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本編
56 新たな王の下(国王視点)
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形式上は、二番目の王妃の息子とはいえ、当時の俺に注目している臣下など誰もいなかった。
テューダ王国は実力主義だ。母親が王妃だろうが妾妃だろうが関係ない。王に相応しい人間が王位に就く。ただそれだけだ。
当時は、兄弟姉妹の中で最もすぐれたリックが王になるのが確実視されていた。いくら父王が刺客を送り込むほどリックを疎んじていようと、彼以上に次代の王に相応しい人間はいなかったのだから。
けれど、俺以外のハインリッヒ王の子供が全員死んだ以上、俺しか王になれる人間はいない。
臣下は皆、不安だったろう。北の大国、ラズドゥノフ帝国と戦争を始めようとしていた緊迫した時に、前王が暗殺者に殺され(そういう事にした)、新たな王は十五歳の若造だ。
リックは俺の肉親殺しの罪を背負うとしたが、幸い、あの時、あの場にいたのは、亡くなったリックを除けば俺とシーモア伯爵だけだ。だから、架空の暗殺者の話を捏造した。俺もシーモア伯爵もリックにそんな罪を背負わせる気は毛頭ないのだ。たとえ、彼がもう一つの最大の禁忌を犯しているとしてもだ。
だからといって、真実は話せない。俺自身が気にしなくても親殺し(俺が殺したのは正確には父親ではなく祖父だけど)という最大の禁忌を犯した男(……元々、俺自身が最大の禁忌の証なのだけれど)を新たな王として誰も認めないからだ。……王位に就く王族以外殺されるという慣習があるために骨肉の争いをするというのに、今更、親殺しくらい何だと思うが。
俺はハインリッヒを殺した当日、ラズドゥノフ帝国の皇帝に「貴国を攻める気は毛頭なく、これからは同盟国として仲良くしていきたい」という旨の親書を送った。すると、皇帝自ら俺の即位式に参列し「リチャード王の即位を祝福する。これからは同盟国として仲良くしていこう」と言ってくれた。
いくら新たな王となった俺が若造でも、実際に戦うのは経験豊富な将軍と兵士達だ。彼らを相手に戦って勝利する自信が帝国にはなく、テューダ王国の国王の突然の代替わりは帝国にとって歓迎すべきものだったのだ。
臣下達も突然の代替わりに動揺し、とても帝国を攻めるどころではなかった。それに、いくら《脳筋国家》とはいえ戦争ばかりする事に、リック同様、嫌気がさしていた臣下もいたのだ。
新たな王の下、戦争で領地を広げるのではなく国内を豊かにする事に心血を注ごうと尽力してくれた。
同盟関係を強固にするために、ラズドゥノフ帝国の皇女や大貴族の令嬢を王妃に迎えたかったのだが、残念ながら条件に合う女性達は皆、結婚していたので、テューダ王国の主要な貴族の令嬢達を王妃や妾妃にする事にした。
別にハインリッヒのように美しい女性達を侍らせたいからではない。リックと違って大して注目されなかった王子である俺が臣下達の信頼を得るには、彼らの娘を「妻」として迎え外戚になってもらうしかないと考えたのだ。
後宮に妾妃が多いと維持費がかかる。俺は男色家ではないがハインリッヒのように艶福家でもない。国王になった以上、子供を作る義務は承知しているが、国王の子を産んでくれる妻は一人いればいいのだ。
そう考えていたので、正式な妻である王妃とシーモア伯爵が後宮に送り込んできたメアリー・シーモア以外、他の妾妃に迎えた令嬢達を抱く気はなかった。俺の国王としての地位が盤石になった後、彼女達に相応しい嫁ぎ先をあてがうつもりだった。国王の妾妃を下賜されるのは嫁ぎ先にとっても名誉な事なのだ。
その前に、王妃が嫉妬して武術で妾妃達を後宮から追い出してしまったが。形式上は妾妃にした女性達だ。放っておけず、こっそりと彼女達に良縁を紹介しておいた。
その中で、メアリー・シーモアは、唯一王妃が追い出せなかった妾妃であり、何より、シーモア伯爵が自分の養女にして後宮に送り込んできたのだ。俺の出生を知っているシーモア伯爵が、ただの女を自分の養女にし国王の妾妃にするとは思えなかった。
テューダ王国は実力主義だ。母親が王妃だろうが妾妃だろうが関係ない。王に相応しい人間が王位に就く。ただそれだけだ。
当時は、兄弟姉妹の中で最もすぐれたリックが王になるのが確実視されていた。いくら父王が刺客を送り込むほどリックを疎んじていようと、彼以上に次代の王に相応しい人間はいなかったのだから。
けれど、俺以外のハインリッヒ王の子供が全員死んだ以上、俺しか王になれる人間はいない。
臣下は皆、不安だったろう。北の大国、ラズドゥノフ帝国と戦争を始めようとしていた緊迫した時に、前王が暗殺者に殺され(そういう事にした)、新たな王は十五歳の若造だ。
リックは俺の肉親殺しの罪を背負うとしたが、幸い、あの時、あの場にいたのは、亡くなったリックを除けば俺とシーモア伯爵だけだ。だから、架空の暗殺者の話を捏造した。俺もシーモア伯爵もリックにそんな罪を背負わせる気は毛頭ないのだ。たとえ、彼がもう一つの最大の禁忌を犯しているとしてもだ。
だからといって、真実は話せない。俺自身が気にしなくても親殺し(俺が殺したのは正確には父親ではなく祖父だけど)という最大の禁忌を犯した男(……元々、俺自身が最大の禁忌の証なのだけれど)を新たな王として誰も認めないからだ。……王位に就く王族以外殺されるという慣習があるために骨肉の争いをするというのに、今更、親殺しくらい何だと思うが。
俺はハインリッヒを殺した当日、ラズドゥノフ帝国の皇帝に「貴国を攻める気は毛頭なく、これからは同盟国として仲良くしていきたい」という旨の親書を送った。すると、皇帝自ら俺の即位式に参列し「リチャード王の即位を祝福する。これからは同盟国として仲良くしていこう」と言ってくれた。
いくら新たな王となった俺が若造でも、実際に戦うのは経験豊富な将軍と兵士達だ。彼らを相手に戦って勝利する自信が帝国にはなく、テューダ王国の国王の突然の代替わりは帝国にとって歓迎すべきものだったのだ。
臣下達も突然の代替わりに動揺し、とても帝国を攻めるどころではなかった。それに、いくら《脳筋国家》とはいえ戦争ばかりする事に、リック同様、嫌気がさしていた臣下もいたのだ。
新たな王の下、戦争で領地を広げるのではなく国内を豊かにする事に心血を注ごうと尽力してくれた。
同盟関係を強固にするために、ラズドゥノフ帝国の皇女や大貴族の令嬢を王妃に迎えたかったのだが、残念ながら条件に合う女性達は皆、結婚していたので、テューダ王国の主要な貴族の令嬢達を王妃や妾妃にする事にした。
別にハインリッヒのように美しい女性達を侍らせたいからではない。リックと違って大して注目されなかった王子である俺が臣下達の信頼を得るには、彼らの娘を「妻」として迎え外戚になってもらうしかないと考えたのだ。
後宮に妾妃が多いと維持費がかかる。俺は男色家ではないがハインリッヒのように艶福家でもない。国王になった以上、子供を作る義務は承知しているが、国王の子を産んでくれる妻は一人いればいいのだ。
そう考えていたので、正式な妻である王妃とシーモア伯爵が後宮に送り込んできたメアリー・シーモア以外、他の妾妃に迎えた令嬢達を抱く気はなかった。俺の国王としての地位が盤石になった後、彼女達に相応しい嫁ぎ先をあてがうつもりだった。国王の妾妃を下賜されるのは嫁ぎ先にとっても名誉な事なのだ。
その前に、王妃が嫉妬して武術で妾妃達を後宮から追い出してしまったが。形式上は妾妃にした女性達だ。放っておけず、こっそりと彼女達に良縁を紹介しておいた。
その中で、メアリー・シーモアは、唯一王妃が追い出せなかった妾妃であり、何より、シーモア伯爵が自分の養女にして後宮に送り込んできたのだ。俺の出生を知っているシーモア伯爵が、ただの女を自分の養女にし国王の妾妃にするとは思えなかった。
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