘ですから」
と瞬間で否定したが、
「そうね、野田さん連れて行ってあげてくださいよ。コキちゃんがその気ありみたいだし」
三浦さんが間髪を入れずにとんでもないことを言ってきた。
「は、は、は、はい。よろこんで」
野田は縮んでいたバネが勢いよく飛び出したかのように、起き上がって嬉々として立ち騒いだ。
冗談じゃない。
「嘘だって言っているでしょうが!」
あたしはこれ以上ないほど強く否定して、相撲の決まり手、突き出しで野田を張り倒し、トイレめがけてケモノのように全力疾走した。
「あー、逃げたー」
後ろで「さっきの誓いはー?」と三浦さんの声が聞こえたが、誓いもクソもないわ、と当然無視してあたしはあたしに猛り狂った。
なんとか気を取り直して、就業開始のベルまでに席に着いたあたしに、
「やる気を感じたね。あたしもちょっとあおっちゃったかなー。野田さん、コキちゃんとデートだと思って舞い上がっていたよ。あの後、キュンキュン・ワールドの前売り券はどこに売っているかとか、色々聞いてきたりさ」
三浦さんが、気力を失せさす非常事態を報じてきた。
「えー? 小北さん、野田さんとデートするのですか!?」
すかさず話に入ってきた鮫島くんが息巻いた。
「ほんと、やめてよ。そんなわけないでしょ。あおったってどういたうことですか。もー、それに三浦さん、何であの時あたしが野田さんに気があるみたいに言ったのですか。絶対ないでしょ、わかっているくせに」
ほとんど半泣き状態で、あたしは三浦さんの肩を激しく揺すった。
「だって、コキちゃんが最初に言ったじゃん。野田さん、連れて行ってって」
永遠に再生されたくない言葉を発しようとする三浦さんの口を、あたしは封じ込めるように手でふさいだ。
「野田さん、コキちゃんのこと好きみたいだし、コキちゃんの言うコトなんでも聞いてくれそうで、いいかなーって」
三浦さんはあたしの手をはがし取り、媚びるように言い訳してきた。
「は? なんであの人があたしを。嫌がらせばかりしてくるのに」
「だって、コキちゃんばかりにやっていくもん。楽しませるつもりで嬉しそうに。美人だから好かれちゃっているのよ」
「そういや野田さんの精神年齢、8歳でしたよねー。その頃の男子は好きな人に、そういうことしてしまうかもしれませんね」
野田の心理を推理して、鮫島くんは顎に手をやって考え込んだ。
「お二人さん。それ以上、ありえないことを面白がって、空想を膨らませるのはやめてね」
あたしは声のトーンをおとして、あえて静かな調子で言い放った。
お昼休み、お弁当を食べ終わり、鮫島くんが持ってきていたグラビア雑誌を、三浦さんとケチをつけながら読んでいた。
そこへ足を弾ませ頬を赤らめた、明らかにのぼせあがっている様子の野田が、回覧板らしきものを胸に抱えてやって来た。
三浦さんがあたしを怒らせないよう、遠慮しつつも吹き出して、こちらに「あの浮かれようを見よ」とばかりに目配せしてきた。
確かにこれは、「恋が叶いつつある人が、パワーみなぎるオーラをまとった感じ」そのものだ。
二人の想像もあながち間違いだとは言い切れない気がしてきた。
あたしは自分の不手際から起こりつつある恐ろしそうな展開を、頭に思い描きめまいがした。
野田は奥にいる部長から順にみんなに回覧板を見せ、一緒に仲良く読むかのように横に寄り添っている。
「野田さん、これ自分で持ってくるの照れるでしょうに」
誰かがニヤニヤしてそう言っているのが聞こえた。
「野田初也と小北紗季のデート日程のお知らせ」
的な内容を回覧していないか検問すべきなのでは、と動揺した。
最後に野田は、あたしと三浦さんと鮫島くんがいるところに歩み寄ってきた。
そして腰を直角に曲げてあたしに回覧板を差し出した。
「こ、こ、これを読んで頂けますかっ」
まるでラブレターを渡すかのような物言いをした野田に、三浦さんは椅子から落ちそうなくらい笑い崩れた。
一体どんな内容を回覧しているのか、あたしは恐々と回覧板を受け取った。
『総務部 山本さんの送別会と野田さん歓迎会のお知らせ』
そこには、ごくまともなお知らせが印刷されていた。
自分の歓迎会の通知を自ら持って来るという具合悪さはあるが、ゴシップを誘うまさかの報告をするほど、野田は無分別な人物ではないようだった。
妙な勘ぐりをした自分が嫌になった。
三浦さんは普通のお知らせを、笑い話でも読むかのように足をばたつかせる。
鮫島くんは冷静に読み進めて、野田に言った。
「日時は12月28日の大掃除後の夕方からで、場所は会社の会議室ですか。こんな日にこんな所で山本さんの最後を惜しむなんてしょぼくないですかー。あ、野田さんの歓迎も」
「そ、それは山本さんの提案でございまして。引っ越しの関係でそもの日だけが都合良くて、場所も居酒屋等では羽目を外せない、と」
乙女を思わせる上目遣いで、野田はたおやかに答えた。
おネエ風に振舞う動作が気に障る。
いっそのこと本当におネエで、なんと鮫島くんのことを想っているとかならいいのに、とあたしは思った。
そして、鮫島くんが迷惑がっているところを、あたしがガツンと野田に言い聞かせてやるのだ。
いや、ガツンと人のために言う気があるなら、自分のためにガツンガツンと言ってやろう。
今まで数多のイタズラをされてきたのも、あたしが本人に対して止めるように言わなかったのが原因だ。
もしかしたら野田は、あたしがみんなと同じように笑って楽しんでいると思っているのかもしれない。
それは違う。
今こそ言ってやらなくては。
あたしは回りにある空気を全て吸い尽くすくらい、大きく息を吸った。
その時、
「あ、そうだ野田さん。小北さんが野田さんのイタズラに困り果てていますから、もうしない方がいいですよ」
鮫島くんが、いとも簡単に野田に告げたのだ。
あたしは、びっくりして鮫島くんを見た。
おどけたりふざけたりしている感じではなく、いつになく真面目な素振りでいた。
続けて野田に目を向けると、
「そ、そうでしたか。もうイタズラはしません。ごめんなさい」
顔の前で合掌をし、拝むように野田が謝った。
一課から出ていくまでずっと手をすり合わせて歩き、廊下に出てこちらに振り返ると、参拝客のようにパンパンと拍手を打った。
場違いな礼拝作法の披露にあたしは唖然とした。
でもこれが野田に受ける最後のバカげた行為かと思うと、もう頃わしさは感じなかった。
行き場がなく淀んでいた水脈が、流れ先を見つけてもらったかのように、こんなにもあっさりと解決するなんて。
もう一度鮫島くんを見ると、今度は口を横に大きく引っ張って、笑ってあたしを見ていた。
あたしは急に胸がいっぱいになった。
もしまた野田が性懲りもなく、くだらないことを仕出かしてきたとしても、今度こそイラつかずに持ち堪えることができるのではないかと思えた。
つづく
この調子だと、野田の戯れも気にならないのではないかと気がついた。
試しに今日は、野田がやって来ても席に留まっていようと決めた。
給湯室でポットにお湯を入れている、今朝のお茶当番の三浦さんの横であたしは、
「今日は、野田さんから逃げませんから」
と、誓いの言葉を述べた。
「うん。何か今日のコキちゃん、いつもと違う」
三浦さんは感嘆の声をあげた。
「そういう三浦さんも、いつもと違う。あ、デートですか?」
あたしが肩をつつくと、嬉しそうにうなずいた。
「クリスマスのプレゼントを一緒に買いに行くんだー。でも、今年は彼が給料・ボーナスカットになったから、あんまり高いものはねだれないな」
「でも、いいなぁ。あたしなんか、圭吾にあげるだけでもらえないもん」
心底三浦さんのことが羨ましく思えた。
「圭吾くん、サンタさんのこと信じている?」
三浦さんが菩薩様みたいに柔和な顔つきで聞いてきた。
「あの子は、超現実派だからな。本当に欲しいものは言わないで、あたしに買えそうな安いものを言ってくる辺り、すでにサンタ不在の事実を知っているんじゃないかと思う」
今年の圭吾のクリスマスプレゼントの希望商品は、おじいちゃん、おばあちゃんサンタに伝えているのは自転車。
親のあたしサンタに乞うてきたものは、トミカの覆面パトカー、550円也。
うちの経済状況を知り尽くしているか如くの見事な金銭感覚だ。
「ほんとのほんとは何が欲しい?」と、しつこく詰め寄ったら、「しかく」とだけ無表情に答えた。
最初は何のことかさっぱりわからなかったが、それが「キュンキュン・ワールドへ行くための資格」のことだと気づいた。
圭吾は幼い心で、あたしに負担をかけまいと我慢しているのだ。
「キュンキュン・ワールドにでも連れて行ってやったら喜ぶだろうなー」
あたしは、三浦さんに苦笑いしながら言った。
本当は連れて行ってやれるのだ。
へそくりやボーナスからほんの一部を使ったらいいだけの話だ。
何が崩れるわけでもない。
ケチなあたしは悩む頭の後ろに手を大きく回した。
何かを殴った感じがした。
ギョッとして振り向くと、そこに野田が顔面を押さえてよろけていた。
野田は「あああ」と小さく叫んで廊下にへたり込んでいく。
思いもしなかった給湯室での野田との急な遭遇と、不意に殴りつけてしまった非からか、あたしは気が動転した。
そして、
「そうだ、野田さん。キュンキュン・ワールドに連れて行ってくださいよ」
などと、無意識にしてもあまりにも自分の思いと正反対なことを口走ってしまった。
「いや、嘘ですから」
と瞬間で否定したが、
「そうね、野田さん連れて行ってあげてくださいよ。コキちゃんがその気ありみたいだし」
三浦さんが間髪を入れずにとんでもないことを言ってきた。
「は、は、は、はい。よろこんで」
野田は縮んでいたバネが勢いよく飛び出したかのように、起き上がって嬉々として立ち騒いだ。
冗談じゃない。
「嘘だって言っているでしょうが!」
あたしはこれ以上ないほど強く否定して、相撲の決まり手、突き出しで野田を張り倒し、トイレめがけてケモノのように全力疾走した。
「あー、逃げたー」
後ろで「さっきの誓いはー?」と三浦さんの声が聞こえたが、誓いもクソもないわ、と当然無視してあたしはあたしに猛り狂った。
なんとか気を取り直して、就業開始のベルまでに席に着いたあたしに、
「やる気を感じたね。あたしもちょっとあおっちゃったかなー。野田さん、コキちゃんとデートだと思って舞い上がっていたよ。あの後、キュンキュン・ワールドの前売り券はどこに売っているかとか、色々聞いてきたりさ」
三浦さんが、気力を失せさす非常事態を報じてきた。
「えー? 小北さん、野田さんとデートするのですか!?」
すかさず話に入ってきた鮫島くんが息巻いた。
「ほんと、やめてよ。そんなわけないでしょ。あおったってどういたうことですか。もー、それに三浦さん、何であの時あたしが野田さんに気があるみたいに言ったのですか。絶対ないでしょ、わかっているくせに」
ほとんど半泣き状態で、あたしは三浦さんの肩を激しく揺すった。
「だって、コキちゃんが最初に言ったじゃん。野田さん、連れて行ってって」
永遠に再生されたくない言葉を発しようとする三浦さんの口を、あたしは封じ込めるように手でふさいだ。
「野田さん、コキちゃんのこと好きみたいだし、コキちゃんの言うコトなんでも聞いてくれそうで、いいかなーって」
三浦さんはあたしの手をはがし取り、媚びるように言い訳してきた。
「は? なんであの人があたしを。嫌がらせばかりしてくるのに」
「だって、コキちゃんばかりにやっていくもん。楽しませるつもりで嬉しそうに。美人だから好かれちゃっているのよ」
「そういや野田さんの精神年齢、8歳でしたよねー。その頃の男子は好きな人に、そういうことしてしまうかもしれませんね」
野田の心理を推理して、鮫島くんは顎に手をやって考え込んだ。
「お二人さん。それ以上、ありえないことを面白がって、空想を膨らませるのはやめてね」
あたしは声のトーンをおとして、あえて静かな調子で言い放った。
お昼休み、お弁当を食べ終わり、鮫島くんが持ってきていたグラビア雑誌を、三浦さんとケチをつけながら読んでいた。
そこへ足を弾ませ頬を赤らめた、明らかにのぼせあがっている様子の野田が、回覧板らしきものを胸に抱えてやって来た。
三浦さんがあたしを怒らせないよう、遠慮しつつも吹き出して、こちらに「あの浮かれようを見よ」とばかりに目配せしてきた。
確かにこれは、「恋が叶いつつある人が、パワーみなぎるオーラをまとった感じ」そのものだ。
二人の想像もあながち間違いだとは言い切れない気がしてきた。
あたしは自分の不手際から起こりつつある恐ろしそうな展開を、頭に思い描きめまいがした。
野田は奥にいる部長から順にみんなに回覧板を見せ、一緒に仲良く読むかのように横に寄り添っている。
「野田さん、これ自分で持ってくるの照れるでしょうに」
誰かがニヤニヤしてそう言っているのが聞こえた。
「野田初也と小北紗季のデート日程のお知らせ」
的な内容を回覧していないか検問すべきなのでは、と動揺した。
最後に野田は、あたしと三浦さんと鮫島くんがいるところに歩み寄ってきた。
そして腰を直角に曲げてあたしに回覧板を差し出した。
「こ、こ、これを読んで頂けますかっ」
まるでラブレターを渡すかのような物言いをした野田に、三浦さんは椅子から落ちそうなくらい笑い崩れた。
一体どんな内容を回覧しているのか、あたしは恐々と回覧板を受け取った。
『総務部 山本さんの送別会と野田さん歓迎会のお知らせ』
そこには、ごくまともなお知らせが印刷されていた。
自分の歓迎会の通知を自ら持って来るという具合悪さはあるが、ゴシップを誘うまさかの報告をするほど、野田は無分別な人物ではないようだった。
妙な勘ぐりをした自分が嫌になった。
三浦さんは普通のお知らせを、笑い話でも読むかのように足をばたつかせる。
鮫島くんは冷静に読み進めて、野田に言った。
「日時は12月28日の大掃除後の夕方からで、場所は会社の会議室ですか。こんな日にこんな所で山本さんの最後を惜しむなんてしょぼくないですかー。あ、野田さんの歓迎も」
「そ、それは山本さんの提案でございまして。引っ越しの関係でそもの日だけが都合良くて、場所も居酒屋等では羽目を外せない、と」
乙女を思わせる上目遣いで、野田はたおやかに答えた。
おネエ風に振舞う動作が気に障る。
いっそのこと本当におネエで、なんと鮫島くんのことを想っているとかならいいのに、とあたしは思った。
そして、鮫島くんが迷惑がっているところを、あたしがガツンと野田に言い聞かせてやるのだ。
いや、ガツンと人のために言う気があるなら、自分のためにガツンガツンと言ってやろう。
今まで数多のイタズラをされてきたのも、あたしが本人に対して止めるように言わなかったのが原因だ。
もしかしたら野田は、あたしがみんなと同じように笑って楽しんでいると思っているのかもしれない。
それは違う。
今こそ言ってやらなくては。
あたしは回りにある空気を全て吸い尽くすくらい、大きく息を吸った。
その時、
「あ、そうだ野田さん。小北さんが野田さんのイタズラに困り果てていますから、もうしない方がいいですよ」
鮫島くんが、いとも簡単に野田に告げたのだ。
あたしは、びっくりして鮫島くんを見た。
おどけたりふざけたりしている感じではなく、いつになく真面目な素振りでいた。
続けて野田に目を向けると、
「そ、そうでしたか。もうイタズラはしません。ごめんなさい」
顔の前で合掌をし、拝むように野田が謝った。
一課から出ていくまでずっと手をすり合わせて歩き、廊下に出てこちらに振り返ると、参拝客のようにパンパンと拍手を打った。
場違いな礼拝作法の披露にあたしは唖然とした。
でもこれが野田に受ける最後のバカげた行為かと思うと、もう頃わしさは感じなかった。
行き場がなく淀んでいた水脈が、流れ先を見つけてもらったかのように、こんなにもあっさりと解決するなんて。
もう一度鮫島くんを見ると、今度は口を横に大きく引っ張って、笑ってあたしを見ていた。
あたしは急に胸がいっぱいになった。
もしまた野田が性懲りもなく、くだらないことを仕出かしてきたとしても、今度こそイラつかずに持ち堪えることができるのではないかと思えた。
つづく
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